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リボンつきの翼
第二十話「大陸の空を取り戻せ」

作者 ファルクラムさん


 ユージア暦2007年8月17日
ラセツ基地のブリーフィングルームに、百人以上のパイロットが集まっている。その顔には一様に緊張の色が伺え、これから始まる一大イベントが、容易ならざるものである事を暗示していた。
 その中には、上杉葵、衛、咲耶、千影、春歌をはじめとするストームナイトの面々もいた。歴戦の勇者である彼らの顔も、他の者と同様、緊張の為に強張っている。一言もしゃべらずに、配布された作戦指示書から目を離そうとしない。
 そんな彼等の前に、総隊長の河村高士少佐が入ってきて前面の壇上に立った。
「済まない、遅くなった。他の部隊との折衝に手間取ってな。」
 そう前置きをしてから、高士は一同をグルリと見渡し、ゆっくりと口を開いた。
「諸君…………」
 一同は一言もしゃべらずに、高士の次の言葉を待つ。
「ついに時は来た。」
 高士は一呼吸置いて、力強く言い放った。
「ストーンヘンジを、攻撃する!」
 それを聞いた途端、室内の空気が動いた。全員の目には見て分かるくらいの闘志が浮かんでいる。皆、この瞬間、この命令をどれだけ待ち続けたことか。ユリシーズ迎撃以後、幾多のISAF将兵の生き血を啜り続けてきたストーンヘンジに引導を渡す時がついにきたのだ。
 高士は一堂を見回しながら、続ける。
「この作戦には、他部隊も含む、空軍の全航空戦力が投入される。まずはじめに、第401から403飛行集団約160機が囮として出撃。アルトーラ国首都ポートエドワーズに襲撃をかけ、エルジア軍の目を引き付ける。さらに、404から406飛行集団120機が南部都市シーサイドシティを襲撃する。この二つの囮攻撃によってストーンヘンジ砲門はこの二つの目標に向かうだろう。その間に、」
 高士はメインスクリーンに、ストーンヘンジ周辺の地図を映し出す。
「第407、408飛行集団及び傭兵部隊130機、つまり我々がストーンヘンジを攻撃する。」
 総勢400機以上の大部隊である。空軍単独としては、エイギル艦隊を撃破したコンベース港襲撃以来の大作戦である。
「攻撃隊は大きく三つに分かれる。一隊は最新鋭ステルス戦闘攻撃機、F−22ラプター16機で固めた部隊が先行し、敵のレーダー網を掻い潜ってストーンヘンジ周辺に接近、対空陣地を先制攻撃で沈黙させる。その後本隊が全力でストーンヘンジを叩く。こちらは大きく分けて四つの部隊に分ける。制空隊右翼は私が直率する。制空隊左翼はレイ、君に任せる。」
 そう言うと高士は、レイ・ラブロック・村雲中尉を見た。燃えるような緋色の髪を持つ青年は、その顔に凄みのある笑みが浮かべられている。明らかに状況を楽しんでいる顔だ。
「攻撃隊第一部隊は鎌田信悟少佐が率いる。第二部隊は上杉葵大尉が指揮する。こちらの目標は一にも二にもストーンヘンジだ。それ以外の目標に注意を払う必要は無い。」
 葵の脳裏に、出撃直前の彩村命の顔が思い出される。自分を連れて行くように駄々をこねる葵に対し、命は優しく笑いかけると、果てしない大空に舞い上がり、そして帰ってこなかった。かつて、命が死んだ空に、ようやく自分は辿り着いたのだ。
その間にも高士は説明を続ける。
「我々は離陸後、真っ直ぐにストーンヘンジを目指す事になる。これは、前回のストーンヘンジ攻撃の戦訓を取り入れた結果だ。前回の時は精鋭を集めたにもかかわらず、黄色中隊の迎撃に部隊が全滅すると言う無残な結果に終わった。これはストーンヘンジの攻撃を恐れるあまり、攻撃隊は大きく迂回する欺瞞コースをたどる事になり、結果、長時間飛行する事となったパイロットは疲労困憊し、攻撃時に本来の実力を発揮できなかったと言うシュミレーション結果が出た。これを避ける為に今回は最短コースを使う。なお、」
 高士は一度言葉を区切ると、次の議題に入る。
「先日救出された技術者の話によると、ストーンヘンジ中央には強力な電波妨害装置が設置されており、レーダー誘導式の武装は一切使えないとの事だ。そこで無誘導方式の爆弾やロケット弾で攻撃する事になる。目標は、」
高士は画面をストーンヘンジの構造図に切り替えた。全長200メートルを誇る巨大な砲台が八基、円形に配置されている。高士はその砲台の付け根の部分を差した。
「ここ、ストーンヘンジの旋回部すなわちターレットリングだ。技術者の話だと、ストーンヘンジは長い間の使用で、すでに旋回部の地盤が脆くなっているそうだ。エルジア軍は何度か補強工事を行ったそうだが、それでも完全とは行かなかったらしい。ここを叩けばストーンヘンジは旋回不能に陥り、以後は使用不能になる。さらに今回は予備作戦といて、黄色中隊をはじめとするエルジア空軍が駐留する各地の基地に、レジスタンスが小規模ながら同時破壊工作を行い彼等を足止めする手筈になっている。」
 レジスタンスと言う言葉を聞いて、葵はピクリと眉を動かす。今高士が言った「レジスタンス」の中には、自分の妹、鞠絵と四葉も含まれている事を本能的に感じ取ったからだ。葵はとっさに挙手をして発言権を行使する。
「レジスタンスがどの程度動けるか分からない以上、それに頼って我々が行動するのは、大変危険ではないですか?」
 遠回しに言ったが、暗にレジスタンスの作戦行動に反対の意を表している。その事を感じ取ったため、高士は葵に対して向き直る。
「君の懸念はもっともだ。しかし我々は最低でも攻撃終了まで黄色中隊の迎撃を受けるわけにはいかないのだ。その為の障害排除は、可能な限り行っておく必要がある事を理解してもらいたい。」
 高士の意見は葵にとって、冷酷そのものでしかない。しかし隊長の任にある高士としては、部隊全体の事を考えなくてはならない。その為高士としても、葵の意見を棄却せざるを得ないのだ。
「…………分かりました。」
 納得がいかないものを感じながらも、作戦上の問題点を上げられては葵としては引き下がらざるを得なかった。それを確認してから高士は先を続けた。
「作戦名称は、『グーングニル』、我々は地上において暴虐の限りを尽くした巨人に対する、オーディンの槍となって目標を貫くのだ。今回の作戦では上層部は40パーセントの犠牲を覚悟している。」
 それを聞いて、居並ぶパイロット達の間でざわめきが起こる。40パーセントと言えば参加機数400機の内、160機が失われる事を意味している。それは物量に劣るISAFにとって、壊滅に等しい数字である。そんな一同の不安を取り払うように、高士は続ける。
「しかし、それでも我々は行かねばならない。これまで散った多くの同胞の為に、」
 高士は一呼吸置いて言い放った。
「大陸の空を取り戻せ!!以上!」
 全員一斉に立ち上がると、見事に揃った敬礼を高士に向けた。

