西暦2XXX年『それ』は突如起こった、地軸は狂ったように捻じ曲がり地球は一夜にして冬へ突入した。
のちに『災厄』
と呼ばれる『それ』により多くの人が命を落とし、更に多くの人が『それ』によって引き起こされた戦争によって命を落とした。
『それ』による寒冷化によって引き起こされた世界的な食糧危機は更に戦いを呼び多くの国家が飢えと寒さと戦争によって滅びていった。
人類は『それ』による寒冷化により可住領域の60%以上を失い僅かな食料を奪い合うことで辛うじて命をつなげた。
こうした中、国家は著しく力を失い、代わってメガコーポと呼ばれる多国籍複合企業群が台頭。世界の実質的な支配権を握った。
そんな中卓越したバイオテクノロジー技術により培養食料の製造に唯一成功した日本は全世界に食料の輸出をすると宣言。
日本への入国、干渉を一切禁じる、という『鎖国』を条件に。
そして今日、かつての列強が厚い氷の下で蒼い顔をしているなか、常春の地となった赤道直下で過去と変らぬ、いやそれ以上の繁栄を極めている街があった。
その名は
“トーキョーN◎VA”
干上がった東京湾跡に作られた鎖国日本の唯一の窓口。世界最大の貿易都市であり、最先端の技術を擁する街。
これはそのN◎VAに生きる『少し』変った生い立ちを持つ13人の兄妹の物語である。
☆
久々のオフ
先日までの忙しさはどこへやら……こんなにのんびり出来るのはいつ以来だろうか。
俺はベランダにでて深呼吸と伸びをした。
(いい天気だなぁ〜)
妹たちは皆出かけている、鬼の居ぬ間になんとやら、である。
N◎VAの街並を眺めがならカップのコーヒーを傾ける。
(今日は一日中何もしないってのもいいな……)
ソファーに体を埋めそう思った時だった。
≪流摩さまお客様です≫
いかにも執事らしいDAK の声が俺を現実に呼び戻した。
「たくっ、誰だよ……」
少し不機嫌になりながらDAKのディスプレイに目をやる。
写されたのは10歳くらいの女の子だった、胸に大切そうに豚の貯金箱を抱えている。
今にも泣き出しそうなその顔には見覚えがあった。
(あの子は隣の…………、たしかミリアとか言ったな……)
『どうしたんだい?ミリアちゃん、うちに何か御用かな?』
仕事柄そう簡単にドアを開けるわけにはいかない、DAKごしにそう尋ねるとミリアは涙ぐんだ顔で口を開いた。
「お願い、パパを助けて!!」
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シスプリN◎VA プロローグ
〜小さな願い〜
作者 たこつぼ
監修 バカ二人
「じゃあミリアちゃんのパパは今入院しているんだね?」
「うん……パパ悪い人に撃たれたの、このままじゃお父さん殺されちゃう!お願いパパを助けて。」
懇願されても困る。こちらにも事情ってものがある。
うちは(比較的)良心的な方だと自信を持って言えるが、今回の件は依頼条件を満たしてなさ過ぎる。
うちはやばい仕事請け負っているおかげで敵が多い、その上どこの企業にも属していないので全く後ろ盾が無いのだ、そのような理由上新規の客は信頼できる人物の紹介が必須ということになっている。
以前紹介者無しの依頼を受け酷い目にあったことがあり、危うく妹を死なせかかったことを思い出してぞっとした。
(あんな思いはもうごめんだ)
第2の問題として……。
「お金ならここにもってきました。…………えい!!」
カシャン
ぶたさんの中から出てきたのは小銭
ばかリ……恐らく幼い頃から大切に大切に貯められたお金なのだろうけど……。
そこに散らばったキャッシュは全部で約1シルバー(10万円)、……それに篭められた想いは十分に判るが……、はっきり言って足り無すぎる最低基本料金の1/3程度しかない……。
近所付き合いのよしみと言ってもこれは……問題がありすぎる、今月は特に苦しいはっきり言って家計は火の車の一歩手前なのだ。
「ミリアちゃん、あのね……」
「や、やっぱり足りませんか?お金はこれしかありませんけど……」
ミリアはなにやらためらっていたが、やがて意を決したようにこちらを見据えるときっぱり言い放った。
「その代わり、わたしあなたの『妹』になります!!」
どがしゃあーーん!!
