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リボンつきの翼
第六話「心、重ねて」

作者 ファルクラムさん


居並ぶパイロット達を前にして、遅れてブリーフィングルームに入って来たISAF空軍第407飛行集団飛行隊長藤岡順二中佐は、正面の台の上に立った。
「アテンション!!」
叫ぶような声と共に、全パイロットが立ち上がった。
「…………着席。」
それらを見回してから、藤岡は着席を命じた。
「さて、諸君。」
藤岡はファイルを開きながら、話し始めた。
「いよいよ、反撃の時が来た。約半年の長きに渡る苦しい戦いに耐え抜き、生き残ってくれた事を私は誇りに思う。」
そう言ってから、藤岡は背後に備えられたスライドをつけた。
「我々の攻撃目標はコンベース港と、そこに停泊するエイギル艦隊だ。開戦初期の連中の攻撃により、ISAF海軍は戦力の八割を失うという大損害を被り、以後の制海権はエルジア側に渡る事となったのは、今更説明するまでも無いと思う。その借りを叩き返す時がついに来たのだ。」
一同は、藤岡の演説を黙って聞き入っている。
その中には、葵達の姿もあった。彼等にとっても、待ちに待った反撃のチャンスなのである。
藤岡の説明は続いた。
「現在エイギル艦隊は、諸君等が行った破壊活動のおかげで、長くコンベース港に足止めされている。しかし、先日入ったスパイ情報によると、後二、三日で全艦の補給が完了し、出撃準備が整うとの事だ。そうなったら我々の敗北は確定してしまう。つまり、今が反撃の最後のチャンスなのだ。」
そこでスライドは切り替わり、コンベース港への侵攻経路が映し出される。
「作戦は、まず、北部方面の第501、502、503、504、505の各飛行集団が陸側から中高度で接近、敵制空隊の目を引き付ける。こちらは大半が制空戦闘機編成となる。彼らが敵邀撃部隊を引き付けている間に、我が第407飛行集団を含む四個飛行集団が海側から例によって低空で接近し、コンベース港上空に侵入、在泊艦艇に攻撃を加える。すなわち、陸海から同時挟撃を掛ける事になる。なおその際、町中を飛行する事になる事にもなるだろうから、くれぐれも建築物に激突しないように気を付けろ。」
そこでスライドが切り替わり、一隻の戦艦が映し出された。
「これが、エルジア海軍のタナガー級戦艦だ。五十口径五十六センチ砲三連装三基九門を誇る、エルジア海軍最強、という事は現時点でユージア最強の戦艦だ。エイギル艦隊にはネームシップのタナガーの他に、二番艦レイブン、三番艦ベルーガが配備されている。こいつが今回の最重要攻撃目標といっても過言ではない。確実に沈めろ。できれば三隻全部だ。」
続いて、今度は空母が出てきた。
「こいつはジオフォン級原子力空母。こいつは二隻配備されている。他にも軽空母が四隻配備されているが、こいつらが第二目標だ。と、言うより、先に制空権を確保しなければ行けない関係から、タナガー級戦艦よりも先に沈める必要があるだろう。まあ、そこら辺は現場で臨機応変に判断してくれ。」
その後も、イージス艦、ミサイル巡洋艦などが次々と紹介されていった。
一通り説明が終わると、藤岡はあらためて全員を見回し、言った。
「今回は、空軍のノースポイント撤退以来、最初の大作戦となる。しかし、戦争自体はまだ終わる訳ではない。全員、生きて再びここで会おう!」
藤岡が言うと同時に、一同は立ち上がって敬礼した。

「お久しぶりです上杉先輩。」
書類をまとめて立ち上がった葵の所に、一人の少年がやってきた。その体格は大柄で、厚い胸板がたくましく張り出されている。比較的細身の葵と比べれば、まさしくレイピアとバスターソード程の差がある。
葵は一瞬呆けたような顔でその少年を見たが、すぐに思い出したように頷いた。
「富永……お前、富永か?」
「はい、今回から第407飛行集団配属となりました。また、よろしくお願いします。」
「そうか、お前が来てくれたのか。」
この少年の名は、富永紀人空軍少尉。北方戦線時代葵とペアを組んでいた後輩で、コールサインは「タリア」である。
「あにぃ!」
そこへ、衛が駆け寄ってきた。そこで、葵の横にいる富永に気付き、キョトンとする。
「妹さんですか?」
そんな衛を見て、富永が尋ねた。
「ああ。こいつは7番目でな。衛って言うんだ。衛、こっちは北方戦線時代の俺の仲間で富永だ。」
「こんにちは、上杉衛准尉です。」
そう言って、衛は頭を下げた。それに対して、富永も律義に頭を下げた。
「こちらこそよろしくお願いします。富永紀人少尉です。」
それを見て、葵は苦笑した。
「おい富永。歳も階級もお前が上なんだ。そんなに気を使う必要はないんだぞ?」
「いえ、やはり先輩の妹ですから。」
「そうか?まあ、これからもよろしく頼む。」
「はい、それでは失礼します。」
そう言うと富永は、葵達に背を向けて歩き去った。
その背中を見て、思わず衛は吹き出した。
「面白い人だね、あにぃ。」
「あいつのあの性格、前と全然変わってないな。」
つられて葵も、僅かに顔をほころばせた。

ブリーフィングルームを出た直後、葵と衛の下に鈴凛がメカ鈴凛を伴ってやってきた。
「アニキ、衛。ちょっといいかな?」
「どうした鈴凛?」
「何かあったのあねぇ?」
「うん、ちょっとね。二人に話あるから、格納庫まで来てくんない。」
 本来なら今は航空機の整備をやっているはずの鈴凛がこの場に現れたことに、葵と衛は不思議そうな顔をした。
「お前、仕事はどうした?」
「いいからいいから。」
「アニキ様、衛様、こちらです。」
 鈴凛とメカ鈴凛に促されて、二人は首をかしげながらも後に続いた