 突如、基地の一角で大爆発が起こった。
「!?」
 朝食の支度をしていたエルジア空軍中佐村岡虎太郎は、カップに入ったミルクがこぼれた事も構わず、仮住まいにしているプレハブ小屋を飛び出した。
 見ると、滑走路の方角で禍々しい煙が上がっているのが見えた。
「チッ!!」
 虎太郎は舌打ちすると、整備場の方に向かって走り出した。
 虎太郎には何が起こったのか、おおよその見当はついていた。ここのところ、サンサルバジオン内のエルジア軍部隊が度々レジスタンスの襲撃を受けていた。憲兵隊は総力を挙げて犯人逮捕に乗り出しているが、レジスタンスは相当大掛かりな組織らしく、今だに犯人検挙には至っていない。しかしまさか自分の基地が狙われるとは、さすがの黄色の13も予測できなかった。

 虎太郎が滑走路に付くと辺りは飛び散った機材が散乱していて、とても近寄れる状況じゃなかった。
「おい!何があった!?」
 虎太郎は近くにいた整備兵を捕まえて、尋問さながらに問い詰める。その整備兵も放心状態にあったが、相手が虎太郎であることに気付き、我に返って報告する。
「分かりません。我々が整備をしていたら、突然……」
「村岡!!」
 そこに、副隊長の斉藤賢少佐が走ってきた。普段に限らず戦闘中であってものほほんとしている事が多い彼も、今回ばかりは緊迫した表情を崩せないでいる。
「幸い、死んだ奴はいないが、整備長以下何人かが負傷している。それから、整備中だった立花の機体に取り付ける予定だった、スペアエンジンがやられた!!」
「……そうか。」
 スペアエンジンがやられたのは痛いが、死者がいなかったのは確かに不幸中の幸いだ。
 しかしその時、瓦礫の山が崩れ、中から人影が出てきた。
「一矢!!」
 その人影は黄色の6事、藤原一矢大尉だった。しかし問題は一矢自身ではなく、彼の腕に抱えられている物だった。それは、虎太郎たちがよく見知った一人の少女だった。
「四葉!!」
 四葉はそのあどけない顔を煤だらけにしながら、一矢の腕の中で目を閉じている。
「爆発の瞬間近くにいたもので、とっさにかばう事ができました。」
 一矢の報告を聞きながら、虎太郎は手早く四葉の体をチェックする。どうやら外傷は無く、爆発の衝撃で気を失っただけのようだ。しかし、四葉を助けた一矢はそうもいかず、腕から僅かに血が流れている。
虎太郎はただちに衛生兵を呼んで四葉を医務室に運び、一矢の傷の手当てをさせる一方で、具体的な被害状況の確認に当たる。
「……重傷者三名、軽傷者四名、そして、スペアパーツ一基破損、か。」
爆発の割に、被害は少ない方だ。だが、それ以上の問題があった。
現在ISAF空軍の主力が、ロスカナス近郊に集結中と言う情報はエルジア軍でも掴んでいる。上層部ではストーンヘンジを包囲する体勢を確立する為に、ポートエドワーズや南部都市群攻略を目指していると踏んでいる。しかし、虎太郎は間違いなくISAFの次の目標がストーンヘンジであろう事を予測している。ストーンヘンジを攻撃する為の拠点ならば、ロスカナスで事は足りる。わざわざ無駄な犠牲を払ってポートエドワーズを占領しなくとも、ストーンヘンジが陥落すればどのみちエルジアは同地を放棄せざるを得ない。そこから考えると、今回レジスタンスの目的はこちらの作業遅延にある事は間違い無い。
虎太郎は軽く舌打ちした。自分の予想が当たっていれば、現状での作業遅延は痛い。どうにかISAFの次の攻勢までに補給が来てくれれば……
虎太郎がそこまで思考した時、黄色の4―立花操大尉が走ってくるのが見えた。
「隊長、ISAF空軍がポートエドワーズ、並びに南部都市シーサイドシティに攻撃を仕掛けました!司令部から、黄色中隊はシーサイドに向かえと言う命令が届きました!」
「…………そいつは囮だ。」
「え?」
虎太郎の言葉に、操は怪訝そうな表情を見せる。
「今のISAFに二つの、方角の違う都市を同時に攻略するだけの戦力はない。それは、こちらの目を引き付ける為の囮部隊だ。本命は間違いなくストーンヘンジに来る。」
そう言うと虎太郎は、滑走路側に向き直った。
「瓦礫を早くどけろ!敵が来るぞ!!それから、各機に装弾、及び補給急げ!!」
一連の指示を出してから、虎太郎は操と一矢を見た。
「お前達は残れ。立花の機体はスペアエンジンがあの通りだし、一矢は負傷している。」
「いえ、ついて行きます!」
「……自分も。」
二人はほぼ同時に、同じ内容の返事を返した。
「しかし、お前達は……」
 なおも押しとどめようとする虎太郎に対し、二人は身を乗り出して主張する。
「大丈夫です。ついて行けます!」
「自分も、戦闘に支障はありません。」
そう言うと二人は、虎太郎の目をまっすぐに見据えた。その表情に虎太郎は、やれやれと言った感じに肩を竦めた。
「分かった。ただし、絶対に無理はするな。」
「「ハッ!!」」
二人は虎太郎に敬礼した。
その五分後ストーンヘンジ基地から、ISAFのステルス戦闘機による先制攻撃で、対空ミサイル陣地が壊滅したと言う通信が入って来た。

「シオンより各機へ、攻撃準備!!」
攻撃隊を先導する鎌田信悟少佐が命令を発した瞬間、頭上で轟音が走った。フェイスパーク、タンゴ要塞線に続く、三度目の遭遇である。
しかし、これまでの戦訓を完全に理解しているISAF空軍は、低空を這うように飛行し、ストーンヘンジの攻撃をやり過ごした。
「スカイアイより各機へ!!」
後方で待機している咲耶から、通信が入った。
「接近してしまえば、ストーンヘンジの攻撃は当たらないわ!!」
そう、巨人は蟻と戦うようにはできていない。接近して取り付いてしまえば勝機はあった。
やがて彼等の視界に、ストーンヘンジの巨体が見えてきた。巨大な砲身は例外無く天を睨んで突き出され、ISAF攻撃隊に指向している。まるで、巨大な大剣を振りかざした八人の巨人が、迫り来る天使の軍勢を迎え撃たんとしているかのようだ。
「あれが……ストーンヘンジ。」
「なんて、巨大なんだ……まるで砲塔一つが要塞のようだ。」
「本当にこの距離であっているんだろうな?」
皆、口々に胸の中の不安を口に出す。そんな中で第二部隊を率いる葵は、先行して信悟のバイパーゼロと並んだ。
「信悟、当初の予定通り俺は左翼から、お前は右翼から回ってくれ。同時攻撃で巨人を仕留める。」
「了解だ。葵!」
「ん?」
葵は呼びかけられて振り返ると、信悟がコックピットの中で親指を立てているのが見えた。
「グッドラック!!」
「……ああ。」
葵の返事を聞くと、信悟は指揮下の部隊を率いて機体を翻した。それを確認してから、葵は前方に目を向けてマイクのスイッチを入れた。
「メビウス1より各機へ、これより第二部隊と共同で目標撃破に当たる。続け!!」
一声掛けると同時に、葵は先陣を切って飛び出した。

