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シスプリ劇場・桃太郎 作・葉坂沙希也さん
むかーしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでおりました。 おじいさん・花穂「なんで男の役になっちゃったのかなぁ?」 マジでトランプで決めたことなので仕方がありません。 おばあさん・亞里亞「……亞里亞、こんな汚い格好したの初めてです……くすん……」 桃太郎のおばあさんがフリルのついた洋服を着ていてはさまになりません。それで我慢しましょう。 おばあさん「くすん……分かりました……」 それはさておき、今日も今日とておじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。 おばあさん「……くすん、この板、どうやって使えばいいのか分かりません」 おそらく洗濯機の使い方すら知らないおばあさんは、洗濯板を持って川の前で立ち往生していました。 あきらめておじいさんに洗濯の方法を聞きにいこうとしたその時でした。 桃・咲耶「どんぶらこー、どんぶらこー……って、何で私が桃なの!?」 まあ、なんというかいろいろ諸事情がありまして。 桃「一歩譲って桃という役があることがあることは認めてあげるけど、それが何で私に回ってくるのよ!!」 いや、くじだし。 桃「もーいいわよ。次は主役をやってやるんだから」 ご理解ありがとうございます。 おばあさん「あの……姉やが恐いです……くすん」 おばあさんは桃の迫力に押され、一歩一歩川岸から離れていきました。 桃「あの、亞里亞……じゃなくておばあさん? あなたが私を拾ってくれないと話が続かないんだけど」 おばあさん「でも、亞里亞一人じゃとても拾えません……くすん」 桃「別に実際に拾わなくてもいいのよ」 桃はおばあさんに対して必死に説得工作を試みました。 桃「なんで工作なのよ?」 いや、なんとなく。そうこうするうちに、桃は川の流れに乗ってずんずんと流れていきました。 桃「ちょっと亞里亞、早く拾いなさいよ!!」 おばあさん「……でも川に入って濡れちゃうと、じいやにしかられちゃいます」 桃「作り物だから濡れないわよっ!!」 桃の叫びもむなしく、桃はそのまま流れていってしまいました。 桃「このあとどうするつもり?」 ……どうしましょう? おじいさん「花穂、桃切りたかったのに……」 かくして桃は川を下り、海へと流れていきました。そして、鬼が島へと流れ着いたのです。 赤鬼・衛「えっ、ボク達って出番もっと後じゃないの?」 油断していた赤鬼は普段着のままやってきました。 青鬼・雛子「おーにさんこちら、手の鳴るほーへ♪」 青鬼はちゃっかり着替えて現れました。 青鬼「あれ、なんで咲耶おねえたまがここにいるの?」 青鬼は珍しい漂着物をものめずらしそうに眺めていました。 桃「どうでもいいから早く誰か拾ってよ」 桃は投げやりにそう言いました。 赤鬼「……どうするの?」 青鬼「食べよーよ」 青鬼はさっそく桃を拾い上げました。 青鬼「でも切るのがないよ」 赤鬼「鬼だから叩けば割れるんじゃないの?」 早くもやる気をなくしている赤鬼の助言に従い、青鬼は桃、もとい咲耶の頭をぽんぽんと叩きました。すると── 桃太郎・四葉「チェキー!!」 元気な男の子が桃から飛び出してきました。 桃太郎「四葉はベリーキュートな女の子デスっ!!」 配役上の問題です。 桃太郎「そういうことなら仕方ないデス」 納得した桃太郎はあたりを見回しました。すると、自分を恐ろしい鬼が囲んでいました。 桃太郎「うーん、おかしいデス。たしかこの童話は、おじいさんとおばあさんに囲まれた主人公が、 やがて月に帰っていくはずなのに」 何かを勘違いしている桃太郎に、鬼を恐れている様子はありません。 青鬼「ねぇまもたん、桃食べようよ……」 赤鬼「そういうこと言ってる場合じゃないんだけど」 こうしてうやむやのうちに、鬼達は桃太郎を育てることになったのです。 赤鬼「いいのかなぁ?」 やがて大きく成長した桃太郎は、育ててくれた恩返しとばかりに、周囲の人間の弱みを握り、金品を要求したのでした。 鬼達の恐ろしさと、桃太郎の握った弱みによって、人々は素直に従うよりありませんでした。 桃太郎「チェキチェキー。今度は村長の娘を差し出すデス!!」 