Click here to visit our sponsor

 戻る 


One week
第一章 咲耶 『いつもと違った週明け』

原作者・雷帝紳士さん 文・パンドラさん


 いつもと変わらない月曜日のはずだった。
 いつもと変わらない一週間になるはずだった。
 でも、違ってた。
 まさか、お兄様が・・・あんな事に・・・・・。


 月曜 15:32 自宅 リビング

「ただいま〜」
 咲耶は玄関のドアを開けた。
 靴を脱ぐとリビングに向かう。
 リビングには千影が居た。
 テーブルの上にある、何かを見ながら難しい顔をしている。
「何してんの?」
 咲耶は千影に近づき、話しかけた。
 しかし、千影は咲耶に気付かないのか、そのままの姿勢でまったく反応しない。
「ねぇ、千影・・・?」
 咲耶が千影の肩に手を置いた瞬間、千影は驚いたように咲耶の方に顔を向けた。
「あ、おかえり。・・・いったい、いつ帰って来たんだい」
 一瞬、千影は驚いた顔をしていたが、すぐにいつものポーカーフェイスに戻ってしまう。
「ついさっき。それより、どうしたの?難しい顔して」
「ああ、・・・ちょっとね・・・」
 千影は再びテーブルの上に視線を戻した。
 咲耶もつられてテーブルの上に目を向けた。
 五芒星が描かれたカードの束があり、その下に四枚のカードが並べられている。

 一枚目のカード・・・中央に観覧車らしき物が描かれている。

 二枚目のカード・・・杖と器みたいな物を手に持った青年が描かれている。

 三枚目のカード・・・禍々しい悪魔の様なものが描かれている。

 四枚目のカード・・・巨大な鎌を持ったガイコツが描かれている。

「おっと・・・」
 咲耶の視線に気付いたのか、千影は慌ててカードを束の中に戻した。
「それって、タロットカードでしょ」
「そう・・・だけど・・・・?」
「誰のこと占ってたのよ」
「さあ、・・・ね」
 千影は立ち上がり、リビングを出ていこうとする。
「あ、待ちなさいよ!!」
 咲耶の声が聞こえなかった様に、千影はリビングを出ていった。


 同日 16:48 自宅 リビング


 咲耶は普段着に着替え、リビングでボンヤリしていた。
 あの後、千影に誰の事を占っていたのか聞きだそうとしたが、千影は何も言わずに自分の部屋に籠もってしまった。
 ノックをするものの返答はなく、入ろうにも以前入ったときの薄気味悪い印象が頭を擡げ、結局入ることが出来なかった。
 その後、なにもする事が無かったのでここに居るのだが。
「・・・・・!」
 咲耶は、部屋に隠れている奴の気配を察知した。
 手近に在った小さなクッションを無言で手に取る。
「そこで!何してんのよ!!」
 咲耶は、奴が隠れているであろう場所に思い切りクッションを叩き付けた。
「NO!咲耶姉チャマ!見当外れデス!!」
 リビングに奴の声が響いた。
「どこにいるの!出てきなさい!!」
 咲耶は声を張り上げる。
 それを嘲笑うかのように、天井裏からポラロイドカメラ片手に奴が降り立った。
 まるで、シャーロックホームズの様な格好をした奴の名は、四葉(自称、名探偵四葉)である。
「咲耶姉チャマの『ボンヤリ、マヌケ顔』バッチリ、チェキしたデス!」
 撮影したばかりと思われるポラロイド写真を四葉はヒラヒラと振って見せた。
「その写真をどうする気・・・・・?」
「もちろん、兄チャマに見せるデス」
 結果が見えているような咲耶の質問に、四葉は当たり前と言わんばかりに答える。
 その瞬間、咲耶の周りの空気が張り詰め、一気に殺気立った。
「そんな事・・・させないわ!!」
 咲耶は神速に迫る勢いで、四葉に突進した。
 二人の間の距離は約十メートル、四葉は紙一重のところで突進を回避する。
 しかし、咲耶はすぐに切り返し、回避した直後でスキだらけの四葉に跳びかかった。
「チェ、チェキ!!」
 この後すぐ、組んず解れつの写真争奪戦が開始された。

 10分後・・・。

「か、返してデス!」
 そこには、咲耶に組み敷かれた四葉の姿が在った。
 咲耶の手には、あの写真が握られている。
「イヤよ!」
「それをどうする気デスカ!?」
「こうするに、決まってるでしょ!!」
 写真がビリッと音をたてて二つに引き裂かれた。
「や、やめるデス!!」
 四葉の抗議を無視して、咲耶はさらに細かく写真を千切ってゆく。
 そして、復元不可能なくらいに千切ってから、咲耶は四葉を解放した。
「あうぅ・・・」
 四葉は無惨な姿になった写真の切れ端を泣きながら集めてゆく。
 その光景を、肩で息をしながら咲耶は見ていた。

