リボンつきの翼
第十九話「俺の手を取れ」
作者 ファルクラムさん
1
「で、お前は一体何をやっているわけ?」
ISAF空軍副隊長鎌田信吾少佐は、目の前でうなだれている上杉葵大尉に呆れ顔でそう尋ねた。
彼の執務室に葵が転がり込んできたのは、ほんの数分前だった。その顔は青ざめ、目は虚ろで足はふらついている。見るからに半病人のような親友の姿に、思わず信悟はギョッとした。
「…………悪い物でも食ったか?」
それが、信悟の第一声だった。
それを無視して葵は疲れたように腰を下すと、信悟にこれまでいきさつを話し始めた。
父親の手紙の事、衛が本当の妹でないこと、衛の本当の両親のこと、そして、結果的に自分が衛を傷付けてしまった事。
信悟は作業の手を止めて、葵の言葉を黙って聞いていた。そして葵の話が終わった後の、信悟の第一声が最初のそれであった。
「何って……」
「つまり何か?」
信悟は口を開いた葵を制する様に、先にしゃべる。
「『衛が相手をしてくれなくて、僕はいじけてしまいました。どうか慰めてください』ってわけか?悪いがお断りだ。」
それを聞いて、葵はキッと顔を上げる。
「誰もそんな事言っていないだろ。」
「…………確かにな。」
信悟は意味ありげな視線を葵に向ける。
「誰もそんな事は言っていない。だが、お前の顔がそう言ってるんだよ。」
「…………」
信悟の言葉を聞いて、葵は黙り込む。それに対し信悟は先を続けた。
「……お前がやった事は、全て完全に裏目に出たという事だ。」
「…………それは、」
信悟の言葉に、葵は言葉を詰まらせる。それに追い討ちを掛けるように信悟は言葉を続ける。
「結局の所、全部お前は勝手なんだよ。」
「何っ!?」
信悟の言葉に葵はいきり立つ。しかし、その前に信悟は先を続ける。
「一つ聞くぞ。今、この事で一番傷ついているのは、誰だ?」
「それは……」
葵が目を逸らしたのを見て、信悟は追い詰めるような口調で葵を言及する。
「お前か?違うだろ。衛だろ今一番傷ついているのは!これまで自分が信じてきた世界が、足元から崩れて行く。その辛さを、お前が分からないはずないだろ!!それを支えてやれるのは、この世でお前しかいないんだぞ!!」
「…………」
葵は黙り込む。確かに、葵にも分かっていた。今、衛がどれだけつらい思いをしているのかも。そして兄として、衛を支えてやらねばならない事も。
「できないのかよ?」
「…………」
信悟の言葉に、葵は答えない。それを見て信悟はなおも手加減はしない。
「だったら、今すぐ衛の兄貴なんかやめちまえ。お前に衛の兄を名乗る資格なんて無いんだよ!!」
「!!」
それを聞いた葵は、今度こそ激項した。椅子から勢い良く立ちあがると、殺気の充満した瞳で信悟を睨み付ける。しかし、見ただけで射殺されそうな視線を浴びても、信悟は平然としている。
「殴りたければ殴れよ。だが、俺を殴った所で問題は毛の先ほども解決しないぞ。」
「…………」
水を浴びせるような信悟の言葉に、葵は暫くの間信悟を睨み付けた後、耐え切れずに視線を逸らした。それを見て信悟は、教え諭すような口調になる。
「本当はお前自身どうしなきゃいけないか、分かってるんだろ?」
「それは…………」
「俗な言い方するがな、これで、お前と衛の間に壁は無くなったじゃないか。」
信悟の言葉に、一度萎えかけた葵の殺気は再び上昇を始める。
「だからそれは違うって言っただろ!!」
「お前の言い訳はこの際、聞くだけ時間の無駄なんだよ。」
葵の反論を、信悟は一言で斬って捨てる。
「なあ葵。いい加減、自分の気持ちに素直になったらどうなんだ?」
「…………」
「お前が衛を好きなのは、付き合いの長い俺から見れば一目瞭然だ。お前は前々からクールに振る舞っているつもりだろうが、肝心な事を隠し通せる性格じゃないようだしな。」
