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リボンつきの翼
第4話「倒すべき敵」

作者 ファルクラムさん


 ユージア暦2006年11月22日、ニューフィールド島アレンフォート基地では第407飛行集団が出撃準備を進めていた。全38機の航空機が、エンジンを轟々と吹かしている。今回の攻撃目標はコンベース港の東に建設された海上油田である。この油田はコンベース港のエイギル艦隊に燃料を補給する役割を持っている。ここを叩き潰せばエイギル艦隊の出撃を、確実にあと一ヶ月遅らせる事ができると言う計算が導き出された。しかし、戦争初期においてこの油田はISAF海軍に燃料を提供していた事もあるのだ。それを今度は自らの手で破壊しなくてはいけないのは、皮肉の極みと言えた。

 第3高速戦闘機中隊の各機も出撃準備を整え、各々の戦闘機は自らの主たちを待ちわびていた。
「アニキ!」
 ヘルメットを肩に担いでやってきた葵を見つけて、作業服に身を包んだ鈴凛が駆け寄ってきた。
「アニキ、今夏の任務で攻撃機の数が足りないから、アニキのフランカーに大型パイロンをつけて戦闘爆撃機にするって話は聞いてるよね?」
 鈴凛の言葉に葵はうなずいた。今回は目標があまりにも多すぎるため、手持ちの攻撃機では目標達成率が低いと判断した司令部が、既存の制空戦闘機を臨時に戦闘攻撃機にすることにしたのだ。
「アニキ、戻って来て始めての対地攻撃任務だけど、大丈夫?」
「問題ない。対地攻撃なら大陸で嫌と言うほどやってきた。」
「へへ〜、頼もしいお言葉で。」
 鈴凛の冗談半分の感心に、葵はやや苦笑する。
 その時、同じようにパイロットスーツを身に着けた衛が近付いてきた。
「アニキ・・・・・・」
「何だ?」
 鈴凛は、葵の顔を覗き込んで言った。
「衛のこと、あんまりいじめちゃだめだよ。」
「・・・・・・・・・・・・」
「あれで結構、複雑な年頃なんだから。」
「ああ、分かっている。」
「よろしい。それじゃああたしは仕事に戻るから。」
 そう言うと鈴凛は、格納庫に入っていった。
「・・・・・・・・・・・・あにぃ・・・・・・」
 その顔にはやや不安の色があるものの、戦闘準備はできているようだ。
「迷いは、断ち切れたのか衛?」
「・・・・・・うん。」
「そうか・・・・・・」
 葵は衛の頭にそっと手を置く。
「期待している。」
「あの・・・・・・あにぃ!」
 衛は何か言いたげに顔を上げた。その時、出撃を知らせるサイレンが鳴り響いた。
「行くぞ衛。」
「うっ、うん!」
 衛は葵への質問を取り合えず胸の中に仕舞い込むと、愛機のタラップを駆け上がった。

 コンベース港の油田と石油コンビナートは、ユージア大陸でも有数の規模を誇っている。ISAFが付けたコードネーム「100万バレルの生命線」と言うのも、あながち間違いではない。ここを叩き潰す事が今回の葵たちの任務なのだが、さすがにここ最近の破壊工作でISAFの意図を察したエルジア軍も、このコンビナートを最重要防衛拠点に指定していた。これは、さきのISAFによるリグリー地方襲撃で、限定的ながらノースポイントへの攻撃手段を失ったエルジア軍が、エイギル艦隊出撃までの繋ぎの策として打ち出したものだ。
 しかし、それでも第407飛行集団の強襲を防ぐにはいたらなかった。既に使い古された手ながら、ISAFが最も得意とするレーダーに掛かりにくい低空から高速で接近する戦術は、今もって有効な手段と言えた。この為、すぐに迎撃に出る事ができたエルジア空軍機は、スクランブル待機していたファルクラム12機のみだった。