ストーンヘンジは既に、レーダー網を掻い潜って忍び寄ってきたISAF自慢の最新鋭ステルス戦闘機ラプター16機の攻撃によって、身を守る盾の一つ、地対空ミサイル陣地を八割方潰されている。残るは、スクランブル発進したエルジア空軍機と、内円部に取り付けられた機銃の砲座のみだった。もちろんストーンヘンジは全門がISAF攻撃隊を狙い、轟音を轟かせている。その巨弾の雨の下を、ISAF空軍は一気に駆け抜けて行く。
そんなISAFの前に、スクランブル発進したエルジア空軍が立ちはだかった。
「灰色の1より各機へ!何としてもストーンヘンジを守り抜け!!こいつをやれらたらエルジアは終わりだ!!」
部隊を指揮する小野庸介中佐は、焦りにも似た叱咤を発した。灰色中隊がストーンヘンジ基地に駐留していたのは不幸中の幸いと言えた。しかし、庸介が指揮できる戦闘機は50機に満たない。周辺の基地の部隊は、レジスタンスの破壊工作で発進できずにいるか、ISAFの陽動に引っ掛かり、ポートエドワーズとシーサイドシティ救援に向かっており、すぐにストーンヘンジ救援に来れる部隊はいなかった。
『ったく、司令部の低脳供が!!』
庸介は罠に嵌まって戦力を分散させた上層部、さらには総隊長の大垣高広大佐に腹の中で罵声を浴びせた。戦力の拡散に危惧を覚えた庸介は、大垣に対し戦力を集中してストーンヘンジ防衛に当たるべきだと言う意見を具申した。しかし大垣は、庸介の意見を一笑に伏した。
「ISAFにストーンヘンジを攻撃するだけの度胸があるものか!!連中にできるのはせいぜい、こちらの不意を突いて、若干の戦力を削る程度だ。よしんば攻撃を仕掛けてきたとしても、ストーンヘンジをある限り鎧袖一触は間違いない!!」
そう豪語すると大垣は、自らも愛機に飛び乗りポートエドワーズに向かった。
「あの、ド阿呆が!!」
庸介は悪態を吐くと同時に、愛機スホーイ37スーパーフランカーのスロットルを上げて攻撃態勢に入った。
攻撃隊より先行したISAF空軍制空隊は、二手に分かれて向かってくる。一隊は高士が直率するISAF空軍、もう一隊はレイが率いる傭兵部隊である。庸介の方に向かってきたのは、傭兵部隊の方だった。新旧取り混ぜた航空隊は、庸介の目から見ても、はっきり異色と言えた。傭兵部隊はエルジア空軍よりも高い位置から降下する体勢にある。つまり、高度差では傭兵部隊の方が優位と言う事になる。
「ハンズクロスより各機へ、攻撃を開始だ!!」
レイの命令と同時に、傭兵達は速度を上げてエルジア空軍に挑みかかった。降下機動を取っている為、加速力は良い。そして射程に入ると同時に、中距離ミサイルを放つ。
「ブレイク!!」
それに対して庸介は貴下の部隊に散開を命じる。
散開したエルジア空軍は傭兵部隊の攻撃を何とかやり過ごす。しかし何機かは回避が間に合わず、正面から迫ってきたミサイルに正面から撃砕される。しかし仲間の死には見向きもせず、庸介は機首を引き起こして旋回すると、傭兵部隊の背後に回り込んだ。
旧式機の多い傭兵部隊の各機は性能が低く、まだ旋回中の機が多い。庸介はその中の一機、スホーイ24フェンサーに狙いを付けた。
「灰色の1、フォックス2!!」
ロックオンすると同時にアーチャーを放った。ミサイル接近に気付いたフェンサーはただちにフレアを放出しながら回避に掛かろうとするが、元々性能の低いフェンサーでは、アーチャーの赤外線シーカーから逃れる事はできず、後部ノズルを粉砕されてパイロットもろとも火中へ叩き込む。
「次!!」
庸介は爆発するフェンサーの脇を抜けて、次の目標に向かう。周囲には庸介の部下達も戦闘を開始しており、辺りは飛行機が作り出したベーパー(戦闘機の加速時に凝固し、白くなった水蒸気)で満たされ、白く染まっている。
庸介は唇を噛んだ。状況は一進一退だが、決して悪くない。敵は腕利きのようだし数も多いが、腕利きなのはこちらも同じだ。伊達にエルジア空軍の精鋭を謳われている訳ではない。しかし、それはあくまでもこの空域での事だ。ISAFは制空隊だけでもあと一隊用意しているし、後続の攻撃隊がまだ残っている。自分達が苦戦すればするほどストーンヘンジの危機は迫るのだ。
「チッ!!」
庸介は舌打ちすると、味方を屠ったばかりのF−16ファイティングファルコンをロックオンし、アーチャーを放った。
ファルコンとて、一時代を築いた名機の一つである。また、パイロットは優秀をな腕を持っているようで、アーチャーを充分に引き付けると、命中寸前で翼を翻して回避した。しかし、そのアクロバット級のテクニックが、結果的に彼の人生を縮める結果となった。端から見れば驚嘆に値するその行動も、歴戦の名将灰色の1の前では子供の遊びに過ぎなかった。
庸介はすかさずアーチャーの第二撃を放った。今度は旋回直後でスピードの落ちている為、ファルコンもかわしきれない。主翼を吹き飛ばされスパイラルダウンにかかった。
 それを確認した庸介は、次の目標に向けてスティックを引いた。
その瞬間だった。鋭い警報がスーパーフランカーのコックピットを満たす。
「っ!?」
庸介はとっさにレーダーに目を走らせた。警報は、頭上の敵を指し示している。
「上か!!」
叫ぶのとスティックを倒すのは同時だった。一拍の間を置いて太い火線が先程まで庸介のスーパーフランカーが居た位置に降り注ぐ。
「外したか!!」
天空からの襲撃者レイは舌打ちして、待避行動に入っているスーパーフランカーを睨み付けると、機首を引き起こし追撃を開始する。それに対して庸介はアフターバーナーを吹かすと、レイのスホーイS−37Aベルクトを振り切りに掛かる。
「逃がさねえ!!」
赤き豹は一声吼えると、庸介のスーパーフランカーをロックする。ミサイルに狙われている事を悟った庸介は、一旦ロールすると機首を下に向ける。
「チッ!!」
構わずレイは、サイドワインダーを放った。退避に掛かってはいるが、遅い。これなら、完全にかわされる前に捕捉できる。そう踏んでの発射だった。
「クッ!!」
対して庸介は迫り来るミサイル警報に舌打ちすると。フレアを放出した。
突っ込んできたサイドワインダーは、フレアの熱源にごまかされ、そのまま自爆する。その光景を見てレイは、一瞬呆けたような顔をするが、すぐに凄惨な笑みを浮かべた。
「あれをかわすか、面白い!!」
レイはそう言うと、速度を上げて待避行動を取る庸介スーパーフランカーを追撃する。それに対して庸介は、追撃してくるベルクトをバックミラーで確認し、軽く舌打ちする。
「しつこい!!」
叫ぶと同時に庸介はスティックを引く。フライバイワイヤは庸介の命令を忠実に実行し、スーパーフランカーをベルクトの方に振り向かせる。
「同高度での宙返り、クルビットとか言う奴か!!」
「こいつが村岡だけの専売特許だと思うな!!」
二人は同時に叫ぶと、トリガーを引き30ミリバルカンを放つ。
両者が放った火線は、互いのコックピットをかすめて蒼空に飛び去る。
「チィ!!」
「っ!!」
二人はそのまま、マッハのスピードですれ違う。
レイは素早くベルクトを回頭させながら、FCSを短距離ミサイルモードにする。
「もらった!!」
レイはロックオンすると、発射ボタンに指を掛けた。しかし次の瞬間、視界の中でスーパーフランカーが掻き消える。
「何!?」
とっさに強烈な殺気を感じ、機首を翻して降下するレイ。その一瞬後に、捻り込んで上方に占位していた庸介が銃撃を仕掛けてきた。
「やるっ!!」
舌打ち混じりの叫びと同時に、レイはアフターバーナーにフルパワーを注ぎ込む。地上までの距離はそれ程無い。見ている者にレイの行動は、自殺行為に見えるだろう。しかしレイは、構わずアフターバーナーを吹かす。そして、渾身の力でスティックを引いた。
「うおォォォォォォォォォォォ!!」
レイの強引な引き起こしによって、地上まで後僅か数十メートルと言う地点でベルクトは水平飛行に入った。その光景には、さすがの庸介も舌を巻かざるを得ない。
「何って奴だ……」
庸介自身、レイの死を確信していた。しかし赤き鬣を持つ豹は、自らの腕と機体の性能を信じ、限界の力を引き出す事によって危機を脱したのだ。
「クッ!!」
庸介は軽く舌打ちすると、次の目標に向かった。