調子に乗った桃太郎はそんな要求を突きつけてきたのです。村長は娘を差し出すより他ありませんでしたが、 なるべくその期限を引き延ばし、近隣に鬼を倒してくれたら賞金を出すお触れを出したのです。 しかし、お触れを出したものの誰も名乗り出ず、娘は鬼に差し出されてしまったのです。 娘・春歌「あの、桃太郎にこんなシーンありましたっけ?」 桃太郎「四葉の調査によると、このあと竜宮城にご招待デスっ」 何かを勘違いしている桃太郎に連れられ、娘は鬼が島に行ってしまったのです。 そんな噂は、桃を拾い損ねたあのおじいさんおばあさんのもとにも届きました。 おじいさん「もう花穂の出番ないのかと思ってたけど……」 おばあさん「くすん……鬼さん恐いです……」 おじいさんとおばあさんは鬼をなんとかしたいとは思いましたが、年老いた二人にはどうすることもできません。 おじいさん「でも、こんな大金を用意できるなんて、村長ってお金持ちなんだね」 おばあさん「村長さんが住んでいるおうち、亞里亞の亀さんの小屋と同じぐらいです」 ???「その話、本当!?」 すると、突然叫び声が聞こえてきました。おじいさんとおばあさんが振り返ると、そこには一人の侍が立っていました。 おばあさん「はい。ちなみに名前はチャッピーです」 侍・鈴凛「いや、亀じゃなくて」 侍はおばあさんのボケを訂正し、話の通じそうなおじいさんのほうを向きました。 侍「っていうか、本当は私、桃太郎が宝を持って帰ってきたところを狙って返り討ちにあうって侍って役だったんだけど、 いいのかなぁ?」 おじいさん「気にしないほうがいいと思うよ」 自分の立場を確認したところで、侍は先ほどと同じ質問をしました。 侍「で、さっきの賞金が出るって話、本当?」 おじいさん「うん、これに書いてあるよ」 そう言って、おじいさんは回覧板で回ってきたお触れを見せてあげました。 侍「凄い、これだけあれば最新型のフォースソードが買える!!」 この時代にそんなものがあったかは分かりませんが、侍は俄然やる気を出しました。 おじいさん「でも、鬼は手ごわいですよ。あと、桃太郎も相当の使い手とか」 侍「大丈夫、正義は勝つから」 いまいち根拠に欠けるせりふでした。もともとこの侍はやられ役なのです。 しかし、このお侍さんなら鬼を倒してくれるかもしれないと思ったおじいさんとおばあさんは、 せめてもの気持ちということで、餞別をあげることにしました。 おばあさん「これを旅のお役に立ててください」 侍が受け取ったそれは、予想していたものとは違うものでした。 侍「これ……何?」 おばあさん「チョコタルトです。亞里亞のお気に入りです」 侍「チョコタルト?」 侍は視線をおじいさんのほうにやりましたが、おじいさんは苦笑していてとても助け舟を出してくれるようには思えません。 侍「あのさ、一応桃太郎なんだよ」 侍が諭すようにそう言うと、おばあさんは涙目になってしまいました。 おばあさん「みなさんに食べていただこうと思っていたのに……ダメですか?」 侍「OK、OK。チョコタルトおいしいもんね」 侍は慌てておばあさんをなぐさめました。 おばあさん「あと、もう1つお願いがあるんですけど……」 侍「……な、なに?」 侍は嫌な予感にとらわれながらも尋ねました。 おばあさん「四葉姉やにお名前付けたかったけどできなかったから、鈴凛姉やにお名前付けてもいいですか?」 確かに、おばあさんには「桃から生まれたから桃太郎にしましょう」というせりふが与えられていました。 侍「何で私に?」 なんとか回避を試みる侍でしたが、 おばあさん「やっぱりダメですか……くすん」 泣き出す寸前のおばあさんにかなうはずもありませんでした。 侍「あ、いや、いいけど……」 それを聞いて、おばあさんは機嫌を直して言いました。 おばあさん「じゃあ、フランソワ」 侍は、沈黙しました。 おばあさん「ダメですか……くすん」 侍「いや、いい。かっこいいよね」 おばあさん「かわいくないですか?」 侍「うん、かわいくもある」 かくして、桃太郎が宝を持って帰ってきたところを狙って返り討ちにあう侍、もといフランソワは鬼退治の旅に出かけたのでした。 フランソワ「……なんで私がフランソワなの?」 永遠の謎を残しつつ。 猿・白雪「桃太郎さん……じゃなくてフランソワさん。お腰に付けたチョコタルトと、 姫の作ったびき団子とどちらがおいしいか勝負ですわ!!」 