「…………」
信悟の言う通りだった。葵は小さい頃から、どうやっても嘘だけは突き通せない性格だったのだ。それを煩わしいと思った事はないが、結果的に信悟に心の内を読まれる結果となった。
「ちょっと手を差し伸べるだけで良いんだよ。衛は、きっとお前を拒んだりしないさ。」
そう言うと信悟は、六つ年下の親友に対して笑顔を向けた。
2
その日、葵と衛からなるメビウス小隊は、アラート待機に指定されていた。
先日のロスカナス空襲で前線の物資に欠乏を来したのか、それ以後エルジア帝国軍は大規模な軍事行動を控えている。
その代わりに、数機、あるいは単機でISAFの警戒網に進入しては、迎撃機が舞い上がってくるとすぐに引き返すという、嫌がらせのような戦法を繰り返していた。
その為、ロスカナス北方に展開した警戒網は、眠れぬ日々を過ごしていた。
葵が待機所にやってきた時、衛は既に来ており、室内に設けられたソファーの上でボーッと壁の一点を眺めていた。
しかし、葵が入ってくると、ハッとして顔を上げた。
「……あにぃ。」
絞り出すようなか細いその声には、いつもの溌剌さが感じられない。そんな衛を見て、葵は口を開く。
「衛、あのな……」
「ごめんあにぃ。ボク、もう大丈夫だから。」
「大丈夫って、お前……」
「うん。もう、大丈夫。」
葵の機先を制するように言うと、衛は力無く笑顔を浮かべる。その笑顔は、見るからに作られた物であり、見ている葵には痛々しく感じられた。
しかし今の葵には、衛に掛けてやる言葉が見つからなかった。
葵が見ている前で、衛は持ち込んだ雑誌に目を落とす。しかしその瞳は焦点が合っておらず、雑誌の内容が頭の中に入っていない事は端から見ても明白だった。
「…………」
そんな衛を横目で見ながら、葵もソファーに腰を下ろした。
その後二人は、一言もしゃべらないまま、ただ時だけが過ぎ去って行った。
それから、どれくらいの時間が経っただろうか?葵の脳裏に、子供の頃の事が思い出されていた。
『そう言えばあの時も、俺のせいで衛を傷つけちまったんだっけ?』
それは、衛が家に来たばかりの事だった。
その頃の衛は、何をするにも葵の後ろをチョコチョコとついて回っていた。そんな衛を、当初葵は鬱陶しく思っていた。
そしてある日葵は、いい加減頭に来て、衛を引き離す行動に出た。
「まってよ、あにぃ!!」
「やだ!!」
全速力で逃げる九歳の葵の背後から、四歳になったばかりの衛が転がるように走ってくる。
葵は衛を引き離す為に、広い邸内を駆け回っていたのだ。
この頃から衛は、家の外で遊ぶ事が好きな元気な子だったが、それでも小学生の葵と比べると、脚力に歴然の差があった。
葵はぐんぐん衛を引き離して行く。
「あにぃまって!!まってたらあ!!」
必死に叫ぶ衛の視界で、葵はどんどん小さくなり、やがて完全に見えなくなった。
衛は立ち止まると、辺りをキョロキョロと見回す。
「あにぃ、どこぉ!?」
衛は必死に呼びかけるが、葵は姿を現さない。
「あにぃ〜!!」
衛はそのまま、葵を探して駆け出した。
「…………行ったな。」
それを確認した葵は、近くの茂みからひょっこり顔を出し、大きく溜め息をついた。
「ああ、すっきりした。」
そう言うと、葵は家の中に入って行った。
異変が起きたのは夕方、食事の時間になってからだった。
テーブルには既に料理が立ち並び、兄妹達(当時家に居たのは、咲耶、千影、鞠絵、鈴凛、可憐、衛、のみ。)が揃っていた。
しかしどうした事か、衛の姿はその中に無かった。
その事にいち早く気付いたのは母、愛だった。
「……あら?」
衛が居ない事に気付いた母親の愛は、すぐに使用人の吉田を呼び出した。
それから、葵の方を見る。
「葵。」
「何、母さん?」
母親に呼ばれて、葵は振りかえる。
