back top next
earth messenger 作・葉坂沙希也さん
まだ、5人目は見つからないらしい。
気づいていてもいい頃なのに、5人目なんていないなんて。
ギリギリの決断も、身を切るような想いもすべて通り越して、全部無駄だったってことだけがこの胸に途方もなく深いくさびを打つの。
絶対に抜けない。傷口を凍てつかせるから。そしてこの体に根を張るの。
それでも、痛みだけは感じない。ただ、悲しいだけなの。……何が悲しいか分からないことが。
絶対はないって言葉、あれは嘘。
今感じてるもの、それはすべてなの。それが絶対なの。
どんな嘘の記憶を植え付けられても、どれだけ馬鹿らしいことに騙されていても、それを信じるものにとっては絶対なの。
信じるものは救われるの。疑って、それが嘘だったって、虚構だったって、知らなくて済むから。幸せでいられるから。
それだけの話。
けど、私は今、疑っている。
記憶の片隅に、私のすべての気持ちはきっとこれだけじゃないって、そう言ってる自分が聞こえるの。何かが私から欠けているの。
……申し遅れました、私の名前は可憐です。
記憶喪失なんだって。
「……可憐くんの様子はどうだい?」
千影の呼びかけに、花穂はため息をついた。その千影は、右足を石膏で固め、松葉杖をついている状態だった。
花穂は花穂で、おでこのところにシップをはって、長いすに腰掛けていた。花穂は振り返り、答える。
「……窓の外見て、ボーっとしてるだけだよ」
「そうか……」
病室のネームプレートには、可憐の名前が書かれていた。病院は、繁盛という言葉を使うべきなのかどうか迷うところだが、
それなりに人通りが多く、ざわざわとしている。それがかえって気を紛らわしてくれる。
いま、水を打ったように静かだったら、花穂は泣き出してしまわない自信がない。
「春歌お姉ちゃまの方はどうだったの?」
「……姉さんのことなら……心配ないよ」
千影がふっと微笑む。いつもは何を考えているか分からない千影だったが、こういうときはやっぱり頼りになる。
そんな、こころから安心できる微笑みだった。その微笑みも、ゆっくりともとの無表情に戻っていく。
「ただ……しばらくは絶対安静らしい……。…………あと数時間もしたら麻酔も解けるだろう……。明日にでも見舞いに……行くかい?」
「うん……」
そうは言ったものの元気なく、花穂は目の前の病室に視線をやった。
可憐はしばらく一人にしてほしいと言って、花穂を外に出したのだった。
「……気になるかい?」
「だって、花穂のせいで……」
思い出すだけで、辛い。
「……あれは、花穂くんのせいじゃ……ないよ」
「けど……花穂何にもできないし。お姉ちゃまたち、花穂の事かばって」
「……守りたいから守ったんだ」
千影は器用に松葉杖を扱い、花穂の隣に座った。
「でも……花穂、辛いよ……。春歌お姉ちゃまは重症で、千影お姉ちゃまも足を折っちゃって、可憐お姉ちゃまは記憶喪失で──」
花穂の言葉が、千影によって遮られた。
「お姉ちゃま……」
窮屈そうに体をひねり、千影は花穂の肩をつかむと自分の方に寄せた。
「みんな生きている………いや、仮に死んでも……きみを守るんだ……」
瞳に偽りはなかった。その光が辛いのに……それが自分に向けられていいはずがないのに。
それが、花穂の心をかきむしるのに……。苦しくなって、前も見えなくなって、こうやって、視界を曇らすことしかできないのに。
「花穂……お姉ちゃまたちのために何かしてあげたいのに……いつもいつもドジばっかりしちゃって、だから、
何かしてあげたいっていつも思ってたのに……何でいつもこうなのかな? なんで花穂には何もできないのかな……」
「……それは違うよ」
そのまま、千影は花穂を抱きしめる。花穂には、千影の吐息も鼓動も、自分の中に住まうかのようにそばに感じた。
