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One week
第二章 四葉 『中四日の探偵』

原作者・雷帝紳士さん 文・パンドラさん



 兄チャマが刺されてから半日が経ちました。
 兄チャマは何とか一命は取り留めたようです。
 でも、兄チャマはまだ眠ってます
 四葉は兄チャマにこんな事をした犯人が許せません。
 この事件、この名探偵四葉が解決して見せます。


 火曜 13:27 自宅 玄関


 ガチャッーーー

 玄関のドアを開け四葉が入ってきた。
 きょろきょろと辺りを窺っている。
 人が居ないのを確認すると、四葉は館の中に忍び込んだ。
 迷わず玲が倒れていた現場に駆けて行く。
 次の角を曲がれば目的地、しかし、その角を曲がった瞬間、向こうから歩いてきた何かに四葉はぶつかった。
 四葉は尻餅をついて後ろに倒れ込んだ。
「いたたたた・・・」
「だ、大丈夫かい?」
 その人物は、倒れた四葉に声を掛ける。
 四葉はその人物を見上げた。
「「あ・・・」」
 二人の声がピッタリ一致した。
「四葉ちゃん・・・!」
「お隣の大谷サン!!」


  同日 13:31 自宅 リビング


 二人はリビングに移動していた。
 さっき四葉にぶつかったのは、この館の隣に住む大谷健司だった。
 体育会系のようなガッチリとした体躯をしている。
「四葉ちゃんは、こんな時間にここで何をしてるんだい?」
 大谷は四葉に質問した。
「大谷サンこそ、ここでなにをしてるんデスか?」
 逆に四葉が質問し返す。
 すると大谷はスーツの内ポケットをごそごそ探ると、小さな黒い手帳を取りだした。
「僕は、こういう者さ」
「警察手帳デス」
 四葉は警察手帳を引ったくるように奪い取った。
「あ、ちょ、ちょっと!」
「四葉、はじめて警察手帳を見るデス」
 四葉はそれをしげしげと見つめる。
「そ、そうかい?ドラマとかでよく出てくるから、見たことあると思うけど」
「四葉、ヤードのしか見たことないデス」
 大谷は困惑の表情を浮かべている。
「あ、そ、そう」
「大谷サン、detectiveだったんデスか!?」
「デテクティブ?ああ、刑事ね。そうだよ」
「知らなかったデス」
 大谷は肩すかしをくらったようにズッコケた。
「あ、そ、そうかい。ええっと、そんなことより、君こそここで何をしてるんだい?」
「調査デス!!」
 四葉は意気込んで言った。
「・・・へ?」
「この事件を解決するための調査をするんデス!!」
 大谷の顔にさらに困惑の色が加わる。
「大谷サン、そこでなんデスが、四葉に現場を見せてほしいデス」
「だ、だめだめ!一般人を現場に入れるわけにいかないよ」
 大谷は片手を横に振った。
「本当にだめデスか?」
 四葉は大谷に『ズイッ』と近づいた。
「本当に?」
 四葉は大谷の顔に顔を向け、目を『うるうる』とさせる。
「うぅ・・・」
 大谷の中で、何かと何かが戦っているようだ。
 だが、直ぐに決着はついた。
 大谷はため息を付いて、チラッと時計に目をやる。
「警部達が戻って来るまで、あと一時間くらいある。それまでだったらいいよ」
「本当デスか!?」
「本当だ」
 その言葉に、四葉の顔が『パッ』と明るくなった。
「じゃあ、現場に行こうか」
「はいデス」


 同日 13:40 自宅 玲の部屋の前


 四葉と大谷は現場に足を踏み入れた。
 四葉の手には大谷から借りた白い手袋がはめられている。
「下手に物に触らないでくれよ」
「解りマシタ」
 四葉は愛用の虫眼鏡を取りだした。
 現場には争った形跡は無く、被害者である玲は頭を廊下に向け、部屋と廊下の敷居を跨ぐように倒れていた。
 それは、現場に残されている白い線が証明している。
 荒らされてないだけあって、調べる所は少ない。
 四葉は、その現場の怪しい所を一つ一つ調べて行く。
 ドア、ドアノブ、廊下、部屋の床・・・・・。
 それが終わると、今度は玲が倒れていた場所を観察する。
 少しして、不意に四葉が言った。
「大谷サン、犯人がどうやってこの家に入ったんデスか?」
「ああ、それかい?一応、見当はついてるよ」
 大谷はそう言った。
「じゃあ、見せてくだサイ」
「ああ、いいよ」


