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リボンつきの翼
第八話「風を斬る剣」

作者 ファルクラムさん


「これが、君が言っていたナイツ候補かね中佐?」
軍服を着た初老の男が、テーブルの端に座っている藤岡に話し掛けた。
その初老の男を始め、10人弱の人間が四角いテーブルを囲んで、手元の資料に目をやっている。
そんな彼等を、第407飛行集団飛行隊長藤岡順二中佐は、黙って見据えている。
今回藤岡は、ある議題を検討する為にISAF司令部のあるノースポイント連邦首都ノーザンブルクに召喚されていた。
その議題と言うのは、ある数人のパイロットに空軍最大の栄誉である「ストームナイツ勲章」を授与すると言う物だった。
ストームナイツ。それは、技量最優秀者に送られる勲章で、元々はストーンヘイジに制空権を握られた状況でエースパイロットになり得た者に送られていた。最盛期は50人以上のナイトが存在したが、長引く消耗戦とストーンヘイジ攻撃作戦失敗などで、今では藤岡一人のみとなっていた。
「しかし、やはり問題があるのではないか?」
先程とは別の男が口を開いた。
「得にこの最後の人物、明らかに規定外だぞ。」
その声に、居並ぶ幕僚の何人かが頷く。しかし藤岡はひるまなかった。
「問題は規定ではないはずです。現にその子のお陰で、いくつかの作戦が勝利に導かれた事は確かです。」
その言葉に、幕僚達は再び資料を見ながら唸る。
「いずれにせよ……」
藤岡は、締めくくるように言った。
「次の作戦が終わってから、この事を本格的に検討していただきたい。」
そう、既に次の作戦は始まろうとしていた。

ユージア暦2007年1月3日。新年の祝賀も明けぬこの日、エルジア軍に占領されたアルトーラ国の港湾都市ポートエドワーズを偵察した戦略偵察機U−2が、そこに集結しているエルジア軍の存在を察知した。
現在、ポートエドワーズの北方にあるセンナ半島の先端に位置しているセントアーク市では、ISAF北部方面軍が残存戦力をかき集めて立て篭もっている。エルジア軍の狙いは間違いなくセントアーク市だった。セントアーク市はISAFにとっては最後の大陸拠点である。ここを失えばいずれ予定している大陸反抗に大きく修正を加えねばならなくなる。そうなると当然、反撃のタイミングも大幅に遅れてしまうだろう。何としても失う訳には行かなかった。
そこでISAF上層部は、陸、海、空の三軍を結集し、全力で迎撃する作戦を打ち立てた。
現在、セントアーク市にはアルトーラ国軍3万と、ISAF派遣軍1万5000の、合計4万5000名が展開している。対して、ポートエドワーズ市に集結したエルジア軍はおよそ12万と考えられている。まともにぶつかって勝ち目はない。そこで、できるかぎりエルジア軍をセントアーク市に引き付け、戦線が伸び切った所で海軍と空軍が側面から波状攻撃を掛ける作戦を打ち出した。
エルジア軍は既に、昨年末のコンベース港強襲でエイギル艦隊を失い、長引く消耗戦で空軍の主力をすり減らしている。つまり、大陸東部に限って言えば、制空権、制海権、ともにISAFが握っているのだ。今回のエルジア軍の総攻撃も、言わば起死回生を狙ったギャンブル的な要素が強かった。
それでもエルジア軍は、この作戦に旧フェイスパーク連邦共和国、並びにアルトーラ国に展開しているほぼ全軍を投入していた。

滑走路に歩いてきた葵と衛の目に、2機の戦闘機が映り込んだ。
1機はF/A−18Eスーパーホーネット、そしてもう1機は、F−2バイパーゼロ。どちらもISAF技術開発研究所が総力を傾けて設計、開発を行った、大陸反抗の為の新たなる翼、その第一陣である。まだ量産が始まったばかりだが、その先行量産品のうちの1機が葵と衛に割り当てられたのだ。
葵に言わせれば、
「体の良い実戦テスト。」
との事だが、新型機を優先的に回してくれたのは、悪い気はしない。
この2機は、ノースポイント連邦で製造された為、機体コードの最後に頭文字のNがつく。すなわち本来の機体コードは、F/A−18ENとF−2Nと言う訳である。ちなみに、葵がこの間まで使っていたフランカーは旧コフィンブルク共和国で製造された為、スホーイ27Kとなる。
F−2はこれまで衛の愛機だった、F−16ファイティングファルコンを改造した支援戦闘機である。全長15・52メートル、全幅11・3メートル、全高15・52メートル、最高速度マッハ2、長距離対艦ミサイルを運用可能な他に、若干のステルス性能を備え、電子機器も最新鋭の物に換装されていた。もちろん、優れた空戦性能も備えている。
「…………」
衛は無言のまま、バイパーゼロの青いボディを見上げている。
そんな衛の肩を、葵がポンと叩いた。
「あにぃ。」
衛は笑顔を浮かべて、葵を見上げた。
「もう、こいつには慣れたのか?」
「うん。訓練で何回も飛ばしたからね。」
「そうか。」
葵は衛の両肩に手を置いて言った。
「お前はもうエースだ。今のお前が新型機を使えば、誰にも負けないだろう。」
「あにぃ……」
衛は、嬉しそうに頬を赤くする。
「だがな、慢心はするな。空に上がったら自分が嵐の前の木の葉だと言う事を忘れるな。」
「うん。分かった。」
「よし。」
そう言って葵は、自信の新たなる愛機、スーパーホーネットを見上げた。
コンビナート襲撃の際、黄色の13こと、村岡虎太郎少佐と交戦し大破した葵のフランカーは、結局ボディーの損傷が激しく、修理に暫く掛かるらしく、これ幸いと、技研の方からスーパーホーネットの実戦テストの依頼があったのだ。
スーパーホーネットはノーマルのホーネットを大型化した機体で、全長18・31メートル、全幅13・62メートル全高4・88メートル、最高速度マッハ1・8を誇っている。機体を大型化した関係で、航続力、エンジン出力、兵装搭載量が増加していた。さらに、この葵のスーパーホーネットに限り、バルカンを本来の20ミリから、一発の威力が高い30ミリに換装している。葵は元々射撃には自身がある為、装弾数よりも一発の威力を重視したのだ。これにより、このスーパーホーネットは葵のオリジナル機となった。
以前のフランカーと比べて、若干機体が小さくなったが、その他の面では葵を満足させるには充分だった。
「頼りにしてるぞ、衛。」
そう言って葵は、衛の頭をポンッと叩いた。
「あにぃ。」
衛は、恥ずかしそうに微笑んだ。
そんな2人の微笑ましい光景を、スーパーホーネットとバイパーゼロの尾翼に描かれた青いメビウスリングが、陽光に反射して煌いた。