だから……暖かくて、ほっとできて。だけど……いつかそれが消えてしまうのが怖くて、そんな息吹を犠牲に生きているように錯覚して。
「きみは……暖かいよ……。それで、十分だから……」
「……それだけじゃ、嫌だよ」
ゆっくりと、千影の足に響かないように、花穂は千影の腕をほどいた。
「……ちょっと、外に行ってくるね」
花穂がその場を立ち去るのを、千影は何ひとつ言わずに見送った。
そで口が濡れているのは、千影は花穂の涙なのだと錯覚した。
──たくさん涙を流した人間ってのは、それだけ多くの苦しみを乗り越えたんだから、本当はもっと強くなってもいいのにな。
泣くことは、前に進むことじゃないよ。
確か、自分ではない誰かが言っていた。
「……調子はどうだい?」
私が思い出そうとした瞬間、千影お姉ちゃんが病室に入ってきた。
「うん、別に痛いところはないよ」
私がそう答えると、お姉ちゃんはそうかとつぶやいた。いつも、お姉ちゃんはそっけない。
「まだ……思い出してはいないようだね……」
ため息をつくお姉ちゃんは、近くの椅子に座りにくそうにして座った。松葉杖をついているのだ、ちょっと苦労すると思う。
私なんかよりも、お姉ちゃんがベットに座っていた方がいいと思うんだけどな。
一番上の春歌お姉ちゃんが気絶しているらしいから、次にお姉ちゃんの千影お姉ちゃんが、いろいろみんなの世話とか、親戚に連絡とかしなきゃいけない。
「りんごでもむいてあげよう……」
そう言うと、お姉ちゃんは置いてあったりんごとナイフを持って皮をむき始めた。
思わず見入ってしまうほど、するすると皮がむけていく。
「お姉ちゃん、可憐より上手……」
普段は私と春歌お姉ちゃんがお料理担当だ。千影お姉ちゃんがお料理するところなんて、そういえば見たことない。
「…………料理は下手だよ」
お姉ちゃんは、私の心を読んだかのようにそう答えた。
「だって、そんなに上手なのに?」
「ナイフの使い方がうまい人間が……必ずしも料理が得意だとは限らないだろう……」
お姉ちゃんらしいものの言い方だ。それに、なんだか説得力がある。
「それに……私の料理……食べる勇気があるのかな?」
微笑を浮かべ、お姉ちゃんはりんごの皮をむき終えると8つに切った。
「大丈夫……これは切っただけで料理じゃない」
こちらがなにか言おうとする前に、お姉ちゃんはまず自分で切ったりんごをかじった。それに習って、私もりんごをかじった。
うん、おいしい。
「姉さんは……大丈夫だそうだよ。……絶対安静らしいけどね」
千影お姉ちゃんが姉さんと呼ぶのは春歌お姉ちゃんだけだ。私たちは4人姉妹。私はその3番目。
上から春歌お姉ちゃん、千影お姉ちゃん、私、そして花穂ちゃん。お父さんもお母さんも、もういない。
2年前に事故で亡くなったの。………。私はもう1つりんごをかじった。
「今日のお見舞いは……もう時間的に無理だろう。明日にでも行こうか……」
「行っても大丈夫なの?」
春歌お姉ちゃんは重体って聞いてる。千影お姉ちゃんは軽く頷いた。
「見た目ほど……大したことはなかったそうだよ……。……それにしても」
いったん言葉を切って、お姉ちゃんは私を見た。
「人は、何のために泣くんだろうね……」
「……お姉ちゃん?」
何のことか、何を答えていいのか、私にはとっさには分からなかった。
「確かに、きみの言う5番目は……もういないかもしれないな……」
独り言じゃないかと、私は思った。話に脈絡がないような気がする。案の定、お姉ちゃんは私の答えなど待たぬまま、言葉を継いだ。
「それでも、忘れたままでは……何にもならないかな……。それとも………そのほうが……幸せなのかい?」
──けど、涙を流す場面を考えてみれば分かるよ、きっと。いつ、どんな風に……。
どこだっていいのに、そんなことに深い意味があると思うかい?