 二人は鈴凛たちに連れられて、格納庫までやってきた。
「鈴凛、用件だったら手短に言え。俺達もお前も暇じゃないんだ。」
「うん。あの、さ。」
 鈴凛は、えらく歯切れの悪い調子で振り返った。
「何って言ったらいいのかな……」
「「?」」
 なかなか切り出さない鈴凛に、二人はますます不振顔になる。
「まずはさ衛。」
「何?」
「ごめん。」
鈴凛は衛の前で手を合わせて、頭を下げた。
「どっ、どうしたのあねぇ?」
 鈴凛の突然の行動に、衛のみならず葵も戸惑った。そんな二人に鈴凛は、実に言いづらそうに話し始めた
「実は夕べさ。出力向上理論の実験をやろうと思っていたんだけど……」
「いたんだけど?」
葵と衛は、鈴凛を食い入るように見詰める。
「使う予定だった予備機が急に故障しちゃってさ、それで……」
 鈴凛は頭を掻き、言いよどむ。
「それでマスターが、代わりに衛様のファルコンを使ってしまったのです。」
 鈴凛の代わりに、メカ鈴凛が答えてしまった。
「ええェェェェェェェェェェェェェェ!!??」
 衛は思わず、鈴凛の襟首をつかんだ。
「どうして!?どういうこと!?どうなってるの!?」
「おっ、落ち着いて衛!」
「落ち着いてられるわけないでしょ!ボクのファルコンどうなったの!?」
 衛は、鈴凛の体をガクガクとシェイクのようにゆする。
「落ち着け衛。」
 葵は呆れ顔になって衛の襟をむと、猫の子のように持ち上げた。
「それで鈴凛、衛のファルコンはどうした?」
「それがさあ……」
「エンジンがぶっ飛びました。」
「あう……」
 メカ鈴凛の親切な解説に、鈴凛は顔を伏せた。
「どうすんだよあねぇ!すぐ出撃なのに、機体が無いんじゃ、ボク出撃できないじゃないか!!」
 葵に持ち上げられたままの状態で、衛が抗議の声を発した。
「だから落ち着け。」
 葵は鈴凛を見た。
「お前の事だ。既に代わりは考えてあるんだろ?」
「まあね。」
 鈴凛はニッコリ微笑むと、二人を格納庫に招き入れた。
「こっちこっち。」
 鈴凛は戦闘機の整備でごった返す基地内の奥に歩いていった。
「ほら、あれ。」
 鈴凛は、一番奥で翼を休めていた1機の戦闘機を指し示した。
「これって……フランカー……」
 衛が呟いた通り、その機体は葵の愛機と同じスホーイ27フランカーであった。しかし、
「いや、違うな。」
 葵はそのフランカーを、一目見るなり断定して言った。
「スホーイ27は単座の戦闘機だ。だが見ろ。」
 葵はフランカーのコックピットをさした。
「こいつは複座だ。」
 確かに葵の言うとおり、そのフランカーは前後に座席にある複座タイプだった。
 葵は鈴凛に向き直った。
「スホーイ30……だな。」
「さっすがアニキ。良く分かってらっしゃる。」
 この機体の名称は、スホーイ30フランカー。フランカーの対地攻撃能力を強化した機体である。いわばストライクイーグルのフランカーバージョン、といった感じである。
「これが、ファルコンの代わり。」
「でも、これ、複座だからパイロットがもう一人必要だよ。それにボク、フランカーの操縦できないんだけど。」
「あっ、その点は大丈夫。」
 鈴凛は意味ありげに笑って、葵を見た。
「アニキのフランカーだけど、修理に手間取ってるらしくて、一度メーカーに送って解体修理することになったから。」
「まあ、エンジンに30ミリ弾を食らったからな、墜落しなかったのが奇跡みたいな物だ。」
本来、30ミリバルカンを食らえば一撃で炎上してもおかしくはない。それを、一応無事に生還できたのは、ひとえに葵の腕が良かったからと言えた。
「だから、」
 鈴凛は葵と衛を交互に指した。
「アニキが前席で空戦担当、衛が後席で攻撃担当ってわけ。」
「……成る程。その手があったか。」
葵は、衛を床に下ろして頷いた。
「それなら、俺は操縦に専念して、衛は攻撃を行える。それに、今回は対艦攻撃主体の任務だ。スホーイ30ならフランカーやファルコンより最適だな。」
「でしょう?あたしはそこまで考えて、こいつを確保しておいたんだから。」
 とたんに鈴凛は、得意げに胸を反らす。葵はそんな鈴凛のおでこを指で弾いた。
「調子に乗るな。」
「痛っ〜。」
目に涙を浮かべて額を押さていえる鈴凛を無視して、葵は衛を見た。
「お前も、それでいいか?」
「うん、対地任務だけなら問題ないだろうし。」
衛は頷いた。その時だった。
「まあ!?兄君様と同じ機体で戦えるのですか!」
「フフッ、実に興味深いね。」
突然の春歌と千影の登場に、三人は後ずさった。
「アネキ……」
「あねぇ……」
「千影……春歌……」
そんな三人に構わず、千影と春歌は衛に詰め寄った。
「衛さん、是非とも今回わたくしと機体を交換しましょう!」
「え?……何で?」
「衛くん……たまにはホーネットに乗ってみるのも、悪くないんじゃないかい?」
「え?……いや、ボクは……」
突然の姉の登場に、衛は戸惑う。
「兄君様と共に空を駆け、群がる悪を打ち倒す。ああ、何と素敵なのでしょう。ポ。」
「兄くん……私と共に更なる高みへ……」
「いいかげんにしとけ。」
そんな2人を葵は襟首をつかんで引き戻した。。
「今、うちの軍には余裕が無いんだ。いいから二人は自分の機体で行け。」
「「は〜い。」」
二人は渋々と言った感じに、返事をした。
それを見て、葵は小さく溜め息を吐いた。

