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リボンつきの翼
第二十六話「この翼続く限り」

作者 ファルクラムさん


 ユージア大陸
 2003年に起こった小惑星ユリシーズの地球衝突時に、点在する全大陸中でもっとも被害が大きかった大陸である。その中でも特に被害が大きかった地域は、大陸西端に位置するエルジア帝国帝都ファーバンティであった。この地は元々標高が低かった為、隕石衝突の余波で海面が隆起し、都市部の大半がせり上がった海面に浸かり、首都としての機能を半減させていた。
 その退廃の都ファーバンティを、陸上、海上、そして空中の三方向からISAFが包囲し、今にも攻撃を開始しようとしていた。
 ユージア歴2007年12月1日。エルジア帝国軍の最終防衛ラインであるウィスキー回廊を突破したISAFはついに、エルジア帝都ファーバンティをその攻撃圏内に収め、総攻撃の瞬間を今や遅しと待ちかまえていた。
 その兵力は、まずウィスキー回廊方面より地上軍35万が迫り、海上からは戦艦1隻、航空母艦2隻を主力とする艦隊が領海線を突破、沿岸部にその砲門を向けている。そして上空からは、歴戦の空軍400機が轟音を響かせて殺到しようとしていた。
 対するエルジア軍は、既に主力となる軍隊の大半をすり減らしていたが、残された全ての力を振り絞って帝都の守りを固めていた。その兵力は陸軍がウィスキー回廊から撤退してきた部隊と帝都防衛隊、さらに近衛師団を併せた約30万、海軍はタナガー級戦艦の4番艦「グリフィス」、及び巡洋艦1隻を主力とした10隻が健在であり、空軍は国内に残ったパイロットと航空機をかき集め250機と言う機数を揃える事に成功した。まさに残された全ての力を振り絞っての総力戦に挑んできていた。数だけを見れば、エルジア軍はまだまだ戦えるだけの戦力を残しているようにも見えるだろう。しかし、主力となる陸軍はウィスキー回廊会戦の敗戦による部隊再編が済んでいない為、その実情はただ頭数を揃えただけに過ぎず、海軍はユージア最強のタナガー級戦艦を擁しているとは言っても、それを動かすだけの燃料に事欠き、あたら最強戦艦は運河の河口付近に座礁させて浮き砲台としての機能しか持たなくなっている。そして空軍は、もはや語るまでもないだろう。この大戦において主力を担い、常に前線に立ち続けてきた空軍は熟練パイロットの大半を失い、残った者は飛行時間が10時間にも満たない、言わばようやく離陸できるようになった程度の者でしかなかった。
 それでも、彼らの士気は高かった。最早後がないのだ。エルジアの全将兵達は、悲壮な覚悟と供に迫り来るISAFの大軍を待ちかまえた。

 それは、黄昏の夕日と供にやってきた。
 連なった翼と独特の風切り音は地獄の人面鳥を思わせる。沈み始めた太陽に照らされて、彼らの翼は銀色の光を反射する。滅び行く者達へ引導を渡すべく、死神の群れが手にした大鎌を振るわんと、ファーバンティを目指す。
 海上方面からファーバンティ侵攻を目指すISAF空軍の主力部隊は、味方艦艇上空を飛び越え、水没した都へと向かう。
 その先頭を飛ぶ機体は、異形のW字翼を持つ機体であった。
「メビウス1より各機へ。」
 先頭を行くX−02を操りながら、上杉葵少佐は指揮下の航空隊に通信を入れた。
 彼は現在、航空隊副隊長の地位にあり、今回の戦いでは攻撃隊の指揮官という立場にある。それと言うのも、先日のウィスキー回廊会戦において鎌田信悟准将、並びに大谷二郎准将(両名供に戦死後二階級特進)が戦死した事に原因があった。両名は生前空軍のナンバー2と3の位置にあった訳であるが、その両名が一時に戦死してしまい、空軍としては早急に指揮系統の建て直しに迫られた。しかし、戦時下、それも決戦が近いとあっては複雑な人事を断行している余裕もない。そこで、ナンバー4以下を繰り上げる事によってその対処とした訳である。そしてナンバー4の位置にあったのが他ならぬ葵というわけである。
「既に地上の味方は攻撃を開始している。俺達の目的はその支援だ。」
 ユリシーズの激突で海面が高くなったファーバンティは、当初は至る所で水路が出来、それにより至る所で通行不能な場所が点在していた。エルジア政府はそれを解消する為に大戦勃発前は水路に橋を架け、その対処としていた。
 葵達が今回攻撃目標に選んだのは、それらの橋だった。それらを破壊してエルジア軍の進撃、並びに補給路を断つのだ。
 突如、先頭を行く葵のレーダーに光点が映った。光点は次第に数を増し、前方に立ちふさがるような壁を作り出す。彼らが来たのだ。
「行くぞ。全機突撃。アッタクオン!!」
 葵は吼えるように命令を下した。

 その命令を、上杉衛中尉は葵の右後方で聞いた。
『あにぃ……』
 衛は、心の中でそっと葵に呼びかけた。
 その胸の内には、今回の戦いにおける一抹の不安が灯っていた。
 
 今回の出撃の直前、衛は葵の自室に呼び出された。
 衛が部屋に入ると、葵も既に準備を終えて衛を待っていた。
「来たか。」
 葵は淡い微笑と供に、衛を迎え入れる。以前なら、そう、ほんの半年前までならば考えられないような葵の表情。相手が衛だから、葵がこの世でもっとも愛する人だからこそ見せる表情。その表情は、衛にとっても何より嬉しい物だった。
「あにぃ。」
 衛は頬を少し桃色に染めて葵の顔を見上げた。
「どうしたのあにぃ、こんな時に?」
 いくら好き合った者同士とは言え、出撃前の短い時間に呼び出すのはおかしい。作戦上における打ち合わせは既に終わっているし、他に何かあるならばわざわざ自室に呼び出さずとも、移動しながらでも可能なはずだった。それをわざわざ自室に呼び出したと言う事は、よほど重要な用事なのだろう。
 衛の問いかけに対し、葵は先ほどまでの微笑を消して真顔で衛と向き合う。
「衛。」
「うん。」
 葵は諭すような静かな口調で語りかける。
「長かったな。」
「え?」
 葵の言葉の意味が分からず聞き返す衛。それに答えるように葵は続けた。
「俺がノースポイントに戻って、最初に出迎えてくれたのがお前だった。」
 葵のその言葉で、衛は納得がいった。
 ノースポイント防衛戦以来約1年半の長きに渡って、葵と衛は常に翼を連ねて戦ってきた。葵はその事を言っているのだ。
「そして多分、これで最後になると思う。」
「うん。」
 衛は頷いて先を促す。
「おそらく、敵も残った全戦力を持ってこちらに挑んでくるだろう。その中にはあいつが、黄色の13が当然含まれているはずだ。」
「…………」
 その名前がでた時、衛は僅かに体を強張らせた。彼の強敵の恐ろしさは衛自身、身に染みて知っている。それだけに恐怖感を禁じ得ないのだ。
「奴が出て来たら、俺が全力で叩き潰す。」
 葵はそう言ってから、ふと視線をずらした。
「だがな衛。万が一、俺が奴に敗れた時は、」
「あにぃ!!」
 葵の言葉を、衛の咎めるような叫びが遮る。それ程までに葵の言葉は不吉のニュアンスを多分に含んでいた。
 そんな衛に対し、葵は柔らかく微笑む。
「衛。戦いは、やってみないと分からない。それはお前もよく分かってるはずだ。」
 そう、戦いは蓋を開けてみない限り何が起こるかわからない。まさに流れる水のようにつかみ所が無く、いかようにもその様相を変化させる。「勝負は水物」とはよく言った物である。
「…………」
 葵の言葉に、衛は口を閉ざす。それを見て葵は続けた。
「もし、俺が敗れた時は、その時はお前が……お前が黄色の13を討ってくれ。」
「!?」
 葵のその言葉に、衛は絶句した。
「あにぃ……そんな……」
 そんな衛の肩に手を置いて、葵は語りかける。
「頼む。こんな事を言えるのは、お前しかいない。」
 それは、葵にとって衛が愛する女性であると同時に、この世で最も信頼している相棒であるから。
 葵は、そっと衛を抱き締める。
「忘れるな。俺とお前はずっと二人で戦ってきた。……俺達は、二人で『リボン付き』なんだ。」
「……うん。分かった。」
 衛は頷くと、答えるように葵の背に手を回した。
「あにぃ……大好きだよ。」
「俺もだ。」

