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花火

作・雷帝紳士さん




 ガチャッーーーーー

 俺は、部屋に入ると辺りを見回した。
 キレイに整頓された見慣れた部屋だ。
 自分の部屋だから当然か・・・。
 机の上のラジカセのスイッチをいれた。
 前もって、録音して置いた音が流れ出す。
 しばらくすると、机の向かい側に在るクローゼットの戸が少し動いた。
 俺はそれを見逃さなかった。


 ガチャッーーーーー

 どうやら兄チャマが部屋に入って来たみたい。
 今日は、着替え中の兄チャマをチェキするためにここに居るんだけど、兄チャマったら、なかなか来ないから待ちくたびれちゃった。

 ゴソ・・ゴソ・・・

 あっ、兄チャマが着替えを始めたみたい。
 早速チェキしよーっと。
 兄チャマに気付かれないように、そーっと、そーっと。
 四葉が少し扉を押した途端、その扉は勢い良く開いた。


「あ・・兄チャ・・・マ」
 クローゼットの戸を開けた兄の目の前で、四葉はつまみ食いを見つかった子供の様に固まっている。
 そんな四葉に兄は、ニッと笑い掛ける。
「エ、エヘヘヘヘヘヘ・・・」
 四葉も笑い返した。
 笑い合う二人。しかし四葉は口元をヒク付かせ、兄の目は笑ってはいない。
 兄は四葉の後ろ襟をムンズッと掴むと、四葉を猫の様につまみ上げ部屋の外に連れて行く。
「居間で待ってるから、早く着替えて来いよ・・・」
 兄は廊下に四葉を出すと、そう告げてドアを閉めた。
 四葉は軽くため息を付くと、薄暗い廊下をトボトボと部屋に帰って行った。

「四葉・・・遅いな・・・・・」
 兄は居間でテレビを見ながら、四葉を待っていた。
 服は縦縞の浴衣に換わっている。
「着替えに手間取ってんのかな?」
 四葉の部屋に続く廊下を眺める。
 兄は心配しながらも、再びテレビに目をやった。

 しばらくして・・・・

「兄チャマ!お待たせチェキ!」
 兄の目の前に浴衣姿の四葉が姿を現した。
 白布の所々に緑の四つ葉のクローバーがあしらわた浴衣を着ている。
「・・・・・ああ、四葉か」
 兄は、そんな四葉の姿に少しぼんやりしてしまった。
「あっ・・兄チャマもしかして、四葉に見とれちゃったデスネ」
 兄を指さし悪戯っぽくウインクする。
「そんなんじゃねえよ!・・さっさと行くぞ!」
 兄は腰を上げると、さっさと玄関に歩いて行く。
「あ〜ん、兄チャマ待ってチェキ〜〜」
 四葉は大急ぎで兄の後を追っていった。


 カラコロ、カラコロ・・・・・
 俺は下駄の音を響かせながら、近くの神社に向かっていた。
 その横では、四葉がスタスタと歩いている。
 最近の夜道も、外灯が増えて安全だ。
 時折、外灯の下で四葉を見ると、ウキウキしているのが顔から見て取れた。
 俺からの、初めての誘いだから、当たり前だよな・・・。
 俺と四葉は、血の繋がった歴とした兄妹だ。
 しかし家庭の事情で俺は日本、四葉はイギリスでそれぞれ暮らしていた。
 その間俺達は、お互いに手紙をやり取りしていたが実際に会ったのは、四葉が初めて日本にやって来た一ヶ月前の事だった。
 四葉と初めて会ってからの一ヶ月間、俺は部活などに、四葉は学校に慣れるためだけに過ぎていった。
 やっと部活で一区切り付いた俺は、近くの神社で行われる縁日に四葉を誘ったのだ。
「兄チャマ、見えてきたデス。早く行くチェキ」
 目的地である神社の鳥居が見えてきた。
 四葉は俺の手を引いて、小走りに走っていった。

「うわぁ〜〜〜」
 四葉は感嘆の声を上げる。
 会場は、既に賑わいを見せていた。
 様々な露店や屋台が建ち並び、人々がその間を行き交っている。
「兄チャマ、あれ何デスカ?」
 四葉は近くの一店の露店を指さした。
 看板の端に奇妙な魚の絵が描いてある金魚すくいの店だった。
「ね〜、兄チャマ、あれ何デスカ?」
「四葉、”百聞は一見に如かず”だ。実際にやってみた方が早い」
 俺はその露店に足を進めた。
「兄チャマ、待ってデス」
 背後で四葉の声が聞こえた。