「そんな風に呼ばずに普通に呼んでくれよ」
「いいんです、ワタクシが納得していれば」
そんな風に強引に押し切って、春歌はその人のことをこう呼んだ。
──兄君さま。
光が眩しく、瞳に差し込んでくる。春歌は動かない体を意識して、自分が生きていることに気が付いた。ここはどこだろう……。
考えなくても、分かることではあったが、意識のはっきりしない、そして考えること以外しようがない春歌にとっては、ゆっくり考えることができる最良の手段だった。
首を動かすのも一苦労だったが、動かせないことはなかった。
自分の心臓が動くたびに、あの機械は無機質な音を立てるのだろう。もっと楽しげにならないものか。
聞いているだけで滅入ってしまう。気分を害されたといえば、慰謝料を払ってくれるだろうか。
……普段、こんなことは考えもしないのに。
また、眠気が襲ってくる。心地よいものだ。
「兄君さまは……無事か…し…ら……」
その声が、空気を震わせることはなかった。
──やっぱり、意味はないんだよ、それ自体にはね。けど、痛いほど伝わってくるよ。
君の気持ちのほんの一部、とっても純粋な部分がさ……。
「……そうですか」
それは翌日のこと。千影は、暗い声を隠そうともしなかった。
説明を受けた医師に一礼し、千影はその部屋を出た。
「……やはり、5番目はいなかったようだね」
その方が、可憐にとっては幸せだろう。知らないことは、罪だったりもするが、幸せだったりもする。
情報とは違って選んだりできないのだから……。
自分が選んで、それを与えないことは、正しいのだろうか?
しかし、可憐はそれを持つか持たないか選ぶことができない。それが記憶なのだから。
ちなみに、花穂は学校に行っている。大した怪我はしていないのだ。休ませても仕方ない。あくまで判断は花穂に任せた。
無理して行かせても、仕方ない。今日は可憐の退院の準備をしなくてはならない。
記憶、それもある特定の人物の記憶だけがぽっかり抜けているだけなのだ。
体は元気なのだから、これ以上入院されても費用がかさんで仕方がない。親がいなくて、千影と春歌と可憐のバイト、花穂の内職で生活費をひねり出している身としては、あまり病院に厄介になってもいられないのだ。
彼女が持っているのはその関係の書類だ。
その中に1枚、可憐とは関係ない資料があった。──死亡証明書。
宮田和哉、20才。
つい最近知り合った人だ。
可憐が知らなくていい人物だ。
こんなことなら、自分だって知りたくなかった。
──だからもう、僕のことは忘れていいよ。泣くだけじゃ強くなれない……泣いたあと、どうするか、それがすべてだよ。
私は何もすることがなかったので、外を眺めていた。といっても、近くにあるのは病院の他の建物。
隙間を縫うように、町並みとか、山とかが見えるけど、殺風景といってしまったほうがいい。
「お邪魔します」
すると、聞きなれない声が私の耳に届いた。そっと振り返ると、そこには男の人が立っていた。
何か小さな箱を持っている。きれいな箱だった。
「……あの、どちらさまですか?」
男の人は私の質問なんか聞こえてないかのように病室に上がりこんできた。
ここしか空いてなかったそうなので、私の病室は個室だ。なぜだか、怖い感じは抱かなかった。
普通なら、ナースコールでもしているだろう。不審者だと勘違いされても、この人に文句は言えないはずだから。
男の人はそのまま近くにあった椅子に座った。
「……プレゼント。渡せなかったからね」
唐突に、私は胸を締めつけられた。
あの小さな箱から流れ出したメロディ。
それがなんなのか、今の私には分からなかった。そう、今の私には。
違うの、きっとどこかに置いてきてしまった私が、今の私の中に入り込もうとしてるの。自分を守るために、私は苦しんでるの。
暖かな、そんな私を包み込んでくれるようなメロディ。
そのオルゴールを持つ男の人は、そのメロディにふさわしい微笑みを浮かべていた。
「喜んでくれたかい?」
「……あ、あの」
幻だった。そう思いたい。一瞬だけ、その人の微笑みが消えたんだ。ううん、無表情になったとか、そういうことじゃないの。
向こう側が見えたの。真っ白な壁が。でも、自分の外にいる私が、それが真実だと悲鳴をあげる。ありえないことなのに……。
「僕がいなくなったら……きみは泣くのかな?」
その言葉は、オルゴールの音が止まった瞬間に──
「消えた……」
男の人は、姿を消していた。何事もなかったかのように、また私は一人取り残される。
……違った。