「第1、 第2隊は制空に当たれ!第3から第6までの隊は二手に分かれて攻撃開始だ
!」
「「「「了解!!」」」」
 飛行隊長藤岡の命令を受けて、各中隊ごとに分かれる第407飛行集団。
「こちらメビウス1、スカイアイ。目標は?」
「スカイアイよりメビウス1、お兄様、南側の海上油田が1番近いわ!」
「メビウス1、了解。衛行くぞ!」
「2、了解!」
 衛の返事を聞いてから、葵は翼を翻して目標に向かって降下した。
 出撃前の鈴凛との会話どおり、葵のフランカーの翼下には合計4発の1000ポンド爆弾が積まれている。本来、制空戦闘機のフランカーは爆弾や大型の対艦ミサイルなどは積めないのだが、大型パイロンを後付する事でそれを可能にしたのだ。
「メビウス1よりメビウス2、相手は石油を満載した海上油田だ。一発で片がつく。爆弾を無駄にしないようにしろ。」
「了解!」
 二人は低空まで舞い降りると、目標とする海上油田が少しずつ拡大しながら見えてくる。
 まるで野外ライブステージのようなスカスカの建物の中には、ISAFを壊滅に追い込む石油が流れている。
 葵は爆撃用照準機を目の前の油田に合わせる。
「メビウス1、投下。」
「2、投下!」
 二人は同時にコールして、1000ポンド爆弾を投下した。機速によって慣性のついた爆弾は、そのまま前方に向かうように投下され、目標に吸い込まれていった。450キロに達する爆弾を叩きつけられた油田は内部を流れる石油に引火し、そのまま連鎖的に誘爆を起こした。
「やった!」
 後方を確認していた衛が、炎を吹き上げる油田を見て慣性を上げた。
「喜ぶのはまだ早い。次の目標に向かうぞ。」
「了解!」
 そう言って二人が翼を翻したときだった。背後から1機のファルクラムが接近してくるのが見えた。そのファルクラムは葵の背後につくと、ミサイルをロックオンする。
「!?」
 葵はロールをしながら、一瞬そのファルクラムに目をやる。
 その機体の底面は灰色に塗られており、機首部分に「001」の文字が書かれていた。
「・・・・・・灰色の1。」
 葵は軽く舌打ちすると、迎撃体勢を取る。
 一方、灰色の1こと小野庸介少佐も、相手が何者か察し喰らいついてくる。
「見つけたぞ、リボンつき!」
 先のリグリー基地襲撃で渡り合った相手に、庸介は興奮した声を上げる。ブレイクしようとする葵のフランカーに、庸介はピッタリとくっついてくる。
「・・・・・・フン」
 葵は鼻を鳴らすと、もう一度ブレイクして庸介のファルクラムの背後を取り返そうとする。しかし庸介もそれを許さず、ブレイクを繰り返す。両者がブレイクとロックオンを繰り返すことにより、2機の戦闘機ははさみのような機動をする事になる。これを「シザーズ戦術」と言う。
「クッ」
「チイ!」
 二人はシザーズの頂点に達したとき、同時に反対方向へと離脱した。
「逃すか!」
 庸介はGに構わず強引に機体を反転させると、離脱しようとする葵の背後を取った。
「灰色の1、フォックス2!」
 短距離ミサイルが、葵の背後から迫ってく。
「・・・・・・・・・・・・」
 葵はフレアを射出すると、そのまま下方へと逃れる。フレアに熱源をごまかされたミサイルは、そのまま目標を見失って自爆した。
「・・・・・・だめか・・・・・・」
庸介は落胆したように、肩を落とした。

「攻撃続行だ衛。」
「了解!」
 翼を連ねたフランカーとファルコンは、次の目標へと機首を向ける。そんな二人の前に、あつらえたように巨大なタンカーが姿を現した。
「・・・・・・タンカーか・・・・・・」
 何事かを思い至った葵が、衛に話かける。
「衛、お前が攻撃してみろ。」
「え、ボクが?」
「そうだ。使用爆弾は2発、やってみろ。」
 そう言うと葵は、減速して衛と位置を入れ替える。
「・・・・・・よ〜し。」
 覚悟を決めた衛は、唇を軽く湿らせて目標を見据えると、FCSを二発投下に切り替える。
 衛の視界で、10万トンクラスのタンカーが必死に退避している。しかし、そのスピードはカタツムリが這うよりも遅い。
 次の瞬間、照準機がタンカーを捉えた。
「メビウス2、投下!」
 ファルコンの機体下部に備え付けられた2発の爆弾が外れ、タンカーの巨体へと吸い込まれていった。一拍おいて、タンカーは内側から膨れ上がり火柱を吹き上げた。
「やった!」
衛は手を叩いて喜ぶ。葵もそれに満足したのか、大きく頷く。
「良くやったぞ衛。」
葵に誉められて、衛は僅かに頬を赤く染める。
「さて、もう一息だ。」
「うん!」
2人は次の目標に向けて、降下を開始した。

