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ある探偵の日々〜コタツ〜
作・葉坂沙希也さん


  雪が降り積もっているわけでもない。
  それでも、木々は寂しく枝そのままの姿をさらけ出し、時々吹く北風に身を震わせていた。
  待ちゆく人々の服装はみな厚手のものだ。
  それでも、人々は背を丸め、できるだけ寒さを感じないように歩き、去っていく。
  何となく、静かな雰囲気。
  要するに冬であった。
  四葉とその兄勇一が住む家も、当然冬支度を終えていた。
 「むむむむむ……」
  そんな中、今日は訳あって四葉は兄の帰りをつけずに家に帰っていた。
  目の前には背の低い机がある。上には板が置いてあり、その間から毛布やカバーが飛び出している。
  いわゆるコタツというやつである。
 「暖炉がよかったのに……」
  ──暖炉の近くに佇み、暖をとる名探偵。
  そんな姿にちょっぴりあこがれていた。そうして暖を取りつつも、その視線は薪とともに燃えていった証拠物件を
  しっかりとつかんでいる。あるいは、なぜ犯人はすすもつけずに煙突から侵入できたかをとうとうと語る。
  などなど、暖炉や煙突には事件性がある。
  なのにコタツ!!
  このほのぼのとした雰囲気を見よ!!
  事件性のかけらもないじゃないか。
  故に、四葉は日本にきて始めて見たコタツに少なからず興味を抱いてはいたが、以上の理由で昨日出したコタツを拒否したのだ。
 「兄チャマが帰ってくるのは1時間ぐらい先デス」
  そう、あんなことを言って断った手前、兄や両親の前でコタツに入るわけにはいかない。
  だから四葉はこっそり入ることにしたのだ。既にスイッチは入れてある。ストーブはタイマーが入って勝手についた。
  それにしても、なぜストーブがあるのにいちいちコタツをつけるのだろう?
  どちらも暖房器具らしいが、なんとなくクーラーを入れながら扇風機を回しているような無駄さを感じる。
 「そろそろかな」
  緊張した面持ちで一歩一歩四葉はコタツに近づいていく。
  このコタツとやらはいかなる効果を生み出すものなのか。
  四葉はそっと足をコタツの中に入れた。
 「あったかーい♪」
  はじめこそたいした効果を感じなかったが、徐々に足が暖まっていく感覚に、四葉は素直に感動の声をあげた。
  確かにストーブだけでは足は暖まらない。
 「ダメダメ、四葉はあくまで兄チャマの嗜好をチェキしてるだけなんだから」
  建前は兄チャマの好きなことの実施調査である。
  勇一は、やっぱり冬はコタツに入ってみかん食わなきゃなと昨日言っていた。
  とりあえずチェキチェキノートにコタツの効能をメモしておく。
  みかんを用意できなかったのが非常に残念だ。
 「次は内部調査よっ」
  そう宣言し、四葉はコタツの中にもぐりこんだ。
  中は赤い光がとうとうと照らされている。
 「やっぱりあったかいデス」
  さすがに光の真下では熱いが、毛布の近くによっていれば心地よい暖かさである。
 「ふぁ……」
  そうこうしているうちに、だんだんと眠くなってきた。
 「ちょっとぐらい……大丈夫デスっ」
  つぶやくとともに、四葉の瞳がゆっくりと落ちていった。