「本当に行っちまうのかよ?」
小野庸介は、愛機のタラップに足を掛けた村岡虎太郎に言った。それに対し、虎太郎は振り返って言った。
「仕方が無い。上層部からの命令だからな。」
「命令、ね。」
庸介は頭を掻いて、虎太郎を見た。
「司令部はいったい何を考えてんだか。今一番ISAFが狙ってるのは、エイギル艦隊だってのに。普通、攻勢正面から最強部隊を遠ざけるか?」
「手柄の配分……だろうな。」
険しい顔で、虎太郎は言った。
「既に俺達は充分すぎる戦果を上げている。俺達がこれ以上手柄を立てるくらいなら、他の部隊に回せ。そう言う事だろうな。」
「手柄の配分ね……勝ちに入ってる軍隊は、どこまでも傲慢になっちまうみたいだな。」
「そう言うな。そうなっても戦わなきゃ行けないのが、俺達軍人だ。」
「まあな。」
そう言うと、庸介は虎太郎に煙草をひと箱投げ渡した。
「持ってけ。フェイスパーク連邦の新作だ。」
「すまない。」
虎太郎はニヤッと笑い、思い出したように言った。
「そうだ。今度サンサルバジオンに来たら、いい店を紹介してやる。」
「いい店?」
「ああ。飲み屋なんだが、なかなか良くてな。うちの連中の行き付けになってる。」
「そうか、じゃあ、ISAFを叩き潰したら行かせてもらおう。」
「ああ、待っている。」
そう言うと虎太郎は、愛機に乗り込んだ。

ユージア暦2006年12月5日。
その日は前日まで降り注いでいた雪が止み、朝から抜けるような快晴となった。
まさに、新たなる反撃の門出を天が祝福しているかのように、雪が積もった大地を太陽が照らしていた。
その太陽の下、ニューフィールド島アレンフォート基地から、第407飛行集団、総勢52機の攻撃隊が離陸しようとしていた。
他にも、ノースポイント連邦本土の基地から同時に六個飛行集団、約300機が離陸する事になっている。さらに海上に展開した海軍の空母からも攻撃隊が出る狙いはただ一つ。コンベース港在泊のエイギル艦隊を叩き潰す。今、ISAFの巨大な斧が振り下ろされようとしていた。
「出撃!!」
離陸許可が降りると同時に滑走路の先頭に駐機してあった、藤岡のトムキャットが離陸を開始した。

葵と衛のフランカーも、静かに出撃の時を待っていた。
「衛。」
「何?」
 計器のチェックをしながら、葵は衛に話しかけた。
「フランカーはファルコンより重い分、離陸時のGが大きい。一応そこら辺を考慮するが、離陸を始めたら歯を食いしばっていろ。」
「うん。分かったよ。あにぃ。」
やがて、葵達の番が来た。
「メビウス1、クリアフォーテイクオフ。グッドラック!」
「ラジャー、メビウス1、テイクオフ。」
葵は、ゆっくりとエンジン出力を上げて、滑走路を滑り出す。
やがて機首上げ速度に達し、フランカーの機首が持ち上がる。
「グッ……」
葵が言ったとおりファルコンよりきついGが衛の小さい体を襲う。それに対し衛は必死に歯を食いしばって耐える。
やがてフランカーは、ゆっくりと天空に舞いあがった。

12月5日昼過ぎ、コンベース港のエイギル艦隊では艦隊クルー達が昼食を終え、それぞれの配置に戻る時間だった。
艦隊旗艦タナガーの艦橋では、艦隊司令長官である大林庄助中将が、取り巻きのように控える僚艦を満足そうに眺めていた。
大陸撤退時、逃げるISAF艦隊を追撃し壊滅に追いやったこの名将は、今年で43歳。まさに、働き盛りといった所だ。
「報告します!」
艦橋に入って来た仕官が、大林の傍らに立って敬礼した。
「艦隊の補給は明朝には終了するとの事です。」
「ふむ。では、出撃は明日の昼になるか。」
大林は頷いていった。
「それまでに、各員充分に体を休めておくように言いたまえ。」
「ハッ!」
退出していく仕官を見て、大林は傍らの参謀長に話し掛けた。
「もうすぐだな。」
大林の言葉を聞き、参謀長は頷いた。
「ええ。もうすぐです。少なくとも、今年中には戦争は終わるでしょう。そうすれば、我々も本国に帰る事ができます。」
そこで参謀長は、思い出したように言った。
「息子さん、中学生でしたか?」
「ああ。生意気な盛りだよ。」
そう言って、大林は笑った。
「早く帰って、サッカーの相手をしてやりたいよ。」
「もうすぐですよ。もうすぐ……」
参謀長がそこまで言った時、突然陸地の方から敵襲を告げるサイレンが鳴り響いた。
「何だ?」
暫くして、通信手が叫んだ。
「大変です!敵が……ISAFが攻めてきました!現在空軍がスクランブルをかけています!!」
その報告に、一同は目を剥いた。
鉄槌が、振り下ろされうよとしていた。