その頃、千影と春歌は沿岸部にあるコンビナート群の上空に来ていた。
「ナイトメア1、ターゲット確認。」
千影はコールすると、後方警戒位置を飛んでいる春歌を呼び出した。
「春歌くん……敵はみんな、兄くん達の方に行ったみたいだ。……ここは、効率よく行くよ。」
「了解です、姉君様!」
二人は、沿岸部に沿って飛行を続けると、やがて視界の中に巨大な石油タンクが二十基並んで見えてきた。どうやら、これが目標の中では最大級らしい。
「行くよ。春歌くん。私の機体の……隣に並ぶんだ。」
「了解ですわ!」
春歌は、自分のホーネットを千影の機体と、並列させる。
二人はまるで猛禽のように急降下する。その視界の中では、石油タンクが急速に拡大していった。
「ナイトメア1、投下。」
「ナイトメア2、投下!」
二人は同時にコールして、合計で8発の1000ポンド爆弾を投下し、機首を引き起こして水平飛行に戻った。
これだけの爆弾を同時に叩き付けられて、無事で要られる地上施設は存在しない。爆弾の命中個所からタンクの外壁が裂け、さらに漏れ出した重油に引火して誘爆を呼んだ。
この一撃で、二十基の石油タンクはあっという間に炎に包まれ、全滅した。
「スカイアイ……こちらナイトメア1。ナイトメア小隊、ターゲットクリア。」
「了解よ千影。制空隊と合流して上空警戒に当たって。」
咲耶の嬉しそうな声が、千影の耳に響いてきた。
「ナイトメア1、了解……春歌くん。」
「了解です。」
爆弾を全て使い切った二人は、制空隊と合流すべく高度を上げた。

戦いの趨勢は、やや拮抗しながらもISAF側に傾いていた。初めからこれあるを予期していたエルジア軍だったが、低空から強襲された事もあり接近する第407飛行集団を探知した時には、既に攻撃が開始された後だった。いかに、精鋭灰色中隊を擁しているとは言え、一度防空圏内に入れてしまえば最早防ぎとめるのは不可能だった。
「大体いいわね。」
レーダーディスプレイを前にした咲耶は、満足そうに頷く。すでに石油コンビナートは60パーセント以上が破壊され、機能低下を起こしていた。
「スカイアイより各機へ。」
咲耶はマイクを繋ぐ。
「作戦目的は達成。ただちに…………」
昨夜はそこまで言って言葉を止めた。レーダーの端に何やら光点が映っている。数は5機、速度はマッハ2.3。
「こっ、これは……」
咲耶の背筋に悪寒が走った。ユージア広しと言えど、この条件に当て嵌まる物は1つしかない。次の瞬間、咲耶は声の限りに叫んだ。
「みんな逃げて!黄色中隊よ!!」
死神は今、大きく鎌を振りかぶった。

「黄色の13よりエルジア軍全機へ、ただいま戦場到着。これより戦闘に加入する。」
虎太郎は、戦闘開始のベルを静かに告げた。それとはまったく対照的な声が、虎太郎の耳に響いてきた。
「灰色の1より黄色の13!遅いぞ馬鹿野郎!」
虎太郎と庸介は空軍士官学校時代からの同期で、気心の知れた仲だった。
「ああ悪いな。道が込んでたんだ。」
庸介の怒りの矛先を、虎太郎はさらりとかわす。しかし、空を飛んできたのに「道が込んでいた」もないものである。
「とにかく行くぞ。黄色の13より各機へ、ISAFを叩き落とせ。」
「黄色の2、了〜解。」
「4、了解!」
「6、了解。」
「7、了解ィ!」
それぞれ個性的な返事を返して、散開する黄色中隊。その瞬間、エルジア軍は驚喜し、ISAFは顔面蒼白になった。
殺戮が、始まった。