1月7日、早朝。セントアーク南方ロブナ海岸。
セントアーク市南方に張られたISAF最終防衛ラインは、降りしきる雪の中で着々と増強が進められていた。
エルジア軍はISAFの三倍の兵力を擁している。もし作戦が失敗すれば、防衛線は吹雪きの前の紙切れに等しい。兵士達は祈るような気持ちで、援軍の来援を待ち望んでいる。
「寒いなあ……」
前線で歩哨に立っていた少年兵が、赤くなった鼻を啜りながら、エルジア軍が現れるであろう南の方に目を向けた.
「飲むか?」
そんな少年兵の傍らにいたベテラン兵士が、ブランデーの入った水筒を渡した。
「いえ、僕は未成年ですから。」
「ここでそんな事を言っとると、凍えてしまうぞ。ほれ!」
そう言うと、水筒を押し付けた。
少年はややためらいながらも、水筒に口を付けた。
「ゲホッ!ゲホッ!ゴホッ!」
余りにもきつい味に、少年はむせいだ。
「ハッハッハッ!どうだ、体はあったまったか?」
しかし、少年は答える事ができずにまだむせいでいる。
「それが飲めるようになったら、お前も一人前だ!」
「はっ、はい!」
少年が慌てて返事をした時だった。
降りしきる雪の白いスクリーンの向こう側から、何かが聞こえてくる。
「…………?」
「どうした?」
「いえ…………何か聞こえませんか?」
そう言うと、2人は耳を澄ませる。
「…………何も聞こえんぞ?」
「いえ……確かに……」
次の瞬間、確かに分かるほどはっきりと、風を切る音が聞こえてきた。
「まずい、砲撃だ!!逃げ……」
ベテラン兵が叫んだ時、降ってきた複数の砲弾が二人の肉体を引き裂いた。

 エルジア軍は巧妙だった。
 制空権がISAF側に傾きつつある現状では、空軍の援護はそれほど期待できない。ならば空軍を必要とはしない状況で進撃すればいい。確かに現代戦では、空軍の援護は絶対的に必要になる。対地支援攻撃、上空直援、迅速な物資の空輸、これらのように空軍の果たす役割は大きい。まともな精神を持つ指揮官なら、空軍の援護無しでの進撃は、自殺行為以外の何者でもない事が分かるだろう。しかしアルトーラ国ではこの時期、空軍の援護無しで制空権を取れる方法があった。
 それは数日間に渡って吹き荒れる、猛吹雪だった。
 凍てつくような吹雪は上空に乱気流を巻き起こし、航空機の運用を不可能にする。そうなれば、地上兵力に勝るエルジア軍の方が有利である。そこを突いてきたのだ。
 ISAF陸軍が数日かけて作り上げた防衛線は、エルジアの大軍の前に次々と破られていく。まさに予想し得ない最悪の事態と言えた。
 猛吹雪の下進撃してきたエルジア陸軍は12万の大軍を一点に集中させ、一気に防衛線を突破した。
 この事態にISAF上層部は、完全に虚を突かれた。
 空軍の主力は飛び立つ事ができず、派遣した海軍も、まだ攻撃ポイントに着いていない。
 このままでは、遠からず北部方面軍は壊滅し、セントアークは陥落してしまうだろう。

「クソッ!!」
 藤岡は、壁に拳を叩き付けた。
 既に第407飛行集団の各機は出撃準備を整え、滑走路に駐機してある。
 しかし今だに、出撃命令は出ない。戦場上空の制空権が取れないのだ。
「…………」
「隊長……」
 飛行集団副隊長を務めている高士が、話しかけた。
「我々だけでも出撃しましょう。このままでは陸軍は壊滅してしまいます!」
「だめだ。今、アルトーラ国では各地で猛吹雪が起こっている。このまま出撃すれば、我々の大半は戦闘ではなく事故で殉職する事になる。許可できない。」
「…………」
 藤岡の言葉に、高士のみならず全員が黙り込んだ。
「とにかく、お前たちはしばらく現状維持、すなわち待機だ。」
 それだけ言うと、藤岡はブリーフィングルームを出て行った。
「困ったわねえ。」
テーブルに頬杖をついて、咲耶が呟いた
「上空に乱気流があったんじゃ、飛行機は飛べないし……」
「しかしこのままでは、陸軍の方々が……」
春歌も、不安そうに顔を伏せる。
「だが、大勢で押しかけていって、戦果ゼロな上、大半が事故で殉職とあっては目も当てられないぞ。」
葵の冷静な言葉に、一同は再び下を向く。
既に第407飛行集団のパイロット全員が、パイロットスーツに着替えて出撃の気合は充分である。しかし、出撃命令は今だ降りない。
「…………」
葵は無言のまま天井を睨む。
その時ふと、隣に座っている千影が机の上に何かを広げているのに気付いた。その傍らでは、衛が机に頬杖を突き興味深そうに観察している。
「?」
横から覗き込むと、それが千影愛用のタロットカードである事が分かった。
「千影?」
兄に呼ばれて、千影は振り返った。
「やあ、兄くん。……今、この作戦の……正否を占っている所だよ……」
「……ほう?」
葵は少し興味を持って、身を乗り出す。この絶望的な状況の中だ。何かしら明るい材料が欲しい所だった。
「…………」
千影は裏返したタロットカードに人差し指を置く。
その様子に、葵、衛、咲耶、春歌が食い入るように見やる。
千影はゆっくりとタロットカードをめくった。
「…………」
「どうなの、千影?」
咲耶が、衛の上から身を乗り出して尋ねた。
「咲耶あねぇ、重い……」
と言う、衛の抗議は取りあえず無視された。
「先に吹く……嵐……」
千影は、低い声で結果を告げた。
その明らかに絶望的な結果に、一同は落胆の色を隠せないでいる。
しかしそんな中で一人だけ、希望を捨てないでいる者がいた。
「もう一度やってみろ。」
葵は言った。
「未来は、不動の物ではない。つねに揺れ動いている。そうだろ千影?」
それを聞いて一瞬呆気に取られた千影だったが、すぐに口の端に笑みを浮かべて兄を見た。
「そうだね……兄くんの言う通りだ。」
千影はそう言うと、もう一度タロットカードを切って、目の前に並べる。
いつの間に来たのか、回りには信悟、高士、富永の三人がいた。
千影はしばらくタロットカードを並び替えたりしていたが、最終的に五枚を選んで目の前に並べた。
一同は、一斉に生唾を飲み込む。
千影の優雅な手つきで、その内の一枚に人差し指を置く。
全員が一斉に身を乗り出した。
千影は、ゆっくりとタロットカードをめくった。
「…………」
「「「「…………」」」」
千影は、ゆっくりと結果を告げた。
「閉ざされる……道……」
ガタタタタタタ
一斉に崩れ落ちる一同。
「もっ、もう一回よ千影!!」
人の下敷きになりながら、咲耶が叫ぶ。
「私は別に、構わないが。」
そう言うと千影は、再びタロットカードを切り始めた。

