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我が家の台所事情(後編)
作者 ソルさん
「・・・フフフ・・・気が付くかな?・・・兄くん・・・」
先ほどの3枚のタロットカードを眺めながらそんなことを呟いていた千影は、進行方向の約10メートルほど先、曲がり角の陰に隠れている四葉を見つけた。四葉は千影と目が合うと咄嗟に体を引っ込め、その後ゆっくりと姿をあらわした。
「・・・四葉くん・・・何を・・・しているんだい・・・?」
「あ、兄ちゃまをチェキしてたデス・・・」
怯えながら答える四葉。千影のしている事は妹たちの間に広く知れ渡っているので、兄に向けられるはずの毒牙がいつ自分にくるのかと恐れているのだ。
「・・・兄くんなら・・・リビングへ行ったよ・・・」
「あ、ありがとデス・・・それじゃあ四葉は兄ちゃまをチェキしに・・・」
そう言って千影のほうをむいたまま後ろ向きでその場を離れようとする四葉に、千影が声をかけた。
「・・・四葉くん・・・ちょっと待って・・・」
「なな、なにチェキか?」
一目でわかるほどに体をびくっと震わせ、引きつった表情のまま硬直した四葉。今の心境は、
『ああ神様、兄ちゃまをチェキすることなく人生を終える四葉をお許しくださいデス・・・』
といったところだろうか。
「・・・タロットで面白い結果が出たんだ・・・」
「へ?タロット・・・?」
「・・・なんだと・・・思っていたんだい・・・?」
千影の言葉で懺悔場から現実に引き戻された四葉は、その直後の冷たい言葉に冷や汗をかいた。
「あははははは・・・・・・で、どんな結果が出たのデスか?」
一見してわかる冷や汗をかきながら聞いてくる四葉に、千影は先ほど兄に言った言葉を繰り返す。それを聞いていた四葉は、『露見する秘密』のところでぎくりとした。
「千影姉ちゃま・・・それを兄ちゃまに言ったのデスか?」
「・・・ああ・・・もっとも分かっていないようだったが・・・」
「そうチェキか・・・」
『同日午後2時、兄ちゃま重要な情報を握るも理解できず』
そんなことをノートに書き込んだ四葉は、兄のいるリビングへ向かうため今度こそその場を後にした。
「・・・頑張りたまえ・・・兄くん・・・」
リビングへ行く四葉を見送った千影はそんなことを呟いて、懐から『四枚目』のカードを取り出した。
「・・・『全ては試練』・・・なんだからね・・・」
「・・・謎・・・求めしもの・・・秘密・・・」
俺はリビングへ向かう間、千影の言っていた事について必死に考えていた。
「謎ってのは冷蔵庫のことだろうし、求めしものってのは、俺が求めているものだから・・・」
そんなことをぶつぶつ言ってるうちにリビングについていた。そこには可憐、雛子、衛、亞里亞、鞠絵、花穂、咲耶がいて、皆でお茶を楽しんでいる。
「あっ、お兄様。一緒にお茶でもいかが?」
「ああ、もらおうか」
最初に俺を発見した咲耶が声をかけてきたので、皆とお茶を飲む事にした。
いい気分転換にもなるしな・・・
そんなことを思いながら可憐たちが座っている食卓に腰をおろす。
「どうぞ、兄上様・・・」
「ありがとう、鞠絵」
するとすぐに鞠絵がお茶を持ってきてくれたので、俺は礼を言って運ばれてきたお茶に口をつけた。芳醇なりんごの味が口の中いっぱいに広がり、渇いたのどを潤してくれる。どうやらアップルティーのようだ。
「うまいな、これ・・・」
「可憐が淹れてくれたんだよ、このお茶」
衛がそう言って目線で可憐をさす。それにつられて目を向けると、顔を赤くしてうつむいている可憐の姿が目に入った。
「美味しいよ、可憐」
そんなことを言うと、可憐の顔がさらに赤くなって余計にうつむいてしまった。
可愛いなあ・・・
可憐の仕草を見ていると心底そう思う。その可憐のすぐ左隣に座っている咲耶がものすごい形相でこっちを睨んでいるが、気にしない・・・わけにもいかず冷や汗をかいた。
「それにしても、秘密ってのはなんだろうな・・・」
お茶を飲みながらもタロットの結果について考えていた俺がそんなことを呟いた瞬間、リビングにざわめきが走った。
妹たちみんなが俺を注目している。なんとなく動揺しているようにも見えた。
何なんだいったい・・・
妹たちの七対の視線を浴びながらそう思った。
「お兄様、ひ、秘密って何かしら・・・?」
「それが判らないから悩んでるんじゃないか」
明らかに動揺した声で言ってくる咲耶に、ちょっと不思議がりながら返事をする。
ひょっとして、何か知ってるのか・・・?