そこに、オルゴールだけはあった。そして、誰もいないはずなのに、誰かがぎゅっぎゅってねじを回し始めた。
誰もいないんだよ。ほんとうに。けど、ねじが回って、またあのメロディが流れはじめたの。
私じゃない私が、くすくすと笑い声を上げた。
……聞いたことがあるんだよね、あなたは。
でも私は知らなかったの。知っていたくなかったの。あなたのことを殺してしまいたかったの。
……ごめんなさい。これからはいっしょに生きていこうね。
わがままかもしれないけどね……。
──だから、泣かないでいいから。一人で泣いて、そのままきみがどこかに行ってしまうんじゃないかって……それだけが怖い。
花穂は今、学校の屋上にいます。ほんとはきちゃいけないんだけど、保健室の先生が特別に連れてきてくれました。
「どう、気持ちいいでしょ」
「うん、先生ありがとうございます」
風がビュンビュン吹いてきて、とっても気持ちいいの。鳥になったみたい。それにね、遠くまで見渡せるの。
花穂、高いところあんまり好きじゃないけど、でもここはとっても素敵。
じゃあ、いままで起こったことを説明します。
花穂たちは4人姉妹でした。そこに10日ほど前、義理のお兄さんという人がやってきました。その人の名前は和哉さんです。
花穂たちのお父さんは再婚で、和哉さんは再婚する前の子供だそうです。
花穂たちのことは知っていたそうですが、急に会いに行っても驚くだろうし、ちゃんと定職についてから会おうと心に決めていた。
そうです。それで、仕事が決まったので花穂たちのところに会いに来たのです。和哉さんのお母さんもなくなっているそうで、兄妹なんだし、一緒に暮らさないかとのことでした。
そのことに関してはあらかじめ手紙をもらっていたので、花穂たちは話し合ってその話を受けることにしました。
そして、3日前、花穂たち5人は旅行に出かけました。お兄ちゃまの運転する車で、2時間ぐらいのところです。
貧乏生活だったけど、みんなで旅行に行くために貯金していました。花穂は割り箸を袋に入れる仕事とか、頑張ってやりました。
花穂はまだ小学生なのでアルバイトはできません。可憐お姉ちゃんは中学生だけど、近所の子供の家庭教師をしたりしています。
個人だからアルバイトではないそうです。そこのところは花穂にはよく分かりません。
花穂はお姉ちゃまたちと違って頭があんまり良くないので、家庭教師はできません。
えっと、それで旅行にいったんだけど、そこでおっきな地震が起きました。そこで可憐お姉ちゃまと和哉お兄ちゃまが、花穂たちとはぐれてしまいました。だから、可憐お姉ちゃまがどうしていたかは分かりません。だから花穂のことを話します。
花穂と、千影お姉ちゃまと、春歌お姉ちゃまは、次々に倒れてくる家とかを必死によけて、安全な場所を目指しました。
それでも、花穂たちのほうに電信柱が倒れてきたときはどうしようもありませんでした。…………。
花穂は、そのあと必死で助けを呼びました。ただ泣いていただけだと、そのとき意識のあった千影お姉ちゃまは言っていました。
でも、二人とも死んじゃうんじゃないか、そのときは混乱していて、気づいたら病院にいました。
可憐お姉ちゃんとも、その病院で会いました。でも、和哉お兄ちゃまのことを聞いても、誰だか分かってない様子でした。
これが記憶喪失だということに、花穂は気づきませんでした。記憶喪失って、みんな忘れちゃうことだと思っていたからです。
嫌なことだけ、辛いことだけ忘れることもあるそうです。
お兄ちゃまはまだ見つかってないそうです。
まだ瓦礫の下にいるのかもしれません。とっても心配です。
今日は可憐お姉ちゃまが退院します。そのときに春歌お姉ちゃまのお見舞いに行きます。何を持っていったら喜んでくれるかなぁ。
──泣くことに、意味はないよ。ただ、泣いたあと、その涙を無駄にしないことが、ぼくたちにできることじゃないかな。
そのために、生きてる。……いや、生きていくんだよ。
私は憂鬱だった。
兄くんが見つかっていない、あれは嘘だ。そんなことを言ってどうなる。泣き虫の花穂に言って、これ以上泣かれたら、私は対処の仕方を知らない。慰めるのは、春歌姉さんか可憐か、どちらかの仕事なのだ。可憐は兄くんのことを忘れている。
願わくば、そのままでいてほしい。辛さを可憐に与えることに意味があるのか、私には分からなかった。
兄くんは可憐とともに発見された。可憐をかばったのか、ひどい怪我だった。
そのときに私は悟った、兄くんは十中八九、助からない。