 同日 14:22 自宅 一階西側


「ここデスか?」
 四葉は大谷に尋ねた。
「そうだよ。ここはもう調べ終わってるから、手袋していれば触っても良いよ」
 ここは館の一階。
 そこは彼女達うち、奥から亞里亞、可憐、花穂、雛子の寝室がある所だった。
 一番奥は行き止まり。
 玲の部屋からはそんなに離れていない。
 廊下にある窓のうち、雛子の部屋の前の窓が開いていた。
「この窓デスね」
 四葉は窓に近づいた。
 今時は珍しい両開きで、外に向かって開く小窓である。
 そこは館の裏庭にめんしていた。
 よく手入れされた芝生の絨毯が広がり、小さなブランコや洗濯物を干す所などが在る。
 四葉は窓の下を覗き込んだ。
 窓の下には花壇があり、その土は昨夜の雨でぬかるんでいる。
 四葉は身を起こすと、窓枠を指でなぞった。
 よく掃除されている。埃一つ付かない。
 四葉は突然駆けだした。
「あ、よ、四葉ちゃん!」
 大谷も大急ぎでその後を追っていった。


 同日 14:25 自宅 裏庭


 四葉は裏庭まで走ってきた。
 窓が開いていた場所まで来ると、窓の下に在る花壇をを観察し始める。
 花壇にはパンジーの花が咲き誇っていた。
 よく手入れがされている。
 そこに大谷が走ってきた。
「四葉ちゃん、何か見つけたのかい?」
 大谷の声に四葉はそのままの姿勢で質問した。
「大谷サン、この窓以外に犯人が出入りに使った所は無いんデスか?」
「え、他にかい?え〜と、無いよ。全部調べたけれど、ここ以外の窓は全部閉まっていたし、開けられた形跡も無かった。」
 大谷は一拍、間を置いた。
 四葉は何かを考えている。
「それに、君のお兄さんを刺して、何も取らずに逃げる犯人がトリックを使って窓を閉めたとは考えにくいからね」
「つまり、警察は外部犯っと考えているんデスね」
「そ、たまたま開いている窓を見つけて物取りに入った犯人は、偶然ドアを開けたお兄さんとはち合わせになってしまった。それで慌ててお兄さんを刺して逃げた。」
 大谷は腰の手を当てて言う。
「これがこっちの推論さ」
「・・・・・」
 四葉は考え込みながら窓の下の花壇をさらに観察してゆく。
「おかしいデス・・・」
 四葉はポソッと声をもらした。
「え、何だって?」
「大谷サン、もし大谷サンが犯人なら、どうやってこの窓から入りマスか?」
「え?」
 四葉の質問に大谷は少し考え込んだ。
「そりゃあ、窓の下に立って、窓枠によじ登ったら窓枠に足をかけて・・・」
 大谷がそう言ったその時。

「おぉい!新米!どこ行った!!」

 館の中から怒鳴り声が上がった。
 その声を聞いた瞬間、大谷は肩を竦ませる。
「げっ、警部達が戻ってきた。予想したのよりも早かったな。」
 大谷の顔に焦燥の色が浮かぶ。
「よ、四葉ちゃん、警部達に見つからないようにしてここから出てってくれ。後は僕が何とかするから」
 大谷は慌てて駆けだして行く。
 少しして、また怒鳴り声が響いた。
 四葉はもう一度花壇に目をやった。
 でも直ぐに駆けだす。
 そして誰にも見つからないように、死角を利用して敷地から脱出した。


