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プラスチック・ラブ
彼の願い彼女の願い
作 牙風=姫里さん
「起きて、お兄様」
いつもの声に航は目が覚める。まだ完全に開かない瞼を気にしながら立ち上がろうとした。
「おはよう…さ……さ!?」
すると視界に入った意外な光景に足を踏み外して再びベッドに寝転んでしまう。ベッドは嫌そうなギシリという音を立てて彼を受け止めた。
「さ、咲耶…?」
一応訊いてみる。確かに咲耶なのだが、いつもとは違うオプションがついている。
ひらりとしたスカート、可愛さを引き立てるフリル…
「フフッ、似合ってる?」
彼女がくるりと回るとツインテイルに巻かれたリボンがスカート共に揺れた。
「…似合ってる…けど…」
「けど?」
呆然と呟く航に咲耶は続きを聞いた。
「…何故にメイド?」
航が驚いたのはその点である。彼女はメイド服なる物を着ていた。髪も服に合うようにツインテイルの根元の髪留めが赤いリボンで彩られていた。
「え? キライ?」
「いや、そんな事ないけど…」
即答するところに航の趣味を感じた咲耶は彼に抱きついてみた。
「今日はメイドさんになってお兄様の事お世話するからね」
「…いつもしてると思うが?」
確かに炊事も咲耶がやっているし、洗濯もほぼ咲耶がやっている。まあ、航がやろうとすると「自分がやりたい」と言って聞かないというのが事実である。
「いつも以上に、よっ!」
「…ありがとうゴザイマス」
嫌な予感を感じつつ、航はこつんと咲耶と額を合わせた。
「おいしかった?」
咲耶は食器を片付けながら訊いた。
「うむ。いつも以上においしく感じました」
「それは当たり前よ。愛情、50%増しだからっ」
そう言った彼女の極上の笑みで航は少し顔を背ける。背けた顔がすこし赤く染まった。
「…」
(そのカッコでその顔は反則だろ〜)
撃沈した航に追い討ちがかかる。
「どうしたの、お兄様」
顔を向き直した途端、唇が触れそうなほどの至近距離に咲耶の顔があった。
「!?」
咄嗟に離れようとして、咲耶に捕まる。その手を振りほどく事など航にできるはずもなかった。
「フフッ…お兄様、私のメイド服の魅力に負けちゃったのねっ!」
咲耶が喜びに満ちた視線を送ってくる。
「…そ、そんな事は…ない…」
こんな弱気な言葉など咲耶の歯止めになるはずがない。
「嬉しいわ、お兄様っ」
咲耶が飛びついてきた。
「あ、ちょっ、バカっ! 倒れるっ」
「キャッ」
咲耶の小さな悲鳴と共に、二人は椅子から落ちた。床から鈍い音が木霊す。
「イテテテ…」
航は頭をもろにぶつけたらしく、頭をさすっていた。
「お兄様、大丈夫?」
いち早く咲耶が訊く。
「大丈夫だけど…今度から場所考えて飛びつきましょう」
「…ごめんなさい」
咲耶は素直に謝った。「もし航が怪我をしたら」と考えたのだろう。
「とりあえず、おり―――」
そこで急に玄関に続く扉が開いた。
「ろ?」
航は嫌な予感にかられる。そしてその予感は当然外れるはずもなかった。
「おはよう! 航、咲耶…って…あ゛…」
父親の言葉の最後は力がなかった。
「お、お父様!?」
咲耶の驚声の横で「また」とも言いたげな表情で航が苦い顔をしたのを見て、父親が一歩引いた。たぶん、前回外へ締め出された経験がよぎったのだろう。
その横から母が飛び出す。
「あら? お取り込み中? 孫の顔が早く見られるかしら?」
「なっ、何をバカな事…っ!」
航が反論しようとするが、この状況を見ればそうとられても不思議ではなかった。今現在、咲耶は航に馬乗りになっているのだ。
「あっ!」
咲耶はその状況に気付き、すぐさま立ち上がった。その頬がみるみる桜色に染まっていく。積極的な咲耶でもその格好はさすがに恥ずかしいらしい。
航もそれに続いて立ち上がった。
「…何しに来たんだよ」
ギロリと航が母親をにらんだ。
「『最中』を邪魔したのは謝るから、怒らないでよ」
「バッ、そんな事してないっ! 今のは事故で…」
簡単に手玉に取られる。やはり彼は母親に勝てない運命にあるようである。
「そんなことより、初詣に行こう!」
「…は?」
ほとんど忘れられていた父の言葉に航が間抜けな声を上げた。
「咲耶が行ってないって言っていたから」
「…」
(いつ連絡取り合ってるんだ…?)
ため息混じりの視線を咲耶の方に向けた。
「咲耶、今度は晴れ着ね」
「え? 持ってきてくれたの?」
「当然。メイド服もいいけど、晴れ着もいいわよね」
淡々と情景は進んでゆく。航の抱く疑念を無視して…
(…というか、何故に誰もメイド服にツッコまない?)