「あなた、衛ちゃん知らない?」
「知らないよ。どうして?」
「だって、いつも一緒に居るじゃない。」
そう言ってから、愛は考え込む。
「どうしたのかしらあの子。いつもは食事の時間になると一番に走ってくるのに。」
愛がそう言った時、葵はハッとした。
『まさか、あいつ!!』
そこまで考えると葵は、愛達の制止を振り切って駆け出した。
「衛!!……衛〜〜!!」
葵は庭中を走りながら、衛の名を呼ぶ。すでに辺りは闇に包まれ、一メートル先を見渡す事もできない。上杉家の敷地はかなり大きく。庭はちょっとした公園ほどもあり、裏小さいながら山もある。もし、山の中に入ってしまえば、子供の足で踏み込むのは危険だ。
「衛!!どこだ!?」
葵は後悔していた。もし自分があんなふうに衛を邪険にしなかったら、こんな事態にはならなかったはずだ。
これでもし、衛の身に何かあったら。そう思うと、葵は居ても立っても居られなかった。
そうしている内に、葵は山の入り口まで来てしまっていた。
「…………」
闇に包まれた山の入り口は、まるで魔物の口のように、葵を飲み込まんとしているようだ。
葵はゴクリと唾を飲んだ。もし、この中に衛が入ったとしたら、今頃心細い思いをしている事だろう。それを助けに行けるのは、今、自分しか居ない。
葵は意を決して、一歩踏み出した。
その時、
「…………ヒック…………ヒック…………ヒック…………」
どこからとも無く、すすり泣く声が聞こえてきた。葵は、声のする方に足を向ける。少し進むと、木の根に座った、小さな人影が見えた。
「…………衛?」
葵が呼びかけると、その人影は顔を上げた。
「…………あにぃ?」
その声を聞いて、葵は顔を輝かせる。
「衛!!」
葵は衛に駆け寄ると、力一杯抱きしめた。
「あにぃの……あにぃのばか〜〜〜〜〜〜!!」
そう言って、衛もしっかりと葵を抱きしめた。
「ごめんな、ごめんな衛。」
その後、葵は衛をいじめた罰として、衛はみんなに心配を掛けた罰として、二人揃って夕食抜きを命じられた。しかし、そんな事二人にはどうでも良かった。なぜならその夜、二人は互いに手を繋いで、同じ布団で寝たからだ。
『そうだ……あの時、俺は衛を全て受け入れる事ができた。……だから今、もう一度衛を受け入れる事が、できないはずが無い。』
そう心の中で呟くと、葵は意を決して顔を上げた。
「衛。」
葵の声に、衛は顔を上げた。
「……何?」
返事をしながらも、衛は身構える。先程の事を言われる事が予想できたからだろう。そんな衛を、葵は優しく包み込むように見据え言った。
「もう、無理するのは、やめろ。」
「なんで、あにぃ?」
葵の言葉の意味が分からない衛は、そう言って力無く笑う。
「ボクはもう大丈夫だって、言ったじゃないか。」
「大丈夫じゃない!」
衛の言葉に、葵は声を荒げる。さすがにその様子を見た衛は言葉を止めて葵を見る
「……あにぃ。」
「大丈夫じゃ、ないだろ。」
葵は、優しい目で衛を見据える。
「そんな悲しい事、言うなよ。」
「あにぃ……」
「お前の中にある悲しみは、そんなすぐに消えるような物じゃないはずだろ?そんなすぐに消える程、俺達が一緒に過ごしてきた時間は、軽い物じゃない筈だろ。」
「…………」
葵の言葉は、衛の胸に深く突き刺さった。
兄や姉、妹達と過ごした楽しかった日々。それらを自分は、否定しようとしていたのだ。
「ごめん、あにぃ……ボク……」
衛は、目頭が熱くなるのを止められ無かった。
そんな衛に、葵はスッと右手を差し伸べる。
「…………俺の手を取れ、衛。」
「え?」
衛が見上げた葵の顔は、優しい笑顔に包まれていた。これまでのように、どこか引きつった、無理をした笑顔ではない。心の底からの笑顔だった。
「一人じゃつらい道も、二人なら歩いて行ける。お前が背負っている物を、半分俺によこせ。俺がお前と一緒に歩いてやる。」