そんな馬鹿騒ぎがブリーフィングルームで行われている頃、隊長室に1人篭った藤岡は、机の上で手を組んで思案に暮れていた。
彼の耳には、大陸での戦況が克明に入ってきている。
戦況は最悪と言えた。当然であろう。地上兵力は3対1で圧倒的に不利なのである。予定していた海軍の支援砲撃も、予想外の吹雪と海面の荒れでまだ始まっていない。このままではセントアークの陥落も時間の問題だった。
藤岡は立ち上がると、せわしなく部屋の中を行き来する。
先程から何度も気象観測班に電話を入れ戦場上空の天候を問い合わせているが、答えは全て一緒、「出撃は不可能」の一点張りだった。
「………どうしたら良い?」
誰に尋ねるでもなく、藤岡は呟いた。
その時ふと、机の上に無造作に置いておいた書類に気付いた。
「…………」
何気なくそれを手に取ると、ストームナイツのメンバー候補の名簿だと言う事が分かった。
「…………」
藤岡は暫く書類に目をやっていたが、やがて何ごとか決意したように顔を上げて、再び気象観測所に電話を掛けた。

「……絶望の……風……」
「「「「はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜」」」」
ブリーフィングルームでの騒ぎは更に拡大され、もはや全パイロットが千影の回りへと集まっていた。
それだけ皆、暇なのである。
既に千影のタロット占いも数十回に達しているが、いまだに良い結果は出ない。しかし、こんな事で諦めるようでは、エルジア軍に勝利する事などできようはずも無い。
「「「「千影、もう一回だ!!!!!!」」」」
一同は一斉に叫ぶ。もはや目的と手段が入れ替わっている事に、気付いている者は誰一人として存在しなかった。
千影のタロットを切る手も、いい加減つかれてきている。
最後の賭けとばかりに、全員が祈るような気持ちで千影の手元を見る。(実際、祈っている者は何人もいる。)
一同のちょっとずれた期待を一身に背負って、千影はカードをめくった。
「…………」
「…………」
一同は、食い入るような目で、千影を見た。
「…………」
しかし千影は、もったい付けたようにカードを睨んだまま動かない。
「どうした、千影?」
不振に思った葵が、千影に尋ねた。それに対して千影は、ゆっくりと顔を上げた。
「……風を斬る…………剣……」
その、明らかにこれまでとは違う結果に、一同は顔を見合わせる。
その時ブリーフィングルームの扉が開いて、藤岡が入って来た。
「これから名前を呼ぶ奴は、俺と一緒について来い。」
普段ならこんな馬鹿騒ぎを放っては置かない藤岡だが、事は急を要するらしく、早々に用件に入った。
「河村高士大尉、鎌田信悟大尉、大谷二郎大尉、上杉葵中尉、富永紀人少尉、上杉咲耶少尉、上杉千影少尉、上杉春歌少尉、上杉衛准尉。以上だ。」
呼ばれた9人は、首をかしげながらも藤岡に続いた。

藤岡は9人を連れて隊長室に来ると、開口一番言った。
「この場にいる10人で、特別攻撃隊を編成する。」
「「「「え!?」」」」
一同の顔に、驚きの色が広がった。
「質問があります。」
この中で最年長者の大谷が、挙手をして尋ねた。
「戦場上空は乱気流が吹き荒れていると聞き及びましたが、そちらの方は大丈夫なのですか?」
大谷の質問に、藤岡は首を横に振った。
「残念だが、後半日は晴れないそうだ。しかし、それを待っていたら防衛線は破られてしまう。」
「では、我々に死ねと?しかもこの数では、できる事など高が知れていると思うのですが?」
「いや……」
藤岡は、ニヤリと笑って答えた。
「エルジアはあれだけの大軍を繰り出してきている。当然、どこかで統括指揮を行っているはずだ。そこを叩く。」
「でも……」
咲耶が口を開いた。
「敵の司令部も、一緒に前線に移動してるんじゃないですか?」
「いや……」
咲耶の疑問に、高士が答えた。
「あれだけの大軍だ。吹雪の中で指揮統括はできないだろう。となれば、どこか、吹雪の当たらない所に、情報集結地点があるはずだ。」
「そうだ。」
藤岡が言った。
「敵は、吹雪の層が比較的薄い地点に総司令部を置いている。そこは……」
藤岡は、壁に書けた地図の一点を差した。
「ポートエドワーズだ。」
それを聞いて、一同は納得したように首を振った。
「我々はここを叩く。敵はこちらが航空機を出せないと思って油断しているはずだ。必ずうまく行く。」
そこまで聞いて、今度は葵が手を挙げた。
「この攻撃隊のメンバーに、俺達を選んだ理由は何ですか?」
もっともな質問だった。一同は食い入るような目で、藤岡を見る。しかし、
「秘密だ。」
そう言って藤岡は、珍しく含みのある笑みを見せた。
「「「「?」」」」
「さあ時間が無いぞ。早く支度しろ。」
今一つ納得の行かない一同を、藤岡は急かした。