「キャ!!」
「お、お嬢ちゃん、どこでそんなネタ教わった……」
「え、でもでもここの依頼料はちっちゃい女の子だって、そうやって手に入れた女の子を『妹』っていって囲ってるって、近所のおばさんたちが……」
(おのれ、ババアどもめ!!いつか絶対ぶっ殺す!!)
俺はそう心にきつく誓った。
「駄目……ですか?」
「いやあのだめとかそういうことじゃなくてね」
「あ、あのわたし……まだ胸は小さいですけど……」
とミリアは悲しそうに自分の胸を見つめるとおもむろに服を脱ぎだした。
「いやそれは全然かまわな……ってちょっと待った!スットプ!」
「どんな恥ずかしいことも我慢します……、何をされてもかまいません」
「人の話を聞けーーっ!!」
≪流摩さま、咲耶さまがお帰りになられました≫
その時DAKが破滅の声が告げた。
ガチャ
「ただいま、お兄様私が居なくてさびし……」
咲耶は部屋の扉を開けたままの姿勢で硬直してる。
その視線は白い半裸の姿でソファの俺に覆い被さっているミリア、とミリアに覆い被さられている俺に固定されている。
「お・に・い・さ・ま、なぁ〜にをなさっているのかしらぁあああ?」
目が笑っていない……、その上何故だか心なしコメカミが痙攣しているような気がする……。
ちょっと待て、俺は何か悪いことをしたか?いやしてない。(反語)
「一応言っておくぞ……誤解だ、誤解」
「問・答・無・用・!!!!」
風打ち 第七座 “歪” (我流)
一切手加減の無い必殺技(必ず殺す技)は一瞬で俺の意識を闇へと叩き込んだ。
☆
「んもう、そうならそうと言ってくれれば良かったのに……」
「お・ま・え・が人の話を聞かなかったんだろうが!!!」
「まあ良いわ、未遂だったんだし……」
「だから違うって……」
「冗談よ、今回は許してあげる。――それよりお兄様、どうしてミリアちゃんのお父さんを助けてあげないの?」
いや許してあげるって……、この場合許すのは被害者の俺であって、加害者の咲耶さんではないような気が……。
いや言うまい……考えてみればいつもの事ではないか……。
俺は咲耶を廊下に連れ出した。
「お前だってうちの台所事情くらい知ってるだろ?今ただ働きは苦しいんだよ、誰かさん達のせいでね……」
じろりとにらんでも咲耶は何のことやらと、あさっての方向に首を向けるだけだ……。
実は先日の仕事を少々ドジってしまったのだ正確には依頼内容は達成したのだが……、依頼人のビルを少々破壊してしまったせいで依頼料が貰えないどころか前金さえ返還する嵌めになった……。
「だから、この依頼は受けないということで……」
もう一つの理由は言わない。
「そんな酷いわ!!お兄様ミリアちゃんが可哀想よ!!」
「いや、でもね……」
「いいわ、じゃあ皆で話し合って決めましょ」
「え゛そ、それは………………」
「い・い・わ・ね・お兄様」
「ああ……判ったよ」
この瞬間この依頼を受ける事に決まったようなものだ。
ミリアを待たせ、緊急家族会議を開くことになったのだが。
「兄君さま!!!このような非道な輩をのさばらしていては『-13-』
の名が廃れますわ!!」
「アニキ〜可哀想じゃん、助けてあげようよ」
「ね、あにぃ、ミリアちゃん達を助けようよ」
「兄上様、取りあえずミリアちゃんのお父さんの保護だけでも……」
「兄チャマ!!!四葉はミリアチャマのお父チャマを怪我させた人を絶対にチェキします!!!」
「お兄ちゃん……可憐信じてる」
「お兄ちゃま、ミリアちゃまのおとうちゃまを見捨てないで!!」
「兄さまぁ〜、姫からもお願いですの」
「くすん……ミリアちゃん、かわいそうです」
「おにいたま、みりあたまのパパをたすけてあげて」
やっぱこうなるのよね……。
「あれ?千影は言うことはないのか?」
「別に……特に無いよ……、ただこのままミリアくんたちのことを見捨てるのなら……兄くんのことを軽蔑するね……」
そうですか……、さいですか……。
「はいはい判りましたよ、受ければいいんでしょ、受ければ」
「さすが、私のお兄様!!!」
咲耶が俺に飛びつき、11対の白い目が向けられる。
「その代わり……」
とコホンと咳払いをして咲耶を引き剥がし続けた。
