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想いの力

作者 雄一さん


夢を見た・・・・
真夜中・・・教会の目の前で何者かと対峙している兄くん
その手には光る棒を持っている。
暗転・・・場面が変わりそこには・・・・
私が兄くんの首に噛み付いていた・・・・
苦痛にもだえる兄くん・・・
やがて兄くんの体から力が抜けて・・・
 
 
 


「はっ!!」
私は起き上がった・・・・夢か・・・。
辺りを見回す。古ぼけた本が詰まった本棚。
教科書や筆記用具がある机、机の上には私と兄くんが二人で移ってる写真・・・・、昨日実験で使った開きっぱなしの本・・・兄くん曰く、「女の子らしくない部屋」だそうだ。どうやら本当に夢らしい。
「・・・・・・・夢か・・・それにしても・・・私が兄くんを・・・」
妙に現実味がある夢だった。ベッドから降りて時間を確認する。
七時五十分・・・・私はクローゼットから制服を取り出し着替え、髪を整えながらカレンダーを見る。
今日の日付に食事と書いてある。
「今日の食事当番・・・・・私だ・・・」
髪を急いで整え、一階の台所に向かう。
「え?」
台所に入った時、そこには朝食の用意をしている兄くんがいた。
「兄くん?」
「おはよう千影」
「おはよう・・・・・今日は私のはずじゃあ・・・・」
「ああ今朝は早く目がさめてな・・・5時だぜ・・・」
「・・・・・・・」
「まあついでだから朝飯作ってやろうと思ってさ」
テーブルの上には目玉焼きにサラダ、トーストに紅茶がのっていた。
私は席につくと紅茶を一口すする。・・・・・・良かった・・・夢じゃなくて。
私は食器を洗ってる兄くんの背をじっと見る・・・
「・・・なんだ?」
私の視線に気が付いたのか兄くんが振り返る。
「ううん・・・・なんでもない・・・おいしいね紅茶」
「ありがとう」
兄くんは再び前を見る。私はテレビの電源を入れる、するとナレーターが熱心にニュースを読んでいた。
その事件は「謎の吸血殺人事件」とタイトルがつけられており、私はそのニュースをじっと見る。
(・・・被害者は全員女性であり共通点は首筋に生物にかまれた跡があると言うことです。)
・・・やつだ・・・私は確信した。兄くんの気配を感じてここまで・・・
(検死の結果被害者の体内から血液が検出されず、死因は大量出血によるものと警察は発表しています)
・・・当然だ・・・やつはそんなに甘くはない・・・
(また不思議なことに警察署の死体安置所から死体が消えるという事件も同時に発生しております。このことに関して警察側はコメントを控えておりマスコミからは警察の管理体制の見直しを求める声が出ており警察は・・・・)
・・・・今日で終らせなければ・・・・
「学校行かないのか?」
「・・・・え?」
兄くんの声に我に返り時計を見る。・・・・・八時十五分・・・そろそろいかないと・・・
「・・・・行って来ます。」
「ああちょっと待った」
「・・・なに?」
「日曜日暇か?」
「・・・・暇だけど・・・」
「そうか・・・なあ・・海に行かないか?」
「え?」
「いや・・・そろそろ夏休みだし・・・最近どこにも行ってないし」
「・・・・・・」
「それに・・・高校生にもなって泳げないってのは・・・」
「・・・いいよ・・・行こうか・・・」
「そうか・・・」
兄くんはそういうと洗い物の続きをする。
私は鞄を持つと急いで靴を履き玄関を出る。外の天気は快晴・・・・・今日も天気はよさそうだ・・・。