エルジア軍前線司令部の置かれたポートエドワーズ市に、次々と戦況が伝えられてくる。
それらは全て自軍の優勢を示していた。
この地は元々、アルトーラ国の首都だったのだが、エルジア軍の侵攻によりアルトーラ国軍は首都を放棄、セントアークに行政府を移して抵抗を続けているのだ。
奇襲によってISAFの前線部隊を壊滅させたエルジア軍は、各所で戦線を突破し、徐々にセントアーク市に迫っていた。このまま行けば、明朝にはセントアークに突入できるだろう。
「みんなご苦労だな。」
エルジア軍司令官は、自ら入れたコーヒーを持って通信室を訪れた。
「これは司令、ありがとうございます!!」
暖かい湯気の立つコーヒーが、一同の鼻孔をくすぐる。
「しかし司令。考えた物ですね。吹雪きの下を進撃しようだなんて。」
「まあな、この時期、この国だからできる戦術だ。」
司令官は一口コーヒーを啜る。
「普通に生活する分にはこんな嵐、迷惑以外何者でもないが、制空権が取れない状況でなら、これほどありがたい物ではない。」
「今ごろ、ISAFの連中、慌てているでしょうね。」
「違いない。きっと、降伏文書の作成に追われている事だろう。」
それを聞いて、一同は笑い始めた。彼等の中では、既に勝利は確定したものとなっていった。
まさか今、自分達の頭上に嵐を切り裂く剣が振り下ろされようとしているとは、夢にも思っていなかった。

猛吹雪の影響による、強烈な横風のが吹いている。 少しでも気を抜けば、あっという間に舵を取られそうだ。
そんな中を、8機の戦闘機と1機のE−767が風を切り裂いて飛行している。
「クッ!!」
 横風にあおられた衛が、傾きかけた機体を必死に操作して傾きを修正する。
 そんな衛を気遣うように、葵が機体を寄せてくる。」
「衛、できるだけスティックを固定して横滑りしないようにしろ。」
「うっ、うん、分かったよあにぃ。」
 そうは言ったものの、葵を含む他の皆もどうにかバランスを保つので精一杯だった。
「ストーンウォールより各機へ、スロットルを絞りすぎるな。前線よりはましだが、やはり普段よりも横風が強い。それから、ポートエドワーズ上空は、風はそれほどでもないようだが、雪が降っていて視界が悪い。高度を落しすぎないように注意しろ!」
「「「「了解!!」」」」
アレンフォートを離陸した特別攻撃隊は、一旦雲の上に出て吹雪をやり過ごすと、計器と咲耶の官制を頼りに、ポートエドワーズを目指していた。
風を切り裂いて突き進む8機の戦闘機は、まさにISAFが振るう、8本の剣のようだった。
「スカイアイより、各機へ!!」
咲耶から、通信が入る。
「ポートエドワーズ上空に到達、攻撃を開始してください!!」
それを聞いて、藤岡は大きく頷いた。
「ストーンウォールより全機へ、第一目標は敵の司令部だ!必ず叩き潰せ!!」
「「「「了解!!」」」」
コールすると同時に、7機の戦闘機は一斉に降下を開始した。
雲をつきぬけると、そこには降りしきる雪に包まれた港があった。
ポートエドワーズは、アルトーラ国最大の港町である。これほどの大きな港は、ノースポイントにはない。
「攻撃開始、アタック・オン!!」
藤岡の命令を受けて、各自散開を開始した。

突然の空襲に、エルジア軍司令部は蜂の巣をつついたような騒ぎとなった。
「誰だ、ここが攻撃される心配はないとか抜かしたのは!?」
「いつもこれだ。心配ない、我が軍は無敵だとか言っといて!!」
「早く何とかしろ!敵はもうそこまで来ているのだぞ!!」
完全にパニックに陥った司令部は、統率すらできずにいる。
「落ち着け!とにかく、空軍にスクランブル要請しろ!!」
「しかし、この吹雪では……」
「かまわん!!」
何か言いかけた仕官の口を、司令官は一言で封じる。
「何もしないよりはましだ!それに、一応、こうなる事を予想して待機はしているはずだ!」
そんな司令官の耳に、攻撃を告げる轟音が聞こえてきた。

