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リンリンパニック

作・葉坂沙希也さん


   まあ、なんと言うか俺的には相当早起きをした。鈴凛が住んでる所と俺が住んでるところとでは結構距離がある。
   バイクにまたがり約二時間。ようやく俺は鈴凛の家に着いた。
   何にも変わってない、普通の一軒家だ。ここに来るのは二ヶ月ぶりだが、そんな期間でそうそう家が変わったりするわけがない。
   まあ要するに、鈴凛の家にきたのは久しぶりってことだ。
   まあ、俺もいろいろ忙しかったからな。ちょっと感慨深げになりながら──
   ピンポーン
  「あ、アニキだ、待ってたよ」
   インターホンを押した途端、鈴凛が玄関のドアを開けてくれた。異様なまでの速さに驚く。まあ、そこまではいいとしよう。
  「お前、ふざけてるのか?」
   つい聞いてしまう。鈴凛の頭には、メカ鈴凛の頭にあるのと同じような、丸いアンテナみたいなのがついていた。
   俺を驚かそうって魂胆だろう。まったく、真似するならきちんと口調を変えて顔を赤くしろってんだ。
  「なに言ってるの?」
   当の鈴凛はこちらの言いたいことが分かっていないらしい。
  「だから、これは何なんだよ、これは!」
   そういって俺が丸いのに触ろうとすると、鈴凛は慌ててさがった。そりゃ偽物だもんなぁ、触ってもらっちゃあ困るよな。
  「ちょっと、なにするの!! まだこれ調整中なんだから!!」
    真剣な口調で鈴凛はこちらを非難した。いや、俺は悪くないだろ。からかわれてるわけだし。
   そう思っていると、上から誰か降りてきた。その姿を確認して、俺と鈴凛は叫んだ。「メカ鈴凛、こいつどうかしたのか?」
  「ちょっとマスター、アニキに何とか言ってやってよ!!」
    ん? マスター?
   俺は目の前にいる鈴凛と、階段を降りてきた鈴凛とを見比べた。まあ、俺が今階段を降りてきた方がメカ鈴凛だと思ったのは、
   目の前にいるのが鈴凛だと思ったからにすぎない。「アニキ、もしかして私のことメカじゃないって思ってたの?」
   すぐ隣にいる鈴凛が半眼で尋ねてくる。
  「あ、その、お兄さん。おはようございます」
    おどおどしながら、階段から降りてきた鈴凛はぺこりと頭を下げた。その鈴凛には、なんと言うか、頭にアンテナがなかった。
   無論、帽子をかぶっていたりもしない。
  「あ、おはよう……」
   俺の頭はパンク寸前だった。

   とりあえず鈴凛の部屋に入って鈴凛の持ってきたお茶をすすることで、俺はようやく落ち着きを取り戻した。
   なんか妙に片付いている気がするのは気のせいだろうか? いつもの鈴凛ならメカをいじったらそのままにしておくものなのに。
   それがたとえ、俺が来るとあらかじめ告げておいたとしても、だ。
  「えーっと、こっちが鈴凛で、そっちがメカ鈴凛?」
  「これ見れば分かることじゃない」
   メカ鈴凛がさも当然のことのように告げ、頭の丸いのをさしてくる。いや、確かにそうかもしれんが──
  「ほんとにお前が鈴凛で、こっちがメカ鈴凛なのか?」
   まだ俺の中ではからかわれている気がしてならない。当の鈴凛は顔を真っ赤にしてうつむき加減だ。
  「あの、ご不満でしたら、かわってもいいですけど……」
   そして、その口から出たのは自分の言葉を否定するものではなかった。でもおい、そんな簡単にかわれるもんでもないだろ。
  「あれか、千影に性格入れ替えられたとか、そういうことじゃないのか?」
  「いえ、それはまだ……」
   鈴凛が細々とした声でつぶやく。いや、まだってなんだよ? いつかやるつもりなのか?
   そういえばいつか科学と魔術の融合実験やろうねと、正月に集まったときに話し合っていた気がする。
   でもそのときは、今のメカ鈴凛が鈴凛で、鈴凛がメカ鈴凛だったわけで……あー、さっぱり分からん。
  「もー、そんなことどうでもいいじゃん。今日は私のパーツ買いに行ってくれるんでしょ!!」
    業を煮やしたメカ鈴凛が俺にふくっれつらを向けてくる。
  「まあ、そういう予定ではあったな……」
    しかし、自分のパーツを買ってくれなんて、そうそう聞けるセリフではないな。
   いや、聞いたからってどうとかなる問題でもないが。それに、もっと重要な問題が目の前にあることを忘れてはいけない。
  「じゃ、早くいこっ。今日は特売日だからアニキもそんなに泣かなくて済むよ」
   俺のそんな冷静な考察を無視し、メカ鈴凛は俺の手を引っ張って立ち上がった。
   泣くことにはかわりなさそうだなぁ。