「今月分の小遣いは半分な」
「えーーそりゃないよアニキ!!」×12(但し妹により多少誤差あり)
「ほら、一度受けた仕事でぶーぶー言わない!!……、さて鞠絵鈴凛出かけるぞ、準備しろ」
「「「ええーーー」」」
俺の指名に咲耶、春歌、衛の3人が一斉に不満の声を上げるが耳を貸さなかった。
「お前らはミリアちゃんの相手をしてなさい」
☆
第二次南極
戦争の折、二重スパイとして活躍し、世界最強の最精鋭の日本軍を見事に出し抜き俗に言う『アルゼナン事件』を演出して見せた、『喋る混沌』こと冴木幻摩。彼が姿を消してもう8年になる。
公式には一匹狼で身内は誰も居ない事になっているが、それが居るんだなここに。
『-13-』はそのクソ親父が俺に残した(というより放り出した)、4階建てのビルの2階にある探偵事務所だ。
最初は寝床代わりに使っていただけだったのだが次々と来る腹違いの『妹』たちを養うために何でも屋みたいな事をやっているうちなし崩し的にに探偵事務所になってしまった。
とはいえ、一番多い仕事の依頼がボディーガ−ドだというのは問題かもしれない。
(なんか最近、割に合わない仕事ばっかりだよな……)
「兄上様、つきましたよ」
「アニキ、早くいこーよ」
「ん?お、おう……」
気がつくと新星帝都大学付属病院に付いていた。やれやれDAK さまさまだな……。
「じゃあ行こうか」
一般病棟の……613号室か。
「こんにちはニールセンさん。災難でしたね、これお見舞いです」
ミリアちゃんの作った卵焼きのタッパーと花を差し出し、挨拶をするとグレン・ニールセン氏は一瞬悩むようなそぶりを見せた。どどうやら俺が誰だか判らなかったらしい。
「え?ああ、お隣の冴木さん。これはどうも丁寧にありがとうございます」
「お怪我の具合はいかがですか?」
「オジサン、大丈夫?」
「いや、幸い内臓は外れていましてね。もう大丈夫だよ」
「さてニールセンさん。私たちがわざわざ来たのは他でもありません、あなたのボディーガードを依頼されましてね」
「い、いったい誰が、私などに……」
「娘さんです」
「ミリアが……」
「これが娘さんの直筆の依頼状。それとお父さん宛の手紙も預かってきました。娘さんはうちの事務所で保護していますよ」
ニールセン氏は俺の手から手紙を奪い取ると貪るように手紙に目を通した、案の定ミリアちゃんは父親には何も言わずにうちに依頼したらしい。
「お疑いのようですね。無理もありません、白昼いきなり撃たれたのですから。……鈴凛」
「OK、もう繋がってるよ」
と鈴凛はポケットトロンを差し出す。
「もしもし……ミリアか!無事か?今どこだ?」
娘との会話に熱中しているニールセン氏を横目に鈴凛にひそひそ声で尋ねた。
「どのくらいもつ?」
「まかして。鈴凛特製スクランブルだよ、軍用解析機にかけても10分はかかるよ」
それなら安心。俺はポケットの中の盗聴器をいじりながらグレイ氏の通話を見守ることにした。甚だしい事にこの病室にはざっと調べただけで5つも盗聴器やらカメラやらが仕掛けてあったのだ。……もっとも、まだひとつデッカイ盗聴器が残ってるんだが。
「……うん、……うん。そうか、判った。心配要らないよありがとう、ミリア」
話が済んだらしいニールセン氏はトロンを切ってこちらへ返した。
「では話していただけますか?貴方が何故、どうして狙われているかを……」
「兄上様、ニールセンさんは怪我をなさっておいでなんですよ?――はい、ニールセンさん。どうぞ」
せかす俺を鞠絵がたしなめた……鞠絵が差し出したのは先ほどのポケットトロン。
……筆談しろって事ね。
ニールセン氏は素早くキーボードに指を走らせた。
《おそらく原因はわが社の開発したチップでしょう》
「ほう……どんな?」
《詳しい事は企業秘密ですが、有機物を利用したバイオチップだとお考えください》
「どんなものか……聞いちゃまずいんだろうな、やっぱり。」
《マイナス55度で超伝導になるチップです》
「ぶっ!!」
「マイ…むぐっ!」
俺は慌てて鈴凛の口を塞いだ。