その瞬間、衛の顔が劇的に変化するのが、葵には分かった。
「あにぃ……」
衛はゆっくりと、葵の手を握る。次の瞬間、葵は衛の体を引き寄せた。
「あ!」
衛が小さく叫んだ時には、その細い体は葵の胸に抱かれていた。
「大丈夫、怖がる事は無い。お前には、俺が付いてる。」
「あにぃ……」
衛は頬をほんのり赤く染めると、葵の胸に顔を押し当てた。
衛はそのまま、ゆっくりと眠りに落ちていった。
3
部屋に差し込む朝の光と共に、衛は目を覚ました。
「……ん……んん。」
衛はもぞもぞと体を動かし、目を擦る。
「起きたのか?」
すぐ耳の傍で、葵の声がした。振り返ると、すぐ目の前に兄の顔がある。
「あにぃ……」
そこでようやく衛は、自分が葵の腕に抱かれている事を思い出す。
「あにぃ……ずっと、抱っこしててくれたの?」
「ああ。」
そう言って葵は、微笑を浮かべる。つられて衛も笑顔を浮かべ、顔を兄の胸に預ける。
「あは、あにぃって、あったかい。」
「お前もな。」
そう言って葵は、衛の顔を見る。
「もう、落ち着いたか?」
「……まだ……ちょっと。」
そう言って、衛は恥ずかしそうに笑う。
「……そうか。」
つられて葵もフッと笑う。
「俺もだ。」
葵は、優しく衛の頭を撫でる。
「ゆっくり、乗り越えて行こう。」
「……うん。」
衛は頷くと、くすぐったそうに笑う。
「あにぃ。」
「ん?」
「ボク、あにぃの事、大好きだよ。」
「……俺もだ。」
二人はそう言って、ニッコリ笑った。
その時だった。
大気を切り裂くように、ラセツ基地に警報が鳴り響く。
瞬間的に二人は、体を起こす。
「スクランブル警報だ!!」
「あにぃ!!」
衛の呼びかけに、葵は大きく頷く。
「行くぞ、衛。」
「うん!!」
二人はそれぞれのヘルメットを掴むと、待機所から駆け出した。
葵と衛がハンガーに来ると、二人の愛機は装弾を済ませてエンジンが回っていた。
葵は敬礼する整備兵に答礼すると、コックピットに滑り込んだ。横に目をやると衛も愛機のコックピットに滑り込んだ。
それを見透かしたように、二人にコントロールルームから通信が入った。
「ラセツコントロールよりメビウス1、2!ただ今入った情報によると、ロスカナス北西の空域で、民間航空機がエルジア空軍機の追撃を受けています。」
「積荷は何だ?」
ヘルメットを被りながら、葵が尋ねる。
「自由エルジア軍が救出した、ストーンヘンジ開発に携わった技術者達です!!」
それを聞いて、葵と衛の表情に緊張が走る。
「ただちにスクランブル願います!!他の基地からも味方が飛びますが、できる限り急いでください!!」
「メビウス1、了解。」
「メビウス2、了解!!」
二人は応答すると、酸素マスクを付けヘルメットのバイザーを降ろす。
キャノピーが閉まり整備兵が離れるのを確認すると、葵はゆっくりとF/A−18ENスーパーホーネットをスタートさせた。それに続くように、衛のF−2Nバイパーゼロもスタートする。
二人はゆっくりとしたスピードで、愛機を滑走路に持っていく。
「ラセツコントロール、こちらメビウス1。離陸許可を。」
「了解メビウス1、クリアフォーテイクオフ!!」
「ラジャー、メビウス1、テイクオフ。」
そう言うと葵は、スーパーホーネットを加速させる。
葵の離陸を確認して、衛が滑走路に進入した。
「こちらメビウス2、離陸許可を。」
「了解メビウス2、クリアフォーテイクオフ、グッドラック!!」
「ありがとう!!」
衛はそう言うと、バイパーゼロを加速させる。やがて空気の加護を受けて、衛は天空に舞い上がった。
衛は葵のスーパーホーネットに追いつくと、二人は北西に進路を向けた。
4
「エルジア空軍の第一波は何とか振り切ったようです。」