「灰色の1より全機へ、1機たりともここを通すな!!」
いち早く離陸したエルジア空軍の中に、庸介のファルクラムもいた。今回は完全に予測できた事もあり、既に後続として100機の戦闘機が離陸体勢に入っている。しかし、レーダーに映っているISAF機は、明らかに200近くはいる。
『果たして止められるか?』
庸介にも焦りの色は濃い。しかし、ここでひるむ事は許されない。
「全機突撃、俺に続け!!」
一声掛けると同時に、庸介はエンジン出力を上げた。
彼の目に、ゴマ粒のような敵機が見えてくる。しかし、その数は多い。
「黒が六分に青が四分か。分の悪い計算だ。」
言い様に庸介は、中距離ミサイルを発射した。
「灰色の1、フォックス1!!」
放たれたアラモミサイルは、先頭を飛行していたストライクイーグルに命中し、木っ端微塵に砕いた。他の味方も、次々とミサイルを放ち、いくらかの敵を撃ち落とした。しかし、所詮は焼け石に水である。ついに庸介達は、飲み込まれるように乱戦へと縺れ込んだ。
「ちい!」
庸介はとっさにブレイクして、ファルコンの背後に回った。
「灰色の1、フォックス2!」
今度は短距離ミサイルアーチャーを放ち、そのファルコンを叩き落とした。
しかしその直後、1機のイーグルが庸介のファルクラムの背後に回り、サイドワインダーを放ってきた。
「クッ!」
庸介はとっさにフレアを放出して逃れる。そして、そのままループを行って、そのイーグルの背後についた。
「灰色の1、フォックス2!!」
そのイーグルは、何とか庸介のアーチャーから逃れようとするが既に遅く、直撃を食らって炎に包まれた。
「2機目か……」
 庸介は息をついて、辺りを見回す。その時、何かが頭に引っかかるような感覚に襲われた。
『何だ?』
 何かは分からない。しかし、確実に何か重大な事を見落としている。そんな気がしてならなかった。
しかしそんな余計な事を考えている余裕は無い、防衛線を迂回したISAFの攻撃隊が港への攻撃を開始しいるのだ。
「隊長、物資集積場が襲われています!!」
「!?」
港の最奥に位置している、物資集積場が炎を上げていた。あそこには、まだ陸揚げされたままの状態の、食料や弾薬が積まれていたはずだ。
更に眼下に目をやれば、10機ほどの攻撃機が、低空を飛行している。やや古臭いイメージながらも、頑丈さを思わせるその機体は、フェアチャイルドA−10サンダーボルトである。全長16メートル、全幅17・5メートル。全高4・4メートル。最高速度こそ750キロと遅めだが、対地攻撃力を特化したその機体は頑丈を極め、打たれ強い事で有名だった。
そのサンダーボルトの行く先には、潜水艦ドックが存在している。
「やらせるか!」
庸介は急降下でスピードを稼ぐと、サンダーボルトの背後についた。
「灰色の1、フォックス3!!」
 庸介のバルカンが、サンダーボルトに降り注ぐ。しかし、堕ちない。
「頑丈すぎるのか!」
 庸介はアフターバーナーを吹かして、もう一度接近する。
「今度こそ!!」
 必殺の思いを込めて、庸介はバルカンを放った。
 その一撃は、サンダーボルトの右エンジンポッドに吸い込まれ、粉砕した。
 堕ちて行くサンダーボルトを見て、庸介はため息をついた。
しかし素の艦に低空まで舞い下りたサンダーボルトは、次々と抱えてきた2000ポンド爆弾を投下し、眼下のドッグを内部に収められた潜水艦後と爆破していく。
「これ以上やらせるかよ!!」
庸介は、怒りに任せて機体を反転させた。
 そこでふと、ある事に気付いて顔を上げた。
『おかしい……今までISAFは、レーダー波をかわすために、必ず低空から接近する戦術を取っていた。だが、なぜ今回は早期発見が容易で、しかも迎撃しやすい中高度から来たんだ?』
 単に、戦力的に余裕があったからかもしれないが、どうにも気に掛かる。
 次の瞬間、先程感じた違和感の正体に気づいて、身の毛が総毛だった。
 今戦っている敵の大半が、制空戦闘機隊なのだ。攻撃機は全体の三割弱。しかも対艦装備を施しているものは1機も無い。
「こいつらは囮か!!」
 ISAFの真の狙いに気付いた庸介は、慌ててマイクのスイッチを入れた。
「灰色の1より全機へ!港の上空にもどれ!敵が来るぞ!!」
 しかしその時既に、ISAF第2の矢が目標に突き刺さろうとしていた。

 海側から進入した本隊は、湾口に掛かった巨大な橋、コンベースブリッジ上空を抜け、港内に侵入を果たした。
「ストーンウォールより全機へ、攻撃開始、無敵艦隊を沈めろ!!」
「「「「了解!!」」」」
 命令を受けて、第407飛行集団は、一斉に散開し攻撃を開始した。

「シオンよりメビウス1、ナイトメア1、2。俺に続け!!」
「「「「了解!!」」」」
 葵たちのフランカーと、千影、春歌のホーネットが信悟のストライクイーグルに続いて高度を下げる。彼らの目の前には、港に停泊中のエイギル艦隊がミニチュアのように並んでいる。
「目標、前方の敵巡洋艦!!」
「「「「了解!!」」」」
 4機の戦闘攻撃機は、低空まで舞い降りて目標とした巡洋艦を目指す。
しかし、エイギル艦隊もただ眠っている訳ではなかった。ただちに艦対空ミサイルや艦載CIWS(レーダー連動対空機銃)を起動し、葵達を迎え撃つ。
葵達の機体の中で、ロックオンを知らせるアラートが鳴り響いた。
「信悟、ロックオンされてるぞ。」
鳴り響く警報を耳にしながら、葵が注意を喚起する。
「分かってる。作戦変更!散開して攻撃だ!!」
「「「「了解!!」」」」
4機はそれぞれの方向にブレイクした。

