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アンジェのキス

〜鞠絵〜

作 雄一さん


「最近はうちも近代化してね…」
俺は胸ポケットからモバイルを取り出し、画面を操作する・・
「鞠絵ちゃん・・あった、鞠絵ちゃんは明日・・急性心不全で死ぬ予定だ」
目の前の少女・・鞠絵は驚くことも無く、表情も変えなかった。
不思議な子だ・・たいていの奴は泣いたり怯えたりするけど・・この子は落ちついて受け入れている。
何百年って死神やっているけど…その中でもこの子はかなり落ち着き払っている。
「・・えっと・・君のご要望を受け入れると・・誰にも看取られないで安らかに・・間違いないね」
「はい・・お願いいたします・・」
何の迷いも無く、彼女は答えた。
迷いが無さ過ぎる、たいていの奴はしばらく悩むのに・・俺の中にある疑問が膨らんだ。
「君は・・」
「え・・」
「君は生きることに絶望しているようだけど・・どうして自殺をしなかったんだい?」
俺はありのままの好奇心を彼女にぶつけてみた、自殺してくればこういう風に出向く手間が省けるんだけど…彼女には自殺の動機が山ほどある、「不治の病を苦に」とか「両親が見舞いにこなくなった」とかそりゃあもう・・数え切れないほど・・まさに薄幸の美少女。
そんないいことが無い彼女が、自殺を考えないなんて不思議だ・・
「私は・・絶望はしていません・・」
「え?」
「生きていれば必ずいいことがある・・昔おじい様から教えられましたから」
「・・ふん、そういう奴を担当すると苦労するんだ・・まだ生きたいとかまだ死にたくないとか・・そのおかげで手続きが遅れたり、三途の川の定期便に間に合わなくなるんだ」
「まぁ・・」
「君みたいに素直な子なら・・大歓迎だけどね・・さてさて・・」
必要事項を記入し、上司へ情報を送信する,後は上がいろいろ運命を操作して彼女を安らかな眠りにつかせるはずだ、一応これで俺の仕事はおしまいだけど・・彼女あまりいいこと無かったようだし、ここは一つサービスをしますか・・同業者もよくやっているし。
俺はあまりやらないけどね・・理由はめんどくさいから・・。
最後にいい思い出くらい作ってやったって罪にはならない。
「さて・・一応これでおしまいだけど・・何か一つだけ君の夢をかなえてあげてもいいよ」
「え・・」
「本当はこういうのはしないけど・・特別サービスだ」
「夢・・ですか?別に私は・・」
「簡単なのでもいいんだよ、この本・・」
俺は本棚から一冊の本を取り出した、タイトルには「DearMyLover」とタイトルがつけられている。内容はタイトルのまんま、恋愛小説である。この部屋の本棚の殆どが恋愛小説、すげぇ・・女の子って本当にこういうのが好きだよなぁ。この前担当したばあさんなんか・・SM小説の収集家で・・死ぬ前に幻のプレイを〜って・・やば・・思い出しそう。
「この小説のような恋愛がしたいとか・・」
「・・それは・・えっと・・」
彼女は顔を真っ赤にすると俯きもじもじしてしまう、結構・・俺の好みかも…っておいおい、彼女はあくまでも今回の仕事の対象でしかない、死神の鉄則その三万七千条「死神は対象に恋をしてはならない」だ。
それにこのサービスだって・・せめていい思いでをって、まぁ俺なりのあの世へ旅立つ記念のプレゼントだ、同業者もやっているし、罪にもならないし。思いっきり楽しんで、明るくあの世に行ってもらお・・うーむ今まで明るくあの世に行った奴いたっけか?
「どうする?相手はすぐに見つかるけど・・」
「あの・・どんな小説でもいいんですか?」
「ん?まぁ君の理想とするお話なら・・今日限りでね」
「では・・」
彼女が取り出した一冊の小説、それを受け取り中身を見て俺は目を丸くした。
「マジで・・」