「咲耶お姉ちゃん(お姉ちゃま)」

 リビングの出入り口にいつの間にか立って居た二人が、咲耶に同時に話しかけた。
 咲耶が振り返ると、そこには可憐と花穂が立っていた。
 二人とも何が起こっていたのかまだ理解できてない様である。
「う、うわ〜〜〜〜〜〜〜ん!!」
 ついさっきまで、集めた写真の切れ端を見ていた四葉が、とつぜん大声を上げて泣き出し、二人を押し退けてリビングを飛び出して行った。
「・・・・・。ねぇ、咲耶お姉ちゃま。何かあったの・・・・?」
「何にもないわよ」
「でも・・・」
「そ、そんなことより、花穂は部活で遅くなったのは解るけど、可憐は何してたの?」
 咲耶は話題を変えた。
「うん、もうすぐピアノの発表会だから、練習してたの」
「一人で・・・?」
「ううん、先生と」
「先生って、吉川先生?」
 咲耶は、自分の音楽の先生の名前を上げた。
 しかし、可憐は首を横に振った。
「村沢先生」
「村・・沢・・・?ああ、村沢一樹先生ね」
 咲耶はすぐに合点した。
「確か最近赴任してきた、眼鏡を掛けた美形の音楽の先生」
「うん」
 可憐は頷く。
「いつも、見てもらってるの?」
「毎日じゃないよ、月曜日と水曜日、それから土曜日」
「ふ〜ん。じゃあ、ピアノがんばってね」
 咲耶が可憐を励ましたその時、玄関から声が響いた。
「お兄様だわ!」
 咲耶は玄関に走っていった。


 同日 19:36 自宅 キッチン


 そこではガチャガチャと食器を洗う音が響いていた。
「今日のお夕飯、いかがでしたの?」
 洗い物をしていた白雪が、隣で同じように洗い物をしている咲耶に声を掛けた。
「え、ああ、あのビーフシチューね。美味しかったわよ」
 咲耶は正直の答える。
「ええ、本当に美味しゅうございました」
 白雪の隣で洗い終わった食器を拭きながら襷を掛けた春歌が同じように賞賛した。
「喜んで貰えて、嬉しいですの」
 白雪が嬉しそうに食器を洗っているところに衛が新たな食器の山を持ってきた。
 春歌はその食器の山を二つに分けると、その一方を白雪のもとにも持って行く。
 衛は残された食器の山を咲耶の所に運んでいった。
「お兄様、何してた?」
 まだ洗っていない食器の山に運んできた食器を置いて、布巾を手に濯がれた食器を拭いている衛に咲耶は話しかけた。
「雛子ちゃんと亞里亞ちゃんの相手をしていたよ」
「ふ〜ん」
「鼻の下伸ばして」
 衛がそう言った瞬間、辺りの空気が凍り付いた。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・あ、雨が降ってきましたわ」
 張り詰めた空気を破ったのは春歌だった。
 その言葉に全員が窓の外に目をやる。
「ホントですの」
「え〜!そんな〜!」
 衛が嫌そうな声を上げた。
「どうしたのよ?」
「明日、あにぃとサッカーの練習するつもりだったのに」
 残念そうな顔をする衛。
 そんな衛を後目に、雨はその勢いを増していった。


 同日 20:17 自宅 リビング


 咲耶はリビングに顔を出した。
 そこには可憐と雛子がいた。
 何やら、部屋には甘い匂いが立ちこめている。
「何してんの?」
 咲耶は当たり前の疑問を口にした。
「あ、咲耶お姉ちゃん」
 可憐が咲耶の方に顔を向けた。
 可憐の目の前には火のついたアルコールランプ、その上には白い小さな皿があり、それには何かの液体が満たされている。
 そして、その近くには小さな小瓶が在った。
「アロマテラピーをしてるの」
「ふ〜ん」
 咲耶は皿に顔を近づけた。
 甘い香りがする。
 この部屋に満ちている匂いの元はこれだろう。
「これ何の香りなの?」
「わからないの、村沢先生から貰ったんだけど」
 咲耶の質問に、可憐は首を振って答えた。
 咲耶は雛子の方に目を向けた。
 雛子はまるで熱に浮かされた様な顔をしている。
「雛子、なにボーっとしてるのよ」
「・・・・・」
「雛子?」
 咲耶は雛子の体を揺すった。
「あ、咲耶おねえたま」
「どうしたの?さっきからボーっとしちゃって」
 咲耶は心配そうに言う。
「あのね、咲耶おねえたま。この匂い嗅いでるとね、ボーっとして来ちゃうの」
「ふ〜ん」
 咲耶は、もういちど皿に目をやった。
(何の匂いなのかしら?)
 咲耶がそう思ったその時。