「……まさか」
航は母と二人で部屋へと消えていく咲耶を捕まえ、訊いてみる事にする。
「? どうしたの、お兄様? もしかしてメイド服の方が好き?」
「それ…誰からもらった?」
咲耶の茶々も無視しておく事にする。
「おか…」
「あ、わかった。『みな』まで言うな」
言いかけた咲耶を押さえて航は答えを出した。
(このババアは何を考えてるんだ…?)
このババアとはもちろん、母親の事である。
「咲耶、ちゃっちゃとやっちゃいましょう」
「は〜い。ちょっと待っててね、お兄様」
苦笑いの微動を繰り返す航の頬に軽く口づけると咲耶は扉を閉めた。
「…父さん」
何もかも知っていると仮定して話し始める。仮定せずともあの三人には航にはない素晴らしいネットワークが形成されているのは明確なのだから、彼も必ず何もかもを知っているはずである。
「母さんはあれ、どこで買ったんだ?」
「あん? メイド服の事か?」
さも当然のごとく言葉が飛び出す。
「そうっ! そうに決まってるだろ?」
「いいだろ? あれ。あのフリルの感じといい、リボンといい…」
「うん。かなり…」
そこまで言っておいて航は話がそれている事に気が付く。
「って、そうじゃなくて!」
航は微妙に赤い顔をしながら叫んだ。
「…メイド萌えタイプか?」
父が航の肩を叩いた。その表情がヨコシマなものである事ぐらい、描写しなくても分かるだろう。
「分かるっ、男のロマンだ!」
「人の話を聞けぇっ!」
父親への言葉は全く受け付けないようだ。男のロマンとやらに心を奪われているらしい。
「ええい、離れろ!」
とりあえず、航は父を引き離した。
「あのメイド服はどうしたんだ?」
航は先程の騒動で倒れたままだった椅子を直すと、それに座った。椅子はギシリと音を立てたが、壊れるような事はない。先程の雰囲気と共に壊れたという事はないらしい。
「母さんが作った」
「はい?」
考えていた以上の言葉に、航は間抜けな声で応えた。
(通販で買ったとか言うのかと思った。普通作るか? メイド服…)
何故彼がこんなに詳しいのかは謎である。
(昔から服を作ったりするのは得意だったけど…メイド服に手を出すとは…)
母は昔、航や咲耶の服を自分で作っていた事もある。服を作ったりするのは好きらしい。
「…母さん…何を考えてるんだ…? 」
心の叫びは声になった。
「ちなみにナースのコスプレも母さん作だ」
「!!」
航の知らないネタがまだまだあるようだ。
「そのうち咲耶が着るだろう。試しに病気になってみろ」
「いやだっ!」
前回病気になった際、咲耶に大泣きされた事を彼は忘れてはいない。あれは彼が隠していたせいもあるが、泣かれたのはまぎれもない事実である。それ以来、航の自己管理は激しく徹底されている。まあ、食事に関しては咲耶に頼りきりであるのは事実であるが。
(それにその姿じゃ治るものも治らないような…)
あえてそのツッコミはしないでおいた。
「…今回の晴れ着も母さん作なんて事はないよな…?」
一応効いておく事にする。
「それはない。残念ながら」
(…何が残念だっ!)
言いたい衝動に駆られたが、押さえる事にする。不自然な苦笑いだけが奇妙に残っていた。
そんな彼を見ながら父は咲耶の椅子に腰掛けた。
「全く…あんたらは何を考えてるんだ…?」
つい、言葉に出してしまった。
その言葉に反応して父親が応える。
「何を…? お前と咲耶の事だが?」
平然と応える父に疑惑を持たざるを得ない。
「…ホントかよ?」
その言葉は極上の猜疑心が練りこまれていた。
「何だ、そのあからさまな声は」
それは父にもわかったらしく、机に乗り出してチョップを与える。
「いたっ」
「毎回進展の鍵は与えてやってるだろうが。愛する息子と娘の為に色々と頑張る両親、まぶしい愛情じゃないか」
「…まあ、そうね」
適当に応える。もうこの手の父親の言葉は諦めていた。
「前回だって、旅行のおかげで『いい思い出』できただろ? 『いい思い出』が」
再びヨコシマな瞳を見せた父に椅子に敷いてあった座布団を投げつけた。
「そういうところが信用ならないんだよっ! このオヤジっ!」
「うわっ! お前、これが父親に対する仕打ちか!」
モロに顔に受けた父は躍起になって投げ返す。すると開いた咲耶の部屋のドアに当たり、咲耶を驚かせた。
「キャッ!」
そう言った咲耶に視線が集まる。
「じゃーん、晴れ着版咲耶よ! どう? なかなかのもんでしょう?」
母親の紹介は一歩遅れていたが、的確ではあった。
「なかなかじゃないか」
「お兄様、どう?」
父親の意見は軽く無視された。咲耶にとって評価を得たいのは航一人らしい。
「え、あ〜…うん。かわいい、綺麗だよ」
最初は躊躇した航だが、前回の浴衣の件でどう足掻いてもからかわれるのには分かっているので、正直に応えた。
咲耶の瞳が喜びに潤む。
「嬉しいわっ、お兄様!」
感激の横で含み笑いをする二人の顔があったが、航はあえてそれを無視した。