「全機、ミサイルを捨てて機体を軽くしろ!それから高度を捨てて速度を稼ぐんだ!急げ!」
矢継ぎ早に命令を下す藤島の声にも、明らかな焦りが感じられる。その焦りはやがて407飛行集団全員に伝染する。
「兄くん、衛くん……急ごう……」
「兄君様、お早く!」
なんとか千影と春歌に合流した葵と衛も、待避行動に入る。
しかしそんな中で唯一人、葵は黄色中隊がいる方向をただジッと眺めている。
「…………」
「あにぃ!早く!」
衛の声も恐怖で震えるのを、必死で堪えているのが分かる。しかしそれでも葵は、黄色中隊を睨み付けたままで居る。やがて、ゆっくりと口を開いた。
「千影……春歌……衛を頼む。」
それだけ言うと、葵は機体を反転させた。
「あにぃ!」
「兄くん!」
「兄君様!」
妹三人の叫びを無視して、葵はアフターバーナーを点火した。

黄色中隊は戦闘開始わずか3分で、7機のISAF機を撃ち落としていた。さらに彼等は、逃げ遅れた3機の戦闘機を包囲していた。そんな彼等のレーダーに、さらにもう1機の機影が向かってくるのが映った。
「あ〜、黄色の2より黄色の13。なんか自殺願望者が1人増える予定だが、どうする?相手はフランカー、尾翼には青い……リボンのマーク……かな?」
賢がやる気の低い声で報告する。それを聞いて虎太郎は頷いて言った。
「そいつは俺が相手をする。お前等はこっちを片づけてくれ。」
「「「了解!」」」
賢、一矢、瞬矢が返事をする中、操は心配そうに虎太郎を見る。
「隊長、バックアップは?」
「心配するな。負けはしないさ。」
そう言って虎太郎は笑うと、接近してくる敵に向かった。
自分に接近してくるスーパーフランカーは、葵の目にも確認できた。その機首部分に「013」の文字があるのも……
「黄色の……13……」
葵は唇をギュッとかみ締める。2年間捜し求めた敵が、今、自分の目の前にいる。
「教官の……仇だ!!」
狼は、初めて吼えた。