春歌は一番端の駆逐艦に狙いを定め、直進を始める。
駆逐艦の方でも春歌のホーネットに気付いたらしく、盛んに弾幕を張ってくる。その弾幕の中に、春歌は迷う事無く飛び込んだ。
機首をやや下げた状態で飛行し、慎重に照準を合わせていく。その翼の下には、8発の1000ポンド爆弾が吊るされている。その内の2発を、叩き付けるつもりだ。
盛んに周囲で炸裂する砲弾を無視して、春歌は目標の駆逐艦の後方から肉薄する。停泊中の駆逐艦は回避行動が取れない為、対地攻撃演習の標的と同じである。
「ナイトメア2、投下!!」
コールすると同時に、投下ボタンを押した。それに続いて、2発の爆弾が、駆逐艦に吸い込まれていった。一拍置いて、駆逐艦から激しく炎が噴き上がった。
ミサイル技術が進んだ現代の艦の装甲は、比較的薄めに造られている為、こうした大型爆弾の直撃にはもろい物なのだ。
春歌の攻撃を食らった駆逐艦は艦尾から沈下を始め、そのまま着底した。
それを確認した春歌は、僅かに微笑むと次の目標に機首を向けた。

葵は一旦上昇して目標上空をフライパスすると、充分に距離を取ってからもう一度反転し、最初と同じ巡洋艦に狙いを定めた。
「行くぞ、衛。」
「了解!」
葵は衛に声を掛けるとエンジン出力を全開にして、突撃を開始した。
既に停泊中の艦隊からは活火山のような勢いで、砲火が打ち上げられている。時折ミサイルも飛来し、不孝なパイロットを火葬送りにしていた。しかし、完全に奇襲を受けた事で、エイギル艦隊の被害は秒単位で急増していっていた。
春歌が撃沈した駆逐艦を始め、巡洋艦2隻、駆逐艦6隻が炎を上げていた。
葵はフランカーを水平に戻すと、コースを巡洋艦に合わせる。
その巡洋艦からも、狂ったように対空砲が打ち上げられている。
それに対して葵は、機体を軽く振りながら的確に砲撃をかわして行く。
「あっ、あにぃ!」
あまりの弾幕のすさまじさに、衛は悲鳴を上げる。しかし葵は衛の叫びをよそに正確にフランカーを操る。
そして衛が覗いている照準機が、巡洋艦の艦橋を捉えた。
「投下!!」
叫ぶと同時に、衛は投下ボタンを押した。
慣性がついた2発の2000ポンド爆弾は、正確に巡洋艦の艦橋を叩き割り、内部にいた艦長を含む首脳部を抹殺した。
艦橋を破壊された巡洋艦は次々とその機能停止して行き、コンピューターも破壊され武装が沈黙した。
「やった!!」
衛は後席でガッツポーズを作った。
そこへ、信悟から通信が入った。
「よし、葵、衛、後は任せろ!!」
信悟のストライクイーグルが、反対側から巡洋艦に襲い掛かろうとしている。そのボディーには大型の対艦ミサイルが搭載されている。
「進路クリア、タフ!」
「了解シオン!!」
信悟のコールに続いて、後席の大谷が対艦ミサイルを発射した。
エンジンを点火したミサイルは音速で突進し、巡洋艦の砲塔に命中した。
直撃を受けた巡洋艦は弾薬庫を貫通され、内部から膨れ上がるように爆発した。
「よし、1隻撃沈!」
その時、緊迫を告げる咲耶の声が、響いてきた・
「スカイアイより、メビウス1、シオン!敵空軍の一部がこちらに戻ってきているわ!」
咲耶の声が、3人の耳を突き抜ける。
「シオン了解!向かえ討つぞ葵!」
「メビウス1、了解。」
二人は、敵の邀撃隊を迎え撃つ為に高度を上げに掛かった。

「隊長、敵機が2機、こちらに向かってきます!1機は例のリボン付きです!!」
ようやく囮部隊を振り切った庸介がエイギル艦隊上空に戻ってきた時には、既に停泊していた艦隊の半数が黒煙を上げていた。
それでも庸介は諦めるつもりはない。
「好都合だ。あのリボン付きは何としても落とすぞ!!」
「「「「了解!!」」」」
灰色中隊は、フランカーとストライクイーグルを取り囲むようにして接近する。
葵達が2機なのに対し、駆けつけた灰色中隊は全部で13機。いかに葵達といえど、この精鋭部隊相手に、この数の差は少々厳しい。
1機のファルクラムが、葵達の背後についた。
「チッ」
葵は軽く舌打ちするとそのまま降下してスピードを稼ぎ、振り切りに掛かる。
しかし低空にもまた別のファルクラムが待機しており、葵達に攻撃を仕掛けてくる。
「あにぃ!来てる!!」
「……分かっている。」
衛の叫びに応えて、葵はFCSを短距離ミサイルモードにする。
 背後についたファルクラムが、短距離ミサイルを放ってくる。
「……」
それに対して葵は、無言のうちにフレアを放出して回避する。
 葵は緩やかに機首を下げて若干沈み込むようにループを行うと、速度を稼いで急上昇に転じた。
「キャアァァ!!」
音速時の衝撃波で海面から水しぶきが上がる。それに伴い後席の衛が、珍しく歳相応の女の子のように悲鳴を上げた。
 低高度から急旋回に、背後のファルクラムは失速を恐れて追撃をあきらめる。
その一瞬の隙を逃さず葵は、ファルクラムの背後についた。
「メビウス1、フォックス2。」
 翼端のパイロンから打ち放たれたサイドワインダーが、ファルクラムの熱源を捉え白煙を上げて追尾に入る。そして、そのまま魔弾の如き正確さでファルクラムに命中した。
 その一撃で、ファルクラムはエンジンを吹き飛ばされ、海面へと落下して言った。
「よくも!」
 味方の撃墜に、庸介は目を血走らせて葵を追撃する。
「あにぃ、チェックシックス(六時方向警戒)!!」
 衛の警告に、葵はとっさに後ろに目をやった。そこには、庸介のファルクラムが猛然と追撃してくる光景があった。
「クッ……ちょっとまずいな。」
 今、葵たちのフランカーは、先程の急旋回にせいで低高度を飛行している。しかも、速度も足りない。それに対して庸介のファルクラムは、後方上部と言う、極めて有利な位置にいる。このままでは遠からず追いつかれてしまう。
「……」
 葵は素早く、辺りに視線を走らせる。
 周囲に味方の姿は無い。しかし、あるものが葵の目に映った。
「……よし。」
 葵は機体を旋回させて、その方向に機首を向けた。
「あっ、あにぃ、何をする気なの?」
 衛は、不安そうな声を上げた。
 今、葵が目指しているのは、港の近くに聳え立っている巨大なビル群。おそらくコンベース市の行政街だ。おそらく100階以上はあろうかと思われるビル数軒と、それより比較的小さなビルが無数に並んでいる。
「あにぃ……まさか……」
 衛はある考えに行き当たり、顔を青くする。
 しかし、衛の悪寒はまさしく真実を言い当てていた。
「衛、俺を信じろ!!」
 葵は機体の速度と進行方向をラダーで微調整すると、そのままビル群の中に突っ込んだ。
 これには、庸介も度肝を抜かれた。
「奴は、気が狂ったか!?」
しかしそこは歴戦の名将「灰色の1」である。自身も機体進路を調整して、ビル群の中に突っ込んだ。
2機の戦闘機が突っ込んだ衝撃波で、ビルの窓という窓が砕け散る。
葵は超低空まで舞い下りて、庸介の攻撃を回避する。
「あにぃ、右に傾いてる!翼端がビルに掠っちゃうよ!!」
「クッ……」
葵はラダーを微調整して、機体の傾きを元に戻す。
そこへ狙いをすましたように、庸介のバルカンがストライクフランカーをかすめる。
「チィ!」
葵は機体を微妙に横滑りさせてかわす。
「あにぃ、横!横に抜けて!!」
衛が差した通り道が十字路になっており、横に逸れる事ができるようになっている。
葵はとっさにスティックをわずかに横に倒し、右方向に進路を変える。しかし、
「甘い!!」
庸介も進路を右に変え、葵達を追撃してくる。
「あにぃ、まだ追ってくるよ!!」
「……」
葵は無言のまま、次の交差点を左に逸れる。
しかし、結果は同じで、庸介は一定の距離を置いて追ってくる。
「くう!」
葵は一瞬、息を呑んだ。機速のつきすぎたフランカーの右主翼が、ビルを一瞬掠りそうになったのだ。
『まずいな……このままじゃ……』
葵は、背中に冷たい物を感じていた。