一方その頃、低空から庸介達の迎撃網をすり抜けた葵達は、目標であるストーンヘンジ上空に斬り込む事に成功していた。
「あにぃ。」
「ああ。」
すぐ背後を飛ぶ衛の声に、葵は軽く頷く。ついにここまで来た。あとは、破壊するだけだ。
葵はレーダーに目を走らせるが、その画面は白く染まり、まったく機能していない。
「やはり、レーダーは効かないか。」
「仕方ないよ……兄くん……ここは……目視照準で行くしかない。」
「そのようだな。」
頷いてから葵は、大きく口を開いた。
「メビウス1より各機へ、この一戦で今後の戦況が決まる。各員、自分のできる最大限の事をしろ。」
静かに言ってから、葵は声を上げて言い放った。
「全機突撃、アタック・オン!!」
葵の叫びと同時に、攻撃隊第2部隊は突撃を開始した。

「行くぞ!!あれだけでかい大砲だと、接近してしまえば恐くない!!」
F−2Nバイパーゼロ十二機から成る中隊が、先行してストーンヘンジに向かう。各機の胴体や翼下にはそれぞれ大小の爆弾が吊るされており、ストーンヘンジに向けて斬りかかる剣として、陽光に反射して光っている。
「方針通り目視照準で行く。目標との距離感に気を付けろ!!目標は台座部分だ!!」
中隊長の指示を受けて、十二機のバイパーゼロは一斉に降下を開始する。彼等の視界の中で、全長1200メートルの巨体が急速に大きくなる。
「これで終わりだ!!」
しかし次の瞬間、中隊長の耳元で巨大な音が鳴った。
「何……」
音の正体を確認しようと顔を上げた瞬間、中隊長は一瞬で原子レベルまで解体された。恐らく、いや、間違いなく自分のみに何が起きたのかすら認識できなかった事だろう。彼に付き従っていた中隊全機が、彼と運命を共にする。
彼等を葬った者の正体は、ストーンヘンジだった。その零距離射撃を受けて、原形を保てる物など存在するはずが無い。同様に別方向から突撃を欠けた部隊も、零距離射撃を食らって、蒼空の塵と化す。
さらに追い討ちを掛けるかのように、ストーンヘンジ周辺に配置された機銃が、主を守る猟犬のように一斉に牙を振りたてて第二部隊各機に銃かを向けてくる。味方の消滅を目の当たりにし、呆然としていた者達は、片っ端から銃弾を食らって撃墜されて行く。
「落ち着け!」
陣形を乱した舞台を見て、葵は少し声のトーンを高めて言った。
「ストーンヘンジの砲門の方向に注意しろ。いくらストーンヘンジでも、後ろには弾は飛ばない!」
「「「「「了解!!」」」」」
葵の命令に気を取り直した第二部隊各機は、旋回しつつ徐々に距離を詰めて行く。
丁度その頃、迂回進路を取って信悟の第一部隊も殺到してきた。
「シオンより各機へ、第二部隊と協力してストーンヘンジを叩け!!」
信悟の命令と共に、第二部隊は散開して突撃を始めようとする。しかしこの命令は、いささかタイミングが悪かった。なぜなら、信悟達の足元には、ラプター隊の先制攻撃から生き残った地対空ミサイル陣地が存在していたのだ。
突然、足元からミサイルが放たれる。
「まずい!!」
信悟はミサイル警報に気付くと、急速に旋回して回避に掛かる。この動作が一瞬遅かった味方は、次々とミサイルの直撃を受けて炎の花を咲かせていった。
一方信悟は、急激にアフターバーナーを吹かして振り切りに掛かるが、エルジア軍は地対空ミサイルを新型に更新したらしく、なかなか振り切る事ができない。
「ええい!!」
信悟はフレアを放出すると、翼を翻して高度を下げる。その次の瞬間、信悟の後方で爆発が起こり、放たれたミサイルは爆発四散した。
「…………危なかった。」
信悟は溜め息混じりに呟くと、機首を再びストーンヘンジに向けた。
 一方葵たちも、十重二十重に張り巡らされた機銃陣地に苦戦を強いられていた。何しろ、低空から進入しようとすれば機銃の集中砲火を暗い、高度を上げればストーンヘンジの零距離射撃が待ち構えている。
「行きます!!」
 南東方向から進入しようとした春歌が、スロットルを上げて突破を図る。
 春歌は低空まで舞い降りると、アフターバーナーを全開まで吹かした。その頭上をストーンヘンジが放った砲弾が駆け抜けていく。しかし春歌は、頭上の衝撃を無視してストーンヘンジ本体に向かう。
「よせ、春歌!まだ早い!」
 低空から突進していく春歌のスーパーホーネットを見て葵が警告を発するが、春歌は止まらずに突撃を続ける。その春歌に向けて、機銃が一斉に火を噴いてくる。
「クッ!!」
 春歌は巧みにスティックを操ると、まるで蝶が舞うようにヒラリヒラリと翼を翻し、濃密な火線をかわし、ストーンヘンジに迫る。
「あと、少し!!」
 網に目を張り巡らせるような対空砲火も、ストームナイトの前にはザル同然である。春歌はついに防御陣地を突破し、ストーンヘンジ目前まで迫った。
 しかし次の瞬間、頭の中に声が響いた。
『危ない……右!』
「はっ!?」
 春歌がとっさに右に目をやると、ストーンヘンジの砲門が一つ、春歌のスーパーホーネットを指向していた。
「クッ!?」
 春歌はとっさにアフターバーナーを吹かし、攻撃を中止して退避に掛かる。その数瞬後には、ストーンヘンジの強烈な砲撃が、春歌の背後を駆け抜けていった。
「あっ、危ないところでした。」
 春歌は、冷や汗が流れ出るのを止めることができなかった。もう少し警告が遅れたら、春歌は助からなかった事だろう。そんな春歌の横に、千影のスーパーホーネットが並んだ。
「大丈夫だったかい……春歌君?」
「姉君様!ええ、おかげさまで。どうにか助かりましたわ。」
「フフッ……それは良かった……取り合えず……兄くん達と合流するとしよう。」
「そうですわね。」
 互いに頷き合うと、千影と春歌は機首を巡らした。
その間にもISAFは猛攻を続けていた。
春歌の攻撃失敗で、無謀な突撃が命取りである事を悟った葵は、作戦の変更を決断した。
まず先に低空防御陣地に穴を開けるのだ。
葵の命令を受けて、対地ロケット弾を搭載した部隊が低空まで舞い下りる。それに対しエルジア軍も、必死に弾幕を張り抵抗を試みる。
決死の突撃を繰り返すISAF空軍。それに対し、レーダーと連動した機銃が突き上げる槍のように繰り出され、強烈なカウンターパンチを繰り出していく。直撃を食らった機体は、機首部分を叩き潰され、あるいはコックピットを粉砕されて、自らの愛機を地面に突き刺して、永遠の墓標としていく。
しかしそれだけの犠牲を払い、仲間の屍の山を築き上げながらも、ISAF空軍はその山を踏み越えて突撃し、ロケット弾を放っていく。その奮戦により、時を追うごとにエルジア軍の火力が弱まっていくのが分かった。
機銃の数が減り、開いた防衛網の隙間から葵が直卒する中隊が内部に進入し、ストーンヘンジに取り付いた。
葵はじっと目を凝らして、ヘッドアップディスプレイを眺める。その中央では、丸い円を糸で釣ったような、爆弾ピパーが出現している。
「…………」
葵は爆撃ピパーの中央にストーンヘンジを合わせる。狙いは、台座の付け根、巨大な砲塔を旋回させる為のターレットリングである。葵は地上からの対空砲火を潜り抜けながら、ストーンヘンジに向かって突き進む。
 その葵の目の前でピパーがストーンヘンジを捕らえた。照準が合った瞬間、葵は目を見開いた。
「メビウス1、投下!!」
葵はいつに無く気合いの入った声でコールすると、スーパーホーネットの翼下に吊ってきた八発の2000ポンド爆弾の内、二発を投下した。慣性のついた爆弾は、そのまま前方に撃ち出されて、ストーンヘンジの付け根に吸い込まれて行く。
なおも上空に群がる獲物を狙って旋回を続けていたストーンヘンジの足元で、突然強烈な爆発が二度起こった。それに伴い地面が深く抉れ、内部のコンクリートが粉砕される。
上空のISAFパイロット達は固唾を飲んでその光景を見守る。
次の瞬間、ストーンヘンジは旋回を止め、まるで巨大な像が倒れるように砲身を下げると、そのまま地面にめり込んで沈黙した。
その光景に、見守っていたパイロット達の間で大歓声が起こった。ついに自分達は、ストーンヘンジに一矢報いたのだ。
「上杉大尉に続け!!」
誰かが叫ぶと同時、機銃の防御陣地を突破した部隊が次々と残った七基のストーンヘンジに殺到して行く。その様は、中世の城攻めを思わせる光景だ。
しかしストーンヘンジという城は、ただ沈黙して攻め落とされるのを待っていたわけではなかった。不遜なる攻城者達が近付くのを虎視眈々と狙っていたのだ。
十数機の攻撃隊が殺到した瞬間、残りの七門が一斉に火を吹いた。
「何っ!?」
発射時の衝撃波で、不用意に近付いた機が吹き飛ばされる。その一撃で、吹き飛ばされた機体は十機以上にも及んだ。さらに、爆風でバランスを崩した機体も多数に及ぶ。
「クッ!!」
 葵のスーパーホーネットも爆風によってバランスを崩しかけたが、スティックを巧みに操り、どうにかバランスを保つ。水平飛行に映ってから、葵は周りを見回す。どうやら今の一撃で、突入に成功していた機は大半が吹き飛んだようだ。
 さらに追い討ちをかけるように、生き残っていた対空砲火が葵を狙って火を噴く。
「チッ!」
 葵は舌打ちしてスティックを無造作に倒すと、強引な旋回で難を逃れる。そして水平飛行に戻ったところで、マイクのスイッチを入れた。
「メビウス1よりメビウス2、衛!」
 ややあって、衛からの応答があった。
「こちらメビウス2、あにぃ!!」
 衛の無事な声を聞いて、葵は取り合えず胸を撫で下ろす。しかしすぐに表情を引き締め、本題に入る。
「衛、長期戦になればこちらの不利は否めない。部隊をまとめて一気に叩くぞ!!」
「うん、分かったよ、あにぃ!!」
 衛は元気な返事を返すと、葵のスーパーホーネットの背後につく。
 さらに二人の横に、千影と春歌のスーパーホーネットが並んだ。
「兄くん……準備は……良いよ。」
「こちらもです、兄君様!!」
 二人の声に、葵は力強く頷く。
「よし、各機、二機一組で行動し、後方の警戒を怠るな。それから、目標との距離のも注意しろ!」
「「「了解!!」」」
 葵と衛。千影と春歌でそれぞれペアを組むと、二手に分かれて旋回を開始した。
 これが、最後の攻撃である。