現在コンピューターは電気抵抗を抑え、処理速度を上げるため各社しのぎを削っている。もしマイナス55度なんてべらぼうな超電導物質が市場に出たらパワーバランスは一気に崩壊するだろう。
《あるカビの中間生成物を使用しているのでコストも金チップの1/18です》
ニールセン氏の顔は誇らしげだった。
さすがの鞠絵も度肝を抜かれたようにぽかんと口をあけていた。それが事実なら、現在開発中のものを含めて世界中のコンピュータが時代遅れのポンコツに成り下がる。鈴凛なんか露骨に欲しそうな顔をしている。
「――ニールセンさん、インタビューがそれてしまったようです。」
俺は、固有名詞が出ないよう気をつけて犯人の目星を訊いた。
「あ、ああすみません。」
《おそらく私を狙っているのはルテチア社ではないかと、どこから情報が漏れたのかルテチアからしきりに買収の話を持ちかけられまして》
「ふむ……」
ルテチアといえばヴィル・ヌーブ系(旧ヨーロッパ系)最大の企業だ。金チップのシェアは全世界の70%近い。確か最近"ミシュラム"とか言う新シリーズを発表したよな……。なるほど、そりゃ殺したくもなるだろう。
またうちとも少なからず関係があったりする。
「しかしよく引き抜かれませんでしたね」
他社が『金になる』研究をしていると目をつければ開発チームごと引き抜いてしまうというのは大企業たちの常套手段だ、大企業同士でさえそうなのに『町の工場』程度のニールセン・テクノロジー・サービス が買収に抵抗できたというのは驚きだった。
《ウチの社員は皆、技術バカでして》
従業員わずか17人のNTSはどこの企業にも属さず職人技で生き抜いてきた独立企業だ。それは経営者と従業員というより古きよき徒弟制度における親方・弟子の『ニールセンファミリー』である。
《給料などルテチアの1/20だというのに、ウチなんかのどこが良いんでしょうね》
そう語るニールセン氏はチップのことを語っている時以上に嬉しそうな顔をしていた。
《お披露目は2週間後です、そこで発表さえしてしまえばおそらく大丈夫だと思います》
「判りました。ミスター・グレイ・ニールセンさん、それでは契約書(EC)にサインを」
と契約書(EC)を差し出し、依頼内容を転送する。
ニールセン氏は自分のIDをECに通し凄いスピードでパスワードを入力していく。
「ではこのご依頼、正式なものとみなし、職務を遂行させていただきます」
「よろしくお願いします」
「結構。では2週間後のその時まで、全力を持ってお客様の安全を確保します。万事我が『-13-』にお任せください」
「なんかアニキ、オヤジにそっくり」
ぐさっ
「……あんなクソ親父と一緒にしないでくれ…………」
「……兄上様、大丈夫ですか?」
俺は蚊の鳴くような声で反論するのがやっとだった。
☆
鞠絵の励ましで何とか立ち直った俺は鞠絵に退院の手続きを手配させた。>
その合間に、鞠絵が廊下で手招きをしている………ふむ、こっちに来いってことか……。
「兄上様……あの内容は詐欺の一歩手前ですわよ?」
ニールセン氏と新しく結びなおした契約書には依頼料5プラチナム(500万円)成功報酬25プラチナム(2500万円)金利、複利5%と表記してあった。
「一歩手前だろ?折角の研究を横取りされたり、殺されるよりはましってもんさ」
「ですけど……」
「なあに新型チップが公表されれば、あんなもん1日で稼げるようになるって───さて」
部屋に戻り俺は手にした石を天井に投げつけた。
「四葉!!聞いてただろ!!ルテチアの調査大至急だ」
「ハイ!!兄チャマ了解デス」
「え?ええ?……」
天井の盗聴器の気配が消えるのにあわせるようにニールセン氏が尋ねてきた。
「な、なんですか今のは?」
「ご心配なくアレはうちのチェキですから」
「は、はぁ……」
ニールセン氏は全く判ってないようだ(当たり前だが)。
「まあ気にしないことです……」
「そうですか……」
納得のいかないようだったが、丁度いい看護婦が戻ってきたので話は打ち切られた。
「お待たせしました。こちらがニールセンさんの転院証とカルテのコピーです……」
第2話に続く(かも)
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