私と兄くんは血が繋がってない・・・・そう知ったのはごく最近だった。
事情を知る両親はもういない・・・・私達が幼いころに事故で死んでしまった。
両親がいなくなってからは兄くんが両親代わりだった。今でも大学で考古学を勉強しながら私の面倒を見てくれる。
私はそんな兄くんの背中を見て育った。兄くんと生活の中で彼の存在は私にとって兄以上の存在になっていた。
そして私は不思議なことに気がついた。時々兄くんからとてつもない量の魔力を感じることだ。
さっきもそうだ・・・・彼の体から魔力が満ち溢れていた。しかし・・・それ以外の時には普通の人と同じ程度しか魔力を感じられない。謎だった・・・・私はその謎を解き明かそうと実験と称して何度か兄くんの体を調べたことがあった。
しかし・・・何も見つからなかった。いったいどういうことなのだろう・・・・。
とにかく・・・・そんな魔力の持ち主なら悪霊や魔物が兄くんを狙ってくるだろう。
強い魔力はやつらにとっては格好の餌である。そんなことはさせない・・・・そのことに気が付いたときから家には結界を張ったし・・・・この辺りの悪霊は全て封印した。しかし・・・・まだ安心は出来ない・・・・今朝のニュース・・・紛れもなく吸血鬼の仕業である。
兄くんの魔力にひかれてここまでやって来たに違いない。
死体安置所から消えた死体・・・おそらく奴の僕としてどこかに潜んでいるだろう・・・・。
夜になれば新しい獲物を探してまた新たな被害者が出ることに・・・・。そんなことは関係ない・・・私は奴から兄くんを守ればいいのだから・・・。絶対に・・・渡さない。それにしてもあの夢・・・・おそらく予知夢か何らかの警告だと思うが・・・・。とにかく今日・・・決着をつける。







「ご馳走様」
私はテーブルの上に箸を置く。
「ごちそうさま」
兄くんも私に習う。
「さてと・・・レポート書かなきゃ・・・千影も早く寝ろよ・・・おやすみ」
兄くんは立ち上がると部屋に戻ろうとする。
「兄くん・・・」
「ん?」
私は兄くんを引きとめる。
「あの・・・・窓とか・・・戸締りに気をつけてね・・・」
「?ああわかってる・・・・」
兄くんはそういうと自分の部屋に戻っていく。私は食器を片付け洗い始める。
ふと窓の外を見ると夜空には赤い月が出ていた。・・・・不吉だ・・・こんな日にはあまり外出したくないが・・・・。
「・・・・でも・・・兄くんを守るために・・・」
蛇口を閉め私は自分の部屋に戻る。そしてクローゼットを開ける。
中には実験で使う器具や材料がしまってある。そして悪霊退治の武器も・・・・その中から一つのワンドを取り出す。
他にも持っていきたかったが・・・・かえって邪魔になるだけだ・・。
ワンドを腰のベルトにくくり付けクローゼットを閉める。次に机の引出しを開ける。
・ ・・・・必要じゃないけど・・・・私は誕生日に兄くんから貰った銀細工のロザリオをつける。
これで準備は完了だ・・・。兄くんの部屋の電気が消えるのを見て私は部屋から出ようとする。
玄関から出ようかと考えたが・・・・兄くんに見つかるかもしれない。
この時間帯の外出は兄くんに禁止されてるし・・・・。私はベッドの下から登山用のロープを取り出した。




「はあ・・・・」
俺は何度ついたかわからないため息をつく。
「・・・・やっぱ・・・なんかあるよな・・・」
最近・・・千影の様子がおかしい・・・・なんか思いつめている感じだし・・・それに今朝のニュース・・・「謎の吸血殺人事件」の特集を熱心に見ていたし・・・。あの事件が人によるものではないということは自分でもわかる。
オカルト好きの(少なくとも俺はそう思う)妹に付き合ってるといろんな事を体験する。
「まあ・・・そうしている時間が幸せなんだけど」
あいつの事だ・・・あの事件の犯人を知ってるに違いない。・・・そして・・・
「・・・とりあえず本人に聞いてみるのが一番だ」
俺は起き上がると千影の部屋に向かう。ドアの前に立ちノックをする。
「おーい千影・・・起きてるか・・・たまには一緒に寝ようや・・」
そういいドアを開ける。
「・・・・だろうと思った・・」
部屋の中を見て俺はつぶやく。部屋の主は既に窓から外に出たらしい・・・登山用のロープが風に揺られている。
「・・・まさか・・・あいつ一人で・・」
俺は急いで玄関から外に出る。むちゃだ・・・・あいつ一人で何とかするのか・・・無理だ。せめて声ぐらいかけろよな・・・・
「まあ俺がいても足手まといか・・・」
とにかく俺は千影がいそうなところを探すことにした。