「……ここまでは順調か。」
副機長の言葉に、機長は溜め息交じりに呟いた。
彼等はゲリラ組織「自由エルジア軍」の兵士である。彼等の任務は、ストーンヘンジ開発に携わった技術者達を救出し、ISAFの勢力圏内まで護送する事だった。
彼らは綿密な調査で技術者達が監禁されている場所を突き止めると、自分達に関する偽の情報を流す事によってエルジア正規軍を陽動し、その間に迅速に救出作戦を決行した。それと同時に旧サンサルバジオン国内の空港関係者を買収し協力を取り付けると、エアバス一機を確保。まんまと逃げおおせる事に成功した。まんまと盗賊の跳梁を許した側も、ただ指を咥えていた訳ではなかった。すぐに追撃部隊を差し向け、エアバス撃墜を目指した。しかし、対応が遅れた事もあり、出撃したサンサルバジオン国内の駐留部隊は燃料切れで追撃を断念せざるを得なかった。
エアバス―エルジア航空701便は、まんまと虎口を脱したかに見えた。
「油断するなよ。国内の部隊は振り切ったが、まだストーンヘンジ周辺に展開した連中がいる。」
「はい!!」
副機長がそう言った時だった。
レーダーの端に、光点が映る。その瞬間、副機長は叩き付けるように叫んだ。
「レーダーに反応!!数は八!!」
「来たか。」
途端に、二人の間に緊張が走った。
「気に入らねえな。」
灰色の1、小野庸介中佐は、溜め息混じりに呟いた。
先のロスカナス空襲の功績で中佐に昇進していた。しかし、今回の任務は彼にとって納得の行かない物だった。
いかにエルジアにとって不利な要素とは言え、民間人が乗った旅客機を撃墜するなど、武人としての彼の矜持を傷付けるもの意外何物でもなかった。
「勝手は許さんぞ、小野。」
へばりつくようなその声に、庸介は顔をしかめる。
彼の背後には、銀色の翼をしたミグ29ファルクラムが四機ついてきている。大垣高広大佐に率いられた銀色中隊だった。今回スクランブルとして飛び立ったのは、灰色中隊に所属するスホーイ37スーパーフランカー四機と、銀色中隊のファルクラム四機のみだった。
「奴等を逃せばストーンヘンジに重大な危機が迫る事になる。手を緩めるなよ!!」
「…………了解。」
そう言うと、庸介はスロットルを上げた。
やがて視界の中に、必死にISAF勢力圏に逃れようとしている旅客機が見えてきた。
「…………」
旅客機の輪郭がはっきり見えるようになっても、庸介は命令を出そうとしない。そんな庸介に、部下達は不安げな声を掛ける。
「隊長…………」
彼等も内心、この作戦には反対なのだ。
庸介は一度目をつぶってから、そしてゆっくりと開いた。
「…………攻撃、開始。」
「「了解。」」
三機のスーパーフランカーは速度を上げて、旅客機に向かった。
「こちらエルジア航空701便!!接近中のエルジア機に告ぐ!!攻撃を止められたし!!繰り返す!!…………」
その声を聞いても、庸介は進路を変えない。その照準機にはすでに旅客機の巨体を収めている。
「…………」
庸介は無言のまま、引き金に指を掛けた。
「灰色の1より2、3、4へ、お前達は手を出すな。」
こんな汚い仕事を、自分の部下にさせる訳にはいかない。そう考えての言葉だった。
言われた通り、灰色の2と灰色の3、そして灰色の4は庸介のスーパーフランカーから一定の距離を取る。
それを確認してから、庸介はトリガーに力を込めた。
しかし次の瞬間、信じられない事が起こった。何と目の前の旅客機が、庸介の目の前で急降下したのだ。
「なっ!?」
まったく予期し得なかった行動に、庸介が放った弾丸は虚しく空を切る。
「チッ!?」
その行動に驚かされながらも、庸介は急降下体勢に入る。
一方で、場を考えずわめき散らしている人物が居る。言わずと知れた大垣である。
「何をやっているのだ、あのノロマは!!軍法会議ものだぞ!!」