その頃、サンサルバジオンの黄色中隊基地では、ようやく出撃準備を整えた中隊が、離陸を開始していた。
その中には爆発で負傷した一矢や、スペアエンジンを破壊され、交換予定であったエンジンのままの機体に乗った操もいた。
「黄色13より各機へ、すでにISAFはストーンヘンジへの攻撃を開始している。急ぐぞ!!」
「「「「了解!!」」」」
虎太郎がそうであるように、他の黄色中隊四人の声にも焦りの色があった。すでにISAF空軍がストーンヘンジに攻撃を開始してから、かなりの時間が経っている。いかにストーンヘンジが鉄壁の防御陣を敷き、灰色中隊を始めとする空軍の精鋭部隊が駐留していると言っても、限度がある。
断片的に入ってくる情報を総合すると、ISAFは100機以上の攻撃隊を繰り出してきているらしい。これでは、いかにストーンヘンジといえど、一たまりも無いだろう。
『クッ!』
虎太郎は心の中で舌打ちすると、エンジン出力を上げに掛かった。それに追随する為に、後続の四機もスピードを上げて虎太郎のスーパーフランカーに追い付く。
『もう、間に合わない。』
そんな思いを振り払いながら、黄色中隊は西を目指して飛翔した。

中隊のスーパーフランカーが飛び立つ轟音で、医務室で寝ていた四葉は目を覚ました。
「…………ん……うん…………」
「気が付いたか?」
傍らから覗き込んでいた衛生兵が、心配そうな顔を四葉に向けた。
「ここは…………」
「ここは基地の医務室だ。お前はあの爆発に巻き込まれた所を、一矢さんに助けられたんだ。」
それを聞いて、四葉は自分の身に何が起こったのか納得した。
「じゃあ、一矢さんは?」
「たった今出撃したよ。」
「え!?」
衛生兵の言葉に、四葉は絶句した。それに気付かずに衛生兵は先を続ける。
「まったく、彼等の勤労意欲には頭が下がるよ。立花大尉なんて、機体のエンジン替えないで出撃したんだぞ。」
「…………」
『そんな…………』
もはや四葉は、衛生兵の言葉を聞いてはいなかった。その目は虚ろになり、大事な人達が戦っている戦場へと向けられる。
『…………操さん…………一矢さん…………兄チャマ…………』
四葉の心の中からの呟きは、誰にも聞き取られる事無く蒼空の彼方へと消えて行った。