 「ただいま」
  勇一が帰ってきたのは、四葉の調べ通り1時間後だった。
 「四葉、いるのか?」
  珍しく後をつけられなかったのでちょっと心配していたのだが、靴があるところを見ると既に帰ってきていたらしい。
  後をつけられてないと不安になる妹というのもどうだろうとは思うが。
 「俺の部屋のぞいてんじゃないだろうな?」
  人の部屋は勝手に覗くなと、一応倫理観の問題なので注意はしてある。が、部屋を覗いても特に荒らされた様子はなかった。
  四葉の部屋をノックしてみるが、返事がない。仕方なく、勇一はリビングに下りた。
 「……ん?」
  そのリビングに昨日置いたコタツのうえに、見覚えのあるメモ帳が置いてあった。
  チェキチェキノートと書いてあるのだから間違いない。
 「四葉、中にいるのか?」
  勇一は毛布をひょいっと上げると、そこには眠りこけている四葉の姿があった。
  昨日あれだけ反対してたのに……。
  呆れながらも、興味津々な様子を隠し切れていない四葉の顔を見ているだけに、やっぱりなとも思えておかしかった。
  もともと四葉は好奇心が旺盛すぎるほど旺盛なのだ。目の前にある新しいものに興味を惹かれないわけがないのだ。
  もうちょっとかわいい寝顔を見ていたいが、コタツで寝ると風邪をひくらしいので、仕方なく起こすことにする。
  何度かコタツで寝たが、風邪をひいた覚えはない。
 「よ・つ・ば、起きろ」
 「ん、んんっ」
  体を揺さぶられ、四葉がゆっくりを目を開けると、そこには微笑みを浮かべている勇一がいた。
 「あ、あ、兄チャマ!!」
  ガンッ!!
  慌てた四葉は立ち上がろうとしてコタツに思いっきり頭をぶつけた。
 「ううっ、痛いデス」
 「何やってんだよ?」
  頭をさすりながらコタツから出てきた四葉に、勇一は呆れながら手を差し出した。
 「で、コタツは探偵っぽくないから嫌なんじゃなかったのか?」
  後頭部をさすってやりながら、四葉といっしょにコタツに入る。同じ場所から入っているのでちょっと狭い。
  勇一のすぐ右側には、四葉のぬくもりがあった。
 「その……そうデス、これは兄チャマの好きなことを実際にチェキしてみただけだモン」
 「じゃあ、これが足りてないんじゃないか?」
  勇一は、今日買ってきたみかんの袋を取り出した。
 「うっ、それはその……」
  本当はただ入ってみたかったなどとは言えない。
  四葉の動揺を見透かした勇一だったが、あえて触れずに、テレビのチャンネルをつける。
 「コタツにみかん、そしてテレビ。日本文化の極みだな。食えよ、みかん」
  袋からみかんを取り出して、四葉に渡した。
  勇一がさっさと剥いていくのに対し、四葉の手つきはたどたどしい。四葉が皮を剥き終えるときには、勇一は筋まで取っていた。
 「おまえ、皮剥くの遅いな」
 「兄チャマが早すぎるだけデスっ」
  なんとなく負けたのが悔しくて、四葉はみかんを一つとって食べた。
 「おいしい」
 「だろ、食わず嫌いはダメだぞ」
  その後、二人は適当にテレビをみながした。
 「もうそろそろ帰ってくるかな、母さん」
  勇一がコタツから出ようとしたときだった。
 「…………すぅ」
  ちょっとした重みが肩にかかった。
  何となく雰囲気を察した勇一は、コタツから出るのをやめた。
 「だからコタツで寝ると風邪ひくんだってば」
  そんなこともお構いなく、四葉は小さな寝息を立てている。
  吸い込まれそうな寝顔に、勇一は逆らわなかった。
  そっと、ほっぺに顔を寄せる。
 「また秘密ができちまったぞ」
  まあ、しばらくこうしておくか。勇一もまた眠りの中に入っていった。

                            (コタツ・終わり)
  あとがき

  ようやくお礼のSSを書き上げることができました。
   ベルナールさんピンズありがとう。
  本当は3部作のほうが響きがかっこよくていいかなとか思ってたんですがね……。
  とにかく他の妹を出さずに頑張りました(可憐はまあ、他の人の妹ということで)。

  コタツに四葉がくつろいでる姿が妙にはまってると思ったので書いてみました。
  誰よりもコタツが似合うキャラじゃないかな、なんて書きながら思いました。
  話としては、まあそんなに工夫がないかな。



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