Afterプリンセス 第一話
作 とだゆさん
はやしたてる子供達の声。
「この〜、おにいさまをわるくゆーと、ゆるさないんだから〜」
それを追い払おうとする女の子。
長い金色に光って見える髪を二つに結わったお姫様。
「おにいさまはなんでおこらないのよ」
「……だって、本当のことだから」
そう、お姫様の兄でも、僕は王子様じゃない。たまたま一緒に住んでいるだけの一般市民 ――いや、そんないいものではないか。
「そんなことないわよ、おにいさまはわたしのおにいさまなんだからっ」
「でも、僕は本当のお兄様じゃないから……」
女の子は形の良い眉をキュッと近づけて考えこんでいる。
しばらくして何を思いついたのか、にぱっと笑う。
「じゃあ、おにいさまをさくやのおむこさんにしてあげる。それならず〜といっしょにいられるし、みんなともほんと〜のきょうだいになれるよねっ」
「ダメだよ、お姫様のお婿さんは王子様じゃないと。僕は王子様にはなれないから……」
「そんなことないわよ、さくやのおうじさまはず〜とむかしから、おにいさまだもん」
信じて疑わないまっすぐな言葉、僕にはそれがどれだけ嬉しかっただろう。でも僕はその気持ちに返せるものを何も持っていなかった。だから、僕は……。
「あにぃ おはよっ!」
だ…ら……僕…し……なかっ……だ。
「あにぃ おはよっ!」
…で、そ……ごめ……が…
すぅ〜〜
「あにぃ おはよっ!」
「わっ、なんだ! なんだ!」
僕は慌てて飛び起きた。
「もう、あにぃったら本当にネボスケなんだからぁ……あれっ、あにぃ泣いてるの?」
「えっ、」
目の辺りを指で拭う。……涙だ。
「う〜ん、なんか昔の夢を見たようなぁ……」
「夢?、怖い夢?」
「よく憶えてないけど……確か…咲耶が出てきたような……」
衛はいたずらっぽく笑った
「それじゃあ、あにぃは咲耶ちゃんが出でくる夢を見て、泣くほど怖かったんだぁ。うんうん、今度咲耶ちゃんに教えてあげようっと」
「ちょ、ちょっと待ってよ、別に怖い夢とは言ってないだろ……」
「そのいいわけを咲耶ちゃんが信じてくれればいいね♪」
「…………」
「…………」
「…………」
「……えへへっ、冗談だよあにぃ。咲耶ちゃんには内緒にしてあげるよ」
「ふう〜〜、カンベンしてくれよ、おかげで寿命が三年縮んだよ」
「ホントにあにぃはしょうがないんだから」
衛は楽しそうに笑うと、僕の布団を引っぺがした。
「ほらっ、いつまでも寝てないで」
「……そう言えば、何で衛がここにいるんだ?」
「もぉ〜、なに言っているのさ。今日は始業式だから、遅れないように起こして欲しいって頼んだのはあにぃでしょ」
ポケットから鍵を取り出して僕に見せ付ける。
そう言えば昨日そんなことを言って衛に鍵を預けたんだっけ、しかし――
時計を眺めると針は5時半を指していた。
「ちょっと早過ぎないか?」
「えへへ、どうせなら、一緒にランニングしようかと思って……」
は〜〜、まぁ、無理言って起こしにきてもらったんだし、そのくらいはいいか。
「ランニングね、いいよ。じゃあさっさと着替えるか」
「わぁっ、着替えるならボクが部屋を出てからにしてよぉ〜」
公園の木々は緑の葉を付け初めており、春らしさを取り戻していた。衛は小川に架かった橋の手前でストップして、振りかえった。
「あにぃってば、もう疲れちゃったの」
「『もう』ってね、これだけ走れば普通は疲れると思うよ」
「もお〜、ホントにあにぃはだらしないんだから……」
衛はいつものように"しょうがないなぁ"というふうで少し嬉しそうな感じのため息をついた。
「いっつも怠けてばかりいるからだよ。毎日走っていればあにぃはボクなんかより、ずっと速く走れるようになるんだから」
「そうは言っても、寒いうちは朝早く起きるのは辛いんだよな〜。まっ、でも、最近は暖かくなってきたから、これからなら、毎日走るのも悪くないかな」
「あ、あ、あああ、あにぃ、それってホント!!」
「いちおう本当のつもりだけど……衛も付き合って一緒に走ってくれるかい?」
「うんっ、うん! 絶対に一緒に走るよ! あはっ…うっれしいな〜。ボクずーっとあにぃと一緒にランニングしたかったんだ」
飛びあがって喜ぶ衛。こんなに喜んでもらえるとこっちまで嬉しくなってくる。……しかし、本当に大丈夫か? 衛が誘いに来てくれているのに毎回寝過ごしたりしないだろうな……。
「そうだ! どうせならジョギングシューズも買い換えようよ。青色のおそろいなんかにしちゃってさぁ〜。きゃっ」
帰り道はダウンアップも兼ねて、ゆっくりとお喋りをしながら歩いた。衛はさっきから上機嫌でひっきりなしに口を開いている。
ふと、会話が止まる。衛は足を速めて僕のニ・三歩前に出た。僕に背中を向けているため、衛の顔は見えない。
「……ねえ、あにぃ。あにぃはボクと一緒にいて楽しい?」
「んっ、当然だろ。とっても楽しいよ」
じゃあさ、と衛は言葉を続ける。
「ボク達姉妹のなかで、誰と一緒にいるのが一番楽しい?」
「みんな、同じくらい楽しいよ」
「……そっか、そうだよね」
衛はクルッと振りかえると、僕の腕を引っ張った。
「ほらっ、そんなにのんびりしてないで、ボクお腹すいちゃったよ」
いつも通りの明るく元気な衛。僕はそのまま、衛の腕に引きずられるようにして家に帰った。
後書き
PSゲームのアフター物のつもりです。ノーマルエンド後の4月7日(6日か?)、始業式からスタート。春休みとか、鞠絵の誕生日とかが間にありますが飛ばしています。トップでうすうすわかる通り、妹達は互いに血縁関係があり、兄だけがよそからの預かりっ子という設定です。
とだゆさんへの感想はこちら
ccw60960@hkg.odn.ne.jp
前 戻る 次