Click here to visit our sponsor

前 戻る 


我が家の台所事情(前編)

作者 ソルさん


 

「またか・・・」
俺はそう呟き、冷蔵庫の中を改めて観察した。開きの部分には牛乳やジュース、マヨネーズや卵が、自分の位置を確保するかのように並んでいる。
本体のほうにはパックに入った肉や魚と言った材料から、『要冷蔵』とかかれているケーキやお菓子などが所狭しと詰め込まれていた。
その冷蔵庫の扉を閉じてから、右隣にある「第二の冷蔵庫」の扉を開いた。
何しろ家は妹たちと13人で暮らしているので冷蔵庫がひとつでは足りないのだ。
「第一の冷蔵庫」が通常の、普通の家庭にもあるような中身ならば、「第二の冷蔵庫」は特定のものを入れるための冷蔵庫だ。
その「特定のもの」とは、俺がそれぞれの妹たちのために買ってきたお菓子などである。
「第二の冷蔵庫」に入りきらないものは、しょうがないので「第一の冷蔵庫」に入れてあるのだが、その「第一の冷蔵庫」に入れてあったはずのケーキが忽然と消えうせているのだ。
そうなると「第二の冷蔵庫」に入れてあるものもやられているのではないかと思ったが、見たところ異常はない。
「誰だ、こんなことする奴は・・・」
ケーキを盗んだと思われる犯人に悪態をつきながら、今度は「第三の冷蔵庫」を開いてみた。
ここには主に肉や魚がまとめておいてある。開きの部分にも強引に詰め込んであって、その眺めはなかなか壮観だ。
毎回数をチェックしているわけではないだが、どことなく魚の数が減っているような気がした。そして肉の数が増えている・・・
「どういうことだこれは・・・?」
「第三の冷蔵庫」を閉じた俺は、腕を組んでしばらく考え込んだ。
泥棒でも入ったか?だけど家の中で盗られたような物はないし・・・。もしかして食べ物専門の泥棒なのか?
いや、そんな泥棒聞いたことないしなあ・・・
「みんなにも聞いてみるか・・・」
考えた末に出た結論がこれだ。自分ひとりで考えてもわからないなら、みんなで考えてみよう。
俺の知らないことをみんなが知っている可能性もある。
方針が決まったら早速行動だ。まずは台所担当の白雪と春歌、さてどっちを先に訪ねるべきか・・・

冷蔵庫の前で何事か考えている様子の兄を、四葉が柱の陰からルーペで観察していた。
少し距離が離れているのでルーペではぼやけてしまうと思うのだが、彼女なりのこだわりがあるらしい。
頭にベレー帽をのせ、口にはパイプ(もちろんただの飾り物。兄からのプレゼントのようだ)がくわえられている。
そして何を考えているのか口に付け髭をして、完全に探偵になりきっている。
「まずいチェキ・・・兄ちゃまが何か感づいたみたいチェキ・・・」
兄に向けられていたルーペを外し、やばい、という顔になる四葉。
『本日午後1時30分、兄ちゃまが『四葉たちの秘密』の糸口を見つける』
こんなことを「四葉のチェキノート」に書き込んでいた四葉は、どこかへ行こうとする兄に目を向けた。
「情報収集に行くつもりチェキね・・・さすがは兄ちゃまデス・・・」
「四葉のチェキノート」を閉じ、こっそりと兄のあとを追う。どうやら追跡するつもりのようだ。
「兄ちゃまの行動は全てこの四葉がチェキするデス!」

トントン・・・
「白雪、いるか?」
「はぁーい、にいさまぁ」
白雪の部屋のドアをノックしてからそう声をかけると、いきなりドアが開いて白雪の元気な声が笑顔とともに返ってきた。
この家で料理を担当する白雪はいつも独特かつ多彩な料理を作る。それだけに冷蔵庫の中について詳しく知っているはずだ。
「ちょっと聞きたいことがあるんだが・・・」
「わかってますわ、にいさまぁ。姫は今美味しいかって聞きたいんですのね?」
白雪に話を持ちかけたら、わけのわかんないことを言い出した。
「いや、そうじゃなくて・・・」
「姫はにいさまのためなら年中、旬の味を保ちますの」
「・・・冷蔵庫の中身がなくなってる気がするんだが、何か知らないか?」
さらに意味不明なことを言う白雪に、無駄とは思いつつも聞いてみた。
「・・・だからいつでも姫を食べにきて欲しいですの、にいさまぁ」
「遠慮しとくよ・・・」
やはり無駄だったか。けど、あの間はなんなんだ?
悩ましげな仕草で俺にすがりよってくる白雪にとりあえず返事をしておいて、今度は春歌の部屋へ向かうべく白雪の部屋のドアを閉じ、体を反転させた。

