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=架空の世界=

作者 ソルさん


(何か、気配がする・・・)
 俺は妙な気配を感じていた。何かが俺の近くにいる、そんな気がしていた。かといってそれを探す気にはなれなかった。なぜなら俺は疲れていたからだ。わざわざ起きるほどのことじゃない、そう判断した。少したつとその気配は消えていた。

「ふわぁぁぁ、もう朝か・・・」
 俺は伸びをして上体を起こした。まだ少し眠かったが二度寝するほどではない。時計を見ると六時半だった。こんな時間に起きるのはどれくらいぶりだろ、と思いながらベッドに腰掛けあくびをする。いつもは咲耶か白雪に起こされ、しぶしぶ言いつつもベッドの布団を恋しがっているのに。
「・・・?、妙に静かだな」
 クローゼットから服を引っ張り出し、着替えているところで違和感を感じた。静か過ぎるのだ。いつもならここらで、
「兄ちゃまの着替え、チェキデスーーー」
 とか言って四葉が飛び出してくるのに・・・。それを部屋の外に追い出すのが朝の日課になっていたはずだ。
「寝坊でもしたかな」
 少し心配しながら服に着替えると、朝食を食べに部屋を出る。食卓へ向かいながら、
「今日の食事当番は・・・春歌か。とすると今朝は和食だな」
などと呟いていた。春歌は和食が得意だからな・・・。白雪は洋食が専門だし・・・、いや、だけど味付けがちょっとなあ・・・
 そんなことで頭がいっぱいだったため、俺は気がつかなかった。家の中で物音がしないことに・・・

「・・・ふむ・・・・・・成功か・・・・・・」
 大きな鏡に男が写っている。その男は何か考え込んでいるような格好をして歩いていた。しかし、鏡の前にいるのは男ではない。男と似たようなポーズをとってはいるが、れっきとした女の子だ。黒のコートを着て、部屋の中なのになぜか黒のブーツを履いている。ファッションセンスだけ見れば、ほかの同い年の女の子とは少し違って見える。
「兄くん・・・楽しませてくれよ・・・」
 その女の子の名前は、千影という。黒魔術を得意としている、12人いる姉妹の中では特に異彩を放つ女の子だ。
 その12人の姉妹たちには、立派な(彼女達・談)兄がいる。それぞれが兄を好いていて、最高の男性だと思っているらしい。その立派な兄は今、鏡の中にいる・・・

 食卓には誰もいなかった。机の上には何もなかった。いつもなら朝食を作っている誰かがいるはずなのに。食事の用意ができているはずなのに。
「みんな寝坊か?」
 可能性の低い推論を誰もいない食卓に問い掛けてみた。答えが帰ってくるはずはないとわかっていたので、食卓に座って待つことにした。しかし、待てども待てども誰もくる気配がない。
俺はとうとう待ちきれなくなって、妹たちの部屋へ行くことにした。
 最初は咲耶だ。妹たちの中で最年長の彼女は、朝起きるのが早い。いや、一番年をとってるから、なんて言ってないぞ(咲耶に聞かれたらただじゃ済まないな)。そんな咲耶の部屋の扉をノックして、
「咲耶、起きてるか?」
 と声をかけた。部屋にいたなら、たとえ眠かろうが着替え中であろうが歓喜の声を上げ、扉を開けるだろう。そのせいで俺が開いた扉に何度顔をぶつけたことか・・・。そんな経験もあって、扉が開いてもあたらない位置に移動した。しかしそんな配慮も無駄に終わった。扉が開くどころか声もしないのだ。
「・・・?、開けるぞ」
 一応断っといてから、扉のノブをつかんでそうっと回して引っ張り、中の様子を伺った。咲耶の部屋にはいろいろなものが置いてあった。これが本当に女の子の部屋なのだろうか、と思うぐらいに雑然としていた。これは少々問題だろう、と思いつつ扉を閉め、二重の意味でため息をついた。ひとつ目は部屋の様子、もうひとつは咲耶がいないこと。
「散歩にでも行ってるのかな」
 いや、衛ならともかく、咲耶がこんな朝早くから散歩なんて・・・、いやいや、衛は散歩に行くなら俺を誘うだろうし・・・、咲耶も俺を誘いにくるはずだ、などと考えつつ、可憐の部屋へ向かった。
「可憐?」
 扉を軽くたたきながら、おそらくは寝ているであろうその部屋の主に向かって言った。可憐は朝が苦手だからな・・・、そう思っていたが返事がない。寝ているのかと思い、今度は断りもせずに(おい)扉を開けた。
 可憐の部屋は咲耶の部屋とは違いさっぱりしていた。机の上もきれいに整頓されていて、その左側にはピアノが置いてあった。そのピアノと机の反対側、部屋に入って右側に大きめのベッドがある。そこに寝ているはずの可憐はいなかった。
「いない・・・?、可憐もか・・・?!」
 驚きを隠せずに可憐のベッドに近寄り、布団を触ってみた。冷たい感触が両の手のひらに伝わってくる。俺はその手の中に可憐が見えるような気がして、自分の手を深く見つめていた。
 だがそこに可憐がいるはずもなく、代わりに気づいたことがあった。
「あ、生命線が短い」