そんなことが頭に浮かんだ俺は、妹たちに質問してみた。
「冷蔵庫の魚がなくなってるんだが、何か知らないか?」
その効果は絶大だった。咲耶は思いっきり目をそらし、可憐も俺に目をあわそうとしない。衛は口笛を吹きながら冷や汗をかいてるし、雛子は持っていたくまのぬいぐるみをぎゅっと握り締める。亞里亞はなんか泣きそうになってるし、鞠絵はわざとらしいと思われるほどに咳き込んでいる。花穂にいたっては両手で自分の口をふさぎ、『花穂絶対に喋らないもん!』とか言っている始末。
隠し事ができない体質なんだな・・・
ひょっとして、というぐらいの気持ちで言ってみただけなのだが、ここまでの反応があるとは思わなかった。
分かりやすすぎるぞ、妹たちよ。
そんなことを思っていた俺は、猫の鳴き声を聞いたような気がした。どこか悲しげで、そして力強い声を・・・
「まずいデス、まずいデス、まずいデスーー!」
リビングを一望できる場所で兄の様子をうかがっていた四葉にも、猫の鳴き声が聞こえたらしい。力いっぱい慌てていて、ルーペを落としそうになった。
『同日午後2時15分、とうとう兄ちゃまが秘密を知ってしまう』
震えた手でノートに書き込みをすると、意を決した表情で兄のいるリビングへと足を進める。
「さすがは兄ちゃまデスね・・・」
感嘆と失望の入り混じったような声でそう呟いて、歩くスピードを速めた。
「何で猫の声がするんだ・・・?」
聞こえてきた声は、確かに猫のものだった。ミャオーンと言っていたから、まず間違いないだろう。
妹たちのほうに目を向けると、7人ともがはらはらした表情で同じ方向を注視している。どうやらそこに猫がいるようだ。
「なるほど、これが秘密ってわけか・・・」
「な、何のこと、お兄ちゃん?」
俺が納得した声で呟くと、可憐が動揺した表情で言ってくる。
そんなに俺に知られたくないのかよ・・・
「とぼけなくてもいいさ、可憐。俺に内緒で猫を飼っていた、そういうことだろう?」
そう言い放つと、妹たち全員がうつむいてしまった。申し訳なさそうにしている表情を目にした俺は、軽い罪悪感を覚えた。
気付かないふりをすればよかったのか・・・?
「兄ちゃま・・・」
そんなことで頭がいっぱいだった俺は、後ろで四葉の声がするのを耳にした。
「お前も知っていたのか?四葉」
「ごめんなさい、兄ちゃま・・・」
四葉のほうを向かずに質問した俺に、涙ぐんだ四葉が抱きついてきた。椅子に座っている関係上首にしがみつかれた俺はふっとため息をつく。
「俺が怒るとでも思ったのか?」
誰にとはなく聞いてみたがどこからも返事は返ってこず、妹たちはしょぼくれた表情のままうつむいている。
「アニキ、監視カメラできたよ・・・ってどうしたの、みんな暗い顔して」
「みなさんでお茶会・・・という雰囲気ではなさそうですね」
「分かったですの!みんな、姫の作った料理が食べたいんですの!」
「・・・・・・・・・」
押しつぶされそうな雰囲気のリビングへ、鈴凛、春歌、白雪、千影がそろって入ってきた。4人ともこの部屋の空気を察知したようだ。
「猫のことがばれちゃったのよ」
最初に口火を切ったのは咲耶だった。その言葉をきっかけに無数の言葉が飛び交う。
「ええーっ、ばれちゃったの?・・・アニキ、怒ってる?」
「兄君様に隠し事はできませんでしたわね・・・」
「にいさまぁ、姫の料理を食べて、機嫌直してくださいの」
「・・・兄くん・・・さすがだよ・・・」
それらの言葉を聞いていると、なんだか心が安らいでいくような気がした。妹たちの秘密なんてどうでもいい、そんな気になってくる。
「猫・・・見せてくれるかな?」
そう頼んでみると、可憐が、先ほどみんなが注目していた猫がいると思った場所から小さな仔猫を連れてきた。
茶色と白の縞模様をした、とってもかわいらしい小さな猫だった。
「名前は決めたのか?」
「ううん、なかなか決まらなくて・・・」
可憐から猫を受け取って、その猫の目を覗き込みながら聞くと、残念そうな声が返ってきた。
「だったら俺に決めさせてくれないか?こんなに可愛い猫のことを黙っていた罰として」
その小さな猫を高い高いしながら聞いてみた。高いところへ持ち上げられた猫は、なにやら悲鳴をあげてもがいている。どうやら高い場所は苦手のようだ。
それを聞いた妹たちの表情がいっせいに変化する。まるで春の訪れを待っていた無数の花のごとく咲き乱れたのだ。
「お兄ちゃん、ありがとう・・・」
妹たちを代表するかのように可憐が俺に向かってお礼を言ってきたので、なんだかこそばゆくなってきた。
「どんな名前がいいかな・・・」
だんだん照れくさくなってきたので、名前を考えるふりをして猫を抱えたまま部屋へ行こうとする俺の後を妹たちが追ってくる。
俺の手のひらの中でみゃあみゃあと叫んでいる名前未定の猫を眺めながら、俺はあるひとつの疑問にぶつかっていた。
「何で『第三の冷蔵庫』の肉が増えてたんだろう?」
・・・そしてひとつの謎が残った・・・
- 了 -
=あとがき=
今回は書くのに時間がかかりましたよ・・・
分量がどうとかじゃなくてなかなか妹たちが動いてくれなかったんです。
決して体調が悪かったとかそんな言い訳じみたことではないので(笑)
さて、ちょっとミステリーが入った今回の作品はいかがだったでしょう。
四葉を探偵役にすえるというめちゃくちゃ安易なことをしてみましたが(笑)
いい感じには仕上がったと思います。
最後に残った謎について・・・ こうではないか、と思った方は私のところにご一報ください。
景品は出ませんが、謎を明かしますので・・・
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