 一方、海上からは戦艦ヴァルキリーを中心としたISAF艦隊が、海岸線に向けて接近していた。
 すでに陸上では戦闘が開始されている。その火力支援のために、わざわざノースポイントから大陸南方を大回りしてきたのだ。
 旗艦ヴァルキリーのCICに、鋭い視線を湛えた青年が行く手を見据えて立っている。
 山神燦緒ISAF海軍大佐。ロブナ海岸会戦以来、常に海軍の実戦部隊を率いてきた勇将であり、今やISAF海軍の中心となっている人物である。
「艦長。全艦戦闘準備完了。いつでも行けます。」
「ご苦労。」
 報告を聞いた燦緒は僅かに頷き、視線を前方に向ける。
 その視線の先、エルジア帝都ファーバンティからは、既に無数の煙が上がり、市街各所で戦端が開かれていることを物語っていた。
 既に彼の妹である山神眞深海軍大尉は、愛機ハリアーを駆って弾着観測地点に付いている。
 燦緒は帽子を深く被り直す。その間に、大きく息を吸い込み、肺の中を空気で満たす。最後の戦いなのだ。初めの号令はできる限り威勢良く行きたかった。
 そんな燦緒の思いに答えるかのように、ヴァルキリーは大きく身震いすると、ゆっくりと三基九門の主砲を旋回させ陸地へと向ける。
「データ、スパイ1より取得リンク開始。パラメーター接続。目標エルジア帝都ファーバンティ旧官庁街!!」
「主砲、レーダー連動完了、指向良し!!」
「弾種、クラスター砲弾装填!!」
 オペレーター達が次々と状況を報告してきた。
 それを聞きながら、燦緒はゆっくりと顔を上げた。そして、大気を震わす気合と供に開幕のベルを鳴らした。
「撃ち方、始め!!」

 出し抜けに、葵の眼下で大爆発が起こった。
「っ!?」
 とっさにX−02の機首を上げて、爆風から逃れる。それに続いて、ファーバンティの海岸線に次々と大輪の赤い花が咲き乱れる。
「・・・・・・・これは?」
 葵は素早く海上に目を走らせる。
 そこには水没以前の旧海岸線ギリギリまで接近し、ファーバンティのエルジア陸軍に砲撃を行っているISAF艦隊の姿があった。
 その中心である戦艦ヴァルキリーは毎秒10発と言う同クラスの戦艦の常識を遥かに上回る速度で砲撃を繰り返していた。
 しかし、その勇壮な光景に見惚れている余裕は、葵には無い。
 葵が気を逸らした隙を見て取ったエルジア軍のスホーイ35が、葵のX−02に背後から接近して来ていた。
 葵はすぐに意識を戦闘に引き戻すと、エンジンに出力を送りつつ、機首を下にして速度を稼ぎにかかる。スホーイ35も葵の意思を見て取り、追撃に入る。
 葵は高度を1000メートル近くまで落とすと、スティックを倒して左急旋回に入った。当然スホーイ35のパイロットも追撃しようとするが、葵の急軌道についていけず、旋回半径が大きくなってしまう。
 その隙に葵はX−02をさらに水平旋回させ、スホーイ35の背後に回りこんだ。
 照準レティクルは、スホーイ35のテイルノズルを正確に捉える。
 葵は間髪入れずにトリガーを引く。放たれた30ミリ弾は、ノズル内に進入してスホーイ35のエンジンを粉砕した。
 墜落していくスホーイ35。
 葵はその名残である煙を突っ切り、次の目標に向かう。今度は、2機のミグ29ファルクラムが1機は上方から、もう1機は下方から接近し葵を挟み撃ちにしようとしていた。
 葵はその状況を素早く確認し、スロットルを全開まで押し上げる。
 主の意思に答えるかのように、X−02はその異形の翼をデルタ型に閉じ、比類なき加速力で2機のファルクラムを引き離しに掛かる。
 ファルクラムのパイロットは唖然とした。これまで、自分達が経験した事のないような加速力を、目の前の機体が示したからだ。
 引き離すと同時に葵はスティックを引いて急上昇に入る。そのままループを行うと、1機のファルクラムの背後に回りこんだ。同時に右のウェッポンラックを開きサイドワインダーをロックする。
 狙われていることを悟ったファルクラムのパイロットは、どうにか逃れようとする。しかし、今やISAFのみならずユージアでも最強レベルと謳われるようになった「リボン付き」に捉まった以上、逃れる術など存在しなかった。
「フォックス2。」
 低いコールと供に葵はサイドワインダーを放つ。
 放たれた猟犬はファルクラムの放つ熱源を追って一気に喰らい付くと、そのままボディを噛み砕き巨大な火中へと中のパイロットを投げ込んだ。
 葵はその時点で、この戦闘は終了であろうと判断していた。これまでの経験からして、ウィングマンがやられた場合、戦勢利あらずと見たもう一人のパイロットは、戦略的な撤退へと移る。それは決して非難される行為ではない。負ける可能性が高い戦闘を一時的に回避し体勢を立て直すのだから、大局的に見た場合間違っては居ない。
 しかし、葵に仲間をやられたもう一人のパイロットは、そのまま機体を旋回させて葵に向かってくる。
「何?」
 葵は軽い驚きと供に、そのファルクラムを見やる。そして、一拍おいて理解した。
 このパイロットはまだ、あまりにも未熟なのだ。その為に引き際を見極める事ができずにより強大な敵に立ち向かうと言う愚を冒している。そしてそれが明確な蛮勇であると言う事にまったく気付いていない。
 葵は一つ溜め息をついた。
 これも、長い消耗戦を繰り広げた悲劇なのだろう。
 同情はする。しかし手加減はしない。ここが戦場である限りそれだけはできない。
 葵はX−02を横滑りさせ、背後についたファルクラムの攻撃を回避する。同時にエアブレーキを開いて急減速すると、スティックを急激に倒した。
 ファルクラムのパイロットは、一瞬で葵を見失った事だろう。その隙に葵は背後に回りこみ、FCSでバルカンを選択する。
 躊躇うことなく一連射。放たれた狼の牙はファルクラムの右主翼を噛み砕いて叩き落した。
「・・・・・・・・・・・・」
 スパイラルダウンを起こしながら急速に高度を落としていくファルクラムを見やりながら、葵は静かに息をついた。