「・・・無駄だよ、兄くん・・・・・・そこには誰もいない・・・君しかいないんだ・・・」
 鏡の中で自分の手を凝視している兄を見ながら、千影が呟いた。
「でもでも、布団を触ったのには驚いたデス!さすがは兄ちゃま、探偵の素質十分デス!」
 鏡を見ている千影の隣で、同じように鏡に見入っている女の子が感心したような声をあげる。
自称・名探偵シャーロックホームズ、彼女にかかれば他人の秘密・セキュリティなどないも同然とまで謳われた探偵少女、四葉である。一般的に言って、自称、なんて言っているやつのほとんどは名前負けしているのだが、四葉の場合、それは決して誇張でもなんでもない。
 調査対象(ほとんどが兄)の行動はもちろんのことながら、そのプロフィールや身長、体重などの個人情報すら手に入るという。
「兄上様は意外な才能を持っておられたのですね」
「やっぱりあにぃはすごいね」
「すごいです、兄や・・・」
 鞠絵、衛、亞里亞が四葉の言葉に反応して感想をもらす。
「さすが、私のお兄様ね!」
「兄君様、素敵ですわ・・・」
「にいさまってなんでもできるのね」
 続いて咲耶、春歌、白雪の驚嘆の声があがる。すると、咲耶の言葉を敏感にキャッチした春歌と白雪がすぐさま反論する。
「あら、兄君様は咲耶さんだけのものではありませんわよ」
「そうです、変な所有格をつけないでください」
 それを聞いたのか聞いてなかったのか、咲耶は両手を組み合わせ恍惚とした表情を浮かべて、何かに祈るようなポーズで呟いた。
「ああっ、お兄様は私のもの、私はお兄様のもの・・・」
「なに言ってるのよ、咲耶お姉ちゃま」 
「そうだよ、おにいたまは雛のだよ」
 花穂と雛子が抗議するが、珍しくどっかへいってしまった咲耶は聞いちゃいない。
「やめときなって、二人とも。ああなったらしばらくは聞く耳持たなくなるから」
 半ばあきらめ口調で鈴凛が二人を止める。
「なに言っているのよ、鈴凛」
「そうです!あんな状態の咲耶ねえさまを放っておけますか?」
「う・・・確かに」
 春歌と白雪に口々に反論され、その視線を向けた先には、遠目でもわかるほど顔を赤くして、何事かを呟きながら体全体を左右に揺すっている咲耶がいた。何を言ってるんだろうと耳を傾けてみると、いやっお兄様、だの、恥ずかしいわ、こんなところじゃ、だのといった声が甲高い悲鳴とともに聞こえてくる。
「・・・確かに・・・短いな・・・」 
 そんな騒々しい姉妹たちに背を向けて、一人、鏡をのぞいている千影がぼそっと呟いた。
 その隣で、ネックハンギングツリーをかけている赤い玉をつけた鈴凛(メカ鈴凛)と、メカ鈴凛に首をつかまれてもがいている咲耶、その周りで何事か騒いでいる姉妹たちの様子をチェキしていた四葉が聞き返してきた。
「何が短いのデスか?」
「・・・生命線だよ・・・兄くんの・・・」

 俺は今、頭の中が真っ白になった状態で食堂の椅子に座っている。あれからすべての妹たちの部屋をのぞいてみたが、ことごとく誰もいなかった。千影なら何か知っているのでは、という俺の期待も裏切られた。全員が散歩に出かけているはずはないし、集団でこの家から出て行ったとも思えない。いや、思いたくない。
「ちくしょう、夢なら早く覚めてくれ!」
 怒鳴ったところでどうにかなるとは思えなかったが、無性に叫びたい気分だった。そして、食卓を壊れんばかりに叩く。叩きつけたこぶしは、痛みを感じなかった。
「本当に夢なのか・・・」
 そう思って、今度は一般的な方法を試してみることにした。自分の頬をつねってみて痛ければ現実、そうでないなら夢、という具合だ。
「どうだ・・・・・・」
 俺は思い切って右頬をつねった。じんわりと痛みが伝わってくる。
「・・・これは・・・・・・現実・・・」
 絶望にも似た思いで頬の痛みを感じていた。たとえその痛みが引こうとも、その次には心が痛む。そのことを知っているだけに、俺の心は押しつぶされそうだった。