夢で見た教会・・・・奴はそこにいた。
「・・・おや可愛いお客さんだ」
墓場で奴は人らしきものを抱いていた・・・・どうやら被害者のようだ・・。
「貴様には恨みもないが・・・・死んでもらう」
私はワンドを構える。
「・・・兄のためか・・」
「!!」
「驚いたようだね・・・図星か・・・しかも血の繋がりがないときている・・・ほほう・・・愛しておるのか兄のことを・・・」
「なぜ・・そのことを・・・」
「わかるのだよ・・・私には君の思ってること全てが」
「読心術・・・」
「ご名答・・・」
ワンドを持つ力が強まる。油断した・・・・こいつ・・・かなりの使い手か。私は呪文を唱え始める。
「炎よ!!」
ワンドから火の玉が飛び出す。
「甘いな・・・」
奴は軽々とそれを避ける。
「く・・・」
「終わりかい・・・しもべたちよ!!」
奴の号令に墓場からゾンビが・・・いや違う・・・こいつの餌食になった人たちだ。
こうなってしまったら・・・もう手のつけようがない。しかも大勢・・・不利だ・・・
「光よ!!」
ワンドをかざし光を出す。目くらましだ・・・今の内に奴を
「だから甘いといってる・・・」
「なっ!!」
いつの間に・・・気がつけば奴は私の後ろに回りこんでいた。奴の足元が霧状になっている。
どうやら光が出たと同時に霧になって回りこんだらしい。こいつ思っていた以上に強い!
「ふふふ・・・結構楽しませてくれると思ったが・・・もう終わりか・・」
「あうっ!」
羽交い絞めにされ身動きが取れない・・・・・・奴を振りほどこうとするが体に力が入らない。
どうやら・・・・奴の呪縛にかかったようだ・・ここまでか・・・あっけないものだ・・・。
「さあ・・・血を頂くか・・・」
ほとんど無抵抗状態になってる私の首筋に奴の牙が近づく・・・・・・



「!!」
俺はある異変に気がついた。今の音・・・さっき何かが爆発する音が聞こえた。
この方向・・・教会だ!!俺は全速力で教会に向かう。
「頼む・・・無事でいてくれ・・・」
教会についたとき、俺はその光景に目を疑った。
「・・・・・・千影!!」
男の腕の中に千影が抱かれていたのだ。無論それはムードも雰囲気も無視した抱擁・・・
「てめえ!!千影に何をした!!」
「・・・・ほう君が兄くんか・・・」
男は千影を離す・・・千影はそのまま倒れる・・・まさか!!俺は千影に近寄り脈を調べる・・・良かった。
「あに・・くん・・・」
意識もあるらしい・・・
「千影・・・何やってるんだ」
「逃げて・・・お願い・・・こいつ・・・強い・・・」
「・・・・・素人に言うなよ素人に・・・」
逃げるのは無理らしい・・・・周りには化け物どもが集まってきている。
「・・・次は君か・・・」
「・・・お前・・・よくも千影を」
「ふふふ・・・やれ!!しもべたち」
男の号令と共に化け物が襲い掛かってくる。俺は印を結び呪文を唱える。
「・・・・母なる神々の祝福よ・・・この者達を浄化せよ!!」
「!!!そっそれは!!」
辺りに優しい光が広がり化け物が塵になっていく。
「貴様・・ただの人ではないな」
「・・・・・俺を怒らすと・・・・死ぬぞ」
俺は千影を気の根元に寝かせる・・・・どうやら既に気を失ってるらしい。
「・・・徹底的にぶちのめす!!」
俺はポケットから100円ライターを取り出す。
「・・・そんなちんけな物で私を倒すのか・・・」
「いいや・・・ここからが本番だ」
俺はライターに火をつける・・・そして・・・
「火は・・・破壊と転生の象徴なり・・・我が振りかざすは破壊の剣!!」
呪文を唱えるとライターの火の勢いが増しライターを燃やし尽くす。
火は消えることなく剣の形をかたどっていく。
「ほう・・・・ならばこちらも本気を出さなければ・・・」
男の体に異変がおき始める・・・・体が動物に変わり始めた・・・足は狼、背中にはこうもりの羽・・・そして手の爪が伸びていく。
「趣味わりーな・・・それ」
「ふん・・・行くぞ!!」
その言葉が戦いの合図になった。