「人ごみ…だけだな…」
毎年の事だが、その毎年毎年に航はため息をつく。あまり人ごみが好きではない航にとって見渡すばかりの人の群れはため息をつかせるだけの道具にすぎない。
「咲耶、離れるなよ?」
こんな嫌な場面でさえ、航は咲耶を気遣う事を忘れなかった。
「わかってるわ、お兄様」
咲耶は航の腕を取り、コツリと体を預ける。
「…近過ぎやしませんか?」
「このくらい普通よ。ほら」
彼女が示唆した先には腕を組んで歩くアベックの姿がある。
「去年は一緒に歩いてくれなかったんだから、今年は…ねっ?」
咲耶がぎゅっと腕を抱いた。
「…あ…」
航はその咲耶の行動である事に気付く。
「どうしたの、お兄様?」
「携帯…忘れた…」
いつもなら懐に入れてある携帯の感触が足りなかった事に気付いたらしい。
「ま、いいか。使わないだろうし…」
(それにしても…去年…か)
航は去年を思い出す。
彼は去年も確かに家族四人でここに来た。この人ごみも風景も寒さも変わらない。変わったものはただ一つ…
(あの時は、必死だったなぁ…咲耶をこれ以上好きにならないようにって。受験よりもそっちの方が印象に残ってる…)
今、こうして彼女の隣で歩いている事が去年の願いだった。神には違う願いをしたが、それは叶わないと諦めていたからだ。神様とやらが本当に願いをかなえるならば本当に心を見透かすらしい。
「帰ってまた、メイドやってあげるから。ねぇ、いいでしょう?」
「…お前…オレを何だと思ってるわけ?」
苦笑いをして咲耶の頭をコツリと叩いた。
「か、彼氏と彼女なんだからそれぐらいはOKだろ」
(…って…言わせるなよ…こういうのを)
自分で言っておいて恥ずかしくなったらしい。航は少し赤面顔で呟いた。
「! うん!」
咲耶は満面の笑みだった。それは航が初めて『彼氏』という言葉を使ったからである。その言葉は『好き』とか『愛してる』の言葉とは違う想いを与えてくれる。
「お兄様、愛してるわっ」
「! ちょっ、咲耶、声大きいっ」
航がしどろもどろとあたりを見回した。
「いいのっ」
咲耶はいつもの調子で航をうまく翻弄していた。
すると…
「…彼氏と彼女ぉ?」
「夫妻じゃないの?」
恐怖のおしどり夫婦が現れた。その行動はたとえ境内であっても変わりはないらしい。彼らを止める事はたとえ神ですら不可能という事なのだろうか。
「二人とも、境内で妙な事口走らないでくれ」
「妙な事なの、お兄様?」
きっちりと咲耶が反応する。
「え〜……」
「咲耶、こいつはお前を捨てる気だぞ」
「このあたりで見限りをつけた方がいいかもしれないわよ」
いつも以上に完璧なユニゾンが航を襲う。
「そんな事ございませんよ」
(いくら咲耶でもこんな言葉に振り回されるわけ…)
念の為にそう言って咲耶の顔を覗くと…
(あるのね)
少しご立腹顔の咲耶の顔に航は焦る。
「絶対無い! ぜっったい、ない!!」
「…ふ〜ん」
航の叫びも咲耶には通じず、雑踏の中に流れていくだけだった。
「大声になるところがうそ臭いわね」
母のこの一言はかなりキツイ。
「どえらい事言うな! 少しはこっちのフォローをしろ!」
(っていうか、咲耶も毎度毎度この二人の言葉を信じるなよ)
悲痛の叫びは言葉にはできない。
「お兄様、そういうつもりだったのね」
案の定の言葉が飛び出したのを見て、航の焦りが加速する。
「絶対無い! オレが咲耶以外と結婚するこ……と…なん…て」
「!」
焦りの果てに口走った言葉に咲耶は満面の笑みで腕をぎゅっと強く抱き締めた。
「ウフフッ」
「…」
(なっ、何を口走ろうとした、オレは…)
周りの三人の視線が彼には痛く突き刺さった。
「…聞きました、お父さん?」
「聞こえましたとも」
二人の茶々はそれが言わせたかった為らしい。
「…お兄様、私も愛してるわよ」
「あ…うん。そうね」
ため息をつきながら、航はとりあえず歩き出した。
「父さんたちは…あそこか」
「いつも真っ先にお賽銭を投げに行くじゃない。今回もそうでしょ?」
「だと思う」
二人は父の行動を把握していた。毎年同じパターンなのだ、覚えてしまうのも無理はない。
「昔は大変だったわね」
「ん?」
突然の咲耶の言葉に航は少し驚いた。
「小さかった時よ。人ごみで迷子になったり」
咲耶が過去を思い出してクスッと笑った。
「それは咲耶だけだろ? オレは迷子になった事はないぞ」
咲耶は航の軽い嘲笑に反論する。
「だ、だってお兄様、いつも一人でどっかいっちゃうんだもの」
「人ごみがイヤだから速く歩いてただけだろ? お前も父さん母さんといればいいのにオレについてくるから」
「お兄様のそばじゃなきゃ私はイヤよっ!」
高らかに宣言する。
(っとまあ、そういうと思ったけどね)
航はその予想しきった言葉に軽く言葉を返した。
「そのせいで迷子になってちゃ、世話ないな…」
「小さい頃の話でしょ」
「じゃ、今は迷子になっても泣き叫ばないわけだ?」
航がからかい調子で咲耶を突つく。