「・・・ずいぶんと非科学的なことをするのだな・・・兄くんは・・・」
 遠目に鏡を眺めていた千影は、そう言って傍らに視線を向ける。その先には、『千影に頬をつねられている兄』がいた。
「千影姉(ねぇ)が言うなよ、そういうこと・・・」
 説得力が全然ないよ、といつのまにか兄の傍らに座っていた衛が突っ込みを入れる。
「・・・そんなことは・・・ない・・・」
 かすれるような声で呟くと、千影はコートの内側から藁人形を取り出す。
「ち・・・千影姉(ねぇ)・・・?」
 引きつったような衛の声を無視して、さらに五寸釘と『玄翁』を手にする。
「わ・・・わかった!ある、説得力は十分に、いや十二分にあるよ!」
 五寸釘を藁人形にあてがい、『玄翁』を打ち込もうとしたところで、衛が叫び声をあげる。
「判ってくれてよかった・・・」
 と言いつつも一瞬の停滞もなく、『玄翁』が振り下ろされる。衛の断末魔の悲鳴を聞き流して、千影は再び鏡の方へと向かう。
「手間をかけさせないでくれ、兄くん・・・」
 鏡の中で食卓に突っ伏している兄に向かって呟く。
「こっちが聞きたいのはひとつだけなんだから・・・」

「なんでだ、なんだってこんなことに・・・」
 もう何も考えられなくなっている頭を必死に使って何とか言葉を紡ぎ出す。それでも声がかすれているのが自分でも奇妙なほどわかる。
「誰でもいい、誰でもいいから出てきてくれ・・・」
 俺は心の底からそう思った。いつも一緒にいるだけに、少しでも離れるとその大切さを痛いほど感じる。だから俺は言ったんだ、可憐・・・、と

「可憐・・・」
 鏡の中の兄がそう呟いたのがはっきりと聞こえた。聞こえたからこそ千影をはじめ、鏡を凝視していた姉妹たちの表情が暗くなっていく。
「アニキ・・・」
 鈴凛が悲しげな表情を浮かべて呟く。
「兄上様・・・」
 鞠絵が苦しそうに言葉を発する。
「姫は・・・姫は・・・」
 白雪はもう泣く一歩手前だ。
「あにぃ、やっぱり可憐のことを・・・」
 衛がそこらにあった枕に自分のこぶしを叩きつける。
「おにいちゃま、なんで・・・」
 うっ、うっ、としゃくりあげながら花穂が言う。
「兄君様、私の気持ちを・・・考えた・・・ことが・・・」
 春歌の声が涙にかき消されていく。
「兄ちゃまのチェキは完璧じゃなかったデス・・・」
 自らの存在理由を否定された、といった感じで意気消沈している四葉。
「おにいたま・・・雛のこと嫌いになったの・・・?」
 茫然自失、といった感じの雛子。
「亞里亞は・・・亞里亞は・・・・・・わあぁぁぁぁぁ!!」
 とうとう亞里亞が泣き出してしまった。
「このぉ、よくもやってくれたわねぇ!!」
 その頃咲耶は、メカ鈴凛相手にキャ○ルク○ッチをきめているところだった。
「・・・・・・これまでか・・・・・・」
 千影はそう言うと、横たわっている兄の傍らに座った。兄の下には五忙星が描かれた布が敷いてある。
 千影は目を閉じ、兄の体に手を置いて静かに呪文を唱え始めた。
「偽りの国を彷徨いし幽なる魂・・・」
 布に描かれた五忙星が淡い光を放ち始める。それと同時に千影が光に包まれる。
「我が呼びかけに応え汝のあるべき場所へ戻り給え・・・」

