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 こんにちは、もしくは、はじめまして。
 航であります。
 突然ですが…何かミニマムになってしまいました。


二人のアンジェ
小さな彼女と大きな彼女
〜Mini-season〜

作 牙風=姫里さん


「…どういう事だ?」
 シーツを払って自分の身体を見つめる。ぶかぶかのパジャマ、いやに広いベッド…その情景の中に小さな手が収まっていた。
「何故にチルドレンに?」
 英語を間違って使っているのはたぶん、気が動転している為だろう。
 とりあえず立ち上がろうとして、パジャマの裾を踏んで倒れた。咄嗟に回避しようとして突き出した手もぶかぶかのパジャマに邪魔されてしまった為に顔面から地面に直撃する。
「…イタイ…」
 鼻の頭を撫でながらそう呟いた。今度は倒れないように足の裾をまくる。
「とりあえず咲耶に助けを…」
 と思った途端、扉が開いた。
「お兄様、起きて…って、あなた誰?」
 確かに「あなた誰?」が正しい。見た事がない、いや、『見忘れた』少年が床にちょこんと座ってズボンの裾をまくっているのだから。
「航だ」
 少年は優雅に立ち振る舞ってそう言った。
「は?」
「お前のお兄様だよ!」
 ほぼ逆ギレに近い。当然の行為だとわかっていつつも、混乱気味の為、こんな行動しかとれない。
「え?」
 何度も視線が航の姿の上を通り過ぎる。
「…ほんの十年ぐらい前のお兄様の顔を忘れるなんて愛が足りないわねっ☆…って母さんなら言うところだろうな」
「…ホントにお兄様?」
「そういってるだろうが!」
 とは言うものの、信じる方がどうかしている。
「何でミニマムになっちゃったの?」
 場所は変わってリビング。
「訊くな。理由なんぞ知らん」
 そこで鳴るベルの音…
「…もしかして…」
 逃げようとする航を咲耶は軽々と持ち上げた。
「咲耶! 逃げさせろ! こんなカッコでいるところを見られたら大爆笑される」
「そんな服で外に出るつもり? お兄様」
 今、航が着ているのは咲耶の持っていたTシャツと自分のハーフパンツである。といっても長ズボンといっても過言ではない状況ではあるが。しかし多分咲耶が「そんな」というのはシャツの方であろう。よりによってハートのアップリケが入っている。
「…」
 航の足掻きが消えた。
「背に腹はかえられまい…」
「そこまでいや?」
 困った笑いを含ませながら咲耶は彼、または彼女を迎えに行った。




「…と、いうわけだ」
 航の説明を彼女は本当に聞いていたのだろうか。
「へえ…」
 それだけ呟く。
「母さん…? 聞いてた?」
「…それにしても…」
 クスリと笑う。航は嫌な予感がした。
「キャーー! 可愛いっ!」
「うわっ、やめろ!」
 急に飛びつかれた。引き剥がそうにも今の状態では母の方が力は上なのでそれもできない。
「あ! お母様、お兄様に手を出さないでよ!」
 咲耶は咲耶でいつもと同じ事をやっている。
「放せ〜!」
 とりあえず実家に残っていた昔の自分の服を引っ張り出してもらってきたが、久しぶりに半ズボンなどと言うものを着たせいで何だか足の感覚が不思議な感じだ。
「だって、航が小さいと私まで若返ったみたい〜♪」
「それはマジ気のせい! 身重がそんなに激しく動くな!」
 忘れているかもしれないが、彼女はその身体に生命を宿している。航はその子供の性格がどのようなものになるか、恐怖せざるを得ない。
「…ったく」
 咲耶の協力もあって、母を引き離す事に成功した航は小さい身体でもいつものように眉にしわを寄せて腕組みをする。
「この状況の打開策を訊こうと思ったけど、そんな事訊いても無駄そうだな!」
 本当にこの母親の下で育ってきたのだなぁ、と航は過去を思い出していた。
現実に、十年程前にこの姿だった頃の母はもっと『まとも』だった。どんどん変わり始めたのはここ二年ほどだ。そしてその変化に拍車をかけたのが自分の一人暮らしである事を航は気付いていた。
そんなつもりは全くなかったのだが、結果的に自分の首を絞める事になってしまったのが悔しいところである。
「失礼なっ! 私だって考える事ぐらいあります」
「へえ…」
 完全に疑りモードの航は彼女の言葉を軽視した。
「で、何? 王女様のキスで復活…とか言うなら却下だからな」
 この場合、復活と言う表現もいかがなものか。
「え? してほしいの? お兄様」
「たとえだ、たとえ!」
 ピクリと反応した咲耶を無理やり押さえ込む。
「って、おい! まさかその反応は…」
「…え…えへ…?」
(図星かい!)
 心の内で舌打ちする。しかしその横でまあこの人ならそんなものだろ、と言う自分がいることが酷く悲しい気がした。
「と、とりあえず…何でこうなったのかを考えるか…」
 呆れる自分を立て直しながら航が呟いた。
「昨日何か特別な事をしたとか…」
 咲耶の言葉に航は昨日の行動を思い出す。
(昨日は大学の後バイトに行って…帰ってきて…)
「お父様が来たわね…」
「おお、そういえばっ!」
(そんで…)
「あ」
 小さな声が口の中に飲み込まれた。
「心当たりがあるの? お兄様」
 視線を合わせない少年に問い詰める。
「あ…いや…」
(この姿で襲われたら分が悪いな…)
 心の中で打算的な考えが回る。
「父さんに中国の酒とか言うのを飲まされ…た…」
 もはやあきれに近い。やはりこの家族が何か妙な風を彼に吹き込んでくるらしい。
「やっぱりヤツか…!」
 そう叫ぶが意味はない。
「ちょっと待ってよ。お父さんは普通に学校に行ったわよ?」
 学校に行くと言ってもこれは大学の教授としてという意味である。
「あのヤロウはオレに味見させて逃げたんだよ」
 その言葉に納得する母は傍らに危険人物がいる事に気が付いた。
「飲ませてないよ」
「よくやったわ」
 何も言わずとも言いたい事はわかったらしく、小さな息子は正しい返答を返してきた。
「?」
 その横で困惑している咲耶がいたが、気にしない事にした。
「…で、だ」
「何? お兄様」
「『何?』じゃなくて、この状況をどうするか! それ以外に何がある!」
 叫びは最もだが、その方法がわかるならとうにやっている。
「何とかなるなる♪」
「適当な事ほざくな!」
「怒ってもそのカッコじゃ決まらないわねぇ…」
「したのはてめえの亭主だよ!」
 攻防戦は永遠に続く事になる。