「あ、当たり前よ! あんなのホントに子供の頃だけでしょ!?」
「…驚いたよなぁ…あの泣き叫び…」
過去を投影して航が笑った。
「帰ってから、父さんたちにその時の事を聞いてみようか?」
「お、お兄様ぁ〜」
少し顔を赤くした咲耶が航に羞恥の叫びを与えた。
「うそうそ、冗談」
その意地悪そうな笑みに咲耶は安心し、少し腹を立て航の頭をぽかりと叩いた。
「はいはい、もう言うのはやめます」
咲耶は不意に過去を思い出した。
『お兄様のお嫁さんになれますようにっ!』
昔高らかに賽銭箱の前で叫んだ覚えがある。
航はその声に赤面し、両親は笑っていた。
あの頃から自分の心は変わっていない。航が兄から恋人へと変化した事は確かだが、それは咲耶の心を変えたわけではない。もし変わっていたとしても深い愛情へといい方向に変わったといえる。
「昔からお兄様のこの場所は私って運命だったのよ…」
咲耶が呟く。優しいそして美しい微笑を浮かべて…
言うまでもない事だが、『この場所』とは航の隣の事だ。
「…んじゃ、今は満足されてますか? お姫様」
航が晴れ着に絡む咲耶の体を引き寄せた。
「この時間がずっと続けば…ね」
二人は軽く笑い合いながら賽銭箱への階段を上っていった。
二人は賽銭を投げる。そして軽く手を合わせた。
「…」
「…」
二人の願いはどうなのだろうか。
「ん〜と」
(こちらの願い事は終わったんだが…)
ちらりと咲耶を見ると眉間にしわを寄せて熱心に拝んでいる。
(何か横から物凄い執念を感じるのですが…)
苦笑しながら咲耶の頭をポンッと叩いた。
「ほれ、いくぞ。後がつかえてる」
「あ、うん」
咲耶は道を切り開いてゆく航の後ろを必死について行く。
「きゃっ」
航との間に人が入る。すると見る見るうちに航の姿が見えなくなってしまった。
「通してください!」
そう言って無理やり道を切り開くが、航の姿は見えなかった。
(お兄様、どこに行っちゃったのかしら…?)
少し不安になりながらあたりを見回す。しかしその視界には人と建物の屋根しかなかった。
「…これじゃ昔と同じじゃない」
咲耶はとりあえず人ごみの薄れる場所に移ると、ため息を付いた。
(お父様もお母様もお兄様も…いつもならお守りとかを買ってるわよね)
目星をつけたはいいが、この場所から見るにかなり混んでいるのが分かる。
「う…」
(お兄様ぁ…)
昔は大声で叫んだのだが、今そんな事をする勇気はない。
「あれ? 咲耶、航はどうした?」
不意に声をかけられた。
「あ、お父様、お母様…」
「航はどうしたの?」
腕組んだ二人は彼女に疑問を問い掛ける。
「逃げたの?」
「ちょっと…はぐれちゃって…」
その言葉に母が反応した。
「あら、見失ったの? 愛が足りないわね…」
「そんな事ないわっ! 私のお兄様への愛は…」
「ああ、もうその辺にしておけ」
父はムキになって言い返す咲耶とからかい口調の妻を止めると、人ごみを見回した。
「あいつの事だから、人ごみのない場所にいるだろ。こっちはいつもといっしょの行動をしてればいいんじゃないか?」
「もしお兄様が来なかったら?」
「その時はあいつが自分から家に帰るだろうよ。子供じゃないんだぞ?」
父の傍らで母が閃く。
「あっ、そうだ。携帯にかけたら? 確か持ってたわよね?」
「お兄様、携帯忘れてきたって」
母の提案もむなしく散る。
「……あの子らしいといえばあの子らしいか…」
「…確かに」
両親の言葉は冷たい。航の忘れ物の激しさぐらい、彼らは知っている。
「…お兄様、大丈夫かしら…」
心配げな咲耶に父は声をかけた。
「大丈夫だって。昔の咲耶じゃないんだから」
「! お、お父様〜!」
「そうねぇ…あの時は大変だったわ…」
父と母とのユニゾンはいくら咲耶といえども勝てるものではなかった。
「…ったく、だから人ごみは嫌いなんだよ」
航は呟く。その声には確かに苛立ちが抱え込まれていた。
あたりを見回しても人、人、人…
(…昔から人ごみでいい事ないんだよなあ…)
航の言うよくない事の代表が先程言った『咲耶迷子事件』である。その他にも色々とあるのだが、半分以上咲耶がかかわっている。彼女は人ごみでは何かを起こす運命にあるらしい。
「あの問題ムスメが…」
毒づいてみるが、その表情には笑みが見られた。航の脳裏にその『色々』が思い出されると何故か笑ってしまっていたらしい。航と咲耶との間にある昔たちは今から思い出せば、稚拙でばかげたものばかりだ。今、成長した自分から見れば笑えるようなものだった。単純に懐かしかったという事もあるだろうが。
(確かあの時は…)
昔この神社で彼女が迷子になった時の事を思い出してみる。今も同じようにそこにいるのかは分からないはずなのに何故かそこにいるという確証があった。
(あの時は…食べ物屋の前にいたんだった…)
航が人ごみの中を足早に抜け始めた。するすると人ごみの間を抜ける。