  「むふふ、これなんか組み込んじゃうと演算能力がぐーんとアップしちゃうよね」
   あれこれいいながら、メカ鈴凛は買い物篭に次々とボードやなんかを投げ込んでいく。「……金が」
   俺はそういうのが精一杯だった。
  「あの……自分で作っておいて言うのも何なんですが……あの子言うこと聞かなくって……」
  「そうか……」
   やはり、俺にはそう言うのが精一杯だった。
   まあ何と言うか、未だにこの性格の鈴凛があのメカ鈴凛を作ったと言う実感はない。
  「……それでその、申し訳ないんですけど……買っていただけませんか?」
   ぐっ!?
   恥ずかしそうに顔を赤らめながらのおねだり。また鈴凛とは違う趣が!!
    これは違う意味で強力だ──
   しかし、そんな誘惑に負けるわけにはいかない。ほんとに今月は金がないのだ。
  「いや、あの、今月はあんなにはちょっと……」
   なんかはっきり言えない自分が情けない。
   だが、そういうと鈴凛はこの世の終わりかのごとく暗い顔をする。
   そんな顔をされると決断が揺らぐじゃないか!?
  「いや、あの……鈴凛?」
  「そうですよね、いつも無理ばかり言って……」
   やはりこの世の終わりのよーな表情そのままに、鈴凛はメカ鈴凛に近づいていった。
  「お兄さん、お金がないからそんなに買っちゃダメだって」
  「ええー、なんで!? この前なんでも買ってくれるって約束したじゃない」
   メカ鈴凛は抗議の声をあげると鈴凛を無視して俺の元にダッシュしてきた。
  「この前家に来てくれたときに、何でも買ってくれるって言ってたの、私聞いてたんだよちゃんと」
  「ああ、言ったな」
   それはちゃんと覚えてる。このまえ来たときに、オレのバイクの改造に鈴凛をつき合わせたのだ。
   そのお礼に、何か買ってやる約束はした。したが、現に金はないし、何かとは言ったが、何でもと言った記憶はない。
   何でもと言った日には、学生生活さえ危ぶまれるため、スケープゴートの用意は万全にしたつもりだ。
   それを伝えるが、メカ鈴凛は納得しなかった。
  「えー、アニキの記憶違いだよ。ちゃんとメモリーしてあるんだから」
   自分に都合のいいようにメモリーできそうな気もしないでもないが、まああえてそれは言うまい。
  「とにかく、そんなには買えないぞ」
  「なんでよ!!」
   そういうメカ鈴凛の瞳に、あってはならないものがあった。
  「おまえ、やっぱり……」
   俺はひどく動揺した。なんとなく鈴凛とメカ鈴凛が入れ替わっていることは分かっていた。
   それでも鈴凛の涙の理由が、分からなかった。
  「だってメカ鈴凛のほうがいいんでしょ。いつも私にはそんな風にきつく言って、メカ鈴凛には優しくしてさっ!!」
   ダムが崩壊したかのように、鈴凛の瞳から溢れ出すものは止まらない。
  「さっきだってぜんぜん言い方違ってたし、メカ鈴凛のほうがいいんでしょ!! だから私……」
   その瞳に射抜かれた瞬間、俺はすべてを忘れた。

  「俺を泣かすんじゃなかったのか?」
   俺は鈴凛を抱きしめた。やっと気がついた。脆い少女を。
  「鈴凛は強いって、思ってた」
   本当は強くなんかない。隠してるだけで。抱えたものを恐れながら。
  「メカ鈴凛は、気遣ってあげないと壊れてしまいそうな気がしたんだ」
   本当は素直だったかもしれない。本当は自分だったかもしれない。本当に彼女だったかもしれない。
  「鈴凛は、弱さが見えなかった。隠れてて」
   それを見つけるのが正しいのか。それを知らないのが愛なのか。だろう、隠したいんだから。
  「脆いガラスが木箱の中に入っていて、落としたら、割れる。でも、気づかなきゃ、その木箱を慎重には扱わない」
   見えてるか見えてないか。それだけで、人は態度を変えるだろう。
  「ごめん、気づいてやれなくて」
   それでも、正解はない。心はいつも揺らぐ。たとえどんなに些細なことでも。