彼女が希望したデートスポットは遊園地、死神の俺でも過去に何度か来た事がある…お仕事でだけど、だから遊園地で遊ぶなんて初めてのことだ。
しかも、可愛い女の子と一緒に・・
柄にも無く緊張してしまう、まぁそれが男としての正直な反応だけど・・
「兄上様〜」
「何で俺が兄上様なんだ!!!!!!!!」
そう・・なぜか彼女は相手に俺を指名して・・しかも兄と言う設定でデートしてほしい。
なんでやねん!!!なして俺が兄上様にならなきゃいけないのじゃ!!!
別に兄じゃなくたっていいじゃん、普通にデートしたらいいじゃん!!
まぁ・・彼女がこのデートのネタにした小説が「私のお兄ちゃん」、兄妹愛をテーマにした小説だったからな。
でも・・なんで俺なんだ?俺ぐらいの能力の持ち主ならテレビに出ているアイドルや俳優をそのまま兄に仕立てることだってできるのに。
何で俺なんだ?別に俺じゃなくたって・・まぁ嫌じゃないけどさ…
「兄上様、どうかなさいましたか?」
「いや・・何度もいうようだけど・・タイムリミットは夜の十二時までだからね、それを過ぎるとどんな状況であろうと君は死ぬ、いいね」
「わかっていますわ」
「・・・本当にわかっているのかねぇ・・」
人間・・何かに夢中になると後のことも忘れてしまうことが多い、多分彼女はそういう女の子じゃないと思うけど・・でも・・
「またこうやって遊園地で遊ぶことができるなんて・・」
あの子・・とっても嬉しそうだ、嬉しいときはあんな笑顔をするんだ・・・
彼女の死が確定される前から彼女をずっと見ていたけど、いつも沈んだ顔で外を眺めていた、看護婦と話すときの表情もどこかぎこちなかった。
でも今は・・心の底から喜んでいる、何の迷いもなく・・ただ・・今を精一杯楽しんいでる。死神になって数百年・・こんな子は初めてだ、柄にもなくドキドキしているし・・俺・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っは!!!!」
ななななななな何を考えてたんだ俺は!!!!!!!!
あの子のを長生きさせようって・・・もしそんなことしたら・・
俺死神クビだぞ・・・この不況で職を失ったら俺何で食っていけばいいんだ。
ていうか・・・あの世にも不況ってやつがあるんだよなぁ・・何故か。
この前だってコードネーム「鉄拳」がある男の魂にぼこぼこにされて・・しかもその次の仕事でもその男にぼこぼこ・・結果クビになって人間界でお笑い芸人やっているって聞いたけど・・ああはなりたくない。
「兄上様、今度はあのジェットコースターに乗りましょう」
「はいはい・・」
まぁ・・このデートが終わったらとっとと他の人のところにいけばいいか。
あとは上が勝手にやってくれるし・・・今は彼女とのデートを楽しもう。






「綺麗な景色・・」
「うん・・」
夜八時、タイムリミットまで残り四時間、移動で二時間かかったから・・養療所に戻ると二時間余裕があるわけだ。あともう少しでこのデートも終わる、俺はまた仕事に戻って・・彼女は死を待つだけである。
「まぁ・・最後にこんな景色が見られたんだ、悔いはないだろ・・」
「ええ・・」
「悔いがあるとしたら・・俺みたいなやつを相手に指名したことじゃないか?」
「いいえ・・私は後悔しておりませんわ・・」
彼女は少し悲しそうな顔をして俺を見つめた。
「似ています・・」
「え?」
「私の・・初恋の人に・・」
「初恋・・」
昔、彼女の世話をしてくれた看護婦さんの弟が養療所に遊びにきたらしい。
同じ世代なのですぐに打ち解け合い、よく話す仲になった、まるで仲のよい兄妹のように。
彼女の人生の仲で一番楽しかった日々・・でも・・その終わりはあまりにも早かった。
それは彼女が告白を決意した日・・激しい雨の振る日だった、いつもくるはずの彼がなかなかこない・・雨のせいで遅れているのだろう・・彼女はそう思っていた。
でも何時間たっても彼はこなかった・・・やがて暗くなり面会時間も終わる。
翌日・・・彼から電話がかかってきた、彼は両親の都合で海外に行く事になったことを彼女に告げた。結局告白もできずに・・彼と二度と連絡が取れることはなかった。
「そいつが・・俺そっくりだった・・ってわけか・・」
「はい・・」
「・・俺は・・代用品か・・」
ちょっと残念な心境である、せめて一目惚れしましたとかって聞きたかった。
「ごめんなさい・・でも・・せめてあの人とデートがしたかった・・だから今日・・あなたと・・」
「・・・わかった、代用品でもいいよ・・どうすればいいんだい?」
彼女は俺の胸に顔を寄せる、その好意を受け止め俺は優しく抱きしめる。
あまりこういう経験ないけど・・これでいいはずだよなぁ・・
「私は・・祐輝さんが好きです・・」
裕輝とは・・おそらく死んだ初恋の人の名前だろう、俺はそっと彼女を抱きしめる。
ゴンドラの中が静かになる、聞こえるのは機械音と二人の息遣いだけ・・
「あなたは・・名前はないのですか?」
ふと鞠絵が質問してきた、突然のことに俺は答えられない・・
そもそも・・俺には名前がない、気が付けば死神として生活していた。
一応コードネームというやつがある・・「マシュマロ」って・・よくわからないうちにそう決まっていた。
「・・・別にいいだろ・・俺は今「祐輝」なんだから・・」
「でも・・」
彼女を体から引き離し、目線を外に向ける・・
知らない間に・・俺は彼女の虜になっていたのかもしれない。
ずいぶんと早い展開であるが・・恋に落ちるのに時間は関係ないと聞いたことがある。
デートしている時だって・・彼女の笑顔がまぶしくて・・独り占めしたいという独占欲が沸いてきたりする。
一目ぼれしたのは俺のほうかもしれない・・
でも・・一度死が確定した場合・・それを撤回することはできない。
個人的な感情で死を撤回するなど・・死神にはあるまじき行為・・
「兄上様・・」
「・・・そろそろ行こう・・死ぬときはせめて・・ベッドの上がいいだろ・・」
もう少しで終わる・・彼女の人生が・・
この笑顔を見ることももうないだろ・・もう・・・