途中、何度か人にぶつかりそうになり、ペースを乱されたりはしたが、それでもスムーズに人ごみの海を抜けた。
「確かこの辺だったような…」
人ごみがまばらになった。あたりを見回してみる。
すると聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「この抹茶…味変わったか?」
「そうなんですか? 今年初めて食べましたけどおいしいと思いますけど…」
「いや、不味いんじゃなくて…前と味が違うな、と」
くだらない会話の横で一人、ちょこんと長椅子に座っている少女を目に止め、気持ち的には駆け出す勢いで彼女の元へ向かった。
「ほら、あなたもしゅんとしてないで、これでも飲んだら?」
少女は差し出された湯気の立つ液体を飲み干す。しかし気分は一向に晴れなかった。
(一人は…イヤ)
彼女は思う。悲痛の叫びのように心に、その場面に響いた。情景的には全く一人ではないのだが、航と二人でいる時以外は彼女にとって一人きりも同然らしい。
彼女が一人を嫌うのは自分がどれだけ彼に依存しているか自分の知っている以上に思い知らされるからだ。彼女は彼から切り離されるとただの少女になってしまう。化粧も流行の服も彼の前でなければ彼女を守ってはくれない。
「お兄様…」
少女は不意に呟いた。
「…へぇ…とりあえず泣き叫ばなかっただけ成長したな」
不意に咲耶は後ろから声をかけられた。
「お兄様!」
反射的に航に抱きついてしまう。
「…やっぱり人ごみの中では手を繋ぐとかした方がいいな。はぐれる」
航は軽く抱き締め返し、そう言葉を紡いだ。
「お、現れたか」
父が横から声をかける。すると母も続いた。
「咲耶を置いていくなんて愛が足りないわね」
「…すみません、反省しとります」
航は咲耶を離して、咲耶の横に腰掛けた。母はいやに素直な航に少し驚きながらもその情景を見守る事にした。
航が咲耶を見ると、プイッと母親の方を向いていた。
(…やっぱり怒ってるかな…?)
「怒ってるのか?」
一応訊いてみる。
「…」
反応はない。
「咲耶?」
顔を覗き込んでみる。するといきなり唇を奪われた。
「う!?」
間抜けな声を出しながらも、引き離す。
「キャッ! 咲耶、積極的☆」
母のあおりがかなり的確に思えた。父はその横で笑っている。
「咲耶っ! 時と場所を考えて…っ!」
その声の横で咲耶に動きがあった。
「お兄様、浮気しちゃダメよ!」
「はい?」
脈絡のない唐突の言葉に再び間抜けな声を漏らした。
「ダメよ!」
「は…はい…」
物凄い圧力に気圧されて何となく了承してしまう。
「お兄様は私のものなの!」
「…は…い…?」
(? いつも以上に言動が唐突のような…)
そんな思いを抱く航の視界に地面に転がる紙コップがうつる。
「…もしや」
航は咲耶を押さえつつ、咲耶の向こうにいる母に問い掛ける。
「…もしかして、甘酒飲ませた…?」
「え? 飲ませたけど…」
「…何て事を」
航が母の言葉にがっくりと肩を落とす。
「お兄様ぁ」
咲耶が航の腕に抱き付いた。
「…咲耶…この前ブランデーのチョコ一つで酔ってた」
「あら? お父さんは強いのに……」
「ああ、母親似だったんだろ」
母親とはここにいる母の事ではなく、咲耶の実の母親である。
(だったんだろって、あんた。咲耶とあんたとで同じパーツなんて性格以外にありゃしませんがな)
航は心の中で父を罵りつつ、現では咲耶の行動を逐次チェックしていた。
こんな風に航に罵られるほど、父と咲耶は似ていない。本当に性格だけかもしれないと思えるほどだ。たぶん運良く実の母親の血を色濃く継いだのだろう。女性は父親に似るというがこの二人の場合、それはなかったらしい。
「そんな事より、今の咲耶をどうするかを…を!?」
視界全開に咲耶の顔が映って航は少し驚いた。
「お兄様、私と話してくれなきゃイヤ」
「あ〜うんうん。わかりましたよ」
酔っ払い相手に意気込んでも仕方ない。
「嬉しいっ」
「い゛っ!」
咲耶が航に飛びつき、航は椅子に倒れこんだ。
「…なんかいつもと変わらない気がするんですけど…お父さんはどう思います?」
「いや…いつもより過激になったような…」
蚊帳の外で二人が見つめていた。
「イテテ…」
航が何故かくすくす笑う咲耶と一緒に起き上がった。
「咲耶、時と場所を考えろ!」
「…」
再び反応がなくなる。
「ぐすっ…お兄様が怒っちゃった…」
「ああ、泣くなっ」
こうなると航は慌てるしかない。
(忘れてた…咲耶って幼児退行タイプだったんだっけ…)
今まで忘れていたのは咲耶が今も昔も同じ言動を繰り返していたせいだろう。子供の頃から咲耶はずっと航の事しか考えていない事が改めて明確になった。
このあたりで周りからも笑いがこぼれ始めた。
「あら? 人が集まってきたわ」
母の言葉の通り、人々は歩みを止めてこの場面を見て笑っている。普段ならこの場面に付け込んでいろいろと悪さを考える父だが、この場合そんな事をしている事などできなかった。