その頃千影は、停泊中の空母の飛行甲板に、3発の爆弾を叩き付けていた。
3個所から炎を吹き上げ炎上する空母は、もはや艦載機を運用する能力はない。1発は弾薬庫を直撃したらしく、断続的に爆発を繰り返している。もう間もなく大爆発を起こすだろう。
 さらに止めとばかりに、低空から接近した1機のファルコンがミサイルを叩きつけるに至り、その空母は炎上しながら着底していった。
「……フッ」
千影は低い声で微笑すると、まだ標的がいないか確認する。港内に停泊していた艦隊は、大半が既に炎を吹き上げて炎上している。見た限りでは回りに敵は存在しなかった。
「…………」
千影はそのまま、監視高度まで上昇する。
「!?」
突然去来した予感が、千影の胸を貫く。
「兄くん!?」
千影は自分の直感を信じて、機首をそちらに向けた。
「兄くんが、危ない。」
千影は本能が告げるまま、アフターバーナーを点火した。

この状況には、さすがの葵も焦りをかくせなかった。このままでは機動力が確保できないまま、撃墜されてしまう。
庸介の攻撃は、低空を低速で飛ぶフランカーに、絶えず攻撃を仕掛けてくる。ここまで躱し切っているのは奇跡に近い。
しかし、それももう限界だ。既に手詰まりになりつつある。
『どうする……』
たった今も、バルカンの嵐がすぐ横を駆け抜けていった。
低空低速である為、本来の機動を行えないフランカーは、庸介にとっては訓練用の標的以下と言えた。
『こっちは低空低速。しかもまわりはビルばかりで横方向への機動はできない。しかもこの速度で迂闊に高度を上げれば失速の危険がある……対して奴は高い位置からこちらを狙い撃てる。』
葵にとって有利な要素といえば、庸介が先に囮部隊相手に空対空ミサイルを使い切ってくれた事だけだ。
しかしその時、葵の脳裏にとんでもないアイデアが浮かんだ。
「そうか……その手があったか。」
「え?何?どうしたの?」
衛の疑問をよそに葵は大通りに抜けると、そのまま機体を水平にしてギア(車輪)を出した。
「あにぃ、こんな低速でギアなんか出したら、失速しちゃうよ!!」
衛の言う通りフランカーのエンジンはギアの空気抵抗で失速し停止、僅かに残っていた高度を失い地面へとゆるやかに落下した。
「やったか!」
庸介は思わず手を叩いた。
しかし、車輪を出していたのと、元々低速で飛行していたこともあり、フランカーは無事に地面へ接地した。
「なっ、馬鹿な!!」
そのまったく予期できなかった動作に、庸介は思わずオーバーシュートした。
「行くぞ衛。」
「うん!!」
葵はそのままアフターバーナーを吹かして、離陸速度を確保する。その為にわざわざ大通りに出たのだ。
衛の顔にも、先程とは打って変わって笑顔がある。
速度を稼いだ2人の前に、庸介のファルクラムがいる。しかし、距離が遠い。このままでは追い付けないだろう。
「追い付けないか……」
葵が呟いた時だった。
突然雲を突き破って現れたホーネットが、庸介のファルクラムに一撃加えた。
「くっ、くそう!!」
数発直撃を食らった庸介のファルクラムは、煙を噴きながらそのまましばらくふらふらと飛行していた。しかし、銃撃を受けた愛機は墜落こそしないだろうが、安定性を著しく欠いている。
「……ここまでか。」
やがて諦めたように翼を基地の方に向けた。
「兄くん、大丈夫だったかい?」
千影からの通信に、葵は思わず顔をほころばせた。
「千影か、すまん、助かった。」
久しぶりに聞いたような葵の暖かみのある声に、千影は頬をほんのり赤くした。
「フフ、兄くんの為なら、お安い御用だよ。」
「そうか。」
葵はまた冷たい表情に戻ると、千影と翼を並べて次の目標に向かった。