 千影と春歌は旋回しつつ、ストーンヘンジの内側にもぐりこんでいく。二人の後を追撃する様に、対空砲火の火線が追ってくるが、二人は構わず旋回をしつつ、目標を定める。
大陸に暴虐の限りを尽くしたストーンヘンジは既に、八基中六基までが破壊されている。上空にいるエルジア空軍も、まともな戦闘力を有しているのは灰色中隊くらいだ。しかしそれでも、残り二基は盛んに巨弾を吐き出し、群がる天使の軍勢をねじ伏せんと咆哮している。
「ナイトメア1……進路……クリア。」
 呟く千影の目には、視界からはみ出るほど膨らんだストーンヘンジの巨体がある。
 その砲身は今、ゆっくりと旋回して千影達の方に向こうとしている。
「クッ!?」
 千影は軽く呻くと、爆弾ピパーをストーンヘンジのターレットリングに合わせる。
「投下。」
コールと同時に千影は、二発の2000ポンド爆弾を投下した。
千影の放った爆弾は、放物線を描いて飛んで行くと、そのままストーンヘンジに吸い込まれる。しかし投下時に目測を若干誤ったのか、爆弾はストーンヘンジの砲身部分に命中した。当然、分厚い装甲に阻まれて、ストーンヘンジには傷一つつかない。
「クッ」
千影は機首を引き起こしながら軽くうめいた。目標が余りにも大きすぎた為、目測が狂ったのだ。
その千影の無念を晴らそうと、今度は春歌が降下を開始する。そのストーンヘンジの巨体は旋回を終え、今にも春歌に向けて咆哮しようとしている。
「ええい!!」
気合と共に春歌は爆弾を投下した。それと同時に春歌は、低空で機首を微調整し、水平に倒されたストーンヘンジの砲身の真下を潜り抜けた。
一拍の間を置いて、春歌の放った爆弾はストーンヘンジのターレットリングに命中し、そこを粉砕した。旋回ができなくなったストーンヘンジは、そのままの姿勢で停止、沈黙した。
「スカイアイより各機へ、残り一基よ!!」
咲耶の声に、全員が奮い立つ。
しかし、ここに来るまでに多くの者が弾薬を使いきってしまっている。その為、攻撃に移れる者は回りにはいなかった。
「…………」
葵は無言のままスティックを右に倒しスーパーホーネットを旋回させると、進路を最後のストーンヘンジに向けた。
「…………」
葵が持っている2000ポンド爆弾は残り一発。絶対に外せない。その為葵は、瞬き一つせずにヘッドアップディスプレイを睨み付ける。
その葵の眼光が、ストーンヘンジを捉えた。
「食らえ!!」
葵は叫ぶと同時に、爆弾を投下した。
最後の爆弾は軽い放物線を描きながら、目標に吸い込まれて行き、狙い通りターレットリングを直撃して炸裂した。
「やったか。」
葵は戦果を確認する為、機体を旋回させる。そして愕然とした。
ストーンヘンジは、まだ生きていた。旋回しつつ、砲を上下させて、照準を合わせている。
「失敗か……」
葵は悔しそうにうめいた。どうやらこのストーンヘンジのターレットリングは、他の物よりも頑丈にできていたらしい。その為、、一発の爆弾では破壊しきれなかったのだ。
「クッ、メビウス1より各機へ、誰か、爆弾は残っていないか!?」
葵は悲鳴に近い叫びを上げる。ここで完全にストーンヘンジを破壊しておかないと、後々、必ず脅威となる。
しかし、名乗り出る者はいない。誰もがここに来るまでに、爆弾を使い切ってしまったのだ。ほとんどの者が、若干の空対空ミサイルとバルカンくらいしか持っていなかった。
その時だった。
「任せて、あにぃ!!」
凛とした声が、葵の鼓膜を打った。
それと同時に、閃光のように葵のスーパーホーネットの前方を横切った機体があった、白地に赤いラインの入ったバイパーゼロで、葵と同じ青いメビウスリングが尾翼に描かれている。
「衛!!」
 葵は驚いた表情を、衛のバイパーゼロに向けた。その翼下には、ISAFの希望と言っても過言ではない、2000ポンド爆弾が吊るされている。
「あにぃ!!」
 衛は葵を促すように、もう一度叫ぶ。その声に、葵は頷いた。
「よし、衛。お前が攻撃しろ。」
 そう言ってから葵はもう一言、祈るように付け加える。
「頼むぞ、衛。」
「まかせてよ、あにぃ!!」
 そう言うと衛は機首を翻し、一基残ったストーンヘンジに進路を合わせた。それを護衛するように、葵は衛の背後に機体をつける。
 衛はスロットルを開いて速度を上げると、ストーンヘンジに急降下を開始する。
 その衛のバイパーゼロに対し、生き残っていた対空砲火が牙を剥いて襲い掛かってくる。
「クッ!」
 視界を朱に染めるほどの砲火が、衛の前に立ちはだかる。わずかでも記憶が残っている限り諦めない。それは、敵も味方も同じである。
 その衛の視界を交差するように、二機のスーパーホーネットがすれ違った。
「衛君の邪魔は……させない。」
「どいてもらいます!!」
低空まで舞い下りた千影と春歌が、バルカンを浴びせて沈黙させて行く。
「今だ、衛!」
千影と春歌の活躍で、進路を確保できたのを見て、葵は叫んだ。
その言葉に答えるように、衛は照準をストーンヘンジに合わせる。
「メビウス2、投下!!」
衛は必中の気合と共に、爆弾を投下した。それと同時に機首を引き上げて退避に掛かる。
葵が、衛が、咲耶が、千影が、春歌が、信悟が、高士が、レイが、富永が、大谷が、そして攻撃隊のパイロット全員が固唾を飲んで見守る中、爆弾は狙い違わずストーンヘンジのターレットリングを直撃した。
次の瞬間、ストーンヘンジの基部で大爆発が起こった。爆発は加速度的に連鎖反応を起こすと、そのまま誘爆を繰り返して砲身を包み込む。やがて、炎が全体を包み込むと、最後に残ったストーンヘンジは、力尽きたように砲身を地面に突き立てた。
次の瞬間、通信マイクを通して全員の大歓声が、巨人の消えた空を支配した。
「やったぞォ!!」
「イヤッホー!!」
「俺達の勝利だ!!」
皆、口々に勝利の言葉を紡ぎ出す。その騒然さは、他に類を見ず、AWACSの咲耶や総隊長の高士は、一時状況の収集に奔走する事となった。
「こちらメビウス1、葵だ!衛、聞こえるか!?」
ようやく騒ぎが静まってきた頃、葵は衛を呼び出した。
ややあって、衛から返事があった。
「こちら衛。聞こえるよ、あにぃ!!」
衛の元気な声を聞いて、葵は知らずの内に口元をほころばせる。
「よくやった、衛。お前のお陰で、ストーンヘンジを破壊する事ができた。」
一拍置いてから、葵は静かに言った。
「ありがとう、衛。」
「あにぃ……」
改めて葵からお礼を言われて、衛は頬を赤く染める。
そんな衛の声を聞きながら葵はふと、空に目を向けた。
『これで、彩村教官の魂も救われる。俺も、本当の意味で、教官と決別する事ができる。』
そう考えてから、葵はもう一度心の中で呟いた。
『ありがとう、衛。』
「あにぃ、どうしたの?」
急に黙り込んだ葵の耳に、衛の怪訝そうな声が聞こえてくる。
それを聞いて、葵はフッと笑った。
「何でもない。さあ、帰ろう。」
そう言うと葵は、スーパーホーネットの機首を翻す。
「あ!何だよそれ!!教えてよ!!」
その後を追うように、衛も反転する。
その時だった。
「スカイアイより各機へ!!」
咲耶の緊迫した声が、一同を切り裂く。
「どうした、咲耶?」
咲耶の声に異常を感じ取った葵が、素早く回線を開いて尋ねる。それに対して咲耶は、なおも緊迫した声で続ける。
「ベクター300より高速接近する飛行物体あり!!数は五機!黄色中隊だと思うわ!!」
それまで歓声を上げていた者達も、一様に黙り込む。まさかここで、黄色中隊と遭遇するとは思っていなかったのだ。
「何だって今更来やがったんだ!?」
「お前達の守る物は、もう無いんだぞ!!」
ISAFのパイロット達は、口々に罵声を投げかける。そんな中、無言のまま機首を反転させた機体があった。葵のスーパーホーネットである。
「あにぃ……」
それに気付いた衛もスティックを倒し、兄に追随する。
そんな葵に、咲耶から通信が入った。
「お兄様、行ける?」
「ああ。」
咲耶の質問に対し、葵は短く答えた。既に戦闘態勢に入っている証拠である。それを聞いて、咲耶の口にも笑みが浮かぶ。
「スカイアイより各機へ、こちらのエースは向こうより速いわ!!」
一拍置いて、咲耶は言い放った。
「交戦を、許可します!!」