フランカーとスーパーフランカーはヘッドオンで向かい合い超音速で接近すると、そのまますれ違う。
「うわあ!」
超音速時の衝撃で、思わず葵は顔をしかめる。吹き飛ばされた時のショックで、機体は横に流される。
「ちい!」
葵は強引に機体を引き起こしに掛かると、虎太郎の背後につく。
「野郎!」
葵はアフターバーナーを点火して、虎太郎を追撃する。一方の虎太郎は、背後から近付く葵など知らぬげに、背中を見せて飛行している。
「舐めやがって!」
葵はGに構わずにエンジンをフルスロットルまで上げると、FCSを短距離ミサイルモードに切り替える。翼端のパイロンにはサイドワインダーが1発だけ残っている。
「メビウス1、フォックス2!」
復讐の念が込められて、サイドワインダーは虎太郎のスーパーフランカーに向かう。
「……甘いな」
しかし虎太郎は機体を軽く振るとサイドワインダーをぎりぎりまで引き付け、翼を翻してをよける。
「計算のうちだ!」
どれほど高機動を誇る戦闘機でも、旋回中はスピードが落ちる。葵はその瞬間を待っていた。アフターバーナーを全開まで吹かして一気に距離を詰めると、照準機の中央にスーパーフランカーを捕らえた。
「メビウス1、フォックス3!」
葵はスーパーフランカーに向けてバルカンを発射した。
『この速度差なら、かわしようがない。もらったぞ!』
しかし次の瞬間、虎太郎は機首を大きく引き上げてコブラ機動に入った。
「なっ、しまった!」
気付いた時には既に遅く、フルスロットルのまま突っ込んだ。葵はオーバーシュートしていた。
「今度はこっちの番だ。」
姿勢を水平に戻した虎太郎は、逆に葵を追撃する体勢に入った。
「チッ!」
葵は舌打ちすると、エンジンスロットルを上げて待避行動に入る。しかし虎太郎は葵のフランカーにぴったり張り付いて離れない。
「黄色の13、フォックス3!」
虎太郎はトリガーを引き、バルカンを発射する。葵のコックピットの脇を、30ミリ弾丸が駆け抜けていく。
「くそっ!」
葵はハイGバレルロールに入る。何とか虎太郎をオーバーシュートさせて背後を取り返すのだ。しかし虎太郎は正確に葵の考えを読み抜き、そのまま螺旋状に追撃する。
「っ!」
振り切れないと悟った葵はバレルロールを途中で止めて、機首を引き起こして今度はインメルマンターンに入る。今度こそはと言う想いが葵の脳裏にかすめる。
しかし、やはり振り切れない。上昇して高度を取った葵を、虎太郎は正確に追尾してきた。そして、容赦無くバルカンを浴びせる。
『敵わない!』
そんな絶望的な思いが、葵を支配する。そもそもフランカーとスーパーフランカーでは、性能に2世代の開きがある上に、葵と虎太郎の間にも絶望的なまでの腕の差が存在した。敵う通りはなかった。
『俺は負けるのか……教官の仇も取れず……こんな所で死ぬのか……』
葵の脳裏に、教官であった彩村命中佐の顔が思い浮かぶ。
「畜生ォォォォォォ!!」
葵は吼えると同時に、機首を思いっきり下に下げた。一瞬遅れて虎太郎も追撃する。それに対して葵は降下しながらシザーズ機動を行う、「バーチカルシザーズ」に入る。最早最後の手段。これで駄目なら打つ手は皆無に等しい。
「……フッ」
しかし虎太郎は口の端に笑みを浮かべると、余裕を持って葵についてくる。
葵はロールを行いながら振り切ろうとするが、振り切ったと思った一瞬後には、既に背後に虎太郎のスーパーフランカーが現れていた。
「クッ!」
どうあっても背後から離れないスーパーフランカーを見て、葵は唇を噛む。
「…………これまでか。」
葵は覚悟を決めて、ゆっくり目を閉じた。
「あの世で……また教官と一緒に飛べるのかなあ?」
しかし、救いの女神はすぐそこまで来ていた。
「あにぃ!」
葵は閉じていた目を見開いた。
「衛、どうして戻ってきた!?」
見ると衛のファルコンが、虎太郎のスーパーフランカーの背後についているのが見えた。
「あにぃ、ボクがこいつを押さえている隙に離脱して!」
「しかし!」
「早く!あんまりもたないよ!」
衛は苦しそうに叫んだ。
「クッ!」
葵は衛に背後を取られて事で、動きが鈍った虎太郎の隙を突いて振り切る。しかし、体勢を立て直した虎太郎は衛とのドッグファイトに入り、あっと言う間に背後を取り替えしてしまった。
「衛!」
葵はアフターバーナーを吹かして、衛の救援に向かう。
一方の衛は勇んで兄を助けに来た所までは良かったものの、あまりの実力の差に焦りを通り越して恐怖すら感じていた。
「うっ、うわあ!助けてあにぃ!」
衛は今にも泣き出しそうな声で、助けを求める。そもそも葵ですら敵わなかった相手に、衛が勝てる道理はなかった。それでも衛を突き動かしたのは、兄への想いだったのかもしれない。
しかしそうしているうちに、虎太郎は衛のファルコンをバルカンの射程に収めた。
「黄色の13、フォックス3!」
虎太郎はバルカンを発射した。しかし次の瞬間、射線を遮るように葵のフランカーが割って入った。
「くっ!」
鋭い衝撃が葵を襲う。どうやら右のエンジンにダメージを負ったらしく、スピードが見る見るうちに落ちていく。
「あにぃ!」
衛が心配そうに寄り添う。
「怪我はないか衛?」
「うん。ボクは大丈夫……けど、あにぃが……」
「心配するな。俺はこれくらいでは死なん。」
そう言って葵は不敵に笑う。しかしそんな2人に背後から、再び虎太郎のスーパーフランカーが迫る。
「ゲームセット……か……」
葵は低く呟いた。
しかし、天は今だその膝元に葵達を召喚するつもりはないらしい。突然後方から銃撃を浮け、虎太郎は機体を翻した。
「大丈夫か葵、衛。」
見るとフランカーとストライクイーグルが翼を連ねてこちらに向かってきている光景が見えた。
「……信悟……高士……」
二人は葵と衛をかばうように、2人の前面に躍り出る。
「葵、まだ飛べるか?」
「……何とかな。」
高士の質問に、葵は暫く機体を確認してから答えた。
「よし、じゃあ俺達が援護するから、先に帰ってろ。」
信悟がそう言うと、2人は黄色中隊を牽制するように飛び回る。
「あにぃ……」
そんな2人を、心配そうな目で衛が見守る。
「…………帰るぞ衛。どの道、俺達はこれ以上戦えない。」
「……うん。」
そう言うと2人は、翼を翻した。