「アニキのケチ!!」

 大きな声と共に鈴凛がリビングに入ってきた。
 全員が鈴凛の方に目を向ける。
「いったい、どうしたのよ!?」
「咲耶アネキ、聞いてよ〜」
 声を掛けた咲耶に、鈴凛が涙を浮かべながらすり寄っていく。
「アニキに、アニキに〜」
「お兄様がどうかしたの?」
「アニキに援助、断られた〜」
 鈴凛は『よよよ』っと泣き始める。
 心配していた咲耶の顔が、落胆に変わった。
「援助って、アンタこの前ネダったのいつよ」
「一週間前・・・」
「そりゃ、断られるわ」
「ううう、そこでなんだけど〜、咲耶アネキえん・・・」
「やだ」
 泣きながら顔を向ける鈴凛に咲耶は即答した。
 鈴凛は可憐の方に目を向ける。
「無理です」
 可憐も即答する。
 遂に鈴凛は雛子に目を向けた。
 しかし、雛子は『キョトン』としていた。


 同日 22:52 自宅 廊下


「ふ〜、気持ちよかった」
 咲耶は呟いた。
 湯上がりなのだろう。パジャマ姿である。
 咲耶は廊下の突き当たりに誰か居るのに気付いた。
 咲耶達の兄、玲(れい)と可憐である。
 お辞儀している可憐に対して玲は何かを言っているようだった。
 用が終わったのだろう、可憐は玲から離れて行く。
 玲は咲耶の方に歩いてきた。
「よお、咲耶、風呂でたのか」
「ええ、次はお兄様の番だったわね」
「そうか。じゃあ、おやすみ」
「お休みなさい、お兄様」
 玲と別れた咲耶が廊下の突き当りを曲がると、鞠絵と亞里亞がいた。
 鞠絵は困った顔をしている。
 亞里亞はグスグスと泣いている。
「どうしたの?」
「あ、咲耶姉上様」
 鞠絵が咲耶に気付いた。
「実は、先ほど可憐さんとお会いしたんです。寝る前のご挨拶をしたんですが、そのまま歩いて行ってしまわれたんです」
「くすん、くすん・・・亞里亞も・・「お休みなさい」って言ったのに・・・。可憐姉やひどいです」
 二人は何があったのか咲耶に話した。
 咲耶は『う〜ん』と理由を考る。
 しかし、分るわけがない。
「わかった、明日、可憐に聞いてみるわ。だから、亞里亞泣かないで・・・ね」
「・・・はい・・・」
 咲耶は亞里亞を泣きやませた。
 そして、ふいに外を見る。
「あ・・・雨が止んでるわ」
「ほんとですね」
 鞠絵が咲耶に同意する。
「お星様がキレイです」
 亞里亞もいつの間にか二人の間に入って夜空を眺めていた。


 同日 23:47 自宅 廊下


 ほとんどの者が寝静まった。
 館の中を沈黙の闇が支配している。
 そんな中、一人暗い廊下を歩く者がいた。
(今夜こそ、お兄様を私のものに)
 咲耶だ。誰も居ない廊下を物音ひとつたてずに歩いて行く。
 その動きは明らかに手慣れていた。
 他の者達に気付かれないように、着実に獲物に近づいて行く。
 もうすぐ目的地というところで、咲耶はあることに気付いた。
(あれ?お兄様の部屋のドアが開いてるわ)
 ドアが完全に開いている。
 部屋の明かりが廊下に流れ出ていた。
 そして、もう一ついつもと違うところがあった。
 何かがそこに横たわっている。
(何かしら?)
 咲耶は不審に思ってそれに近づいた。
 近づくにつれ、それが何なのか徐々に解ってくる。

「お、お兄様・・・・・!?」

 そこに倒れているのは玲だった。
 しかし様子がおかしい。
 近づいた咲耶に対して全く反応を示さない。
「どうしたの!?お兄様!!」
 咲耶は玲の体に手を着いた。
 玲の体温が咲耶の掌に伝わってくる。
 暖かい。
 咲耶は玲の体を揺すってみた。
 反応無し。
 不意に玲の腹部に当てた掌が濡れるのを感じた。
 掌に目をやると咲耶は絶句する。
 部屋の明かりが手をぬらした物を照らし出していた。
 それは液体。咲耶の掌には赤い液体がべっとりと付着していた。
 咲耶は掌を凝視する。目が離せない。体が小刻みに震え出す。

「い、いやぁぁぁぁぁぁああああああーーーーー!!!」

 忘れられていた悲鳴が闇を切り裂き響き渡った。
 全ての者にこの事を知らせるように。
 静寂が支配していた夜に終わりを告げるように。
 何かの始まりを示すように。


 辺りは一変した。
 急いで発進する救急車のサイレン。
 集まった野次馬や報道陣の群。
 そして、家の前に止められているパトカーや鑑識車が全てを物語っていた。


 戻る