「じゃ、そういう事だから」
 母は有無を言わさず、立ち上がった。
 母の話は簡単に要約するとこうなる。
『母の友達の娘とその彼氏とダブルデートして欲しい』
 本当につかみだけ言えばそうなる。
「こんなカッコでオレに外にでてけってのか!」
 確かにあまり出て行くべきではないかもしれない。知っている人間に見られたら、爆笑されるか、気味悪がられるか…
「まあ、する事は変わんないわよ」
「…お、お母様!」
(親が言う言葉かよ、それ…)
 赤面する咲耶と、がっくりする航に向かって母が言い放つ。
「遊園地で遊ぶのにカッコなんて気にしない」
「…そっちか…」
「何、想像してたの? 若い少年少女」
 二ヒヒと笑われた。
 危ない方に話が傾いたので航が話を変えた。
「で、何でダブルデートなんだ?」
 航の意見はあいかわらず的確だ。サイズは変わってもそういうところは変わっていない。
「遅々として進まないのがじれったいらしいわ」
「…あんたの友達だったっけ…? その母親…」
 彼女が首を縦に振ったところを見て、何となく彼の中にあることわざが駆け巡った。
(る、類は友を呼ぶ……って、ん?)
「で、どんな子?」
 咲耶はティーカップを片付けながら聞いた。
「えっと…」
「待て」
 航が話を止める。
「どうしたの、お兄様?」
 隣を見てみると、航が複雑な顔をしていた。
「さっきから嫌な予感が耐えないんだが…コレは気のせいかな…?」
「は?」
 眉にしわを寄せる咲耶を置いて、母がクスリと笑う。
「さて、お母さんは帰りますよぉ〜! 相手の名前とか、場所とかはファックスするから〜」
 言うまでもなく、逃げているのである。しかもかなり軽やかなステップを刻みながら。
「おい! ちゃんと説明していけ!」
 弾丸トークにもめげない。
「そういえば言い忘れた」 
「何?」
 二人が声をそろえる。
「泊まりだからね」
「は!?」
 二人が再び声を揃えて叫んだのと同時に母の姿は扉の外に消えた。
「…な、何だってんだ…?」
(娘との外泊を進める母親って他にいるんだろうか…)
 そんな事を考えて隣を見ると、泊まりという言葉に目をキラキラさせている咲耶がいたりするのである。
「はあ…」
 ため息しか出ない。
「咲耶、考えても見ろ。母さんの友達だぞ?」
「うん?」
 いまいち、よく分かっていないようだ。
「何でオレたちにダブルデートさせようとしてるかわかるか?」
「え〜っと、相手の二人が遅々として進まないからでしょ?」
 咲耶の答えは母の言葉をソックリ返しただけである。
「何で『オレたち』なんだと思う?」
 航は不思議な顔をする咲耶を指先で呼ぶ。
「?」
 咲耶は隣にちょこんと座った。
「お母様とお友達で、遅々として進まないから…以外に何があるの?」
「…」
 クスリと笑われる。
「…とりあえず、泊まりの用意だけはしとこうか」
「ちょ、ちょっと! お兄様、話の続き〜!」
 小さな彼は軽く伸びをしながら、部屋の方へ消えた。
「…もう! 大きさは変わっても態度とか、性格とかは変わらないんだから」
 というものの、そんなところまで変わったらそれこそ別人なのだが、咲耶はまだ気がついていなかった。


 

 

時は遡って祐輝と雛子は・・・

 

 


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ga_to_dabun@hotmail.com
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