扉が閉じられた部屋の中で、白雪は一人安堵のため息をついていた。
「ふぅーーッ、危なかったですの・・・」
そして額に浮かんだ汗を自分の腕でぬぐう。どうやら、内心ドキドキものだったようだ。
ガチャッ
「ひぃっ!」
「白雪ちゃま、大丈夫だったチェキか?」
いきなり扉が開き、これ以上ないというほどの怯えと驚きをみせて飛び上がった白雪は、入ってきたのが四葉だと知って再び安堵のため息をついた。
「四葉ねえさま、おどかさないでくださいの・・・心臓が止まるかと思いましたの」
「ごめんチェキ、白雪ちゃま。『あのこと』を言ってないか心配だったのチェキ」
「それは大丈夫ですの、四葉ねえさま。ちょっと羽目を外したふりをしたら、にいさま、何も聞いてこなかったですの」
あれが本当にふりだったのか少々疑問が残るものの、四葉はそれで納得したようだ。
『同日午後1時35分、白雪ちゃまの部屋を訪れるも収穫はなし』
ノートに書き込みをして、追跡を再開すべく白雪の部屋から最大限の注意を払いつつ外へ出る。
「さすが兄ちゃまデス、真っ先に白雪ちゃまの部屋に行くなんて・・・」
そうすると次は春歌姉ちゃまのところデスね、と思案して兄のあとを追い始めた。

「春歌、ちょっと聞きたいことがあるんだけど・・・」
「ワタクシの体のサイズですか?・・・ちょっと恥ずかしいですけど、兄君様になら・・・」
そう言っていきなり着物を脱ごうとする春歌を慌てて止めた。
「ちょ、ちょっと待て、屋外でそんなはしたない真似を・・・」
「あら、では屋内なら良いのですね?」
心底嬉しそうに言ってくる春歌の言葉に、しまった、と思わざるを得なかった。
春歌の部屋へ行こうとしたら中庭で日舞の稽古をしていたので、部屋まで行く手間が省けたと思い春歌に質問しようとしたのだが・・・
ここもか・・・
俺はそんなことを思い、長いため息をついた。
「さあ行きましょう、兄君様」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、春歌」
物思いにふけっている俺の腕を強引に引っ張って家に入ろうとする春歌を何とか押しとどめ、冷蔵庫の中について聞いてみた。
「いいえ、食べ物が少なくなっていることは存じておりますが、何故かまではちょっと・・・」
「そうか・・・」
台所担当の二人が知らないとなると、あとは・・・監視するしかない・・・!
そんな決意を胸に秘めた俺を、再び春歌が引っ張っていこうとする。
「兄君様にワタクシのスリーサイズを測ってもらう・・・ああっ、想像しただけで体が熱い・・・」
妄想状態に陥った春歌から何とか逃れ、監視カメラを作ってもらうために鈴凛の部屋へ行く事にした。
後ろから妙な喘ぎ声が聞こえるが気にしないようにしよう・・・

「春歌姉ちゃまの面白い姿、チェキです!」
「・・・はっ・・・ワタクシは一体何を・・・」
兄が去った中庭で一人甘美な妄想に浸っていた春歌は、四葉の声で我に返った。着物が少しはだけていて、下着をちらりと覗かせている。
そんな自分の状態に気づき、顔を真っ赤にして慌てて着物を整える春歌の様子をしっかりとカメラに収めていた四葉は、ノートを取り出して書き込みを始めた。
『同日午後1時40分、兄ちゃま春歌姉ちゃまと会う。その後春歌姉ちゃまが壊れる』
「と、ところで四葉ちゃん、何か御用?」
書き込みをしていた四葉は、慌てたようなその言葉で大事なことを思い出した。
「そうチェキ!春歌姉ちゃま、『例の件』について何も言わなかったデスか?」
「例の件・・・?ああ、あのことですか」
そんなことを言われて頭に疑問符を浮かべていた春歌だったが、すぐに思い至る。
「大丈夫よ、四葉ちゃん。兄君様に気が付かれた様子はありませんわ」
兄君様、意外に鈍感なところがありますから・・・と頬に手を当て、困ったような表情をしながら言う春歌の言葉に、
「よかったチェキ・・・」
安堵の言葉をもらした四葉は、ノートに続きを書き込み始める。
『だが収穫はなし。兄ちゃまに気付かれる可能性がまた一つ減った』
「兄ちゃまをとことん追跡するチェキ!」
近年では珍しいほどに荒れている波をバックにして燃えている四葉は、その意志を波にかき消されることなく兄のあとを追っていく。
「・・・それにしても気付かれなくて良かったですわ」
近づくもの全てを焼き尽くさんばかりの勢いで家の中に戻っていく四葉を見送った春歌は、こんなことを呟いて日舞の稽古を再開した。