 一時期、エルジア帝国軍はISAFを大陸から追い落とし、壊滅の一歩、いや半歩手前まで追い詰めていた。しかし、その勢力図は今や完全に逆転を見ていた。それにともない、両軍の物量も逆転していた。
 海上から侵攻したISAF空軍は、五つの部隊に分かれて四方からファーバンティ上空に侵入した。
 これは大戦中期にエルジア軍がよく使った戦法で、四方から飽和攻撃をかけることで敵の防衛戦を分散させ密度を低下させる事が目的だった。
 この戦法にエルジア軍は見事なまでに引きずられる結果となった。
 一度分散してしまえば質、量供にISAFの方が上回っている。後は押し包んで討ち取るだけである。

 攻撃隊の一隊を率いて市街地の上空に入った上杉春歌大尉は、指揮下の部隊を散開させて、自身も攻撃を開始した。
「ナデシコ1。ターゲット確認。攻撃を開始します。」
 春歌は運河すれすれまで高度を起こすとFCSで爆弾投下モードを選択し、徐々に視界の中で拡大してくる橋を睨みつける。
 低高度まで降下した春歌のラプターを見て、エルジア兵士達は目を剥いた事だろう。慌てて両岸に布陣していた部隊が春歌機に対して砲門を開くが、春歌は砲弾が自機を掠める前にスロットルを上げてスピードを上げやり過ごす。
 橋の上では、進撃途中のエルジア機甲部隊の戦車部隊がひしめき合っている。
 春歌は爆撃ピパーを目を凝らして睨む。橋という細い目標を水平爆撃で破壊するのだ。相対速度を計算しなければ命中させる事は難しい。
 橋の上に居たエルジア兵士達は春歌機の接近を見て、慌てて逃げようとする。しかし、遅い。
「投下!!」
 気合と供にコール。同時に春歌は搭載してきた1000ポンド爆弾1発を投下する。
 投下された爆弾は、慣性の為暫くの間春歌のラプターと同じ機動で水平に飛び、やがて見事に目標とした橋を粉砕した。
 轟音と供に、橋は支柱から崩れて倒壊していく。乗っていた戦車部隊が橋の傾斜に伴いずるずるとすべり、川の中へと落ちていった。
 それをバックミラーで確認した春歌は、息をつくように笑みを浮かべ、次の目標に向けて速度を上げた。

 戦況は、リアルタイムで耳に入ってくる。
 黄色の13事、村岡虎太郎エルジア空軍中佐は、滑走路に駐機したままの愛機、スホーイ37スーパーフランカーのコックピットに納まったまま、それを聞き入っていた。
 状況は既に巻き返しが不可能なところまで深刻化している。自分や黄色中隊出たところで、この絶望感に包まれた退廃の都を救うことなどできはしない。そんなことは分かっている。分かっているが、しかし、
「村岡。」
 虎太郎がそこまで考えたとき、コックピットの下から声をかけられた。
 下に目をやると、副隊長の斉藤賢少佐が完全装備で立っていた。
「全員準備が完了した。いつでもいけるぞ。」
「ん。分かった。」
 虎太郎は身を起こすと、地面へ降り立った。
 そこには既に、黄色中隊の隊員14名が整列し、自分たちが仰ぐべき唯一絶対の主君を待っていた。
 虎太郎はその一人一人の顔を、順に見回す。
 掛け値なしに、現時点でエルジア、いや、ユージア最強の飛行集団。自らが全幅の信頼を寄せる14人の翼持つ騎士たち。
 彼らを前にして。虎太郎はゆっくりと口を開いた。
「みんな。よくここまで生き残り、俺についてきてくれた。」
 虎太郎の言葉を、黄色中隊の隊員たちは一語一句噛み締めるように聞き入る。
 それを見て虎太郎は先を続ける。
「戦いは残念ながら、エルジアの敗北必至というところまで追い詰められてしまった。だが、」
 虎太郎は目を鋭く細める。
「たとえ、どれだけ絶望的な状況であろうと、この帝都の空を守る俺達が諦める訳にはいかない。そう、俺達の背にこの黄色の翼がある限り、俺達は決して諦めない。」
 虎太郎の言葉に、全員が力強くうなずく。
「俺たちに明日は無いかもしれない。だが、今日、今、この時に羽ばたくだけの翼がある限り、帝都を、皇帝陛下を守る盾として、このエルジアの空に羽ばたこう。」
 虎太郎は力強く言い放つ。
「俺達は黄色中隊。このエルジアの空を守る精鋭。この翼続く限り、共に行き、共に戦い、そして共に笑おう!!」
 虎太郎の言葉に、斉藤が、一矢が、瞬矢が、そしてみんなが力強く敬礼する。
「総員機乗!黄色中隊、出撃する!!」
 その言葉を最後に、全員が一斉に愛機に向かって駆け出した。
『見ているか、立花。』
 走り去る隊員たちの背中を見送りながら、虎太郎は今は亡き戦友に語りかける。
『俺達は今から最後の出撃をする。』
 一抹の郷愁の中で、虎太郎は唯一自分が心に引っかけている物に思いを馳せた。
『立花。俺を・・・・・・リボン付きの所へ導いてくれ。』
 そう心の中で呟くと、虎太郎も愛機に向かって歩き出した。

 千影に率いられた隊は東側から帝都上空に侵入すると、全速力で防衛線を突破してエルジア軍上空に迫った。
「ナイトメア1より各機へ。攻撃・・・・・・開始。」
 静かに告げられた開幕のベルにISAFの戦闘天使たちは一気に加速、地上のエルジア軍に対し攻撃を開始する。
「いかせるな!!エルジアを守るんだ!!」
 低空から突き上げるように、エルジア空軍が迎撃を始める。
「さて・・・・・・」
 地上の様子を確認した千影は、そのまま高度を下げにかかる。
 そんな千影のラプターに、三機のフランカーが低空から付き上げて来る。
「・・・・・・」
 千影は向かってくる三機に素早く目をやると、FCSをバルカンモードで選択する。
 その間にもフランカーは向かってくる。
 千影は機体を軽くロールさせると、緩やかに機体を旋回させ、フランカー三機の攻撃を回避する。
 回避されたことを悟ったフランカー三機は、すぐに体勢を立て直して千影を追いかける。
 その様子をバックミラーで確認した千影は、口の端を薄く持ち上げて笑みを浮かべる。三機のフランカーは千影の背後を取ると、包囲するような体勢を取る。
「フッ」
 千影は降下で得たエネルギーと、ラプターのベクタードノズルを使って機体を強引に振り向かせる。
その急旋回に、三機のフランカーは付いていけず、放たれた30ミリ砲弾はむなしく黄昏の空に吸い込まれていく。
 その隙に、千影は動いた。アフターバーナー全開で急上昇、すれ違うと同時にエアブレーキを開いて減速。機体を振り向かせることで、三機の背後に回りこんだ。
「あっ!?」
「しまっ!?」
 千影の悪魔じみたテクニックに、三人のパイロットは一様に目を剥く。
 千影は冷静にレティクルを覗き込むと。一撃で中央のフランカーを粉砕する。残った二機は散会して逃れようとするが、千影はそれすら許さない。
 すばやく武装モードをサイドワインダーに切り替える。
「フォックス2。」
 放たれたサイドワインダーは、逃げようとするフランカーの排気炎に食らい付き、炎と共に粉砕する。
 残った最後の一機は、パイロットが恐慌に駆られたのだろう。操縦桿を無造作に動かしながら逃走を図ろうとする。当然、それでスピードが出るはずも無く、千影はあっさり追いつくと、ボディーに銃撃を浴びせて叩き折った。