一方の黄色中隊側も、これ以上の交戦は不可能になりつつあった。その理由は、燃料不足であった。コンビナートの危機を知って全力で駆けつけ、なおかつ戦闘を行った為、既に帰るだけで精一杯だった。
「隊長、もう燃料がありません!」
信悟と交戦中の操が、深刻な声で報告する。
「2、同じく燃料無〜し。」
「7、こっちもっす!」
「6、同上。」
それらを聞いて、虎太郎は溜め息を吐いた。
「仕方が無い。今日の所は引き上げるか。」
そう言うと虎太郎は、高士の攻撃を翼を翻してかわす。
「黄色の13より全機へ。撤収!」
「「「「了解!!」」」」
5機のスーパーフランカーは一世の翼を翻す。
「逃がさん!」
そんな彼等を、高士は全力で追撃に入ると、最後尾を飛ぶ虎太郎に照準を定める。
「アドラー、フォックス3!」
高士はバルカンを放つ。しかし虎太郎は機体を軽くバンクさせてかわすと、そのまま高士を振りきってしまった。
「……何と言う腕だ……」
『これが……黄色中隊……』
高士は、人知れずうめいた。

基地に戻った葵は、隊長の藤岡からたっぷり小一時間も絞られた後、ようやく解放されてブリーフィングルームを後にした。
「あっ……」
ブリーフィングルームを出て、すぐ目に飛び込んできたのは、ずっと外で待っていた衛だった。すでに11月に入り、雪もぱらつき始めている。廊下とは言えかなり寒い。そんな中で、衛は葵を待っていた。
「あにぃ……」
衛は、おずおずといった感じに口を開いた。
「どうした?」
「あのっ、さ……」
「…………」
衛は何かを決心したように顔を上げると、勇気を振り絞って尋ねた。
「どうしてあにぃは変わっちゃったの!?」
「…………」
「あにぃは2年前ノースポイントに帰ってきた時から、何だか様子がおかしかった。変に人を避けるようになったし、あんまり笑わなくなった!」
「…………」
葵は衛の言葉を、黙って聞いている。
「教えてよあにぃ!いったい何があったの!?」
「…………」
葵はそれには答えず、冷えきった衛の頬にそっとてをそえた。
「こんなに冷えてるじゃないか……風邪を引くぞ。」
そう言うと葵は自分の上着を脱いで、衛の肩に掛けてやった。
「はぐらかさないでよ、あにぃ!」
それに構わず、衛は叫ぶ。
しかし葵はフッと笑っただけで、その話題には触れようとしなかった。
「…………いずれ……話すよ。きっとな。」
そう言うと葵は衛の肩を、そっと抱きしめて歩き出した。

 

第4話「倒すべき敵」 おわり

あとがき

こんにちは、ファルクラムです。ページ数を減らした事で、より深い話がかけるようになりました。今後ともよろしくお願いします。それでは、また。
追伸
「戦闘機のことが良く分からない」と言う方の為に、解説を作ろうかと思っておりますので、そちらのほうも、興味を持っていただいた方はご覧になってください。

ファルクラム

 


ファルクラムさんへの感想はこちら
nymausht@cna.ne.jp
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