 視界がいきなりホワイトアウトした。目の前が真っ白になったのだ。
「なんだ、なんだ!」
 食卓が突如消失し、俺は慌てた。こけるのでは、と思った体は奇妙な浮遊感に包まれている。
それから急にまぶしくなった。
「まぶしい・・・!」
 俺は思わず目をつむり、いつ終わるかわからない発光現象に耐えていた。
 それから少しして光は収まり、目の前を闇が支配した。ゆっくりと目を開けたその先には、千影がいた。いつもと変わらぬ表情だったが、心なしかその顔にかげりが見える。
「千影・・・」
 あれだけ探しても見つからなかった妹が、今、目の前にいる。俺はボソッと呟き、自分が何かの上に寝っ転がっているのだと気づき上体を起こした。
 そこには奇妙な光景が広がっていた。探し求めた妹たちがいたのだが、全員が全員驚いたような顔をしている。亞里亞なんか頬を幾筋もの涙が伝っている。
 そこへ何か叫び声のような、悲鳴のような声が聞こえてきた。なんだろうと思いそちらの方を向くと、メカ鈴凛と、そのメカ鈴凛にパ○スペシャルをかけられている咲耶が目に入った。
技をかけられている咲耶はかなり痛そうで、苦痛の表情で必死に「ギブ、ギブ」とか言っている。
「(あにぃ、兄上様、おにいたま、アニキ、兄や、お兄ちゃま、兄君様、にいさま、兄ちゃま)
ーーーー!!」
 そのことを訝しむ暇を与えずに妹たちが突進してくる。俺はよけようともせずに、妹たちの突進をくらった。それは痛かったが、気にすることではない。
「どうなっているんだ、千影?」
 妹たちのすすり泣く声を聞きながら、今までの説明を求めようと千影のほうに首を向ける。
体ごと向きなおりたかったが、妹たちがいて無理だった。
 その千影の後ろに、もがき苦しんでいるメカ鈴凛と、メカ鈴凛の動きを四の字固めで封じている咲耶を見つけた。
「・・・兄くんの愛を確かめたかった・・・」
 咲耶の四の字固めから逃れマウントポジションをとろうとしているメカ鈴凛と、そうはさせじとメカ鈴凛の両腕を必死の表情でつかんでいる咲耶を眺めていた俺は、その言葉に我に返った。
「俺の愛を・・・?」
「そうですわ、兄君様っ」
「あにぃが誰を好きなのか、確認したかったんだ・・・」
「それでね、おにいたまを『ゆーたいりだつ』させてね・・・」
「架空の世界へ・・・放り込んだんだ・・・」
 雛子の言葉に俺は思わず顔をしかめた。
「ちょっとまて、幽体離脱・・・?」
 しかも架空の世界ってのは・・・?そんな俺の疑問に千影が応えてくれた。
「まず兄くんが寝ているところで儀式を行い・・・体と魂を分離させる・・・」
 ということは、昨日寝てるときに感じた気配は千影だったのか・・・
「で、分離させたおにいちゃまをこの家の偽物に入れたんだよ」
 千影の後をついで、花穂が解説を入れる。
「幽体離脱ってそんな危険なこと・・・」
「・・・・・・そんなことは・・・問題ではない・・・」
 抗議しかけた俺を、千影の冷たい声が阻む。背中に冷たいものを感じて、その後を続けられなかった。
「そうよっ、お兄様が誰を好きだろうと関係ないわ!」
 千影に応えるように、メカ鈴凛をライトクロスカウンターで沈めた咲耶が声をあげる。床に倒れて煙を噴いているメカ鈴凛に、鈴凛があわてて駆け寄っていくのが見える。
「今は可憐姉様が一番なのかも知れないですけれど・・・将来は私が兄君様の一番になって見せますわ」
「四葉も兄ちゃまのハート、必ずチェキして見せマス!」
「ああっずるーい。僕も僕もあにぃの一番になるんだ!」
 そんなことを言い合っている妹たちに埋もれながら、俺はある疑問に突き当たる羽目になった。
「今回の事って、意味あったのか?」



ー後日談ー


今回のことで、咲耶がメカ鈴凛をライバルと認めたそうな・・・

ーさらに後日談ー


幽体離脱事件の後、部屋で薬をかがされて眠っている可憐が発見されたそうな・・・

ー了ー

=あとがき=

 どうも初めまして、SS初投稿のソル=ブラッサムです。書き始めたきっかけは、ほかの人のSSを
見て自分も書いてみたくなったことです。いやあ、作家さんの苦労がよくわかりましたね、本当に・・・
 可憐がいませんね・・・すみません。今度は出そうと思います。今度があればですが・・・
それはともかく、ぜひ感想をください。「こんなんシスプリじゃない」なんてのでも一向に構いません。メールか掲示板にお願いします。
 では、また。


ソルさんへの感想はこちら
ryo23@alpha.ocn.ne.jp
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