 橋一つと戦車二両を破壊した時点で、衛は手持ちの爆弾を使い切った。
 元々が制空戦闘機であるX−02は、地上攻撃用には向いていない。自然、専用武装も制空用に偏った物となっていた。
 眼下の光景は騒然としており、現在のところどちらが優勢なのか判別することはできない。しかし、既にファーバンティに掛かっている橋の大半はISAFの攻撃によって破壊され、エルジア軍の戦線は各所で分断、進退共に不可能な部隊が続出、さらにそこからISAF空軍が猛爆撃を加えて各個撃破していった。

 衛は自身に向かってきたF−15アクティブの攻撃を身を翻してかわし、機種を下げて速度を稼ぎつつ、たった今自分に攻撃を加えた敵機を追撃する体勢をとる。
 一方で奇襲に失敗したことを悟ったアクティブのほうも、速度を上げて逃走を図りに掛かる。
 ]−02とF−15アクティブ。どちらも両軍が誇る新型戦闘機である。しかし、最初から量産を目的に作られたアクティブと、エース専用機として特化が施された]−02とではその性能に大きな開きがあった。加えてそのパイロットも尋常ではない。「リボン付き」こと上杉葵少佐の恋人であり、自身も内に牙を持つ少女である。
 衛はあっという間にバルカンの射程内にアクティブを捉えると、一瞬だけトリガーを引く。その一撃でアクティブはボディを噛み砕かれ四散した。
 そんな衛の]―02に、今度は三機のアクティブが向かってくる。たった今、目の前で味方を殺されたせいだろう、三機のアクティブは殺気も露に衛に向かってくる。
「くっ!?」
 その三機の一斉攻撃に、さすがの衛も効しきれずに逃げに転じる。
 三機のアクティブは、衛を強敵と判断したのか無理な力攻めを避け、包囲しながら銃撃を加えてくる。じりじりと包囲網を狭め、機動が鈍くなったところで仕留めようというのだろう。いかに最高の機動性を誇る]−02でも、空戦機動を行える空間を限定されてしまえば仕留めるのはそう難しくない。言ってしまえば鳥かごに無理やり押し込めるようなものだ。
 衛は額から汗を流しながらも、必死に突破口を探る。現在自分は包囲されている。この包囲網が完成してしまえば終わりだ。しかし逆を言えば、包囲網が完成していない今ならまだ、チャンスがある。
 衛は全開状態だったスロットルを僅かに絞り、]−02を減速させる。そのせいで、]−02とアクティブの距離が詰まり、射弾が正確さを増して衛に襲い掛かる。
 衛は機体の一部を掠めるように飛んでくる弾丸の恐怖を無理やりねじ伏せて、一瞬の勝機を待つ。
 衛の減速を好機と見た三機のアクティブは、降るスロットルで距離を詰める。彼等はまさにその瞬間、自分達があの世とこの世の一線を越えてしまったことに気づいていなかった。
「今だ!」
 その瞬間、衛の目が光った。
 異形の翼を一杯に広げると、機首を挙げてループを行う。その突然の機動に、三機のアクティブは付いてこれない。
 衛は三機のうち中央の一機をヘッドオンで捉えた。
「もらった!!」
 衛は間髪いれずにバルカンを放つ。
 その一撃で、アクティブは機首部分をコックピットごと粉砕され、力を失って地上へと落下していく。衛はその間に次の行動を起こす。機体を左急旋回させて、いまだに事態を把握し切れていない二機目のアクティブを背後から捉え、バルカンを放ち撃ち落す。
「あと、一機!!」
 二機目を屠った衛は、最後の目標を眼で追う。
 しかし最後の一機は、衛が予期していなかった方向から現れた。
 頭上に掠めた影を、衛は一瞬見やる。
「上!?」
 気付いたときには既に手遅れ。仲間がやられているうちに上方に回りこんでいた最後のアクティブは、頭上から衛を捉える。
「クッ!?」
 衛はとっさにアフターバーナーを吹かして射点をずらそうとする。が、間に合わない。
『やられる!?』
 しかし次の瞬間、眼前まで迫ったアクティブは突如として火球へと変じた。
「・・・・・・え?」
 突然の敵機の消滅に、衛は呆気に取られる。
 そんな衛の頭に疑問符が打たれる前に、答えのほうが彼女の前に躍り出た。
「大丈夫ですか、上杉中尉?」
 衛の前に、一機のF−15イーグルが緩やかに旋回しながら現れる。機体カラーから、富永紀人大尉の機体であることが分かる。
「富永大尉。助かりました!!」
「危ないところでしたね。」
 そう言って、富永は笑う。この、比較的大人しめの青年が、自身の先輩の妹というだけで階級が下の自分にまで敬語を使ってくることには、いまだに違和感を禁じえない。しかし同時に、だからこそ好感を持つこともできる。
「さ、行きましょう。敵はまだ残っています。」
「うん。」
 衛が頷いた瞬間だった。
 突如、地上から地対空ミサイルが飛来する。それは、迷うことなく富永のイーグルを貫く。
「!?」
 目を見開く衛。そんな衛の目の前で、かつて富永の愛機だった物はその身に紅蓮の炎を纏いながら、混沌の地上へと落下していく。
「富永・・・・・・大尉・・・・・・」
 脱出は確認できない。あまりにも呆気なさ過ぎる富永の死に、衛は声も出ない。ISAF最高の栄誉であるストームナイトに称えられた者が、こうもあっさりとやられてしまう。しかし、戦場とはそういうものである。数々の激戦を潜り抜けてきたベテランがつまらない死に方をすることがあれば、戦場に出たばかりのルーキーが平然と生き残ることもある。流れ行く川に浮かぶたった一枚の運。それを掴み取れるかどうかが、その人物の生死を分けるのだ。
「・・・・・・」
 衛はバイザーを上げると、無言のまま涙を拭う。悲しんでいる暇はない。自分はまだ生きている。ならば、立って前へ進む義務をまだ持っているということだ。
 衛は操縦桿を握り直し、]−02を再度戦場に向けた。