そんな大垣の声を完全に無視して、庸介はシロナガスクジラを狙うシャチさながらに、旅客機に向かって急降下する。
「さっきのような手は、二度と食わん。」
そう言うと、再び照準機の中央に旅客機を捉えた。
一方その頃、旅客機のコックピットでは、深刻な事態が起こっていた。庸介の放った30ミリバルカンがコックピットの風防を掠り、操縦を担当していた機長に怪我を負わせたのだ。
「機長!!しっかりしてください!!」
倒れ込んだ機長に呼びかけながらも、副機長は操縦に専念する。ここで自分まで操縦を止めてしまえば、この機は墜落してしまう。そして、機内放送で乗客に呼びかける。
「機長が重傷を負われました。すぐに誰か来てください!!」
数分後、医療キットを持った数人の兵士が駆け込んできた。
「どうですか?」
副機長の問いに対して、兵士達は暫く診察した後顔を上げた。
「大丈夫、傷は浅いです。どうやら、撃たれた時の衝撃で気を失っただけのようです。」
「良かった。」
そう言って安堵してから、副機長はレーダーに目を走らせる。
「しかし、こちらはあまり良い状況じゃないようです。」
そう言って舌打ちする。旅客機は風防が割れてしまい、凄まじい風がコックピット内に吹き荒れている。また、先程の急降下で高度を落としてしまい、これ以上速度を上げる機動ができない。さらに、与圧が破れらたため、高度を上げる事ができない。止めといった感じに、エルジア空軍機はすぐ背後に迫っていた。しかも相手はトップエースの一人、灰色の1である。有利な要素は何一つ無かった。
その時だった。天は彼等を救う為、戦闘天使を遣わせた。
「エルジア航空701便、応答してください。エルジア航空701便。」
低いが良く通る声が、スピーカーから響いて来た。
「エルジア航空701便、こちらISAF空軍所属、コールサイン、メビウス1、応答してください。」
ラセツ基地を出て全速力で駆けつけた葵と衛は、エルジア軍の勢力圏ギリギリの地点で、彼等を捕捉する事に成功した。
ややあって、返信があった。
「こちら701便。助かりました!!」
危ない所を救われた副機長の声は、明らかに弾んでいる。
「安心するのは後ろの連中を強制退場させてからにしよう。取りあえず状況を知りたい。」
「はい!先程攻撃を受けて、コックピットの風防が破損、機長が重傷を負われました。現在は副機長である私が操縦しております!それから与圧が破れたせいで、高度を上げる事ができません!!」
その報告に、葵は軽く舌打ちする。状況は思った以上に深刻だ。
「だが、」
葵はニヤリと笑う。
今日は負ける気がしない。なぜなら、自分には強力な守護天使がついているからだ。
葵はちらっと、横に並んだ衛のバイパーゼロを見た。それに示し合わせたように、衛も葵を見た。
「行くぞ衛!!」
「うん、あにぃ!!」
そう言うと二人は、スロットルを上げてエルジア空軍に挑みかかった。
それを見て、庸介は唇に明確な笑みを浮かべた。
「丁度良い所に来てくれた。初めてお前に感謝するぞ、リボン付き。」
これで憂鬱な任務から解放される。そう思った時、庸介より先行して四機のファルクラムが躍り出た。
「小野!お前は旅客機を追撃しろ!!こっちは我々が対処する!!」
一件、役割を分担する高度な戦術的判断にも取れるが、その実、自分は「リボン付きを倒す」という手柄を独占し、「いかに裏切り者とは言え、民間人を乗せた旅客機を撃墜した」という不名誉な手柄を庸介に押し付けようとする意図は、明々白々だった。それが分かっているだけに、庸介も退かない。
「お言葉ですが大佐。あのリボン付き二人はISAFの中でも特に強敵です。ここは全員で掛かるのが上策でしょう。」
「貴様!!私に意見しようと言うのか!!」