突然やってきた猿は高々とそう宣言しました。 フランソワ「……びき団子?」 フランソワに反論の隙を与えず、猿はそのすばやさをいかしてチョコタルトを奪うと、 フランソワの口にびき団子とやらを詰め込みました。ちなみに、チョコタルトに負けず劣らずどす黒い色をした団子でした。 フランソワ「……うっ」 フランソワの視界がふっと暗くなると同時に、フランソワは倒れてしまいました。 一方の猿はチョコタルトの味に感涙して、フランソワの仲間になることになりました。 ちなみに、フランソワが起きたのは五時間後のことでした。 犬・千影「……チョコタルトはいいから……生き血をくれないか?」 次に現れた犬がそう言うと、どこからか泣き声が聞こえてきました。 犬「…………」 フランソワ「…………」 犬「……コホン」 犬はわざとらしくせきをすると、言い直しました。 犬「チョコタルトと生き血を……1対1の割合でくれないか?」 それでも生き血の線は譲れないようです。 猿「でも、チョコタルトと同等の生き血って、どのくらいですの?」 猿の疑問はもっともです。それについて、犬は答えなくてはいけません。幕の外から、熱烈な視線を感じているからです。 犬「…………………………」 フランソワ「……………………」 猿「…………………………」 奇妙な沈黙の後、犬は答えました。 犬「…………致死量かな?」 フランソワ「なんでよ!?」 結局犬は生き血の線をあきらめました。 雉・可憐「♪フーランソワさん、フーランソワさん。お腰につけたぁチョコタルト、1つ私にくださいな」 あくまでまじめな雉は、せりふが変わっているものの台本通りに現れました。 もっとも、もはや台本など意味を無くしてしまいましたが。 フランソワ「うう、なんか救われた気分になるよ」 雉「でも、この先どうなるの?」 それは誰にも分かりません。 そして、猿、犬、雉を仲間にしたフランソワは、鬼が島に乗り込んだのです。 フランソワ「このフランソワって何とかならないの?」 不可抗力に苦悩しつつ、フランソワ一行は鬼が島にたどり着きました。 赤鬼「…………本当はここでボク達の出番だったのに」 同じくことの展開に苦悩する赤鬼は、鬼が島の城門を締め切ってしまいました。しかし── 桃太郎「ここまでデスっ!!」 桃太郎は城門の外で一行を待ち受けていました。 雉「人間のくせになんで鬼の肩なんか持つの!?」 桃太郎「話の展開上、こうするのが人情ってもんデス」 雉の非難を、桃太郎はあっさり流してしまいました。 犬「まあ何にせよ……一人で私たちに立ち向かおうとは、いい度胸だね…………」 猿「そうですわ。姫の新しい料理の実験台になっていただきますわ」 配役と言動が関係なくなってきたのは気にしてはいけません。 さて、桃太郎はにやりと人の悪い笑みを浮かべると、背中から一冊のノートを取り出しました。 猿「はっ、それはまさか!?」 桃太郎「そう、これは白雪チャマ、もとい猿の日記の原本。ちなみに写本は四葉が大切に保管してるのよ」 そういって桃太郎はウインクを1つよこしました。 桃太郎「それでは朗読させていただくデス」 猿「いやーんですのぉ」 桃太郎「じゃあ無駄な抵抗はしないデスか?」 猿はこくこく頷きました。 桃太郎「まずは一人目撃破」 得意げに胸を張ると、その視線は雉に向きました。 雉「な、なに?」 雉はなるべく視線をそらそうと努力をしましたが、そらした方向にいちいち入ってくる桃太郎に観念して正視することにしました。 桃太郎「ふふふ、可憐チャマ、もとい雉のほほえましいエピソードをここで発表しちゃいます」 水を得た魚状態で生き生きとした桃太郎。 桃太郎「雉は兄チャマのためにピアノを一生懸命練習いているんデス」 雉「そ、それがどうかしたの?」 もともとはったりとかが得意でない雉は、早くもどきどきしていました。 桃太郎「しかもあろうことかオリジナル!! これを兄チャマの誕生日に聞かせようって魂胆丸見えデス」 徐々に、雉の顔は真っ青になっていきました。 雉「その、まさか……」 桃太郎「ちなみにこれがEVERGREEN〜お兄ちゃん大好き〜っていう小洒落たタイトルのオリジナル曲を収めたカセットテープよ。 これを兄チャマの誕生日前に公表すれば、どきどき感半減デス」 雉「やめてぇぇぇぇ!!」 はげしくいやいやと首を振り、雉は床にへたり込みました。 