 海上から接近したISAF艦隊に向けて、重量2・5トンの巨弾が見舞われた。
「クッ!?」
 ヴァルキリーのCICにいる燦緒は、とっさにいすの肘掛に手をついて転倒を免れる。
「ファーバンティ海岸線上に、タナガー級戦艦一隻を確認!!どうやら浅瀬に座礁している模様です!!」
 すぐに観測員からの報告がもたらされる。その報告に燦緒は舌を鳴らした。
「厄介なものを・・・・・・」
 基本的に、軍艦というものは地上の砲台に敵わない。理由は簡単。軍艦は海に浮かんでいる以上攻撃を受ければ沈む。しかし陸上砲台は無力化はできても沈むことは無い。また、陸上にあるため、軍艦が持つ排水量等の制限が無い。よって、強大な武装、強固な防壁を築くこともできる。
 タナガー級戦艦四番艦グリフィスは、五十六センチ砲九門を備えた強力な要塞として燦緒達の前に立ちはだかった。
 再び襲う巨弾。
「クッ、ラグナロクより全艦艇へ、応戦を開始せよ!!」
 燦緒の命令を受けて、グリフィスに向けて砲門を開くISAF艦隊。大小も砲弾、ミサイルが唸りを上げて飛ぶ。
 グリフィスの周りに大小の水柱が立ち上り、視界からグリフィスが一時的に消え去る。
「やったか!?」
 燦緒が身を乗り出す。しかし、
「まだです!!」
 悲痛なレーダー員の叫びを追撃するかのように、水柱の中からグリフィスが顔を出す。その三基の主砲塔は、まるで巨大な触手のように敵を求めて蠢いている。その動きが、次の瞬間ピタリと止まった。
 背筋に感じた悪寒。その感覚に従い、燦緒は叫んだ。
「機関全速、ハイドロフォイル全開!!急げ!!」
 燦緒の命令に、ヴァルキリーは一気に加速する。機関と共にハイドロフォイル(水噴進。つまり水を取り込んでそれを後方に噴射させることで船に推進力を与える装置。)を全開まで上げる。
 三十四ノットの最高速度を誇るヴァルキリーは、一時的に三十七ノットまで加速する。その後方に、ヴァルキリーのそれよりも明らかに二周りは太い水柱が突き立った。いや、それだけではない。その後方で爆炎があがっている。逃げ遅れた味方艦に命中弾があったようだ。
「巡洋艦デスティニー。轟沈!!」
 燦緒は息を呑んだ。一万トン以上の巡洋艦がこうもあっさり沈むとは、恐るべきは五〇口径五十六センチ砲の威力である。
「手を休めるな!!畳み掛けろ!!」
 燦緒は恐怖を振り払うように叫んだ。自分達が勝つ方法があるとすれば、それは唯一つ。数的優位を生かし押し包む事だけだ。
 燦緒の命令を受けて、ISAF艦隊は全砲門をグリフィスに向けて放った。

 海岸線の戦いとは別に、陸上での戦いはISAF優位に進んでいた。
 先にも述べたが、ISAF空軍がファーバンティの水路上に掛かる橋を片っ端から叩き落した為、エルジア軍の進撃路は各所で分断され各個撃破の憂き目にあっていた。
 エルジア軍の残存部隊は総司令部のある海岸線付近に集結し、最後の抵抗を試みようとしていた。そんなエルジア軍に対し、ISAF各部隊についに総攻撃命令が下された。
 津波のように押し寄せる戦車と兵隊の群れ。既にエルジア軍の総兵力は十万を切っている。対してISAFは空陸の連携によりほとんど被害らしい被害を受けていない。そんな圧倒的不利な状況を前にしても、エルジア兵達は一歩も引かずに応戦を続ける。建物や瓦礫をバリケードにして激しい応射を繰り返す。弾薬の尽きた者は銃剣を手に突撃する。
 しかし、エルジア軍の応戦を嘲笑うかのように、戦線は分単位で後退していく。
 もはや、誰の目にも勝敗は決していた。

 河村高士は本日六機目の戦果を得た時点で息を付いた。
 地上とは別に、空の戦いは今だ混沌の中にあった。敵味方が入り乱れ、視界の中ではその判別することは不可能だった。
「ふう・・・・・・」
 高士はもう一度、今度は溜息をついた。
「私は・・・・・・いつまでこんなことを繰り返せば良いのか?」
 高士は、このユージア大戦開戦当初から戦ってきていた。元々アルトーラ国出身だったため、常に前線は自身の隣にあった。まともな精神の持ち主ならとう精神異常を来たしていたことだろう。そうならなかったのは、高士自身の精神力の強さとISAF最強とまで言われるようになったエースとしての誇り、そして葵をはじめ多くの仲間達が支えてくれた結果だった。だが、その仲間達も長く続いた戦争でほとんど死に絶えてしまった。
「もう・・・・・・疲れた。」
 高士がそう呟いたときだった。
 一瞬の気の緩みを、無慈悲な戦場の女神は見逃さなかった。
 一瞬の警告音。高士は我に返りバックミラーを見やる。そこには自分に向かってくるスホーイ35の姿があった。
 今まで感じたことの無いような衝撃が高士の真紅のフランカーを叩く。
「クッ!」
 高士はとっさに操縦桿を捻って機首を巡らすと、たった今自分を攻撃したスホーイ35に銃撃を浴びせて叩き落す。
 しかし、銃撃を浴びたフランカーはまるで今にも息を引き取らんとする病人のように不規則な振動を繰り返す。
 そんな高士に、死神の牙が再び襲い掛かる。
 高士の不調を見取った一機のアクティブが、上方から迫ってくる。
 しかし、その死神の牙は標的を捉えることなく叩き折られた。
『大丈夫か、河村!?』
 自機の隣に並んだ機影を見やり、高士は思わず微笑を浮かべた。
 それは、葵、衛と並ぶもう一機の異形の翼。傭兵部隊隊長レイ・ラブロック・村雲大尉のスホーイS−37ベルクトが飛行していた。
「すまない、レイ。助かった。」
 そう言って高士は力なく笑う。そんな高士の様子に、レイは首をかしげる。
『おい。どこか負傷したのか?』
「いや、大丈夫だ。何とも無い。」
『そうか・・・・・・だが、その機体の様子じゃ、もう戦えそうも無いな。お前はいったん基地に戻れ。』
 レイの言うとおり、高士のフランカーは翼端が削り取られ、黒煙を上げていた。さらに微妙な振動を起こし、見るからに危なっかしい。
「そう・・・・・・だな。すまんが一度戻らせてもらう。指揮は葵に執るように言ってくれ。」
『分かった。』
 頷くとレイは翼を翻し、戦場へ機首を戻した。
 それを確認してから、高士は戦場とは逆の方向に操縦桿を倒した。
 損傷を受けたフランカーはエンジン出力が下がり、思うように加速できない。これでは味方が確保した基地にたどり着く前に力尽きるだろう。
「こいつも私同様、限界なのだな。」
 このフランカーとの付き合いも長い。フランカーは初期のISAFの戦線を支え続けた名機である。だが、次々と新型機と交代する中でフランカーを使い続けている人間はごく僅かだった。
「今まで、ありがとうな。」
 高士は長く共に戦ってきた自身の相棒に、優しく語りかけた。
 まさにその瞬間だった。
 レーダーが警告音を発する。
 とっさに前方に目をやる高士。そこには二個小隊八機のエルジア空軍機が、自分のほうに向けって来るのが見えた。どうやら傷付いて帰投するISAF機を狙って、落ち武者狩りに励んでいたようだ。
 高士はフッと笑みを浮かべた。
 不思議と、エルジア軍の行為に怒りは感じ得ない。以前の自分なら彼らの行為に明確な怒りを感じたはずだ。それが無い。その事が異様に可笑しかった。
 敵は八機。味方は無し。しかも自分は傷付いている。
 しかしそんな絶望的状況を前にして、高士は不敵な笑みを浮かべる。
「悪いが、もう少し付き合ってもらおうか。」
 そう言って高士はスロットルを上げる。
 高士の抗戦意思に気づいたエルジア空軍も、臨戦態勢に入る。
 と、高士はアフターバーナー全開で突撃する。その事が、エルジア軍の虚を付いた。
 すれ違いざまにバルカンを浴びせて一機のアクティブを叩き落す高士。
 仲間がやられたことに気づいた別のアクティブが、高士のフランカーの背後に回りこもうとする。
 しかし高士は操縦桿を一気に引くと、フランカーを振り返らせてアクティブとヘッドオンで正対する。
「ひっ!?」
 その高士の行動に、アクティブのパイロットの顔が引きつる。
 その一瞬で高士はアクティブに銃撃を浴びせて撃墜する。
 高士を並みの相手でないことを悟ったのだろう、残ったエルジア機は三機ずつに分かれて高士のフランカーを包囲する。
 しかし次の瞬間、彼らの視界から真紅のフランカーは消え去る。
「なにっ!?」
「奴はどこに!?」
 次の瞬間、高士は彼らの頭上に現れた。そして、容赦ない一撃。また一機、エルジア機が火球に転じる。
 三機目を落とした高士は、速度を落として水平飛行に入る。
 そんな高士の背後に、一機のスホーイ35がつく。
「散々やってくれたな。これで終わりだ!!」
 獲物を前にして、猛獣が雄叫びを上げる。しかし次の瞬間、彼等にとって刈られるべき獲物は不敵な笑みを浮かべた。
 高士はエアブレーキを一杯まで開くと急減速、スホーイ35をオーバーシュートさせた。
「十年早い。」
 高士は呟くと同時にバルカンを放った。
 その一撃でスホーイ35は翼を撃ち抜かれ、バランスを失い高度を下げていく。
 まさに流れるような機動。高士は一瞬で四機のエルジア空軍機を叩き落してしまった。まさに悪魔のような技量。ISAF最強と謳われたのが伊達ではないことを示している。しかも高士のフランカーは万全ではなく、一部を破損しているのだ。それでもなお、高士の技量はエルジア軍を戦慄させるのに充分だった。
 高士はさらに一機のエルジア機を叩き落して、次の目標に向かう。
 既に戦意を喪失したエルジア機は逃走に入ろうとしている。高士はそのうちの一機に追いすがり、照準を定める。
 そして、一連射・・・・・・
 できなかった。
「?」
 とっさにFCSに目をやる高士。
『残弾0』
 無機質な文字が否応無く高士の網膜に焼きけられる。
 その文字を、高士は無言のまま見つめ、やがて大きく息をついた。
「運が・・・・・・切れた、か。」
 高士はシートに深く座りなおした。どうやら、ここが自分にとっての終着駅らしい。
 それを肯定するかのように、残った三機のエルジア機が高士のフランカーに向かってくる。
 高士は操縦桿から手を離し、ゆっくりと目を閉じた。
 目を開かなくとも、高士の心眼は今にも攻撃を加えようとするエルジア機を捉えていた。
「・・・・・・葵。」
 死を前にして高士は、この世に唯一残った親友に語りかける。
「お前は・・・・・・死ぬな!!」
 次の瞬間、三方向から放たれた銃撃が高士のフランカーを引き裂いた。