時間が刻々と迫っている・・俺は養療所を背に歩いてた。
彼女は今・・ベッドの上で眠っている、刻々と迫る死のときを待ちながら。
これで俺の仕事は終わった、早く次の対象の元へ向かわなくては・・。
「・・・・・俺は死神だ・・」
俺は自分に言い聞かせるようにつぶやく、一歩一歩養療所から離れるたびに、彼女の笑顔がより鮮明に浮かび上がってくる。
そして鮮明に浮かび上がるたびに・・胸が締め付けられる・・もうすぐあの笑顔が見られなくなる。
「・・・俺は・・」
今から「仕事場」に戻って・・送信した情報を削除すれば何とかなるかもしれない。
ただ・・情報端末へのセキュリティは厳重だ、ハッキングをすれば何とかなるかもしれない、でも・・もしこのことがばれたら俺は・・
「柄じゃない・・女の子の笑顔のために命を張るなんて・・・」
確かに俺の柄じゃない、今まで死神の仕事一筋でやってきた。
人に死を宣告し、どのように死にたいか要望を聞き入れ、上司に報告する。
そんなことの毎日、よくもまぁ飽きもしないで・・・
でも・・今日ほどこの仕事が嫌になったことはない・・
「・・・たまには・・柄にもないことをしてもバチは当たらないか・・」








晴れ渡った空、その空の下一人の少女飼い犬といっしょに日向ぼっこをしている。
俺はその姿を確認するとそっと彼女に近づく、そしてそっと彼女の方に手を置く。
「あ・・・」
「やぁ・・」
「死神さん・・」
「どうしてって顔をしているね・・」
当たり前だ、俺が死の宣告をしたのにもかかわらず、彼女は生きて朝を迎えたのだ。
あれから俺は「仕事場」に戻り、上司に気づかれないようハッキングし送信した情報を削除した。
そのおかげで彼女はこうして生き延びることができたのだ。
「ごめん・・君を死なすことはできなかった・・」
「・・・死神さん・・・」
「おかげで・・死神クビになっちまった」
削除をしてしばらくしないうちに、俺は上司に呼び出された。
結局、俺のハッキングが発覚してしまったのだ、まぁそううまくいくとは思わなかったけど。なぜ情報を削除したかを問い立たされ、俺は馬鹿正直に「女の子の笑顔のため」と答えた。それからが大変だった、上司のさらに上の上司に呼び出されて・・・説明できないような罰を受けた、そして死神としての力を失い、人間界へと追放されてしまったのだ。
罰のことを考えると・・よく生きてたなとしみじみ思う。
「あーあ・・何馬鹿やったんだろ俺・・君の笑顔のために死神の仕事捨てて・・・」
「私のために・・」
「・・・いや・・俺のわがままのためさ・・」
彼女は何も言わなかった、俺のしたことを責めることなく、ただ俺を見つめる。
「まぁ・・君はあまりにも幸せなことが少ない・・この先の人生幸せなことがたくさんあるかもしれない・・言っていただろ・・生きていればいいことがあるって・・まさにそのとおりだね・・」
「でも・・そのせいで死神さんは・・・」
「いいんだよ・・また新しい仕事を探せばいい・・人間界でね・・なんか言いお仕事はないかなぁ・・」
すると彼女はしばらく考え込み、そして手をたたき・・
「それなら・・一つあります・・」
「え?」
「私の・・兄上様になっていただけませんか?」
「・・・はい?」
えっと・・それは仕事なのか?どう考えたって・・・それは・・
「いっしょにいてほしい・・ってか?」
彼女は無言でうなずいた、どうやら本気のようだ・・・
「責任とってください・・私を死なせなかったのですから・・」
「・・そだね・・責任とる義務があるな・・俺・・」
「では・・これは契約金ですわ・・」
「え・・?」
太陽の日に照らされ、二人の影が一つになった・・
こうして俺は・・鞠絵の兄「祐輝」として、彼女のそばにいることになった。
「これからも、よろしくお願いします兄上様」
「こちらこそ」







謝罪デス
ごめんなさい!!!
結局鞠絵の誕生日に間に合いませんでした・・・
しかもなんかベタベタなネタで・・・
でも一応この作品は「就職後第一段SS」なのです。
仕事で忙しくなってもSSは書きつづけるのでよろしくお願いします!!


雄一さんへの感想はこちら
yuuiti53@hotmail.com
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