何の迎撃を受ける事もなく司令部上空に達した8機は、抱えてきた兵装を一斉に投下する。
「シオン、投下!」
目を覚ましたようにように攻撃してくる対空砲火に向けて、信悟は翼下に吊るしたクラスター爆弾を投下した。
大型弾の中に内蔵された小型爆弾が一斉に降り注ぎ、対空砲陣地を制圧していく。
「シオン、対空陣地クリア!!」
 信悟のストライクイーグルに続いて、葵のスーパーホーネットと衛のバイパーゼロが突入する。
 この2機に向けて次々と対空砲火が打ち上げられてくるが、葵と衛はアフターバーナーを吹かして振り切る。
 そのダッシュ力に、衛は思わず口笛を吹いた。
「あにぃ、すごいね、このダッシュ力!!」
「感心してる場合じゃないぞ。対空ミサイルが狙っている。」
 葵が警告した直後、コクピット内にロックオン警報が鳴り響いた。
「10時方向に回頭、低空爆撃の一撃でしとめるぞ。」
「了解あにぃ!!」
 葵と衛は旋回しながら軽く機首を下げ、旋回を続ける対空ミサイルに狙いを定めた。
「メビウス1、投下。」
「2、投下!」
 2つの爆弾は慣性の法則にしたがって前方に打ち出され、そのまま吸い込まれるように目標となった対空ミサイルを粉砕した。
 それを確認して、今度は千影と春歌が空いた穴から突入すると、西側の建物に向かう。
2人のホーネットは、500ポンド爆弾を12発ずつ搭載してきている。
2人の目の前では、黒々とした学校の校舎のような建物が映り込む。
「ナイトメア1、投下。」
「ナイトメア2、投下!」
2人は一斉に手持ちの爆弾を投下した。
合計で24発もの爆弾を叩き付けられた建物は、窓と言う窓から一斉に炎を吹き上げて吹き飛んだ。
「ナイトメア小隊……ターゲットクリア。」
千影は炎上する建物を見て、薄く微笑した。

戦闘が開始してから、葵は自分の新たなる愛機に満足を覚えていた。これまで乗っていたフランカーと比較しても、旋回性能、加速力、FCS、航続力、兵装搭載量、対地攻撃能力、空戦能力など、あらゆる点で勝っていた。唯一劣っているのはマックススピードだが、これはこの際、大したハンデにはならない。一瞬で勝負がつくドッグファイトでは、マックススピードよりもダッシュ力の方が物を言うものだ。それに、カタログスペックがマッハ1・8でも、マッハ2以上出す方法などいくらでもある。以上の点から総合すると、スーパーホーネットはフランカーを大きく上回っていた。
一方の衛もF−2バイパーゼロの性能を気に入り始めていた。基本的にファルコンに対地攻撃能力を備えただけだと思っていたが、蓋を開けてみるとその旋回性能に驚かされた。これなら、イーグルクラスの敵と渡り合っても十二分に勝利できるだろう。
「メビウス1よりメビウス2、中央を見ろ。」
「え?」
葵に指摘されて、衛は機体を少し傾けて敷地の中央に目をやる。
既に、司令部東側の建物も、信悟と富永の攻撃で炎を吹き上げていた。
そんな中、一際目を引く少し小さ目の建物があり、さらにその上によく見るタイプの大型アンテナが見える。
「あれが恐らく敵の通信アンテナだ。そこから察すると、その下にあるのが通信室だろう。」
「じゃあ、あれを叩けば。目標達成だね。」
「恐らくな。よし、行くぞ。」
「了解、あにぃ!」
2人はアンテナの回りを一旦大きく旋回すると、捻り込むようにして目標の建物に向かう。
「衛、お前はアンテナの方をやってくれ。建物は俺が叩く。」
「分かったよ、あにぃ!!」
葵に言われた通り、衛は機種をややや落としてアンテナに接近する。
「メビウス2、投下!」
衛が投下ボタンを押すと同時にガコンと言う音が聞こえ、次いで12発の500ポンド爆弾が投下された。
「やった!!」
衛はそのまま機種を引き起こして垂直に上昇し、爆風から逃れた。
土台を吹き飛ばされた通信アンテナが、音を立てて倒壊していく。
その様を見て、今度は葵が爆撃コースに乗る。
通信アンテナを破壊し当初の目的は達した訳だが、ここは司令部を完膚なきまでに叩き潰して、今後の作戦を有利に進める必要がある。
葵は、爆撃照準機の中で徐々に膨れ上がる建物を見据える。
「メビウス1、投下。」
静かにコールすると、そのまま投下ボタンを押した。
慣性のついた爆弾はそのまま前方に撃ち出されると、狙い違わず目標に命中し吹き飛ばした。
「メビウス1、ターゲットクリア。」
葵は吹き上げる爆炎を眺めて、低く呟いた。
その直後、上空警戒にあたっていた咲耶から通信が入る。
「スカイアイより各機へ、敵司令部からの通信波が途切れたわ!作戦成功よ!!」
咲耶の嬉しそうな声につられて、一同の顔にも笑みが浮かぶ。
しかしエルジア軍も、司令部を叩き潰した葵達を、黙って帰すつもりはないらしい。
「スカイアイより各機へ、ベクター240より高速接近してくる飛行物体があるわ!」
それを聞いて、一同は再び表情を引き締める。
「ストーンウォールより各機へ、どうやら見送りが現れたようだ。構わないから叩き落とせ!」
「「「「了解!!」」」」
藤岡の命令を受けて、葵達は一斉に機首を引き起こした。

「青の1より各機へ、何としてもISAF機を叩き落とせ!」
「「「「了解!!」」」」
スクランブル発進した16機の青色中隊は全速力で司令部救援に向かったが、ついに間に合わなかった。
報告を聞いた時は、何かの冗談だと思った。この悪天候の中、飛行できる航空機があるとは到底思えなかった。
しかし、現実に敵は来た。そして、最重要拠点である前線司令部を壊滅させられてしまった。
こうなったら、やってきた敵を一機残らず叩き落とさねば憂さは晴れない。
「敵は少数だ、一気に掛かれ!」
「「「「了解!」」」」
16機のファルクラムが、速度を上げた。
それに対して葵達は、上方から覆い被さるように接近する。
今回は対地攻撃任務なので、藤岡と高士以外は皆、対空装備はサイドワインダー程度しか持ってきていない。
しかし、それで充分だと誰もが考えていた。

高士は、一機のファルクラムとヘッドオンで向かい合った。
まるで騎士の馬上試合のように、2機の戦闘機は高速で接近しあう。
不安定になりがちなヘッドオンの状態で、高士はファルクラムをロックオンする。
「アドラー、フォックス1!」
コールすると同時に、翼下に吊るしたスパローが、一旦下方に落ち込んでから、レーダーが捉えた目標に向かう。
「しまった!」
自分に向かってくるスパローを見て、ファルクラムのパイロットはとっさにチャフをばらまくが既に遅く、正面から叩き潰されるように破壊された。