「っ!?」
 突然、誰かに呼ばれた気がして、葵は上空を振り仰いだ。
 弾薬を使い果たした葵は、味方が確保した基地に衛と一緒に帰投していた。
 二人の]−02は現在補給中である。地上の敵が壊滅したことで、今度は空戦装備で出ることになっている。
「どうしたの、あにぃ?」
 そんな葵の顔を、衛が心配そうに覗き込む。
 それに対し葵は、ニッコリと微笑む。
「いや、何でもない。」
 そう言って葵は、衛の頭に手を置いてその髪を撫でる。
 衛は少しくすぐったそうに、笑みを浮かべた。
 そんな衛の顔を見ながら、葵はいまだに帰ってこない親友の名を呼んだ。
『高士?』
 なぜか今、その名が葵の心にこびりついて離れなかった。

5

 海上の戦いは、ほぼ膠着状態の様を呈していた。
 ISAF艦隊は数に物を言わせて、全火力をグリフィスに向ける。
 それに対してグリフィスは、持ち前の防御力と攻撃力でISAFの攻撃を弾き返している。既にISAFは巡洋艦と駆逐艦合わせて三隻が海の藻屑となっている。対してグリフィスは海側に向けている左舷側の対空砲や射撃管制レーダーを軒並み全て潰されている。
 グリフィスはその名に冠せられた魔獣さながらの、獅子奮迅の活躍を示している。
 そのグリフィスの様子に、燦緒は舌を巻いた。
 既にグリフィスに与えた命中弾は三十を超えている。全艦が火達磨と化し、見るからに幽霊船と化している。しかしそんな地獄の中にあって、この船を戦艦たらしめている象徴である三基九門の五十六センチ砲は上下左右に動き続け、今もISAF艦に狙いを定めている。
 グリフィスが斉射を放つ前に、ヴァルキリーが先制のように四〇センチ砲を放つ。
 燦緒は祈るようにレーダーを見やる。
 既にグリフィスの座標はセンチ単位で捕捉している。絶対に外すことは有り得なかった。
 一拍置いて、金属音の混じった轟音がCICまで聞こえてきた。
 そして、結果は同じ。命中した砲弾は分厚い装甲の前にけんもほろろにはじかれ海中に没する。
「クッ」
 燦緒は唇を噛む。
 既に何度目だろう?このまま行けばこちらは砲弾が切れて撤退せざるを得なくなる。そうなれば悪夢が始まる。既に味方はファーバンティ市街地に深く侵攻している。その味方の頭上にあの巨弾が降り注いだら・・・・・・・・・・・・まさにロブナ海岸の殺戮が時と場所を変え、立場を入れ替えて再現されることになる。
 それだけは、何としても避けねばならない。
 しかし、そんな燦緒の想いを嘲笑うかのように、これまでに数倍する衝撃がヴァルキリーを襲った。
 まるで直下型地震に見舞われたかのような激震に、燦緒を含むその場にいた全員が床に投げ出された。
 これまで、その機動性で攻撃を回避し続けていたヴァルキリーに、ついに魔弾が命中したのだ。
「っ、損害報告!!」
 転倒した際にぶつけた肩を抑えながら、燦緒は叫んだ。
 やがて返ってきた報告は、燦緒を絶望させるのに充分だった。
「艦首に直撃弾!!第一装甲破損!!浸水発生!!」
「機関出力低下!!速力、十七ノットに落ちます!!」
「第一砲塔、ターレット損傷!!旋回不能!!」
 燦緒はギリッと歯を鳴らす。これではヴァルキリーは足の腱を切られた上に攻撃力の三十パーセントを奪われたことになる。特に速力の低下は痛い。これまでヴァルキリーはその俊足を生かして敵の攻撃を回避し続けてきた。それが今、失われたのである。
「これまで・・・・・・か。」
 燦緒は、ガックリと肩を落とした。
 その時だった。
「艦長。スパイ1より通信です。」
 通信員の報告に、燦緒は顔を上げると、通信機のスイッチを入れた。
『あんちゃん。』
 通信機の向こうの眞深の声も、元気が無く沈んでいる。
「眞深か・・・・・・」
 燦緒は、次の言葉を続けることができない。どうしても、この先の言葉が口の中から出てこない。
 そんな燦緒より先に、眞深が口を開いた。
『あんちゃん。今からあたしがあいつに体当たりを掛ける。』
「・・・・・・え?」
 眞深の言った言葉が理解できず、燦緒は聞き返す。
「今、何って言った?」
 そんな燦緒の言葉に、眞深はニッコリ微笑み続けた。
『いくらあいつが強くても、全部が全部装甲で覆われてるわけじゃないでしょ。主砲を制御するレーダーとか観測機があるはずだよ。今からそいつを潰す。』
 そう言ってから眞深は、少し寂しそうに笑う。
『今まで、ありがとうね。あんちゃんは、あたしの自慢のあんちゃんだよ。』
「眞深!!」
 燦緒は静止の声を上げる。
 だめだ・・・・・・失いたくない・・・・・・彼女は俺の・・・・・・俺のたった一人の妹なんだ。
 小さい頃、燦緒は眞深を嫌っていた。燦緒は小さい頃からスポーツ万能、学業優秀、と何をやらせてもそつ無くこなした。対して眞深は何をやらせてもいつも成績は平均以下であった。そんな眞深は、燦緒にとってお荷物以外の何物でもなかった。
 だが、そんな眞深にも、燦緒が持っていないものがあった。
 眞深はいつも奔放に笑い、まるで吹き抜ける一陣の風のように燦緒の周りを駆け抜けていった。そんな眞深を、燦緒はいつしか愛おしいと思うようになっていた。だから眞深が自分と同じ軍人の道を選び、同じ海軍を選択したとき、舞い上がらんばかりに喜んだものだった。
 そんな眞深が今、自分の為にその身を犠牲にしようとしている。燦緒にとっては我が身を引き裂かれるよりも辛いことだった。
「よせ眞深!!やめるんだ!!」
『さよなら!!』
 眞深は叫ぶように言うと、一方的に通信を切った。
「眞深ィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!」
 燦緒は血を吐かんばかりに叫んだ。