 同日 14:42 公園


 館からあまり離れていない公園に四葉は居た。
 ベンチに座り何か考え事をしている。
(おかしいです・・・何かがズレています・・・・・)
 四葉の頭の中ではついさっき見てきた現場の様子がありありと浮かんでいる。
 四葉は玲が倒れていた所を思い返してみた。
(あの部屋、不自然です。本当に兄チャマは、大谷さんが言ってたみたいに刺されたのかしら?)
 一つ一つを考え直してみる。
(まずおかしいのは、兄チャマが倒れていた位置です。普通、あんな所に倒れるかしら?そもそも、刃物を向けられて抵抗しないのはおかしいです)
 四葉はさらに考え込む。
(もう一つおかしいのは窓の下の花壇です。そこには在るべき物が在りませんでした。窓枠にもなかった。大谷さんと違う入り方をなら、あとは飛び込むしかありません。だったら、雛子チャマ達のうち誰かが何か物音を聞いているはずです。)
「う〜ん・・・」
 四葉は唸った。

(おかしいです。何か咬み合いません。一つ一つの事が少しずつズレてます)
(もしかして、兄チャマは犯人に会っても驚かなかったのかも)
(それって、どう言うこと?もしかして、犯人は兄チャマの知っている人?)
(それも、夜遅くに兄チャマの部屋に行っても、兄チャマが怪しまない人・・・・・)
(それじゃあ、犯人は。でも動機は?みんな動機がないです)
(でも、そう説明した方が全部咬み合います。)
(そんな、それじゃあ・・・)

「あ〜!違いマス!絶対に違いマス!!そんなことあるはずありまセン!!」
 四葉は頭をメチャクチャに掻きむしりながら、その思考を追い出そうとした。
 しかし、その思考はそう簡単に出ていこうとしない。
「全部、四葉の想像デス!絶対に違うデス!!」
 四葉は何とかその思考を頭の中から追い払った。
「あっ・・・」
 四葉は、ここがどこなのか思い出して、慌てて辺りを見回した。
 周りには誰も居ない。
 四葉はホッと胸をなで下ろした。
「あれ・・・?」
 少し離れたところを花穂が歩いて行くのに四葉は気付いた。
(おかしいですね?四葉の記憶が正しければ、今日は部活があるはずです)
 四葉は少し考える。
(むむむ、謎です・・・。でも、今はそれどころじゃないですね)
 頭を切り換えると、四葉は近所の家に聞き込みに向かった。


 水曜日 12:32 十二姉妹学園 三階廊下


 私立十二姉妹学園、通称『十二姉妹』
 保幼小中高大院の学校が一つの敷地にある一貫教育の学園であり。
 玲やその妹たちの学舎でもある。
 今は昼休み。昼食を食べ終わった生徒が、廊下を騒がしく駆け回ったりしている。
 四葉は廊下の壁に寄りかかってボーっといた。
(どうしても、この推理に行ってしまいます・・・)
 朝からこんな調子だ。
 午前中の授業中も同じだった。
 指名されても直ぐに反応できないでいる。
 目の下には少し隅が出来ていた。
「なんでこの結論なんデスか?」
 四葉は一人ごねた。
「あ〜あ・・・」
 四葉は振り返って窓の外を見る。
 空には青空が広がり、下を見下ろすと中庭が見えた。
(・・・・・?)
 四葉は中庭に誰か居るのに気付いた。
 二人。
 良く目を凝らしてみる。
(あれは・・・可憐姉チャマと花穂チャマ)
 それは可憐と花穂だった。
 何か話をしているようだ。
 だが、花穂の方が一方的に喋っているような気がする。
(何を話してるのかしら?)
 少し考えてみる。
(・・・・・・今は、兄チャマの事が先決です)
 四葉は教室に戻ると時計を見た。
 そして鞄を手に取ると、昇降口へと走っていった。