先制攻撃を受けた事で、青色中隊の陣形は大きく乱れ始める。
「ひるむな!まだ、こちらが有利なんだぞ!!」
第2小隊長を務めている青の5が、部下達を叱咤してまとめようとする。
しかし、その青の5が操るファルクラムの背後に、春歌のホーネットがついた。
「もらいましたわ、ナイトメア2、フォックス3!!」
毎秒100発を誇る20ミリバルカンが、ファルクラムの尾翼とエンジンノズルをまとめて粉砕した。

藤岡は、3機ファルクラムから追撃を受けていた。
「どうやら、こいつが隊長機みたいだぞ!」
「面白ぇ、やっちまえ!!」
藤岡のトムキャットを見つけたファルクラムのパイロットは、興奮して叫ぶ。
それに対して激動の大陸戦線を唯一生き残ったストームナイトは、その口の端に不敵な笑みを湛えると、エアブレーキを開いて急減速を掛けた。それに伴い、トムキャットの最大の特徴であるオート可変翼が最大に開く。
「行くぞ。」
藤岡は低く呟くと、そのまま機体をバレルロールさせ、上空で直立させた。
「「「なっ!?」」」
その余りにコンパクトなバレルロールに、ファルクラムのパイロットは完全に度肝を抜かれた。
「もらった。」
藤岡は低く呟き、ヨーイングして機体を横滑りさせ、そのままバルカンを発射する事によって、弾幕射撃を展開した。
その蜘蛛の巣を連想させる弾幕にまともに突っ込んだ3機のファルクラムは、全てボディーを叩き折られ爆散した。

千影は、2機のファルクラムから追尾を受けていた。
「フッ……私に、来るのか……」
バックミラーで後方を確認しながら、千影は低く呟いた。
2機のファルクラムは、速度を上げて千影のホーネットをロックオンすると、アーチャーの発射体勢に入る。
しかし、
「甘い……」
呟くと同時に、千影のホーネットは2機の視界から姿を消した。
「どっ、どこに消えた!?」
「わからん、探せ!!」
次の瞬間、千影はファルクラムの背後に現れた。
「……その必要は……ない。」
まるで彼等の会話を聞いているかのように、千影は呟いた。それと同時に、向かって左側のファルクラムをロックオンする。
「ナイトメア1、フォックス2。」
翼端のパイロンから、白煙を上げてサイドワインダーが放たれた。
「しまっ!」
虚を衝かれたファルクラムのパイロットは、そのまま爆砕される。
千影はラダーを使って機体を横滑りさせると、もう1機のファルクラムを捉える。
「ふっ、フレアを!」
今度も千影がサイドワインダーを放ってくると思ったエルジア兵は、とっさにフレアを放出しようとする。
しかし、その間に千影は有効射程内に接近していた。
「ナイトメア1、フォックス3。」
レイピアを連想させる細い光が吸い込まれたかと思うと、そのままファルクラムは爆散した。

富永はループを描きながら、ファルクラムとドッグファイトを展開している。
そもそもイーグルとファルクラムは、機動性においてほぼ互角であるため、このような旋回戦は、なかなか勝負がつかないのだ。
「このままでは埒があかないか……」
背面飛行に入った時、富永は頭上の(と言う事は地面の方向)に存在する敵機を睨み付けた。
性能が同じなら、どちらかが根負けして離脱しない限りこのループは続く。
「よし!」
富永は決断すると、軽く引いていたスティックをさらに手前に引き、7Gの急旋回に入る。
「うおォォォォォォォォォォォォォ!!」
激しいGが富永の体を締め付ける。
しかし、鍛え抜かれた鋼のような肉体は、その衝撃に耐え抜いた。
そして今、富永の目の前には無防備のファルクラムがいる。
「タリア、フォックス3!!」
富永はすかさずバルカンを発射し、ファルクラムを撃ち落とした。

信悟は先程から、1機のファルクラムから追尾を受けている。
「しつこいなこいつ!」
背後から迫るファルクラムは、盛んにバルカンを放ってくる。
「何とかしろ、信悟!」
「分かってるよ!」
後席の大谷に怒鳴り返しながら、新語はスティックを操る。
元々ファルクラムは、F−14、15、16、18の各シリーズを機動性で上回る事を目的として作られた。その為、いかに最強の戦闘機と言う異名を取ったイーグルと言えど、一度背後に回られれば苦戦は免れない。
「よし、あれをやるか!」
信悟は軽く唇を湿らせると、スティックを引いて垂直上昇に入った。
ファルクラムの方も信悟のストライクイーグルを追って、上昇する。
「ようし、追ってこい、追ってこい。」
バックミラーで後方を確認しながら、信悟はほくそえむ。
やがて推力の限界に達したストライクイーグルは、空中で一旦吊り上った後、そのまま失速反転に入った。
「行ったぜ、テールスライド!!」
失速反転を終えた信悟の前に、呆気に取られているファルクラムが無防備に存在する。
「シオン、フォックス3!」
信悟はそのままバルカンを発射し、ファルクラムを撃ち落とした。

1機のファルクラムが衛のバイパーゼロを捉えて、アーチャーを放ってくる。
「そうはいくもんか!」
衛はフレアを放出してアーチャーの赤外線シーカーをごまかすと、そのまま木の葉が舞うように反転し、ファルクラムをオーバーシュートさせる。
その余りの機動力の前に、ファルクラムのパイロットは度肝を抜かれた事だろう。
その間に衛は体勢を立て直し、ファルクラムの背後につく。
「メビウス2、フォックス2!」
翼端に搭載されたサイドワインダーが、白煙を上げて飛翔する。
先程のバイパーゼロの気動力に目を奪われていたファルクラムのパイロットは、対応が一瞬遅れ、そのままサイドワインダーの直撃を受けて消し飛んだ。
「やったァ!」
喝采を上げる衛。
そんな衛に、新手のファルクラムが背後から忍び寄る。
「調子に乗るなよ!!」
ファルクラムは射程に入ると、バルカンを撃ち放つ。
しかし衛は、先程と同じように木の葉のような機動を行い、ファルクラムをオーバーシュートさせた。
「馬鹿な!!」
ふたたび背後につく衛。
「行くよ!メビウス2、フォックス3!」
今度はバルカンを発射した。
高速で撃ち出された弾丸は、そのままファルクラムの水平尾翼を破壊した。
尾翼を失ったファルクラムは暫くふらふらと飛んでいたが、そのうち支えを失ったように地上へと落ちていった。

