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真夏の舞踏会
作 雄一さん
ある夏の夜、俺はじいやの目を盗み亞里亞を屋敷から連れ出した。
フランスから来た妹に日本の夏祭りを見せてやろうと思った。
日本のことをあまり知らない亞里亞のことだからきっと驚くだろうな・・・
「兄や・・・夏祭りって何?」
「うーん・・・楽しいことだよ、おいしいものや面白いものがいっぱいあるし・・」
「わぁ・・・亞里亞楽しみ・・・」
「ほらついた」
周りには色々な夜店が並び、提灯が煌々と光を照らしている。
亞里亞ははじめて見る夏祭りに眼をキョロキョロさせた。
何もかもがはじめて見る物だからなあ・・・・無理もないや・・。
「うわぁ・・・すごい・・・・」
「だろ」
「兄や・・あれなあに?」
亞里亞が指差す方向には林檎飴の屋台が立っていた。
真っ赤でおいしそうな林檎飴に目を奪われる亞里亞。
「林檎飴だよ、食べてみるかい?」
「はい・・」
林檎飴を一つ買い、亞里亞に渡す。
亞里亞はしばらく林檎飴をジーと見つめてから一口・・・
「甘くて・・おいしい・・」
「そうか・・」
おいしそうに林檎飴をほお張る亞里亞・・・可愛いな・・
ん・・・いかんな・・・人が多くなってきた・・
祭りが賑やかになるのはいいけど・・
このままだと亞里亞が迷子になってしまうな・・
「亞里亞、迷子になるとけいないから手を繋ごうな」
「はい・・・兄や・・」
俺は亞里亞の小さな手を握り、そして小さな亞里亞が転ばないように歩幅をあわせる。
祭りも段々と賑やかになってきた人ごみの中をかき分けながら必死に前に進む。
亞里亞の眼は相変わらず出店の方に向いていた。
「兄や・・あれなあに?」
「ん?」
亞里亞が次に興味を示したのは金魚すくいだった。
早速、お金を払い金魚すくいをはじめる。
「あ・・・また破れちゃった・・・」
「ははは・・・亞里亞、それじゃあ破れちゃうよ・・こうやって・・」
「わぁ・・すごい・・・」
「よし、もう一匹・・あちゃあ・・」
もう一匹すくおうとしたが、残念ながら破れてしまった・・・結果は一匹か・・
「お嬢ちゃんが可愛いからもう一匹おまけだよ」
金魚屋の親父が、亞里亞に金魚を一匹、袋の中に入れると亞里亞に渡す。
「かわいい・・・」
「大事に飼おうな」
「うん、帰ったらお池の中に入れてあげるね・・」
「そうだね・・名前どうする?」
「うーん・・ええとぉ・・・・アインリッヒにマリアンヌ・・・」
「・・・・もうちょっと簡単な名前でいいんじゃないか?」
「兄やがそういうなら・・・・じゃあ・・・こっちの眼が大きいのが兄やで・・こっちが亞里亞」
「いいんじゃないかな・・うん・・」
金魚の入った袋を大事に抱えながらまた歩き出す・・・が・・
人ごみの中で見慣れた姿が・・・こんな真夏でくそ熱いのにタキシード姿で髭を生やした初老の老人・・・俺や亞里亞がいつも世話になってる人物だ・・。
「悠様!!亞里亞様!!」
「じいや・・・」
「やば!!逃げるぞ亞里亞」
「はい・・・でもじいや怒らない?」
「うーん・・俺が亞里亞の分・・怒られておくよ・・」
「本当?」
「ああ・・・ほら逃げるよ」
亞里亞の手を引っ張り、じいやから逃げ出す。
じいやは・・・をを・・七十代とは思えない足の速さ・・さすが元マラソン選手・・
しかし・・年にはかなうまい。
問題は・・亞里亞・・普段あまり走ってないからなあ・・・いつ転んでもおかしくない足取りだ。
「兄や・・・早いです・・・」
「そうか・・じゃあ」
俺は亞里亞を抱き上げる・・・お姫様抱っこで・・
「あ・・・兄や・・」
「さあ・・・逃げましょう姫、悪魔の手先から」
「はい・・・」
回りの視線もあるが・・・今はじいやから逃げ出すのが先決だ。
じいやの体力が尽きるのが先か、俺の体力が尽きるのが先か・・・・
結果は・・・ふ・・・若さで俺の勝ち!!!