 加速するハリアーの中で、眞深は朗らかな笑みを浮かべている。
「まあ、何って言うかさ、これで結構面白い人生だったよね。」
 視界の中で、グリフィスの艦体が急速に膨らんでくる。既に対空砲をほとんど潰されたグリフィスに、眞深のハリアーを撃ち落すだけの力は無い。
「まさに、我が人生に一片の悔い無しってとこかな。ああ、いや。最後に一度で良いからカレーが食べたかったかな。まあ、仕方ないんだけどね・・・・・・」
 そこまで言って眞深は言葉を切る。
「そう・・・・・・だよ・・・・・・仕方ないんだよ。」
 言葉とは裏腹に、眞深の瞳からは涙が溢れ出てくる。
 眞深はバイザーを上げると、涙を拭った。霞んだ目では目標を捉えられない。もっとも最適な場所にぶつけないといけない。兄の為にこの命を使うのだ。無駄死にだけはできない。
「あそこだ!!」
 それはちょうど艦橋の頂点。籠を編み上げたようなレーダーサイトが鎮座している。あれを潰せば、グリフィスはまともな照準ができなくなるはずだ。
 と、その時、沈黙したと思っていたグリフィスの対空砲が唸った。
「え!?」
 一瞬目を見開く眞深。その瞬間、放たれた弾丸はコックピットを霞め、キャノピーを破損させる。
 飛び散ったガラス片は眞深の体に突き刺さる。
「グッ!?」
 激しい激痛に、眞深は声を上げそうになる。しかし、歯を食いしばってそれに耐える。
『お願い・・・・・・あと少し・・・・・・あと十秒で良いから持ちこたえて!!』
 眞深は血に濡れた目を、グリフィスに向ける。その目は、もはや光を映していない。だが、今の眞深は、光を必要としていなかった。既にハリアーとグリフィスの距離は二十メートルを切っていた。もはやはずす距離ではない。
『さよなら、あんちゃん!!』
 光を失った灰色の瞳から、一筋、涙が零れ落ちる。
 再びの衝撃。眞深の手が操縦桿から離れる。
「クッ!?」
 眞深は衝撃に唇を噛み締めながらも、もう一度操縦桿を握ろうとする。しかし、目の見えない眞深には、どこに操縦桿があるのか分からない。加えて、至近距離の爆発のせいで感覚もおかしくなっている。
「ええい!!」
 眞深は手当たり次第に近くにあった物を握り締めると、力一杯引いた。それと同時に眞深の体に強烈な衝撃が訪れる。
 次の瞬間、眞深を乗せたハリアーは、フルスロットルのままグリフィスの艦橋に激突した。

「眞・・・・・・深・・・・・・」
 燦緒の口から、搾り出すような声が漏れる。
 眞深のハリアーは、狙い違わずグリフィスのレーダーサイトを破壊していた。それに伴い、グリフィスの主砲塔は旋回を止めていた。レーダー連動を断ち切られたため、一時的に砲撃不能に陥っているのだ。
「艦長!!」
 士官の一人が燦緒に詰め寄る。
「チャンスです。攻撃命令を!!」
 レーダー連動を断ち切られても、光学照準が生きている。切り替えられる前に畳み掛ける必要がある。
「艦長!!」
 しかし燦緒は呆然としたまま、爆炎を上げるグリフィスに見入っている。
「眞深・・・・・・」
「艦長!!妹さんを無駄死にさせるのですか!?」
「っ!?」
 士官の言葉に、燦緒はハッとする。
 そうだ。自分がここで立ち止まってしまったら、眞深の死はすべて無駄になってしまう。
 燦緒は顔を上げると、帽子を目深に被りなおす。
「・・・・・・砲撃続行。」
 低く押し殺した声が、CIC内に静かに響く。
「何としても奴を破壊しろ。生かしておく必要は無い。」
「「「「「・・・・・・」」」」」
 燦緒の言葉に、全員が無言のまま頷く。
 ヴァルキリーは残り二基六門の主砲を炎上するグリフィスに向ける。
 両者満身創痍。決して有利な状況ではない。しかし燦緒は誓った。「負けない」と。
「撃てェ!!」