「とりあえず、ここを離れよう。交通の邪魔だ」
(それに…もし本当にあやつと一緒なら…)
不安に背筋がぞくりとする。
「そうね。残念だけど」
「何が残念なんだよ! あんたのせいだろうが!!」
航の言葉に周りの笑いが渦のように流れてくる。そして航の言葉に反応したのは人々だけではなかった。
「お・に・い・さ・まっ!」
その声と共に無理やり航の顔をこちらに向ける。航の首から鈍い音がした。
「いたっ! 咲耶! 今、首がグキッていった、グキッて!」
「お兄様は私以外を見ちゃダメよ」
にっこりと笑うが、目が笑っていない。
「お前は泣き上戸なんだか笑い上戸なんだかはっきりせい!」
「航、もういいから早く行くぞ」
父はもう半分あきれながら、航の行動を促した。
「咲耶、行くぞ」
「は〜い」
と言いつつ、立ち上がろうとしない。
「…咲耶?」
ニコニコと笑みを見せながら両手を航の方に伸ばした。
「?」
その意味が航にはわからない。
「おんぶしてって事でしょ?」
「…ああ、はいはい」
母の言葉にもうお疲れモードの航はゆっくりと咲耶の前に背中を差し出した。
「……お姫様抱っこがいい」
「はい?」
彼女はたとえ酔っていても突飛な発言を変える気はないらしい。
「んと…」
母は状況を忘れていつものようにニヤリと航の次の行動を見定めていた。
「晴れ着には似合わないと…」
「じゃあ脱ぐ」
咲耶が帯に手をかけたのを見て三人が急にあたふたとし始めた。いつもの調子で盛り上げようと考えていた母もこれには慌てるしかない。
「お、おい!」
「ちょっ、ちょっと、やめなさい、咲耶」
「分かったっ! 分かったから、脱ぐな!」
三人の弾丸トークが走る。周りでは「おお!」との声があがる。
「じゃ、して」
再び両手を差し出した。航は仕方なく腰掛けている彼女を両手に抱える。
「わぁい」
咲耶は本当に子供のような声を出しながら航の首に手をかけた。
「…い、行こう! 早く!」
(さらし者以外の何者でもない)
航は顔を赤くしながらそう叫んだ。
「…まあ…無事に帰り着きました」
母は航の家が見えてくるとそう呟いた。
「無事…?」
航が聞き返す。
「…」
「…」
誰も答えは返ってこない。
その何秒か後、父が口を開いた。
「とりあえず、咲耶には酒厳禁」
二人が無言で頷く。
あの後、好奇の視線を浴びながら神社を抜けた。
とりあえず、車で行った事は不幸中の幸いだっただろう。電車だったりしたらより大変な事になっていたはずである。
「今回は母さんがまず問題なんだからな」
航が母を責める事にする。
「…え…えへ…?」
母が前の席からごまかしの笑みを送った。
「笑ってごまかすな! 歳を考えろ!」
「やめろやめろ。大魔王が起きる」
「!?」
航がびくりとした。そおっと横を覗くと咲耶はすうすうと寝息を立てて眠っている。
(…ふう…セーフ)
ふうっと安心のため息をつく。これはたぶん三人とも同じだろう。
「…とりあえずついたぞ」
「んじゃ、今度一回帰るから」
航はそう言って車を降りようとするが、そこである事に気がつく。
「…咲耶…オレの手を離してくれないんですけど…」
それはもう、苦笑いしか表せなかった。
「無意識でもあなたの事が分かるなんて…素晴らしいじゃない」
「…ああ、そうだね」
適当に返しておく事にする。
(とりあえず、部屋に帰るか)
航は咲耶を抱きかかえると、車を降りた。降りる際、母に毒づく事も忘れない。
「今回は貸しにしとくからな、母さん」
「…メイド服作ったからチャラね」
「ダメでゴザイマス」
航はぴしゃりと母の策を否定する。
「おいおい、悪気はないんだから…」
「あってたまるかっ!」
航は咲耶を起こさないように眼光のみを強めて言った。
(…とりあえず…このご婦人を何とかしないと)
見送り後、愛しの我が家に帰ると咲耶をどうするかが問題となった。
(起こす? いやいや、そんな事はできない)
先程のつてを何度も踏む気はない。
「ベッドに寝かす…か」
咲耶が航を放さないという事は…
「一緒に寝るしかないか…」
バタンと勝手のきく自室の部屋の扉を閉めた。とりあえずベッドに二人で寝そべる。彼女が腕を取っている為に腕枕をしている状態になる。見ると腕の中では咲耶が笑みを浮かべて幸せそうに眠っていた。
「幸せそうな顔して…さ。誰のせいで大変だったと思ってるんだ?」
咲耶の頬を突付いてみる。
「ん〜」
すると彼女は声にならない言葉と共にこちらに転がってきた。
「…ったく、酒を飲むわ、暴れるわ、ストリップ始めそうになるわ、迷子になるわ…」
航は皮肉を言ってみたい気分になる。しかしその表情は咲耶につられて笑みへと変わってしまった。
(ったく…オレは咲耶に弱いなぁ)
苦笑する。しかし悪い気はしない。ただただ愛しさが込み上げる。
「…好きだよ、咲耶」
呟いてみた。彼女は眠っているので聞こえはしない。自分の部屋にただ響く。
(どんな夢を見てるんだ?)