「間に合わなかったか……」
虎太郎は、肩を落とした声で言った。彼等の眼下では、つい数時間前まで無敵の威容を誇っていたストーンヘンジが、煙と炎にまかれた残骸と化して横たわっていた。それがもはや、戦略的には何の価値も生み出さない事は、誰の目にも明らかだった。
「隊長。」
横に並んだ操が、話し掛けてくる。
「退きましょう。これ以上ここにいても得はありません。ここは退却して、再起を図るべきです。」
「…………そうだな。」
虎太郎は絞り出すように言った。こうなる事は分かっていた。自分達の基地が爆破された時点で、いや、上層部が戦略を誤って部隊を分散させてしまった時点でこうなるであろう事は予想できていた。
しかし、戦勝に意気上がるISAF空軍は、彼等をただで返すつもりはないらしい。その証拠に、十数機の戦闘機が虎太郎達の方向に向かってくる。
それを見て、虎太郎は舌打ちする。
「黄色の13より各機へ、交戦は必要最低限に押さえて離脱しろ。深追いはするな!!」
「「「「了解!!」」」」
五機のスーパーフランカーは散開すると、一斉にISAF空軍に挑みかかった。

先頭を切って斬り込んだ虎太郎には、三機のスーパーホーネットが向かって来た。
その三機の内、一機がすれ違い様に急速反転すると、虎太郎のスーパーフランカーの背後に回り込んだ。
「……フン。」
その様子をバックミラーで確認すると、虎太郎は軽く鼻を鳴らし、エンジン出力を上げて振り切りに掛かる。
その時、左右の後方から挟み込むように残り二機のスーパーホーネットが現われる。
そのまま三機のスーパーホーネットは、虎太郎を追い込みに掛かる。
「チッ!!」
虎太郎はそのまま急降下に掛かる。それを追って三機のスーパーホーネットも急降下する。
と、スーパーホーネットが降下を開始した瞬間、虎太郎のスーパーフランカーは幻のようにか掻き消えた。
「何っ!?」
「奴はどこだ!?」
口々に不安を吐き出しながら、旋回して虎太郎を探す。
次の瞬間、背後からの一撃で真ん中を飛んでいたスーパーホーネットが爆炎を上げて砕け散った。
「一機。」
虎太郎は低い声でコールする。
急降下すると見せかけた虎太郎は、スプリットSの要領で反転し、さらにもう一度上昇反転を行いスーパーホーネットの背後に回り込んだのだ。
虎太郎は機体を横滑りさせると、今度は右側のスーパーホーネットをロックオンする。
ロックされている事に気付いたスーパーホーネットのパイロットは、必死に逃れようとするがその前に虎太郎は翼下に吊るしたアーチャーを放ち、そのスーパーホーネットを撃墜する。
「くそっ!!」
残った一機は急上昇しつつ反転すると、上方から虎太郎のスーパーフランカーに照準をあわせに掛かる。
「もらった!!」
スーパーホーネットのパイロットは、必殺の気合いを込めてトリガーに指を掛ける。
しかし、そのトリガーが引かれる事はなかった。その前に虎太郎は機体をロールさせ、機首を下に向ける事にっよって投影面積を小さくし、相手の狙いを外したのだ。
「しまった!?」
突然的が小さくなった事で、動揺するパイロット。しかし既に時遅く、オーバーシュートしてしまう。それを確認して、虎太郎は逆にアーチャーをロックオンする。
「フォックス2!」
コールと共に放たれたアーチャーは、白蛇の尾のような白煙を靡かせて急追すると、スーパーフランカーの機体を真っ二つに叩き折って、粉砕した。
自分に対する脅威が去った事を確認すると、虎太郎は上昇を掛ける。まだ交戦中の者がいたら、援護に回るつもりなのだ。
黄色の2、小野庸介少佐は巧みな動きで数機の敵を翻弄し、ISAF空軍を寄せ付けない。藤原一矢、瞬矢の兄弟は得意の連携プレイで援護を行いながら後退を開始している。もっとも今は一矢が負傷している為、もっぱら囮は一矢が、攻撃は瞬矢が担当している。
「立花は……」
虎太郎は旋回しつつ首を巡らし、操の機体を探す。
操は崩壊したストーンヘンジ上空を低空飛行しつつ、二機のISAF機を振り切りに掛かっている。
「だいたい、良いようだな。」
虎太郎はフッと息を抜いた。味方の行動は順調に行っているようだ。この分なら、問題なく離脱できるだろう。既に灰色中隊を中心とした、生き残ったエルジア空軍は最寄りの基地へ脱出している。残っているのは、地上の管制官と、自分達黄色中隊のみだった。
「よし。」
虎太郎は頷くと、機体を緩やかに旋回させる。
その時、虎太郎の視界の先をかすめるように横切った機体があった。その尾翼には、青いリボンが描かれている。
「あれは……リボン付き!!」
そう、今やエルジア軍にとって、忌むべき存在にまで成長したリボン付きが現われたのだ。虎太郎はその進行方向に素早く目を走らせる。
「立花!!」
リボン付きの行く先には、操のスーパーフランカーがいる。しかも、今の操の機体は万全ではない。いかに操が歴戦の勇者であっても、遅れを取る可能性がある。
「クッ!!」
虎太郎は急旋回して機首を下げると、速度を上げに掛かる。スロットルを全開まで上げる。数機のISAF機が虎太郎の前に立ちはだかろうとするが、包囲網が完成する前に虎太郎はフルスロットルで振り切る。
「立花を、やらせる訳にはいかない!!」
焦りにも似た叫びを上げながらも、虎太郎は冷静なスティック裁きで機体を操ると、群がるISAF機をすり抜け、葵のスーパーホーネットに迫る。
しかしその虎太郎の前に、果敢に回り込んだ機体がある。通常とは逆に翼が反ったその機体は、間違いなくレイのベルクトである。
「葵の邪魔はさせねえ!!」
そう言い放つと、レイはバルカンを浴びせ掛ける。
それに対して虎太郎は、機体をとっさにロールさせて回避する。
「クッ、この前の!!」
虎太郎は舌打ちしながら、機体を旋回させる。その背後に、レイが回り込んだ。
「この前の続きと行こうぜ!!」
赤き髪の豹は叫びながら、バルカンを放つ。それに対して、虎太郎は機体を急速反転させて、ヘッドオンでレイのベルクトを捉える。
「邪魔だ!!どけ!!」
黄色い翼を持つ猛虎は、猛り狂う牙を剥き出しにして吼えた。