トントントン・・・
「鈴凛、いるかー?」
鈴凛の部屋のドアをノックして声をかけたが返事がしない。もう一度叩いてはみたが結果は同じだ。
「・・・いないのか、鈴凛?」
そう言ってドアを押し開けたそこには、鈴凛が立っていた。ただし、頭に赤い玉のついた。
「何だ、メカ鈴凛か」
「アニキさま、どんな御用でしょうか。用件は私が承ります」
鈴凛の声をちょっと機械化したような声で言ってくるメカ鈴凛に、俺は監視カメラを作って欲しいと頼んだ。
「了解しました。マスターが戻りましたら確かに伝えます」
メカ鈴凛は鈴凛のことをマスターと呼ぶ。まあ、自分を作ってくれた人に敬意を払うのは当然か。
「頼んだよ」
俺はそう言ってドアを閉じ、鈴凛の部屋をあとにする。
鈴凛が戻ってくるまで、監視カメラは無理か・・・とすると待つしかないな。
そんな結論に達し、リビングへと歩き始めた。

「アニキ行った?」
「はい、マスター。18.75秒前に部屋から離脱しました」
ベッドの下から這い出してきた鈴凛が尋ねると、メカ鈴凛が正確な時間をマスターに伝える。どうやらこのメカ鈴鈴、時計機能も完備しているらしい。
「いや、そんな細かく言わなくていいってば・・・」
「はい、マスター。しかしよろしいのですか?」
「何が?」
「『くだんの件』のことをアニキさまに話さなくても」
そうメカ鈴凛が言うと、鈴凛はあっさりと答えた。
「いいのいいの。後で話すから」
「了解しました。監視カメラのことはいかがしますか?」
兄からの依頼を伝えると、鈴凛はしばらく考え込んで推論を口にした。
「監視カメラか・・・『あれ』だろうな、きっと」
「マスター、『あれ』とは・・・?」
メカ鈴凛が鈴凛に聞き返す。
「冷蔵庫のことだよ。何か気付いたのかなぁ、アニキ・・・」
ガチャッ!
「鈴凛姉ちゃま!・・・・・・何してるデスか?」
鈴凛の部屋にノックもなしに入ってきた四葉が見たものは、ベッドの下に必死にもぐりこもうとしている鈴凛の姿だった。
ベッドの下でばたばたともがいている姿を見れば、四葉でなくても何をしているのか聞きたいところだ。
「何だ四葉ちゃんか・・・アニキかと思ってびっくりしたよ」
「申し訳ありません、マスター。私の聴覚センサーの精度がよければ、アニキさまかどうかの判別はできましたのに・・・」
ベッドの下から這い出す鈴凛の隣で、メカ鈴凛がなにやら謝っている。
「そうだね、アニキに資金援助してもらって聴覚センサーの精度を上げようか・・・」
「鈴凛姉ちゃま、ちょっと聞きたいことがあるのデスが・・・」
「ついでに視覚のほうもグレードアップしとこうかな、いやまてよ?」
メカ鈴鈴をパワーアップさせることで頭がいっぱいの鈴凛には、四葉の声は届いていないようだ。
「あのー、鈴凛姉ちゃま・・・?」
「パーツを買うお金もなくなりかけてるし・・・困ったなあ」
しかしそう言う鈴凛の顔は全然困っているようには見えない。むしろ、兄から資金援助してもらうことに対する喜びを感じる。
「もういいチェキ・・・」
 四葉が涙目で鈴凛の部屋から出ていってから10分ほどして、鈴凛は四葉がいないのに気が付いた。
「四葉ちゃん、何の用だったんだろう」
「私にも推測不可能です、マスター」
 自分たちしかいなくなった部屋の中で、同じ顔をした二人が同じようなポーズで考え込んでいた。

- 続く -


ソルさんへの感想はこちら
ryo23@alpha.ocn.ne.jp
前 戻る