葵は、背後から2機のファルクラムの追撃を受けていた。
どうやら敵は、葵を噂の「リボン付き」と見抜き、確実に仕留める気でいるらしい。
その内、2機のファルクラムは2発ずつ、合計4発のアーチャーを放ってきた。
「…………フン」
葵は鼻先で笑うと、そのままアフターバーナーを全開まで吹かして急降下に入る。
「血迷ったか、下は地面だぞ!!」
ファルクラムのパイロットは、喝采を上げてその様子を見守る。
しかし、
「…………」
葵は地面すれすれでスティックを引き、そのまま水平飛行に入った。
4発のアーチャーは、急激なスーパーホーネットの機動についていけず地面に激突する。
「何だと!?」
その神業に近いテクニックと葵の大胆な操縦に、ファルクラムのパイロットは目を見張った。
葵はそのままエンジン出力を上げて、上昇に転じた。
「……こっちの番だ。」
葵は下から突き上げるようにして、ファルクラムに接近する。
「メビウス1、フォックス3。」
葵は照準レティクルの中央にファルクラムの幅広いボディーを収め、トリガーを引いた。
強烈な30ミリバルカンの火線がファルクラムを直撃し、引き裂いた。
「…………」
葵は自分の戦果に酔いしれる事無く、次の目標に向かう。
もう一機のファルクラムは、上空から急降下する体勢で葵のスーパーホーネットに襲い掛かろうとしている。
「…………フッ」
葵は薄く笑うと、機体をロールさせて機首を90度下げ、空中で直立した。
「何ィ!!」
目標を失ったファルクラムは、そのままオーバーシュートする。
それを確認して葵は、すぐさま逆襲に入る。
「メビウス1、フォックス2。」
眼下を飛行するファルクラムをロックオンすると、そのままサイドワインダーを放った。
放たれた白銀の槍はそのままファルクラムを貫き、炎熱地獄へと放り込んだ。
「…………終わったか。」
葵は呟くと、機体を水平に戻す。
しかし、まだ終わってはいなかった。
突然、上空から明らかに敵意の篭った攻撃を受けた。
「っ」
葵はとっさに機体を捻って、その攻撃をかわす。
「よくもやってくれたなリボン付き!部下の仇だ!!」
怒り狂った青の1が、覆い被さるように葵に襲い掛かった。
青の1はそのまま葵の背後に回って攻撃を仕掛ける。
コックピットの脇を、ファルクラムのバルカンが駆け抜けていく。
「…………」
それに対して葵は機首をやや下げてスピードを稼ぐと、地面すれすれをかすめて急旋回に入った。
「無駄だ!」
青の1もそれを追撃して旋回に入る。
しかし一旦機首を下げてスピードを稼いだ分、葵の方が張るかに有利だった。
葵はそのまま小さい半径でループを行うと、青の1の背後に回った。
「メビウス1、フォックス2。」
翼端に一発だけ残ったサイドワインダーが放たれる。しかし、
「甘い!!」
青の1はフレアを放出して急旋回に入り、サイドワインダーを回避した。
「……もらった。」
葵は旋回で速度を落とした青の1に、急速に接近した。
「メビウス1、フォックス3!」
撃ち放たれたバルカンの嵐は、そのまま青の1のファルクラムを貫き、エンジンを爆砕した。

「スカイアイより各機へ、戦闘終了、敵機は逃げていったわ。」
咲耶の言葉通り、隊長である青の1がやられた事で、青色中隊は我先に逃げに転じた。
それに対して葵達は、追撃しようとは思わなかった。既に作戦目的は達している為、これ以上は戦うだけ無駄だと感じたからだ。
「ストーンウォールより各機へ。」
空中集合を終えた各機に、藤岡から通信が入った。
「猛吹雪に乱気流と言う悪状況の中、良くぞ成し遂げてくれた。私は、心から礼を言いたい。」
「そんな隊長。わたくしたちは、自分達の義務を果たしただけ。礼を言われる覚えはございませんわ。」
「春歌の言う通りです。」
高士が春歌の後を引き継ぐ。
「我々にしかできない。そう感じたから隊長は決断したのでしょう?」
「まあ、そうなのだがな。」
そう言うと藤岡は、思い出したように付け加えた。
「これで心置きなく、俺もお前達を推薦できる。」
「何にですか?」
衛が、キョトンとした声で聞いた。
「内緒だ。帰ったら話す。」
そう言って、藤岡は機首を巡らした。
葵達も首をかしげながら、藤岡に続いて機首を反転させた。
そんな彼等の行く手には、先程までの猛吹雪が止み、現れた陽光が大地を照らしていた。

一方、吹雪が止んだロブナ海岸の前線では、突如司令部からの指示が止まった事で、エルジア軍に深刻な混乱が起こっていた。
別命あるまで待機を命じる者、とにかく前進を続ける者、不安にかられ後退する者、各部隊がめいめいバラバラに行動を開始した為、各戦線はバラバラになっていった。
その為、ロブナ沖から近付く巨大な影に気付いた者はごく僅かだった。