「兄くんが・・・魔術を・・・」
信じられない光景だった・・・あの光・・・かなり高度な魔術・・・・あの火の剣も・・・。兄くん・・・あんなに強かった・・かな?・・・・。
「兄くん・・・君はいったい」
目の前では兄くんとバンパイアが戦っている。バンパイアの攻撃を剣で受け止め確実に相手に傷を負わせている。
何度か霧になって逃げようとするが・・・・兄くんが剣から繰り出す火の玉に阻まれる。そして兄くんの剣が奴の右腕を切り落とす。
奴の顔に余裕が無くなっている・・・・得意の読心術も闘いにはいかせられないらしい。
「・・・・くう!!」
突然、意識が朦朧とし始める・・・・何かが私の体を蝕んでいるようだ・・・・。
「まさか・・・・うう!」
私は意識を保とうとするが・・・・段段と意識がなくなっていく。そして・・・辺りが闇に包まれる。



「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」
「ば・・・馬鹿な・・・」
奴にとっては信じられないことなのだろう・・・体の所々が焦げ付いている。
切り落とされた腕も傷口が焦げていて再生が出来ないらしい。
「どうした・・・・もう終わりか・・」
「・・・・くそ!!」
奴は最後の気力で翼を動かし空高く舞い上がる。
「逃がすか!!」
俺は手に持ってる剣を投げつける。剣はそのまま奴の翼に突き刺さる。
「があああああああ!!」
断末魔の叫びを上げそのまま教会のほうに落ちていく。
俺は近くに落ちてあった太い木の枝を拾うと教会へと向かう。奴は・・・・キリストの像の前でもだえていた。
「・・・く・・・くそ・・・・ここまでか・・・」
「覚悟するんだな・・・」
「ふふふ・・・しかし・・・・貴様は絶望に苦しむことになるぞ」
「戯言を・・・・とどめだ!!」
俺は奴の心臓めがけそれを突き立てる。
「が!!あああああああ・・・・」
断末魔をあげ・・・奴の体から煙が上がり塵になっていく。
やがて塵は風に吹かれ消えていく。・・・・終った・・・。
俺は千影のもとに向かおうと後ろを向く・・・・そこには一つの人影が・・
「千影?」
そこには千影がいた・・・・うつむいているせいで表情がわからない。
「大丈夫か?」
俺は千影に近寄ろうとする・・・・・殺気!!
「うがああ!!」
千影が手に持ったワンドで俺を殴ろうとした。かろうじてそれを避ける。
「どうしたんだ千影!!」
月の光に照らされ表情がはっきりとしてくる・・・・目には光が無い・・・口には牙が生えている。まさか・・・・奴に・・・
「がああ!!」
もう一撃をかわし千影の肩をつかむ。
「しっかりしろ!!どうしたんだ!!」
俺は千影に呼びかける。しかし、彼女の表情は変わらない・・・・
「千影!!」
大声で名前を叫ぶ。すると一瞬、千影の動きが鈍くなり苦しみ始める。やがて瞳に光が戻ってくる。
「・・・兄くん」
「良かった・・・無事か・・・」
「・・・・・そうでもない・・」
「へ?」
「この銀のロザリオのお陰で血は吸われなかったが・・・・・代わりに奴の血を飲まされるとは・・・」
「どういうことだ?」