「いいえ。私はあくまでこれまでの実績から経験した意見を述べているだけです。もし、私が間違っていると言うのなら、それに対抗するだけの意見を示していただきたい。」
「グッ……」
庸介の平然とした言葉に大垣は黙り込む。それを見て、庸介はほくそ笑んだ。
「意見がおありでないなら、敵機の迎撃に移りたいと思いますが?」
「…………勝手にしろ!!」
大垣の吐き捨てるような言葉を聞いて、庸介はニヤリと笑う。
「灰色の1より各機へ、聞いた通りだ!!コンバット・オープン、行くぞ!!」
「「「了解!!」」」
庸介の命令を受けて、灰色中隊は二機の戦闘機に挑みかかった。それに並列するように、銀色中隊も続く。
「メビウス1、フォックス3!!」
葵は突っ込んでくるファルクラムに、アムラームを放った。白煙を上げて突き出された槍は、まっしぐらにファルクラムに向かう。それと同時に衛もアムラームを放つ。
しかしエルジア空軍は、とっさにチャフをばらまき、アムラームを回避に掛かる。
目標を逸らされた葵のアムラームは、そのまま明後日の方向に向かって飛んで行く。しかし衛のアムラームはチャフの壁を突き破って、一機のファルクラムを捉え粉砕した。
「よし!!」
衛はガッツポーズをする。その衛のバイパーゼロの前に葵のスーパーホーネットが出る。
「来るぞ、衛。」
「うん!!」
二人は頷きあうと、スピードを上げた。
「行くぞ!」
葵は普段より強い調子で呟くと、すれ違ったばかりのファルクラムに狙いを定めた。
衛はスティックを引き急旋回すると、ファルクラムの背後に回り込む。
ファルクラムは葵が旋回している内に、全速で振り切ろうとするが、葵はアフターバーナーを吹かし、強烈なダッシュ力で短距離ミサイルの射程距離に捉える。
「メビウス1、フォックス2。」
葵はロックオンすると同時に、翼下に吊るしたサイドワインダーを放った。ミサイル警報に気付いたファルクラムのパイロットは、急激にスティックを引いて回避に掛かるが、その前にサイドワインダーはファルクラムのノズルを捉え、粉砕した。
「スプラッシュ1。」
葵はコールすると同時に、スティックを急激に倒した。庸介のスーパーフランカーが、背後から急速に接近している事に気付いたのだ。
「この間の続きと行こうぜ、リボン付き!!」
叫ぶと同時に、庸介は速度を上げてスーパーホーネットの背後に回り込みをロックオンする。
「食らえ!!」
叫ぶと同時に、庸介は30ミリバルカンを放った。今回庸介達は、急な発進であった為、アーチャーやアラモと言ったミサイルを持ってきていなかった。その為、バルカンで戦うしかなかった。それでも庸介の口には笑みがあった。先程までの憂鬱な任務に比べると、ライバルと目しているリボン付きとの戦いは、彼にとっては望む所だった。
葵はそんな庸介の攻撃を、翼を翻して回避する。葵はそのまま機体を急降下させて、速度を稼ぎに掛かる。それに対して庸介も、急降下して追随する。
庸介は、照準機の中央に葵のスーパーホーネットを捉えた。
「今度こそ!!」
庸介はトリガーに指を掛け力を込める。しかし庸介が弾丸が発射する前に、葵は急上昇に転じて庸介のロックを外す。
葵はそのままスティックを引き続けてループを行い、庸介のスーパーフランカーの背後に回り込み、すかさずロックオンする。
「メビウス1、フォックス2!!」
コールすると同時に、葵はサイドワインダーを放った。放たれたサイドワインダーは、白煙を上げて庸介のスーパーフランカーに向かう。しかし庸介は、サイドワインダーが命中する前に、機体を翻し回避する。
「チッ」
目標を見失い舌打ちする葵。そんな葵の背後に、灰色の4のスーパーフランカーがついた。
「隊長はやらせない!!」
そう言いつつ、スーパーフランカーのパイロットは30ミリバルカンを発射した。閃光と化した弾丸は、真っ直ぐに葵のスーパーホーネットに向かって行く、