「やってくれる。さすがは歴戦のストームナイト、藤岡順二中佐だ。」
海軍の軍服に身を包み、青み掛かった髪を持つ青年が呟いた。
彼の名は山神燦緒(やまがみあきお)海軍中佐。今回の作戦の、海軍側責任者である。
彼の乗る艦は、ノースポイント連邦海軍所属の戦艦ヴァルキリー。
基準排水量4万5000トン全長273メートル、全幅35メートル、最高速度34ノット、主武装は65口径40センチ自動砲を持つ最新鋭戦艦である。
性能的にはエルジア海軍のタナガー級戦艦より若干見劣りするものの、それでも電子機器などの周辺技術では遙に上を行っている。加えて、65口径40センチ自動砲は、毎分6発を誇り、極めて早いパンチを繰り出す事が可能だった。
ヴァルキリー艦長の燦緒は、自らマイクを取って上空に弾着観測に上がったAV−88ハリアーを呼び出した。
「ラグナロクよりスパイ1、聞こえるか?」
「はいはい、こちらスパイ1、良く聞こえるよ、あんちゃん!」
その元気な声を聞いて、燦緒は苦笑した。
「眞深、仕事中にその呼び方は止めろと言ったはずだ。」
「はいはい、分かってるよ、艦長。」
今、ハリアーに乗っているのは、燦緒の妹で山神眞深(やまがみまみ)大尉である。兄と同じく海軍を志し、こうして共に戦っているのだ。
気を取り直して、燦緒は続けた。
「地上の様子はどうだ?」
「う〜ん、みんな混乱してるよ。どう見ても指揮系統が維持されてるとは思えないね。」
「成る程な。」
燦緒は、口の端に笑みを浮かべた。
「よし、始めるぞ眞深!」
「了解、あんちゃん!終わったらカレー奢ってね!!」
「カレーは構わんが、その呼び方はやめろ。」
取りあえず眞深をたしなめておいて、すぐに燦緒は表情を引き締める。そして、右手を大きく水平に振った。
「戦艦ヴァルキリー、右転一杯!主砲、左砲戦準備!!」
「了解!!」
操舵手の蛇輪が回され、ヴァルキリーは右に回頭する。それに伴い、主砲は左へと旋回して行く。
「射撃データ、スパイ1とリンク、回線開け!」
「了解、回線、開きます!」
「自動射撃装置作動!、主砲仰角最大!弾種、クラスター砲弾を使用!!」
「了解!!」
眞深から送られてきたデータが、ヴァルキリーのコンピュータへ送られてくる。それに伴い、主砲が自動的に上下左右に動き、照準を付けていく。
「データリンク良し!」
「装填完了!!」
「自動照準装置、作動良好!!」
一息吸い込んで、燦緒は命じた。
「撃ち方始め!!」
次の瞬間、ヴァルキリーの9門の主砲が一斉に火を吹いた。

それからの戦場は、悲惨の一言に尽きた。
エルジア軍の頭上から降り注いだクラスター砲弾は、一斉射毎に炎の雨を降らせ、その度に、エルジア兵達は炎に蒔かれていった。
砲撃自体は30分少々で終わったが、その間にエルジア軍は全軍の約半数に当たる6万の兵力を失い、壊滅状態に陥った。
その後、追撃に出たISAF陸軍と、ようやく出撃可能になった空軍の攻撃にさらされ、さらに2万の兵力を失い、最終的にポートエドワーズに逃れる事ができたのは、4万に過ぎなかった。
これ以後、エルジア帝国軍アルトーラ方面軍は組織的な作戦能力を失い、セントアークへの侵攻が不可能となった。

「あにぃ、はやくはやく!遅れちゃうぞ!」
軍服の、第一種礼服に着替えた衛が、走りながら葵を急かす。そんな衛の後ろから同じく礼服を着た葵がついていく。
「そんなに急いでどうするんだ衛?まだ時間には相当あるぞ。」
「こういう事は一番乗りに意味があるんだよ!」
そう言うと衛は、また走り出した。
今日、葵、衛、信悟、千影、咲耶、春歌、高士、富永、大谷の9人は、ISAF空軍最高の栄誉と言われる「ストームナイツ」勲章を授与される事になった。これで、名実共にエースと認められた事になる。
一つ気になるのは、衛の事だった。
衛はまだ年齢的にも対象にはならないはずだ。しかし後で聞いた所、藤岡が上層部を説得してくれたと言う事が分かった。
「ねえ、あにぃ。」
「ん?」
いつの間にか側によってきていた衛が、見上げるようにして聞いた。
「これでボクも、一人前のエースなんだよね?」
「ああ、だが……」
「『絶対に慢心するな』でしょ?分かってるよ。」
「そうか…………」
葵は苦笑すると、衛の瞳をそっと眺めた。
「これからも、頼むぞ衛。」
「うん、こちらこそ!」
そう言うと二人は、互いの右手をしっかりと握った。
「さて、一番乗りするならこうしてはいられないな。走るぞ衛。」
低い声で告げると、葵は衛を置いて走り出す。
「あ!ちょっと待ってよあにぃ!」
急に走り出した兄の背中を、衛は慌てて追いかけた。
そんな2人を見詰めるように、風が一瞬、暖かく吹いたような気がした。

第八話「風を斬る剣」 おわり

あとがき

こんにちは、ファルクラムです。さて、今回はオリジナルバトルストーリーを取り扱いましたが、いかがでしたでしょうか?話の中で出でてきたセントアーク基地は、本編エース04では、ミッション3「北の目の破壊」で早々に放棄してしまうのですが、この作戦、何となく省いても進行に支障はないだろうと思って放置していましたら、このような所で役に立つ結果となりました。まさに怪我の功名と言う奴ですかね?
それともう一つ、今回は、アニメ版の重要キャラ山神兄妹を登場させてみました。この2人をどこかで出したいと思っていましたが、このような出場となりました。いずれまた出る事になりますで、どうかご期待ください。
さて、次回は鈴凛の話しを書きたいと思っております。それでは、今回はこれで。

追伸
最近気付いた事、葵君、全っ然エース04に出てくる機体使ってない。いーんかなこれで?

ファルクラム

 


ファルクラムさんへの感想はこちら
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