レイと虎太郎が壮絶な一騎打ちを始めた頃、葵は操のスーパーフランカーを補足する事に成功していた。
「黄色の4!!」
「こいつ、リボン付き!!」
二人は同時に、相手の正体を認識する。
葵は上方から狙い撃つ格好で、操のスーパーフランカーを捉えている。このままいけば、後方上部と言う理想的な位置からの射撃ができる。しかし、それを許すほど操も甘くはない。
「もらった。」
低い声と共に、葵はサイドワインダーを放つ。
それに対して操は、葵のサイドワインダーをギリギリまで引き付け、翼を翻して回避する。
「チッ。」
葵は軽く舌打ちすると操の背後に回って水平飛行に入り、もう一度ロックオンする。それに対して操は大きく機首を引き上げると、コブラ機動で急減速し葵の照準を外しに掛かる。
「っ!?」
急減速して視界に迫ってくる操のスーパーフランカーを回避するために、葵はとっさにスティックを引き、急上昇を掛ける。そしてそのままスティックを引き続ける。ループで反転し、距離を開けようと言うのだ。
「そうは、させないわよ!!」
言い放つと同時に、操は直立状態のままエンジン出力を上げて追撃に入る。その時、機体が微妙に振動を起こしているのに気付いた。
「?」
 調べてみるとその振動は、エンジン出力と同調するように強くなったり弱くなったりしているようだ。操は素早く計器類をチェックする。しかし、どこにもこれと言った異常は見られない。
「気のせいかな?」
取り合えずその問題を棚上げして、葵の追撃に入る操。
それに対して葵は操の視界の中で機首を若干下げ、重力を利用して速度を稼ごうとしている。
それを確認した操も速度を上げて降下機動に入り、アーチャーをロックオンする。
「フォックス2!!」
スーパーフランカーの翼下から、白煙を退いてアーチャーが放たれる。タイミングは完璧、葵は高Gで降下に入っているため、すぐには機動は行えない。操は命中の確信を持つ。
「まずい!?」
飛んでくるアーチャーを確認する葵。しかし同時に回避もできない事も理解できた。
「チッ!?」
葵はフレアを放出する。そのフレアが発する疑似熱源に引き寄せられたアーチャーは、そのまま自爆した。それを確認した葵は、機体を傾けて緩やかに右に旋回する。その頭上からは、操のスーパーフランカーが迫ってくるのが見えた。
「今度こそ、これで決める!!」
 気合と共に肉薄すると操は、FCSをバルカンモードにした葵のスーパーホーネットをロックオンする。その照準機の真ん中で、リボン付きの機体が急速に膨れ上がる。対して葵は、向かってくるスーパーフランカーを冷静に見据える。
「3……2……1……今だ!!」
 叫ぶと同時に、葵はエアブレーキを開いて急減速する。
「なっ!?」
 操は驚愕に目を剥いた。自分の視界の中に捕らえていたスーパーホーネットが、急に視界から消え去ったのであるから当然である。変わって、ロックオン警報にコックピットが満たされる。
「くっ!?」
 操は翼を翻し、振り切りに掛かる。その一瞬後には、葵が放った30ミリバルカンがコックピット脇を掠めていく。
「逃がすか!!」
 葵はエンジン出力を上げて、距離を詰めていく。一方の操は、ミサイルを回避した直後で、スピードが下がっている。このままでは、遠からず葵にロックオンされてしまうだろう。
「くっ!!」
 操は短くうめくと機体をロールさせ、スプリットSに入る。高度を捨てて手っ取り早くスピードを稼ごうというのだ。
 しかし、葵のほうもその事は読んでいた。すぐに葵も降下機動に入って、追撃する。
 2機の戦闘機は、地面に向かって急降下していく。
「クッ!?」
 地面すれすれで、操はスティックを引き機体を水平に保つ。背後から葵が追撃してきていた事は知っているが、既に速度も充分に稼いだこれで脱出できるはずだ。
 操はそう考えてエンジン出力を上げに掛かった。
「…………え!?」
 いつもの手ごたえと違う事を感じ、操は訝る。いくらスロットルを上げても、エンジン出力が上がらないのだ。先程まで操の要求に誠実に答え、最高の性能を発揮してくれていたスーパーフランカーが、その期待を完全に裏切り、急速にスピードを落としていく。しかも既に低空飛行しているために、これ以上重力を利用した速度上昇は行えない。
 どうやら、交換する予定だったエンジンがトラブルを起こし、停止してしまったようだ。残る1基のエンジンだけでは、スピードを維持できるはずも無い。
 そしてそれを図ったかのように、葵のスーパーホーネットが迫る。
「今度こそ……」
 葵は急速に距離を詰めると、操のスーパーフランカーをロックオンする。どうやら敵はエンジンにトラブルを抱えているようだ。まさに、千載一遇のチャンス。この機を置いて黄色中隊に一矢報いるチャンスは無い。
「喰らえ!!」
 葵はロックオンすると同時に、サイドワインダーを放った。それに対し操は、エンジン出力が低下しているため、回避できない。
「クッ!?」
 最後の手段とばかりに、操はフレアを放出する。これで駄目なら、もはや終わりである。
「お願い、助けて。」
 操は祈るように呟く。その願いを汲み取ったかのように、サイドワインダーはフレアに引き込まれて自爆した。
「やった!!」
 歓喜の声を上げる操。しかし次の瞬間には、その笑顔は凍りついた。サイドワインダーの爆炎を突いて、葵のスーパーホーネットが躍り出てきたのだ。
 葵の視界の中で、操のスーパーフランカーが膨れ上がる。
「もらった!!」
 必中の気合を込めて、葵はトリガーを引いた。
 高速で撃ち出された弾丸は、まるで流星雨のように、スーパーフランカーの優美な機体を貫いていく。まずノズルが、そして四枚の尾翼が、胴体が、主翼が、次々と破壊されていく。
「…………隊長。」
 壊れ行く機体の中で、操はそっと呟く。
「……愛していました、隊長。」
 次の瞬間、破壊されたエンジンが爆炎を吹き上げ、操の体を包み込んだ。

 その光景は、レイと交戦中の虎太郎の目からも確認できた。
「…………立花。」
 虎太郎の見ている前で、操のスーパーフランカーは炎に包まれていく。やがて、浮力を失った炎は重力に引かれて地上に落下、光り輝く棺となって、永遠に天へと上っていく。
「…………誰か…………」
 虎太郎は、搾り出すように口を開く。
「誰か、立花の脱出を確認した者はいるか?」
「「「…………」」」
 斉藤、一矢、瞬矢の三人は、一様に口を閉ざしている。誰も、操の脱出を確認していないのだ。
「…………そうか。」
 やがて虎太郎は低い声で呟くと、各員に帰投命令を下し、自身も緩やかに翼を翻した。

 コックピットの中で、葵は荒い息を吐いていた。
 勝つには勝った。しかし、なんとも後味の悪い勝ち方である。無論、戦争は勝利こそが最大の目的であり、余程の事が無い限りは卑怯という言葉が、単なる詭弁に過ぎないことは分かっている。しかしそれでも、納得できない事は往々にして存在する。
「…………」
葵は無言のまま、操のスーパーフランカーが落ちた地点を見詰める。そんな葵に、衛が話し掛けた。
「……あにぃ。」
葵の心境を察したのだろう。衛の声も、、どこと無く震えが感じられる。
そんな衛に対し、葵はそっと口を開いた。
「衛……」
「何、あにぃ?……」
「衛、俺は!」
そこまで言い掛けて、葵は口をつぐんだ。それ以上の言葉が、思い浮かんでこなかったのだ。
「すまん、何でもない。」
それだけ言うと、葵は以後、基地に戻るまで何もしゃべらなかった。

第二十話「大陸の空を取り戻せ」 おわり

あとがき

どうもこんにちは、ファルクラムです。
今回は書き始めてから終わるまで、一ヶ月掛かってしまいました。その理由としては、三月期に全速力で書きすぎたせいで、思考回路がダウンしてしまった事でしょう。
まあ何はともあれ、これで本作も中盤戦が終了しました。後は終末に向けて順次加速していきたいと思います。

ファルクラム

 


ファルクラムさんへの感想はこちら
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