「吸血鬼の血を飲むと・・・・・理性を失い・・・血を求める亡者になるんだ・・・さっきみたいな状態だよ・・・・今は魔力で理性を保ってるけど。魔力が尽きると・・・・また・・・・・奴みたいな吸血鬼になってしまうんだ。」
「なっ・・・・」
「・・・・こうなってしまっては・・・・もう・・・兄くん・・・私を・・・・殺してくれ・・・兄くんを傷つける前に・・・早く・・」
「何言ってるんだ!!なんか方法があるはずだ」
「ない・・・・こうなってしまっては手の施しようが無い・・・早く・・・殺して・・」
「できるわけ無いだろ・・・俺の性格知ってるくせに・・・」
「わかってる・・・でも・・・お願い・・・私・・・・・・かまわないから・・・」
「・・・・いい加減にしろ!!」
「!!」
「死ぬって言うなよ・・・お前が死んだら・・・俺を一人にする気か!!」
「兄・・・くん・・」
「何か方法があるはずだ・・・考えろよ・・」
「・・・・・・」
「お前のいない世界なんて・・・・俺は・・・」
「え・・・・」
「それに・・・約束しただろ・・・海に行くって・・・」
「うん・・・・」
俺は千影を抱きしめる。この世でたった一人の妹を・・・この世でたった一人の愛しい存在を・・。
「一つだけ・・・方法がある・・」
千影がゆっくり口を開く。
「本当か?」
「うん・・・・」
「その方法は?俺にできることか?」
「・・・・危険な方法だよ・・・」
「かまわない・・・早く言え」
「・・・私の体内を蝕んでいる・・・・吸血鬼の血を・・・・魔力で打ち消すんだ・・」
「魔力で?」
「うん・・・・そのために・・・血を吸うんだ・・・・強い魔力の持ち主の血を・・・まだ完全に・・・吸血鬼になっていないから・・・それで元に戻る。」
「強い魔力の持ち主・・・・それって・・」
「兄くんのことだよ・・・・」
「・・・・・」
「下手をすれば・・・死ぬかも・・・」
「・・・・そうか・・なら決まったな・・・」
俺は迷わず首筋を千影の前に出す。
「・・・兄くん?」
「それで助かるなら・・・・早くしろ」
「でも・・・兄くんが・・・死ぬかもしれないんだよ」
「だからって・・・お前をほっておくわけにはいかないだろ・・・確率が少なくても・・・俺はそれに賭ける」
「・・・いやだ・・」
「何でだよ!!」
「兄くん死んじゃうんだよ!!」
「俺は死なない!!・・・お前を一人にして・・・死ねるかよ!!」
「・・・・兄くん・・・」
「俺は・・・死なない・・・絶対に・・」
「うん・・・・」
「早く・・・」
「うん・・・」
「あ・・・そうだ・・」
「?」
「痛くしないでね・・」
「こんな時に・・・そんな事・・・・・」
「へへへ・・・ほら・・早く・・」
千影の口が俺の首筋に近づく・・・・そして・・・激痛が俺の体中に走る。
耐えられないわけでもないが・・・しかし痛みは徐々に強さを増す。
「ぐ!!」
「兄くん!!」
「やめるな・・・続けろ」
千影は再び首筋から血を吸い始める。
体中の力が抜けるのがわかる・・・たんだんと意識が薄れていく。
意識を保とうと・・千影の体を強く抱きしめる。しかし・・・それでも意識が・・やがて・・・目の前が真っ暗になる。