訊いてみる。今度は声に出さずに、心で呟いてみる。
(オレの夢…?)
航は愛おしさのままに彼女の頬に口づけ、それからずっと咲耶の寝顔を見つめていた。
ずっとこの時が続けばいいのに…
そう心に願いながら。
「う…にゅ…?」
咲耶は目を覚ました。ぼうっとあたりを見回す。
「あれ…? 昨日私お兄様の部屋で何してたの?」
ここは自分の部屋ではない、一応それがわかるぐらいには覚醒しているようだ。
その情景の中にとりあえず航は見当たらない。
(もしかしてお兄様と…)
顔が赤くなる。そんな時、手ににぎっている服を見つけた。
「…お兄様の服…」
(決定的…)
咲耶は赤い顔のままおもむろに立ち上がると、とりあえず顔を洗う為に洗面所に行く為にドアを開けた。すると、いい匂いが立ち込めている。
「…?」
咲耶はその匂いに誘われて洗面所よりも先に台所に向かった。
台所からは香りだけでなく、包丁とまな板の協奏曲まで聞こえてくる。
「? もしかしてお兄様…?」
ドアを開くと台所には航が立っていた。見慣れぬエプロン姿に問い掛けてみる。
「あ、起きたか。おはよう」
一瞬こちらに視線をくれて彼は卵焼きをひっくり返した。
「御飯なら私が……」
「いやあ、たぶん今日は寝坊するだろうと思ってさ」
航は味噌汁の火を止める。
「これでよし」
そう呟くとエプロンを剥ぎ取って咲耶の方を向いた。すると咲耶を見てクスリと笑う。
「昨日、何したか覚えてる?」
「え? え…っと…」
咲耶は頬を染めて身体を抱いた。
「…? もしかして全然覚えてないとか?」
その声に咲耶は考えるポーズをとりながら記憶の断片をさがす。
「昨日……メイド服を着て…」
「…」
(いらん事を覚えてるなぁ)
航は思ったが口には出さない。
「お母様とお父様が来て…初詣に行って…」
「うむうむ」
そこまでは正解だった。
「お兄様とエッチした…」
「うむ………って、何ですと!?」
航がこける。
「? ちがうの?」
「してない! 妙な記憶のカイザンをするんじゃない!」
航は頬を染める咲耶に叫ぶ。
「なあんだ…」
「…何でそこで落ち込むかな…」
航にはその意味が理解不能だった。
「酔い潰れてる女の子に手を出す真似はしません」
「? 酔いつぶれた…?」
何を言っているか分からない表情に航はため息をつかざるを得ない。
「…お前、甘酒飲んだろ?」
「?」
「またまた、大暴走」
その声に咲耶は合点がいったらしい。
「あ…」
か細い声を立てて小さくなる。
「暴れるわ、叫ぶわ、脱ぐわ…」
「脱っ!?」
「まあ、それは止めたけどな」
咲耶はその声にホッと胸を撫で下ろす。
「で、父様からも酒禁止令が出ました」
『も』という事はもうすでに一度言われていた事になる。その証拠に台所には『咲耶飲酒厳禁!』と書かれた紙が高々と張られていた。
「…え…えへ…?」
「母さんと同じごまかし方はやめろ!」
航は叫ぶ。本当にこの娘と母は似ている。遺伝子的な姿かたちなら諦めるところだが、そうではなく癖が嫌な方に遺伝したらしい。
「でも、そんな事考えてたんだ…」
「?」
「オレとしてたって…」
クスリと意味深な笑みを見せた。咲耶はまだ気がついていないようだが、最近航が咲耶に意地悪をしようとする前の癖である。
「だ…だって」
赤くなる咲耶の首筋に口づけた。続いて耳元で甘い言葉を呟いてみる。
「じゃ、今からする?」
「え?」
「する?」
航はエプロンをソファーに放り投げる。ソファーはパサリと丸められたエプロンを受け取った。
「え? え?」
咲耶は火照らせた顔を航と見合わせた。航の視線が咲耶と交錯していっそうの顔の火照りを感じた。自分は今どんなに赤い顔をしているだろうか。
「お、お兄様の作ったお料理が冷めちゃ…」
「別に暖めればいいだけの話だろ?」
思いついた言葉も航に一瞬でシャットアウトされた。
「い、今は朝だし…」
「地球の裏側じゃまだ夜だよ」
航は無茶苦茶な理論をつけると彼女の唇に口づける。
「イヤか?」
咲耶に再び航の視線が突き刺さる。その視線すら甘いものを感じざるを得ない。
(う〜お兄様、何で今日はそんな大人モードなのよぉ)
視線の甘さに負けそうになる。
「え…えっと…」
あたふたしている咲耶を見て、航は笑いをこらえきれなくなったらしい。
「プッ…クククッ…アッハッハハ…ッ!」
「お、お兄様…?」
「あ〜咲耶をからかうのは面白いねぇ…」