コンベース港がISAFの襲撃で炎上している頃、大林率いるエイギル艦隊の本隊は。可能な限りの全速で港外に脱出を試みていた。
その数は、戦艦3隻、空母2隻、巡洋艦2隻、イージス艦1隻、駆逐艦1隻と、本来の5分の1以下でしかない。
「急げ、敵が来る前になんとしても港から離れるんだ!外に出られれば反撃のしようもある!!」
旗艦タナガーのCIC(戦闘指揮所)に移った大林は部下を叱咤する。
そんな彼も、まさか自分の艦隊がここまで滅多撃ちにやられるとは思っても見なかった。既に数時間前までのエイギル艦隊の威容は存在していない。そこにあるのは、かつては軍艦だったであろう、ただの鉄屑だった。
そんな彼等の頭上に、告死天使の群が集おうとしていた。
「ジオフォン航空隊、発艦します!!」
ここに来て、ようやく明るいニュースが舞い込んできた感じだ。
「参謀長、確かジオフォンの艦載機は最新鋭機だったな?」
大林に尋ねられて、参謀長は答えた。
「はい。ダッソー社が開発した機体です。」
「そうか……期待できるかも知れんな。」
大林は、口の端に笑みを浮かべた。

海軍の空母から出撃した24機のホーネットが、脱出を謀るエイギル艦隊を発見し、これに攻撃を加えた。
「ナイト1より各機へ、散開して攻撃を開始せよ。攻撃目標はタナガー級戦艦だ!」
「「「「了解!!」」」」
24機ホーネットは低空まで舞い下り、あるいは高空から逆落としに急降下に入る。
その時だった。突然雲を割って、デルタ翼を持つ漆黒の機体が現れた。
「何だこの機体は!!」
「はっ、速い!?」
「振り切れない、助けてくれぇ!!」
「ウワァァァァァァァァ!!」
あっという間に背後を取られたホーネットが、次々と炎を上げて落下していった。
ホーネット隊で生き残ったのは24機中僅か8機、その内攻撃が成果を上げたのは、戦艦レイブンにミサイルを当てた1機のみだった。
「大した威力だな。」
最新鋭機の性能をディスプレイ越しに確認して、大林は満足そうに頷いた。
この漆黒の機体は、ダッソーR−M01ラファール。ダッソー社が開発した最新鋭戦闘機で、海軍が採用した事で、艦載機化が行われた。全長15・3メートル、全幅10・9メートル、全高5・34メートル、最高速度マッハ1・8を誇っている。デルタ翼の関係上、中高度以上でのダッシュ力に優れている。
初見参のこの新鋭機は、初陣でその性能をISAFに見せ付けた。
しかし、それでも多勢に無勢の感は否めない。上空に上がったラファールは僅か50機ほどでしかない。たったこれだけで、ISAFの大軍を防げるとは思えなかった。
「急げ、この隙に脱出するのだ!!」
大林が声を張り上げて叫ぶ。
しかしこの日、天は最後までエイギル艦隊に振り向いてはくれなかった。
炎の壁と化したコンベース港上空から、死の羽音を響かせてISAF空軍がその姿を現した。その数はおよそ100機余り。それらは皆、自らの牙や爪を振りかざした悪魔にも見えた。