  「バカ……」
   腕の中の鈴凛は、涙を拭くこともなく俺を見上げていた。
  「アニキのバカ……」
   そう言うと、鈴凛は弱々しく微笑んだ。その笑顔に、俺は安心する以上にぞっとした。
   それは、鈴凛が何か企んでいるときの笑顔に他ならなかったからだ。
  「鈴凛?」
   意味もなく妹の名をつぶやく俺に、鈴凛はますますその微笑みを強くした。
  「ねぇ、これ買ってくれる?」
   そう言って鈴凛は俺から離れると、籠にぎっしり詰まったパーツを見せてくる。さすがの俺でも、この量は買うには厳しい。
   しかし、そうも言ってられない。いや、しかし……。
  「やっぱり、私のことなんかどうでもいいんだ」
   そう言って、切ない表情を見せた。しかし、俺は身を切るような決断をする。
  「あのな、鈴凛。ほんとに金がないんだ」
   鈴凛はじっと俺の方を見ている。その様子に変化はない。
  「けど、それ以外だったら、今日は何でもしてあげるから」
  「ほんとっ!?」
   急に元気になった鈴凛はいままで頭につけていたアンテナを俺の頭につけた。
  「何がしたいんだ?」
   俺は意味がわからずに聞いた。鈴凛は例の微笑みのまま言う。
  「今日一日、メカアニキになって」
  「メカアニキだぁ?」  
    そして、聞いたところで意味がわからなかった。
  「まあ、そんなんでいいなら、構わないけど」
    俺は二つ返事でOKした。その言葉を聞いた鈴凛はメカ鈴凛のほうを向く。
  「メカ鈴凛、今のアニキの言葉ちゃんとメモリーした?」
  「はい、マスター」
   俺は怪訝な表情を浮かべながら聞いた。
  「何言ってるんだ、鈴凛?」
  「マスターって呼ばなきゃダメだよ、メカアニキなんだからさぁ」
   俺の質問を流し、そう要求してくる。俺はなんかだんだん嫌な予感にとらわれてきた。「なあ、まさか……?」
   鈴凛に問いかけようとして、俺は言いとどまった。ちゃんと断ったんだ。そんなこと言うはずが──
  「じゃあ、メカアニキ。これ買って」
   言った。堂々と。
  「さっき言ったろ、金ないって」
  「メカアニキなんだからマスターの言うことには絶対服従なんだよ!」
  「そんなこと知るか!!」
   俺が反論すると、鈴凛はメカ鈴凛の肩を抱いた。
  「マスターには絶対服従だもんね、メカ鈴凛?」
  「はい、マスター」
   実に楽しそうに確認する。
  「さっき言ったろ、鈴凛……」
  「マスター!!」
  「さっき言ったろ、マスター」
   仕方がないので言い直す。それにしても、このアンテナ意味あるのか。まあ、そんなことはどうでもいいが。
   俺が言おうとするより先に、鈴凛が口を開く。
  「じゃあ、メカアニキになってくれないんだ。なんでもしてくれるって、嘘だったんだ」
   悲しみの口調で言い、鈴凛は俺を見る。俺は、鈴凛の顔をちゃんと見ることができなかった。
  「いや、その、なんだ……」
   しどろもどろになりながら何とか反論の糸口を見つけようとした。しかし、
  「ね、半分にしてあげるからさ、買って」
    鈴凛の甘い声に、もう俺は逆らえなかった。

  「メカアニキ、お茶」
  「へいへい」
  「メカアニキ、肩叩き券作るの手伝って」
  「それ、俺に売るんだろ?」
  「はーい、つべこべ言わないで作る。それが終わったら庭に穴掘って」
  「おい、何する気だ!?」
   とまあ、こんな感じで俺はこき使われた。払ってくれなかった分働かせるつもりらしい。
  「じゃあ、これが最後の命令ね」
   鈴凛の口からその言葉が出たのは、だいぶ日が傾いてからだった。
  「どうぞ、ごなんなりと」
    何度も使って言い慣れた。頭を下げるのも忘れない。
  「今日は泊まってって」
   ちょっと恥ずかしそうに言う鈴凛。俺はため息をついた。明日は学校がある。
  「鈴凛……明日は」
   言いかけて、止められた。鈴凛の指が俺の唇を押さえつけた。
  「マスターだよ。メカアニキ、調子が悪そうだし、メンテナンスしてあげないとね」
  「……何する気だ?」
  「ふふ、秘密」





あとがき
ども、葉坂沙希也です。ここには初投稿ですね。
アイディアはあったんですが、どうやって話を進めていこうかってところでまよいまして、
結局流れに任せてこんなんになってしまいました。もう何がいいたいのかわけがわかりませんね。
いいんです。本人が一番わかってません。
最終的には、鈴凛にメンテナンスしてあげると言わせるのが目標だったので、良しとしましょう。
画・黒葉さん[HP]

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