桃太郎「ふっ、二人目も撃沈デス」 さすがは地域住民を恐怖のどん底に陥れた桃太郎です。やることがえげつないです。 桃太郎「これは配役上仕方ないことなのっ!」 開き直りも一流の桃太郎の次なるターゲットは、犬でした。 犬「ふっ……私の秘密を暴けばどうなるか……分かっているのかい?」 桃太郎「………………」 桃太郎の視線はフランソワに向かいました。 フランソワ「ちょっと、配役上仕方ないとか言ってたのはなんだったのよっ!」 フランソワが抗議しましたが、桃太郎はやはり保身に走ったのです。 桃太郎「とにかくフランソワの秘密を先に暴くのっ」 フランソワ「もとい、とか言ってくれないの?」 桃太郎「よく見るとフランソワ顔してるからいいんデスっ」 フランソワ「断じて違うっ!!」 フランソワはなけなしの抵抗を試みましたが、当然のように失敗に終わりました。 桃太郎「とにかく、フランソワは窃盗したことがあるのよ。兄チャマのサイフからこっそりお金を抜いているところを 四葉は目撃してしまったわっ」 そして桃太郎は、やはり背中から証拠写真を取り出しました。 桃太郎「ふふふ、これを兄チャマが知ったときの、兄チャマの失望した顔がありありと思い浮かんじゃいますね」 フランソワ「ああ、それはちょっと……」 フランソワも桃太郎の前に敗れ去ろうとしたその時です。 ぷちんっ…… 何かが音を立てて切れたようです。 桃太郎「……な、何?」 桃太郎の目には、ゆらりと立ち上がる雉の姿が写りました。 桃太郎「何デスか? まだ四葉に反抗する気なの?」 桃太郎の声は心なしか揺れていました。それもそうでしょう、雉から発せられるオーラの凄まじさと言ったら、 そこいらの山の1つや2つは消し去ってしまうような迫力があったのです。 雉「桃太郎さん……こういうときにぴったりの言葉って知ってる?」 桃太郎は質問には答えず、ただただ引き下がっていきます。その距離を、雉も詰めていきました。 なかなか返事をしてくれない桃太郎に、雉は特上の笑顔で答えてくれました。 雉「それはね……死人に口なしよ」 桃太郎「ひぃぃぃぃぃぃ」 とびっきりの狂気がこもった笑顔でそういう雉に桃太郎は腰を抜かしてしまいました。 雉「くちばしアターック」 桃太郎「痛いデスっ!」 雉「羽ビンターッ」 桃太郎「ひぃぃぃぃぃぃ」 雉「かかと落としぃ!!」 桃太郎「うぎゅぅぅ」 雉の攻撃は目を覆うばかりの陰惨さでした。 猿「……可憐ねえさまって、怒ると凄いんですわね」 フランソワ「可憐を実験台にするのはやめよう……」 犬「…………同意見だね」 かくして桃太郎は雉の活躍によって退治されたのでした。 その後、フランソワ達は鬼のいる城に乗り込みました。 しかし、もとよりやる気をなくしている赤鬼は素直に投降してくれました。そして、青鬼は猿の餌付けの前に屈したのでした。 赤鬼「ああ、ボク達ではかなわないよ」 どこか棒読み口調で赤鬼は言いました。 青鬼「けど、ヒナ達よりももっともっと強い黒鬼さんがいるんだよ」 そう言うと、黒鬼が村長の娘に抱えられて現れたのです。 フランソワ「……抱えられて?」 そうです、黒鬼はなぜかぐったりとしていました。 娘「あの、鞠絵さん、いえ黒鬼さん、待っている途中で倒れてしまって……」 娘が事情を説明してくれました。 黒鬼・鞠絵「…………………………あうぅ」 犬「…………………………」 猿「…………………………」 雉「…………………………」 フランソワ「…………………………」 赤鬼「…………………………」 青鬼「このびき団子、おいしいね♪」 娘「…………………………」 静寂の後、 フランソワ「じゃあ、村長の娘返してもらってもいい?」 赤鬼「……どうぞ」 こうしてフランソワの活躍により、地域に平和が戻ったのでした。 おしまいあとがき わーい、なんだか知らないけど適当にトランプで配役決めたらこんなんになっちゃいました。 いかがでしたか? ちゅうか配役決めた時点では、「ああ、画面がチェキで埋まるな」ってくらいにか 思ってなかったんですけど、ふたを開けてみればおばあさんがでしゃばるでしゃばる。 いきなり桃が拾えないという異常事態でちょっと困りましたね。 桃太郎を雉が倒すことになるとはまったく予想できませんでしたし。シスプリのパワーを感じてしまいます。
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