「行け!!」
信悟の声と共に、後席の大谷は対艦ミサイルを発射した。
彼等に倣いラファール隊の防空網を突破した味方が、次々と低空に舞い下りて対艦ミサイルを発射した。
すでに先発隊の攻撃で、空母1隻、巡洋艦2隻、イージス艦1隻、駆逐艦1隻を戦列外に追い遣っていた。残るは、戦艦タナガー、レイブン、ベルーガ、空母ジオフォンの4隻のみだった。
「信悟、もっと低く飛べ!機銃にやられるぞ!!」
「分かってる!!」
信悟達の頭上を、CIWSの銃弾が駆け抜けていく。
それに構わず、信悟は高速で目標とした戦艦ベルーガに接近する。
「発射!!」
白煙を上げて、最後の対艦ミサイルが放たれる。その様は、まるで騎士が扱う長大なスピアのようだ。
遼機の物も含めて、ベルーガに向けて放たれた対艦ミサイルは全部で15発。
一方のベルーガも、艦載CIWSを総動員してミサイルを叩き落とそうと躍起になる。
それにとって、3発のミサイルが叩き落とされる。しかし、残りの12発は予定通りベルーガの舷側に立て続けに命中した。
一度に12発ものミサイルを食らったベルーガは、苦悶にのた打ち回るように横に揺れると、いたるところから炎を吹き上げ、そのまま速度を落とし始めた。おそらく、このまましばらく惰性で動き、いずれは海上で停止するだろう。もはや戦艦としてのベルーガは、完全に死んでいた。
ベルーガが戦闘能力を喪失したのとほぼ同時に、空母ジオフォンも対艦ミサイル4発と1000ポンド爆弾を3発くらい、激しく炎上したまま横転を始めていた。やはり空母の直接防御力は戦艦に比べ低く、数発の攻撃で戦闘力を喪失してしまった。
残る2隻の巨獣、タナガーとレイブンの運命も旦夕に迫りつつあった。
既にタナガーは爆弾4発、対艦ミサイル1発を、レイブンは爆弾2発、対艦ミサイル3発を食らい、戦闘力を低下させていた。タナガーは艦首に食らった1000ポンド爆弾により大きな穴が空き、それによって引き起こされた浸水によって速力は6ノットに低下していた。一方のレイブンは、第1、第2砲塔の天蓋を叩き割られ、前部甲板が炎に包まれていた。
レイブンの方は操舵機構にも損傷を受けているらしく、よろよろと航行をしている。クルー達ももはや助からないと踏んでいるのだろう。艦首を浅瀬に向けて座礁させるつもりのようだ。
一方、旗艦タナガーの方はいまだに希望を捨てず、盛んに対空砲火を打ち上げている。その自慢の56センチ砲も天空を仰ぎ、時折チャフ入りの砲弾を放っている。
すさまじいまでの防御砲火に、さしものISAF空軍も攻めあぐねていた。
丁度そこへ、戦場上空に葵と衛のフランカーが姿を現した。
「……どうやら、あれで最後みたいだな。」
「うん。他の敵はみんなやっつけちゃったみたいだよ、あにぃ。」
葵は、タナガーの上空を確認するように旋回してから、上昇して高度を取る。
「衛、急降下で行くぞ。」
「うん、分かった!!」
雲の中に入った2人の視界は、白く染まって見えなくなる。しかし葵は、正確に目標の位置を確認し、そのまま急降下体勢に入る。
「行くぞ、衛。」
「うん!!」
フランカーは機首を下げて急降下を始めた。
2人の視界の横で、急速に景色が流れていく。
やがて雲をつき抜け、2人の目の前に寄り添っている戦艦タナガーの巨体が現れた。
しかしその時、僅かに残っていたラファールのうちの1機が、フランカーの背後についた。
「あにぃ、後ろ!!」
「クッ!!」
葵は思わず唇を噛む。既に急降下体勢に入っている葵達は、進路を変える事はできない。このまま突き進むしかない。
その時だった。突然ラファールは爆炎を上げて吹き飛び、変わって白銀のイーグルが姿を現した。
「先輩、もう心配は要りません!!」
スピーカーから富永の声が聞こえてきて、葵は口元に笑みを浮かべた。
「富永……すまん!!」
葵は視線を前方、つまり下方に戻して狙いを定めた。
戦艦タナガーはもはや惰性で動いているような物だった。それでも自身に急降下してくるフランカーの存在に気付いて対空砲火を向けてくる。
流星が逆に流れるような火線の嵐が、2人を襲う。
しかし葵は冷静にスティックを操作し、火線をかわしていく。
そして衛は兄を信頼し、一心不乱に照準機を覗き込む。
その照準機の中で、タナガーの巨体が膨れ上がる。
「今だ!!」
「いっけェェェェェェェェェェェ!!」
衛は叫ぶと同時に、投下ボタンを押した。それに伴い、残っていた6発の1000ポンド爆弾が切り離された。

CICのなかで、大林はディスプレイのなかで、急降下してくる光点を眺めていた。
「これは……やられたな。」
「は?」
幕僚達は大林の言っている意味が分からず、思わず顔を見合わせる。
それに構わず、大林は叫んだ。
「全員伏せろ!急げ!!」
次の瞬間、すさまじい衝撃が来た。

戦艦タナガーは葵と衛が放った爆弾のうち5発までは耐え切った。しかし最後の1発は、タナガーの第1砲塔天蓋を叩き割り弾薬庫まで達しそこで爆発した。おそらく、先の5発を同一個所に叩き付けられた事により、一気に装甲に歪みが生じた結果なのだろう。そこに収められていた300発近い主砲弾が一斉に爆発した。
本来なら敵戦艦や地上物に叩き付けらる予定だった主砲弾は、自らの主人の体内で弾け、引き裂き、叩き割った。
次の瞬間、タナガーは第1砲塔のあたりから巨大なか柱を吹き上げた。
さらに、爆発に耐え兼ねた艦体がゆっくり前後に引き千切られ、艦首と艦尾を天空に向けたまま海中に引きずり込まれていく。
「「「「……」」」」
その光景に上空を飛ぶISAFパイロット達は、誰もが息を呑み、静まり返った。
「攻撃終了、お疲れ様みんな!無敵艦隊は海に沈んだわ!」
そんな彼等の耳に、咲耶の明るい声が聞こえてきた。
それに伴い、一同から大歓声が起こる。
歓声は、やがて1曲の歌に変わる。
それは、開戦と共に作られたISAF軍歌だった。
いかに強大な敵に故国を踏みにじられても、いかに仲間全員が戦火に倒れ、己1人に成り果てたとしても、勇気を奮い起こし、勝利を信じて立ち上がれ、自ら正義を信じた旗を掲げて。
そんな意味が込められた歌だった。
葵も、衛も、迷う事無くその歌に加わった。

2日後、エイギル艦隊の残党は、ISAF海軍が張巡らした包囲網に引っかかり、全艦が拿捕、あるいは撃沈の憂き目に遭った。
エイギル艦隊を失ったエルジア帝国軍は、ノースポイント連邦への無期限侵攻延期を決定、ISAFは、辛うじてその命脈を保った。

第六話「心、重ねて」 おわり

あとがき

どうも、ファルクラムです。今回はミッション6「無敵艦隊封殺」という訳ですが、ここで葵と衛を同じ機体に乗せてみました。実はファルクラムは、複座の戦闘機というのはあまり戦闘機という気がしないのですが、こうして見ると、なかなか味があっていいかもしれませんね。あと、ゲーム中のエイギル艦隊よりも、戦力を多くしてみました。実際のエイギル艦隊の戦力は余りにも中途半端に思えて、とても、あれが「無敵艦隊」だとはおもえなかったので、勝手に強化してしまいまいました。
さて、次回は戦闘無しでいってみようかと思います。やっぱり、可憐達も出演させたいですからね。それでは、今回はこれで。

ファルクラム

 


ファルクラムさんへの感想はこちら
nymausht@cna.ne.jp
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