私は水の中にいた・・・必死に足をばたつかせ・・・前に進む。そして・・・
「げほっ・・げほっ・・・」
ようやく足が届くところにたどり着き・・・水から顔を上げる。
「はあ・・はあ・・はあ・・」
呼吸を整え海岸に戻る・・・・そこには・・・
「よく頑張ったな・・・千影・・」
「兄くん・・・ひどいよ・・・途中で浮き輪をもって行っちゃうなんて・・」
「でもだいぶ泳げるようになったな・・・・」
「・・・・うん・・・」
兄くんは生きていた・・・体の中に蝕んでいた吸血鬼の血は兄くんの血で打ち消されていた。
兄くんは・・・意識を失っていた。かすかながらも心臓の鼓動が感じられる。
私は急いで兄くんを連れて家に戻ると応急処置をほどこした。
お陰で短期間で治療が終わり、こうして海に来る事が出来たのだ。
「しかし・・・・以外だな・・・」
「何が?」
「今日の千影の水着・・・・ちょっと露出が多くないか?」
以前、友人に勧められ買ったビキニ・・・まさか兄くんの前で着るとは思わなかったけど・・・
「・・・・少し恥ずかしいけど・・・」
「似合ってるぜ・・・それ・・・」
「ありがとう・・・兄くん」
私たちは近くの岩場に座る。
周りには人気がない・・・・第三者の目から見ればカップルと思われるだろう。私は兄くんに寄り添うように座る。
「ねえ・・・聞いていいかい?」
「ん?」
「あの時使っていた・・・魔術・・・どこで習ったんだい?」
私は気になっていたことを兄くんにぶつける。すると兄くんは少し恥ずかしそうに答え始めた。
「・・・まあ考古学やってると・・・・そういう関係の物が手に入ることがあってな・・・試しにやってみたら・・・出来ちゃって・・・へへ・・」
「・・・そうなんだ・・・」
「それに・・・千影が門限破ってまでなんかやってることにうすうす気がついていたし・・・俺にも何か出来ないかな・・・って思って・・それに・・・千影のこと守りたいから」
「・・・兄くん」
「千影ばっかりに苦労させたくないからな・・・それで強くなろうと思ったんだ」
「・・・・わかった・・」
「納得してくれたか・・」
「うん・・・」
「そうか・・・良かった・・・」
「でも・・・・無茶しないでね・・・・兄くんが死んでしまったら・・私・・」
「それはこっちの台詞だぞ・・・お前のほうこそ無茶するなよ・・・」
「・・・わかってる・・」
辺りが沈黙で支配される。聞こえるのは波の音だけ・・・・
「兄くん・・・・」
沈黙を先に破ったのは私だった。
「ん?」
「あの時・・・言ったよね・・私を一人にしないって・・・それって・・・ずっと一緒にいてくれるって事?」
私は恐る恐る聞いてみた。答えを聞くのが怖かったけど・・・聞かずにはいられなかった。
「ああ・・・」
「それって・・・・いつまで・・・」
「・・・・ずっとだ・・」
「え?」
「お前が生きてる限り・・・・だ・・・」
「兄くん・・・」
「言っただろ・・・お前を一人にしないって・・・」
「・・・・・」
「お前を一人にしない・・・これからもずっと一緒にいたい。お前が嫌って言うぐらいな」
「・・・あ・・」
兄くんはそういうと私を抱きしめる。
「いけない兄だよな・・・妹のことを好きになっちゃうなんて・・でも決めたんだ・・・今日言うって・・・」
「・・・・兄くん・・」
「・・・俺は千影のことが好きだ・・・」
抱きしめる腕の力が強くなる。
「兄くん・・・・私も同じ気持ちだよ・・・ずっと一緒にいたい」
「千影・・・」
目から涙が流れるのがわかる。兄くんはその涙をそっと拭う。
「私は・・・兄くんのことが好き・・・・愛してる・・・」
「俺も・・・」
私は兄くんの唇にキスをする。・・・柔らかい感触が唇に広がる。
ずっと待っていた瞬間・・・・・。
どれくらい長い間そうしていただろうか・・・唇が離れた時、私はふと気がついた。
「あ・・・・」
「どうした?」
「兄くんから凄い魔力を感じる・・・・」
「え?」
「・・・・どうしてだろう・・時々感じるんだ・・・今感じる魔力・・・・今まで以上に強い・・・・」
「・・・・・・そうなのか?」
「うん・・・」
兄くんはしばらく考えるとふと思いついたような顔をする
「・・・・・きっと・・・愛の力だな」
「愛の?・・・・ふふ・・そうかもね」
妙に納得が出来た。兄くんの私に対する思いが魔力となってるのかもしれない。
魔力が強ければ強いほど私のことを思ってくれてるんだ・・・私はそのことが嬉しかった。
そしてもう一度キスをする・・・・・兄くんの「想い」を感じながら・・。



「やば!遅刻だ!!」
台所に飛び込んだ兄くんは皿の上のトーストを口にくわえながらかばんの中身を確認する。
トーストを食べ終わると一気に紅茶を飲み干す。
「大丈夫?」
私は心配そうに兄くんを見つめる。
あれから数年、兄くんは教師になり学校で教鞭をとってるし私も大学に通うようになった・・・・私たちは相変わらずいつもどうりの生活をしている。
変わったことと言えば・・・・
「大丈夫!何とか電車に間に合うな・・・」
「ほら鞄・・・気をつけてね」
「ああ・・わかってる。・・いけねえ」
玄関を出ようとした兄くんは私のほうに駆け寄る。
そして見つめ合い・・唇にキスをする。朝の日課だ・・・。
「行ってくるぜ・・・千影」
「行ってらっしゃい・・・悠」
全力疾走で走る兄くんを見送りながら私は手を振る。
その手には永遠の愛を誓った時に貰った銀の指輪が輝いていた。




あとがき
千影のSSでした。
意外なことにこの兄くんは魔術が使えるようで
どこにもいないなこんな兄・・・
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