 露店は何人かの子供達で賑わっていると思ったが、誰も居なかった。
 水槽には、小さな紅い金魚から出目金まで居る。
「らっしゃい」
 露店のおじさんが声を掛けてきた。
「おじさん、一回いくら?」
「一回、二百円だ」
「じゃあ、一回」
 俺は一回分のお金を支払うと、おじさんからポイを受け取った。
「それ、何に使うんデスカ?」
 四葉は俺の横で、不思議そうにそれを見つめている。
「これはね、こう使うんだよ」
 俺は水槽の中から小さな金魚をヒョイとボールにすくい入れて見せた。
「兄チャマ上手デス」
 四葉は感心したように言う。
 俺はもう一匹すくおうと、再びポイを水の中に入れた。
 一匹の金魚に狙いを定めて・・・
「あっ・・・」
 しまった、紙が破れてしまった。
「はっはっはっ・・・兄ちゃん、ゲームオーバーだよ」
 おじさん、大きな声で笑わなくても良いだろ。
 それに、笑われて少し悔しい。
「兄チャマ、四葉もやってみたいデス。やってみても良いデスカ?」
 四葉が浴衣の袖を引っ張る。
 そうだな、俺一人ならこのままリベンジするけど、今回は四葉も居るんだ。
 「やってみた方が早い」って言った手前、やらせないのも可哀想だ。
「ああ、良いよ」
「よーし、四葉も挑戦チェキ」
 四葉は、手にぶらさげていた小さなキンチャクから、財布を取りだした。
「お嬢ちゃんは可愛いから、特別に百円で良いよ」
「本当デスカ」
 四葉は大急ぎで財布から百円玉を取り出すと、おじさんに手渡す。
「お嬢ちゃん、頑張れよ」
 おじさんは、そう言ってポイを四葉に手渡した。
「よーし、頑張るデス」
 四葉は水槽を覗き込むと、ゆっくりと水の中に沈めていく。
 金魚の下に持っていき、ゆっくりと持ち上げる。
「あっ・・・・・」
 紙が破れた。
「はっはっはっ、駄目だよお嬢ちゃん、真ん中ですくおうとしちゃ。こう言うのはね、端っこのほうで引っ掛ける様にしてすくうんだよ」
 おじさんは、金魚をすくう真似をする。
「もう一回やるチェキ」
 四葉は再び財布から百円玉を取り出した。
「おうっ、何度でもやってくんな」
 四葉からお金をうけとると、再びポイを渡す。
 今度は、慎重に水中に沈めてゆく。
 そして端の方で金魚を・・・・・
「あっ・・・」
 また破れた。
「もう一回!!」

 その後、俺達は会場を練り歩いた。
 射的、綿菓子、エトセトラ・・・・・
「兄チャマ、お祭りって楽しいチェキ」
 四葉がはしゃいで言う。
 片手に綿菓子の入った袋とたこ焼き、反対の手には二匹の金魚が入った袋をぶら下げながら。
 あの後、四葉は一匹もすくう事が出来なかった。
 十回目の挑戦に失敗した時に、おじさんが特別に一匹くれたのだった。
 もうどれくらい経ったかな。
 前もって、神主さんから聞いて置いたあれが始まる時間も気になる。
 俺は腕時計を見た。
 そろそろ時間だ・・・。
「四葉・・・・」
 前を行く四葉に声を掛けた。
「何デスカ?兄チャマ」
 たこ焼きを食べようとしたのだろう。
 四葉は、口を開けたまま振り返った。
「お参りに行こうか」
 四葉は、たこ焼きを食べながら『?』と思った。


「おーい四葉、大丈夫かー!」
「兄チャマー!今行くから待っててチェキー!」
 石段の上の方から兄チャマの声がする。
 さすが兄チャマ、陸上部に所属(調査済み)してるのも伊達じゃないんだ。
 兄チャマが急に「お参りに行こう」って言うから付いて来たんだけど、ここの石段が登るのが大変だって事忘れてた。
 でも、あと少しで登り終わるんだから。
 よいしょ・・・・よいしょ・・・・・。
 足が重いです。
 あと少し・・・あと少し・・。
 到着〜。
「四葉、大丈夫か?」
「だ・・・だいじょうぶ・・・・デス・・・」
 兄チャマ・・・やっぱり早いです。
 それに全然疲れてないみたい。
 こんなに体力差が有るなんて、チェキに支障をきたしそう。
 今後の課題です。
 だけどここって、薄暗くて気味が悪いです。
 いくら小高い丘の上に在るからって。
 お祭りやっている所から離れているからって、静かすぎます。
 昼間に友達と来た時は、何ともなかったのに・・・。
「兄チャマ・・・何か怖いデス」
 兄チャマの後ろにそっと近ずく。
「ははっ、大丈夫だよ。早くお参りすましちまおうぜ」
 兄は、境内に向かって歩いて行く。
 その後ろでは、ピッタリと四葉が寄り添って行った。

 チャリン・・・チャリン・・・。
 パンパン・・パンパン・・。
 兄の後に四葉が続く。
 目を瞑り手を合わせる兄の横で、四葉も真似をする。
 四葉はチロッと片目を開けると、祈り続ける兄を見上げた。