「はあ・・はあ・・・疲れた・・」
「亞里亞・・楽しかった・・」
「それはよかった・・・ふう・・・ん・」
ふと腕時計を見る・・・そろそろ時間だな・・
今夜のメインイベント・・・亞里亞に一番見せたかった物・・。
「亞里亞、兄やがいいところに連れて行ってやるよ」
「本当?楽しみ・・」
俺は亞里亞をとっておきのところに連れて行くところにした。
森の中をしばらく歩き、大きな池の湖畔に出る。
祭りの賑やかさが嘘のように静まり返ってる・・。
ここから見る花火は最高なのだ・・あと・・・もし・・・運がよければ・・・
『ドン!!!!!』
「きゃっ!!」
「お・・はじまった・・」
大きな爆発音と共に、空に大きな花が開く・・・今年も綺麗だな・・
亞里亞は・・・大きな音にびっくりして耳を塞いでる・・・
「はぁあ・・・・」
「凄いだろ」
「うん・・・綺麗・・・」
次々と上がる花火をうっとりとして見つめる亞里亞。
俺たちは近くのベンチに座り、買い込んでおいた、たこ焼きやお好み焼き、たい焼き、今川焼きを食べ始める。
「はむはむ・・・おいしい・・」
「こういうところで食べるといつもよりおいしいだろう・・」
「うん・・・はむはむはむ」
『ドン!!!ヒュ〜・・・・パン!!!!!』
『ドン!!!ヒュ〜・・・・パン!!パラパラ〜』
「綺麗・・・」
「ああ・・・」
「兄や・・ほっぺになにかついてる・・」
「ん?」
「亞里亞が取ってあげる・・・」
亞里亞は背伸びをすると俺の頬に自分の唇をつける。
『チュ・・』
「あ・・・ありがとう・・」
「えへへ・・・あ・・・・」
「ん・・・あ・・」
今年は運がよかったようだ・・・いつの間にか俺たちの周りには蛍が飛んでいた。じいやの話だと昔はよく見られたみたいなんだけど環境破壊なんかで滅多に見られなくなってしまったらしい・・。運がよければ見られると聞いていたけど・・・。
「綺麗・・・兄や・・これ何?」
「蛍だよ・・・綺麗だろ・・」
「うん・・あ・・蛍さんが・・・」
「あ・・・・」
俺はその光景に見入った・・亞里亞の服に蛍がつきその淡い光が亞里亞を照らしている・・・その光に照らされた亞里亞はとても・・・綺麗だった。
「綺麗・・」
「ああ・・・」
「まるで・・・お姫様みたい」
「本当だ・・・」
「ねえ・・兄や・・・」
「ん?」
「一緒に踊ろう・・」
「・・・いいよ・・」
俺は亞里亞の手を取り、一緒にステップを踏む・・・はじめはぎこちなかったが、段々とリズムに乗り出した・・。きっと幻想的な光景だと思う・・・花火と月の光に照らされ、蛍に囲まれてワルツを踊る二人・・・この瞬間が永遠であればいいのにと思ったほどだ。
「くう・・・・」
花火が終り、俺たちは家に帰ることにした。
背中には疲れて眠ってしまった亞里亞が可愛い寝息を立てている。
「ふう・・お姫様はお疲れか・・・」
亞里亞の左腕には今日すくった金魚の入った袋が・・・そして指には・・・
「亞里亞・・これ欲しい・・」
「ん?」
帰る途中、立ち寄った銀細工の店で買った小さな指輪がはめられてる。
まったく・・・左の薬指に指輪をはめるってこと・・・誰に聞いたんだ・・?
「兄やぁ・・・だいすき・・・・」
「・・・・俺も・・好きだよ・・」
まあいいか・・・亞里亞・・幸せそうだし・・・今は・・このままで・・・・
亞里亞の左薬指に本当の指輪がはめられるのはその十年後のことだとは・・この時の俺には想像がつかなかった。
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yuuiti53@hotmail.com
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