 同日 12:38 十二姉妹学園 昇降口


 コトリ、パタン。

 四葉は下駄箱に上履きをしまい、靴に履き替えようとした。
「私の授業をサボって、どこに行こうとしているんだい?」
 急に後ろから声を掛けられ驚いた四葉は、口元をひく付かせながら振り返った。
「む、村沢・・・先生・・・・・」
 そこには、20代前半の眼鏡を掛けた男が立っていた。
「四葉さん、お兄さん・・・玲さん、だったかな。あんな事があった後だから、彼が心配なのは解るけど、学校を抜け出すのは良くないな」
 村沢はヤレヤレといった態度をとる。
「でも、四葉は兄チャマにこんな事をした犯人を突き止めたいデス」
 その言葉に村沢は溜め息をついた。
 そして少し考えてから。
「わかりました。今回だけは見逃してあげます」
「本当デスか!?」
「でも、出席にはしませんからね」
「うぅっ・・・それでもいいデス」
 四葉は靴に履き替え、駆け出そうとしたとき、何かを思いだしたように振り返った。
「あ、そうだ。村沢先生、この前はThanksデス」
「え?・・・ああ、あの事かい?どういたしまして、見学ならいつでも歓迎するよ。・・・あ、そうそう、可憐さんはどこにいるか知らないかい?」
「可憐姉チャマデスか?さっき中庭で見掛けたデス」
「わかった、ありがとう。じゃ、犯人探しガンバってね」
「村沢先生!Thanksデス!!」
 四葉は昇降口から駆け出した。

 この日、四葉は自分の出来る限りのことで、犯人を突き止めようとする。
 しかし、それは全て徒労に終わることとなった。


 木曜日 15:50 十二姉妹学園 廊下


 四葉は、廊下を走っていた。
 今日は衛と玲の様子を見に行く約束ある。
 しかし、一昨日、昨日と掃除をサボったツケが今日回って来た。
 一人で廊下の掃除をする事になったのだ。
 結局、掃除に手間取り、約束の時間に20分も遅刻することになった。
(ち、遅刻です)
 四葉は、走りながら衛に言う言い訳を考えていた。
 大急ぎで階段を駆け下りようとしたその時。
 踊場にたくさんの人垣が出来ていることに気付いた。
(What?)
 四葉は足を止めた。
 そして人垣をかき分けて、何があったのか確かめようとする。
「・・・・・!!」
 人垣に囲まれている物を見て四葉は息を飲んだ。
 そこには、額から血を流して床に倒れている花穂と、花穂を抱え起そうとする千影の姿があった。
「千影姉チャマ!何があったんデスか!?」
 四葉は千影に声を掛ける。
 花穂の腕を肩に掛け、何とか運ぼうとした千影は四葉に気付いた。
「四葉くん。・・・花穂くんを保健室に運ぶのを・・・・・手伝ってくれないかい」
「わ、わかったデス!!」
 四葉は千影に手を貸すと、大急ぎで花穂を保健室に運んでいった。


 同日 15:55 十二姉妹学園 保健室


 十二姉妹学園の保健医、泉原加奈子はベットに寝かされた花穂の様子を観察しながら言った。
「大丈夫、ただ気を失ってるだけみたい」
 四葉達に向けられた泉原の顔が僅かにほころぶ。
 その顔は、なかなか魅力的であった。
 その顔を見て四葉は胸をなで下ろす。
「怪我のたいした事ないみたいだし。じきに気が付くから、安心して」
「先生・・・」
 千影が泉原に話しかけた。
「なあに?千影さん」
「しばらく・・・花穂くんの傍にいたいのですが・・・・いいですか?」
「いいわよ。それなら、ここお願いね。職員室に少し用事があるの」
「(こくん)」
 千影が頷くのを確かめると、泉原は保健室を出ていった。
 少し時間が経ってから、四葉はあることを思い出した。
「あ!衛姉チャマとの約束を忘れていたデス!!」
 慌てて駆け出そうとした四葉に
「四葉くん・・・」
 千影が話しかけた。
「な、何デスか?千影姉チャマ?」
「実は・・・君に頼みたいことが・・・あるんだ」
「?」
 千影は四葉に何か頼み事をしている。
「・・・そんなことでいいんデスか?」
「ああ・・・できれば・・・明日までに・・・調べてほしい」
「報酬は何デスか?」
「兄くんの写真を使って作った、タロットカードでどうだい」
「了解デス」
 四葉は依頼を受けると保健室を出ていった。
 保健室に残った千影は、まだベットで眠っている花穂の傍らに立った。
 そして、花穂の耳元に顔を近づけると、何かぼそぼそと耳打ちし始めた。


 その後、警察の捜査も虚しく、事件は迷宮入りする事となる。
 頼みの綱の玲が目を覚ましても、犯人の姿をよく憶えていなかったのだ。
 警察は、もう一つの可能性も疑ったが、結局なにもつかめなかった。
 全ての事実は闇に葬られた。


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