 友達の話だと、ここでお願い事をするんだって。
 もちろん四葉のお願い事は、『兄チャマの事をもっとチェキ出来ますように』。
 あっ、兄チャマが目を開けた。
 お願い事が終わったみたいです。
 兄チャマは、何をお願いしたのかな。
 気になります。
「兄チャマ、何お願いしたデスカ」
「秘密だ」
 う〜、秘密って言われると、余計に気になるです〜。
「兄チャマ〜、何お願いしたか教えてチェキ〜」
「教えない」
 あう〜、兄チャマの意地悪〜。
 もうこうなったら、ぜったい、ぜったい、ぜぇ〜ったいチェキするんだから。
 寝言で言うかも知れません。今夜から徹夜するです。
「お〜い、早く行くぞ〜」
 はっ、兄チャマもう石段を下り始めているです。
「今行くチェキー」
 四葉は兄の元へ走っていった。


 境内に続く石段。
 ボンヤリとした闇に包まれ。
 下で行われている縁日の賑わいが間遠く感じられる。
 石段を兄と四葉が下りてきた。
 時折、自分の腕時計に目をやる兄の姿は少々怪しかった。
「四葉、少し休んで行くか」
 兄は唐突に四葉に言った。
「兄チャマ、どうしたんデスカ?」
 兄に四葉がどうしたのか聞く。
「いいから・・・」
 そう答えて、兄は石段にドカッと腰を下ろした。
「?」
 四葉は、そんな兄の横にチョコンと腰掛ける。
「いったい、どうしたんデスカ?」
 四葉は心配そうに兄に聞く。
「いやっ・・その・・・」
 兄は、恥ずかしそうに頬を掻く。
 そんな兄を見て、四葉は首を傾げた。
「あのさ・・・さっきお参りで俺がお願いしたことを、知りたがっていたろ」
「うん・・・」
 四葉は頷く。
「それ・・教えてやるよ」
「本当デスカ!」
 兄の言葉に、四葉は顔を輝かせた。
「ああ、本当だ。じゃあ行くぞ」
 四葉は既に、メモとペンを握っている。
「俺がお願いしたことは・・・」

 ヒュ〜〜〜〜〜〜、パーーーン。

 その時、夜空に一輪の火の花が咲いた。
 縁日の会場からは「おぉ〜〜」と歓声が上がる。
「あ、兄・・・チャマ・・・・・」
 四葉はメモとペンを膝の上で握りしめ、顔を紅く染めて俯く。
 兄はそんな四葉を見つめている。

 ヒュ〜ヒュ〜ヒュ〜〜〜、ドドドドーーーーン。

「キャッ」
 さらに打ち上げられた花火の音に、四葉は我に返った。
 短い悲鳴を上げて、兄の袖にしがみつく。
「おっ、始まったみたいだな」
 兄は夜空を見上げて言う。
 それから、四葉の方に向き直って言った。
「大丈夫だよ、あれは『花火』って言う日本の夏の風物詩だから」
 四葉はその兄の言葉を聞いて、恐る恐る袖から手を離し兄から身を離す。
「それに、ここは花火を見るのに絶好の場所なんだ」
 兄は四葉に笑いかけた。
 花火は次々と打ち上げられていく。
 牡丹、柳・・・・・
「うわぁ〜〜〜」
 続々とうちあげられ、夜空を飾る花火に四葉は、本日二度目の感嘆の声を上げる。
 その時、四葉の肩口にスッと手が現れた。
「ーーーーーーーー!!」
 それは兄の手だった。
 兄は四葉の体を引き寄せる。
 突然引き寄せられた四葉は、始めは体を硬直させたが、少しして体の力を抜き、兄に身を預けた。
 肩を寄せ合う二人。
「四葉は、兄チャマの事が大好きデス」
 四葉がポソッと呟いた。
「んっ・・何か言ったか?」
「ううん、何でもないチェキ」
 四葉は、そのまま首を横に振った。

 麓から社に続く石段。
 辺りは闇夜に包まれ。
 空では色とりどりの花火が舞っては消える。
 石段の上で寄り添う二人。
 そんな二人を二匹の紅い金魚だけが見つめていた。


fin

 あとがきもどき
兄 「ところで四葉、あの時何て言ったんだ」
四葉「それは秘密デス」
兄 「俺の事が好きだとかか?」
四葉「うっ・・どうして・・・あの・・・・(赤面)」
兄 「やっぱりな、図星だろ」
四葉「う〜、兄チャマのバカバカバカ〜〜」



本当のあとがき
これはウプサラ様へのお礼SSです。
お礼と言うからには、自分の出来る限りの力を注いで見ました。
ちょっと(ちょっとなのか?)四葉のキャラが変わっているのが気になりますが、その辺の所はご了承下さい。



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