「!! お兄様!」
「悪い、悪い」
そう言って、航は咲耶の髪を撫でた。
「〜〜〜」
咲耶はまた攻め立てられなくなってしまった。
「とりあえず、服を何とかしてくれない?」
「?」
服を見ると帯を解いた晴れ着のまま…そして前は全開だった。
「キャッ」
慌てて前を閉じる。
「…昨日、寝づらそうだったから剥いだ」
航は居間思い出しても赤面しそうな場面を思い出す。咲耶が帯を取る自分の姿など、もし咲耶が起きていたとしても一生に何度もないだろう。
「き、着替えてくるっ!」
咲耶は足早に部屋に帰って行った。
「美味しい!」
先程の事などすっかり忘れて咲耶が叫んだ。
「どうもありがとゴザイマス」
咲耶の声ににこりと笑う。
「そういえば咲耶の前で料理を作るのは初めてだっけ?」
「うん…」
咲耶がいれば、必ず咲耶が作ると言い出すのだから、それは当然と言えば当然かもしれない。
(私ももっと修行を積まなきゃっ)
「もしかして『私ももっと修行を積まなきゃっ』とか考えてる?」
「!?」
咲耶は心を見透かされた。
「当たり?」
「…うん」
航は驚いた顔の咲耶を見てクスリと笑う。
「ま、花嫁修業、頑張って。もし失敗してもちゃんと貰ってあげるから」
「え…」
不意に言われた言葉に咲耶が聞き返すと、航は茶碗を置いた。
「賽銭箱の前でそんな事考えてたんだろ?」
航はにっこりと咲耶と視線を交わす。心を見透かされた咲耶は次にとんでもない言葉を呟いた。
「…お兄様…お母様みたい」
「何ですと!?」
航は咲耶の言葉にめげそうになるが、一応言葉を続けた。航はどんどん打たれ強くなっているらしい。
「……ま、まあいいや。それも誉め言葉だろ」
(…たぶん)
かなり引っかかるがよしとする事にする。
「オレの願いはちがうけどね」
「! 何、お兄様のお願いは何だったの!?」
咲耶が机に乗り出す。しかし航はそれを軽くいなした。
「教えません。さて、ごちそう様でした」
航は食器をまとめて流しへ向かう。咲耶はしつこく航の後ろを付いて回った。
「ねえ、お兄様」
「教えないよ」
と即答。
「そんな、お兄様ぁ〜」
甘えた声を出してみる。いつもならこれですぐに応えてくれるはずである。
「ダメ」
しかし今回は違うようだ。
久しぶりに頑なな航に咲耶はある事を思いつき、部屋へ駆けて行こうとするが、航にとめられる。
「メイド服で迫ってもダメ」
「! 何で分かったの?」
「分かり易すぎ」
航は苦笑した。咲耶の行動の一つ一つが彼の中を優しく照らしてくれる。
「グスッ、教えて…お兄様ぁ…」
咲耶の目が潤んだ。
「ウソ泣きでもダメ」
「!」
何故か効かない。いつもの航ならあたふためいた挙句にすぐに教えてくれるはずなのに。
「咲耶に言ったら意味のない事だからね」
航は笑みを浮かべながら洗い上げた皿を乾いた付近の上に置いてゆく。
「?」
咲耶は困惑の表情を浮かべる。
「全然わかんない…」
「分からなくていいんだって。ずっと一緒にいればいつかは叶う事だと…思う」
語尾には曖昧だった。
「その割に自信がなさそうね?」
「咲耶次第だからなぁ…あやふやもいいところだし」
「! もうっ! お兄様!」
咲耶がぽかぽかと叩いてくるのを笑いながら航は願いを思い出した。
いつか『航』って呼ばれる日が来ますように…
(…なんて…そんな日がホントに来るのかねぇ…)
航はそう苦笑いしてみる。
「教えてよ、お兄様ぁ」
彼女の顔を見て、航はクスリと笑った。
(いや…この顔をずっと見ていられれば他に何もいらないな…)
その願いは永遠に叶えてみせると確信しながら…
あとがき
牙風=姫里っす。
こんななんか伸びきったゴムみたいな妙な感じのでスイマセン。(- -;)ゞ
何回も飛んだのでいろいろと弊害が…(いいわけ
季節も違うのもその辺のせいです。
ええ、そうですとも!!
そうそう、人気投票の件に参加していただけた方々ありがとうございました。
結果は送信したはずですが、もし行かなかった方がいたらお送りします。
凄い事になってる(?)ので笑った方もいるでしょうね。(^ ^)
航よ…頑張れ。(^ ^)
意味深な言葉を残しつつ、それでは〜☆2/18 Himesato
牙風=姫里さんへの感想はこちら
ga_to_dabun@hotmail.com
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