 戦いは、終局に近づきつつあった。
 エルジア軍の最終防衛ラインを突破したISAF地上軍は、エルジア軍総司令部を包囲、激しい砲撃を繰り返していた。対してエルジア軍は総司令部内に立て篭もり、最後の抵抗を試みていた。しかし両軍の火力には天地の開きがある。もはや陥落も時間の問題だろう。
 上空にあるエルジア空軍機も、もはや数えるくらいしか残っていない。千影、春歌率いる部隊がそれを包囲。殲滅戦を開始していた。
 変化は、それから暫くして起きた。
 まばらながら健気な抵抗を繰り返していたエルジア空軍が、何かを求めるかのように一箇所に集中し始めたのだ。
「これは・・・・・・一体?」
 その様子にいち早く気付いた千影が、首を傾げながら彼らの行動を見守る。
 すると、激しい砲爆撃に晒される総司令部からヘリが一機、また一機と舞い上がってくる。
 その瞬間、千影は全てを悟った。
 エルジア軍上層部の連中は、この帝都を脱出するつもりなのだ。まだ前線や、取り残された戦線後方では抵抗を続けている兵士達がいる。彼等を見捨てて、敗戦の責任を取るべき上層部の人間だけが我が身の安全を図ろうというのだ。
「そんな事・・・・・・許さない!!」
 普段はクールな千影の表情に、明らかな怒気が浮かんだ。
 千影はアフターバーナーを吹かして、必死に砲火から逃れようとするヘリを急追する。
 残存するエルジア空軍が、千影のラプターの前に立ちはだかる。しかし千影はまるで小石をよけるようにそれらを回避し、ヘリを射程内に収める。
「裁きは・・・・・・受けるべき者が・・・・・・受けるべきだよ。」
 審判を下すと同時に千影はトリガーを引いた。
 放たれた弾丸は、ヘリの一機を捉え、有無を言わさず火球へと変える。さらに千影は、機体を横滑りさせて二機目を捉え、同じように火炎地獄へと叩き込んだ。
「姉君様!!」
 そこへ、同じように戦線を突破した春歌も追撃戦に加わる。
「春歌君・・・・・・一機も・・・・・・逃がすんじゃないよ。」
「はい。心得ております!!」
 返事を返すと同時に、春歌も立った今捉えたヘリに銃撃を浴びせて叩き落す。
 そんな春歌と千影の背後から、エルジア空軍機が迫る。
 滅び行く国を前にしても、決してその忠誠心を失わない。彼らはまさに、エルジアの空を守る騎士達だった。しかしそれは同時に、生還の望み無き戦いだった。
 二人は翼を翻すと、彼らの戦意に答えるべく向かっていく。さらに、外周にいたほかのISAF機もこの戦闘に加わる。
 エルジア機は、秒単位でその数を減らしていく。
「もらいました!!」
 春歌はドッグファイトによってアクティブ一機を押さえつけると、間髪いれずにバルカンを放ち、撃墜する。
 だがその一瞬、春歌の背後にフランカーが現れた。
「クッ!?」
 春歌は舌打ちすると同時に操縦桿を倒して機体をひねる。同時にフランカーのバルカンが火を噴いた。
 フランカーの攻撃は、ラプターの右の尾翼を削り取った。
「春歌君!!」
 妹の危機に気付いた千影が駆けつけ、たった今春歌を攻撃したフランカーを撃墜した。
 一方で春歌は、ゆれるコックピットの中で操縦桿を握り、愛機を押さえつける。どうにかバランスは取れているが、ちょっと目を離すと操縦桿が左に引っ張られる。これでは戦闘は不可能だ。
 その春歌のラプターの横に、千影が併走する。
「大丈夫かい?・・・・・・春歌君。」
「申し訳ありません。油断しました。」
 何とか機体を制御しながら、春歌は答えた。だがその機体は激しい振動を繰り返している。それを見て取って、千影は言った。
「これ以上は・・・・・・無理なようだ。・・・・・・君は・・・・・・先に帰っているんだ。」
「・・・・・・分かりました。申し訳ありません。」
 そう言うと春歌は機体を翻した。

 一方、戦場から離脱したヘリは、一路海上を目指していた。
「いっ、急げ急げ!!早くするんだ!!」
 そのうちの一機のコックピットで、脱出に成功したエルジア軍幕僚が喚いている。
「こんな所で、我々が・・・・・・エルジアが負けて良いはずは無いんだ!!」
 まだ年若いその幕僚の瞳からは、既に正気が失われ、凶器の色を爛々と放っていた。
 そしてその手には一通の書類が存在した。
『メガリス』
 そこにはそう書かれていた。その不気味な四文字は、これから起こる悲劇を象徴しているかのようだった。

 葵と衛が戦場に到着したとき、既に全ての戦闘は終結していた。
 エルジア軍総司令部は陥落、最後まで抵抗を続けていた戦艦グリフィスも原形をとどめないまでに粉砕され、ただ海に浮かぶ炎の塊と化していた。
「・・・・・・・・・・・・」
 葵はそんなファーバンティの様子を、ゆっくりと眺める。
 そんな葵に、衛が通信を入れてくる。
「あにぃ。終わったんだね。」
「・・・・・・・・・・・・ああ。」
 葵はどこか気のない返事を返した。
 終わった?本当にこれで終わったのか?
『いや。』
 まだ終わってなどいない。たった一つだけ、残っている物がある。

 それは、金色の雲を切り裂いて現れた。

「結局、残ったのはいつもの顔ぶれか・・・・・・」
 虎太郎は苦笑交じりに呟いた。
 その虎太郎の周りにはそれぞれ、「02」「06」「07」と書かれた三機のスーパーフランカーが飛んでいる。
 出撃したとき十五機いた黄色中隊も、もはや四機のみ。村岡虎太郎、斉藤賢、藤原一矢、藤原瞬矢の四人のみだった。
「ま、腐れ縁ってやつもここまで来ると笑い話になるね。」
 そう言って斉藤がおかしそうに笑う。
「良いじゃないですか。」
 普段から表情を変えること無い一矢も、口の端に笑みを浮かべている。
「どうやら、残っているのは我々だけのようです。」
「そうそう。」
 瞬矢が一矢に続く。
「だったらせいぜい、派手に行きましょうや。」
「・・・・・・・・・・・・そうだな。」
 虎太郎は頷いた。最後の最後まで自分が正義を信じた国を守る。それこそが死んでいった者へ自分達が送ることができる最高の手向けだろう。決してお前たちは間違っていなかった。その言葉を墓前に手向けてやることができるのはもはや自分達だけなのだ。
「行くぞ。最後の戦いだ!!」
「「「おう!!」」」

 突撃してくる黄色中隊。
 それを葵は、まっすぐに見据えた。
「あにぃ。」
 衛の声が、葵の鼓膜を刺激する。その声に震えは無い。どうやら覚悟を決めたようだ。
「兄くん。」
 そんな二人を追って、千影のラプターが上昇してくる。
 葵、衛、千影。
 河村高士、富永紀人の両名が鬼籍に入り、春歌が戦線離脱した今、この三人が現状で戦闘力を保持している最後のストームナイトと言うことになる。
「三対四か」
 せめて後一人、欲しいところだった。初期の段階で数の不利を負うことは非常に痛い。しかし一般の兵士達では、黄色中隊相手は荷が重い。物量に任せて押し切ることはできるかもしれないが、その間に犠牲が増えるだろう。だから葵としては、物量作戦は最後の手段にして、少数精鋭で片を付けたいのが本音だった。
『仕方ない。俺が連中のうちの一機を手早く仕留めて、もう一機に向かうしかない。』
 葵は覚悟を決めた。
 かなり苦しい戦法だ。そもそも黄色中隊相手に「手早く仕留める」などという芸当が可能かどうか、甚だ疑わしい。しかしこの三人の中で一番戦闘力が高いのは自分である。これが最上の策と言えた。
 と、その時、頭上を掠めるようにして機影が葵のX−02に先行した。
『おいおい葵。俺を忘れちゃいないか?』
 その声に葵はハッとする。そして笑みが、顔中に広がる。
 そうだ。まだこいつがいた。獰猛にして俊敏、そして信頼に値する緋色の鬣を持った豹が。
「レイ!!」
 葵が声を上げる。その声に、レイは口の端に笑みを浮かべた。
『ケリ、付けようぜ。』
「・・・・・・ああ。」
 これで四対四。条件は五分だ。

 滅び去るのは、黄色中隊か?それともストームナイトか?
 向かい合う両者。今、最後の決戦が始まった。

第二十六話「この翼続く限り」   おわり

あとがき

どうもみなさんこんにちは。ファルクラムです。まずは、これほど期間を明けてしまったことを深くお詫び申し上げます。あまりにも現実世界でいろいろありすぎてパソコンをやってる暇がありませんでした。そのパソコンにしても二、三回動作不良を起こしてくれますし。しかし、これからは期間を明けずに書いていこうと思いますので、どうか皆様、これからもご贔屓にお願いいいたします。

ファルクラム

 


ファルクラムさんへの感想はこちら
nymausht@cna.ne.jp
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