私は可憐の病室に向かった。退院の手続きは済んだ。あとは荷物をまとめて、お見舞いに来る花穂を待っていればいい。
可憐はこのままでいい、自分で言い聞かせながら、私は可憐の病室に入った。
すると、不思議な違和感を感じた。それとともに、オルゴールの音が響く。
「……これは?」
疑問を持ち、解決するまでにそれほど時間はかからなかった。その答えが、重くのしかかるだけで。
「お姉ちゃん……」
可憐は、慌てて袖を顔にあて、こすった。そんなことをしても、赤くなっている目を見れば何があったかなどすぐ分かる。
何年可憐の姉をやっていると思っているのだろう。
「………思い出したのかい?」
ゆっくりと、可憐は頷いた。
「……お兄ちゃんがね、これを持ってきてくれたの」
その手には、先ほどから柔らかな音を響かせるオルゴールがあった。
旅行に行ってきたところに売っていたものだと、私には分かった。しかし……
「兄くんは……」
「知ってるよ、可憐が一番……」
私の心を見透かしたかのように、可憐は静かに言った。私を見るでもなく、可憐はそっと瞳を閉じた。
「お兄ちゃんは私をかばったの。だから知ってる、お兄ちゃんは助からないんだなって」
私が言いたかったのは、そういうことではない。死んでいる兄くんが、ここまでオルゴールを持ってこられるはずがない。
兄くんにそんな力がないことは知っている。
「大丈夫……可憐はもう大丈夫だよ」
可憐の言葉が、胸に響いた。強い娘だ……。
私は病室を出た。そして、我が目を疑った。
「兄くん……」
そこには、死んだはずの兄くんが立っていた。当の兄くんは、病院だから静かにしろとでも言いたげにくちに
人差し指を当てていた。どこか飄々としたところがある。死んでも変わらないらしい。人差し指を口から離し、
「ごめんな千影」
「何を……」
その兄くんの言葉に私はたじろいだ。ただ何をするでもなく、兄くんは笑っているだけだった。
「世話の焼ける妹の面倒を、もう少しぐらい見ていたかったよ」
「なら……これからでも見てくれればいいじゃないか」
「知ってるだろ、無理だって」
私は周りなど見えても聞こえてもいなかった。だた、内からこみ上げてくる何かに身を任せて、がむしゃらに叫んでいた。
「こんなに早く死んじゃうなんて……あんまりだ!!」
私は兄くんのもとに駆け込んだ。松葉杖を懸命に操り。あのぬくもりを、あと一度だけ……。
「ごめんな……」
しかし、私が兄くんに触れることはなかった。すうっと、兄くんは消えていった。
「うっ……うっ……わああぁぁぁぁぁ」
もう、何がなんだか分からなかった。
あれから、3ヶ月経ちました。
ワタクシの怪我も回復し、今日はワタクシの快気祝いと、
「お兄ちゃん誕生日おめでとう!!」
兄君さまのお誕生日のパーティーです。え、死んだんじゃないかって? 確かにそうです。
けど、一回もお誕生日を祝ったことがないんですから……せめて一度だけ。そう、みんなで決めました。
千影ちゃんと可憐ちゃんが兄君さまと会ったとき、ワタクシも兄君さまに会っていました。夢の中です。
まだ目覚めていませんでしたから、そのときは。きみが今まで頑張ってきた分、代わりに頑張ってあげたかった、
そう言い残して、兄君さまは消えてしまいました。お見舞いに来たとき、花穂ちゃんも興奮気味に兄君さまに会ったと話してくれました。
ちゃんとみんなのことを気遣ってくれた、それだけで十分……なわけもなく、こうやってお誕生日を祝ったりしているのです。
もっともっと、してあげたいことはあったのに。
風のように去っていった兄君さまへ。
今日も、みんな元気です。
ただ、明日ぐらい帰ってきてくださいね。 (終わり)
あとがき
珍しく2日で書き上げました。僕にしては早いです。
はじめの文章書いたときに、戦隊物にしようとしていたのは公然の秘密です。
5人いなきゃ様になんないのに4人しかいなくてがっかりしてるっていう。
……次の作品はそれだね。
いつもギャグっぽいの書いてるんで、たまにはこういうのもいいかなって思いました。
ちょっと分かりにくかったですか?
こう、自分的にはこみ上げてくるものがあったんですが、
それを書き表す術が自分にはないことを改めて痛感した作品でした。
精進精進。
ちなみになぜこの4人かというと……ある共通点があるからですよ。
和哉にもありますよ、それは。すっごく単純です。
葉坂沙希也への感想はこちら hasakasakiya@hotmail.com back top next