「良し!!」
砕け散るスーパーホーネットの機影を確信し、灰色の4はガッツポーズをとる。しかし着弾の直前、葵のスーパーホーネットは幻のように掻き消えた。
「何!?」
次の瞬間、葵のスーパーホーネットは灰色の4の背後に現われた。
「メビウス1、フォックス2。」
葵はすかさずサイドワインダーを放ち、回避する間も与えず灰色の4を撃墜する。
「機体が優秀でも、扱う者の腕が物を言う……か。」
部下が撃墜された光景に、庸介の闘志に火が点く。
「おのれ!!」
庸介は牙を剥き出した獅子さながらに、葵に向かう。対して葵も、緩やかに機首を巡らして、庸介のスーパーフランカーに向かいながら、FCSを高機動ミサイルモードにする。
二機の戦闘機は、急速に接近する。
「メビウス1、フォックス3。」
葵は一瞬のロックオンを見逃さずに、アムラームを放った。それを見て庸介は、急激にスティックを引き、回避を試みる。
「グウッ!!」
強烈なGが庸介を襲う。急速に接近してくるアムラームが、庸介に迫る。
しかし庸介は、間一髪の所でアムラームを回避した。
しかしその為に、体勢は完全に崩れてしまった。それを見逃さず、葵はエンジン出力を上げて庸介のスーパーフランカーの背後についた。
「フォックス2。」
葵はすかさずロックオンし、サイドワインダーを放った。再び、ミサイルが庸介に迫る。しかし今度は、庸介もフレアを放出すると同時に回避行動を行い、サイドワインダーから逃れた。
「今度は、こっちの番だ!!」
庸介はそのまま捻り込みながら、葵のスーパーホーネットの上方に現われる。葵もその事に気付き、庸介のスーパーフランカーを振り切りに掛かる。しかし庸介は水平飛行に入り、葵を追撃する。
「もらった!!」
照準機の中央に葵のスーパーホーネットの後ろ姿を捉えると、30ミリバルカンを放った。しかし、葵は弾丸が届く前にハイGバレルロールを行い、射線から逃れる。
「逃がすか!!」
庸介は自らもバレルロールを行い、葵を追撃する。二機の戦闘機は、螺旋を描きながら青空の中で絡み合っていった。
その頃大垣率いる銀色中隊の生き残り二機は、葵達の相手を灰色中隊に任せ、自分達は旅客機追撃に向かった。当初の狙いでは、庸介達に汚れ仕事を押し付け、自分達は名誉を独占する予定だったが、最新鋭機を装備する灰色中隊が苦戦する様を見て、当初の方針を投げ捨て、自分達が主目標を狙う作戦に切り替えた。
「よろしいのですか、大佐?」
「かまわん。こうなったら我々が反逆者を倒し、手柄の独占を図るのだ!」
生き残った部下の言葉に対して、大垣はそう言って下卑た笑みを浮かべる。しかし、部下の表情は晴れない。
「そうではなくて、小野中佐達だけにリボン付きを任せて……」
それを聞いて、大垣の声は不機嫌な物になる。
「知るか!せいぜい我々が手柄を立てる間、弾除けになってくれればそれで良い!!」
そう言うとスロットルを上げ、大垣は旅客機に取り付く。
その様子は、旅客機のレーダーからも確認できた。
「駄目なのか……」
副機長は、絶望に目をつぶる。
「もう、駄目なのか!?」
ここまで来て、後一歩でISAFの勢力圏まで逃げ込めると言うのに……ここで終わってしまうのか?
しかし、そうはならなかった。彼の耳に、天使の声が響き渡った。
「急旋回して!!」
突然、スピーカーから声が聞こえた。まだ若い女性、いや、少女の声である。しかし副機長はとっさにその声に従い右に急旋回する。それを追うように、大垣のファルクラムも急旋回する。しかしその為に大垣のスピードは落ちた。
それを見透かしたように、空を切り裂きながら衛のバイパーゼロが躍り掛かった。
「メビウス2、フォックス3!!」
防衛線を迂回された事に気付き、フルスピードで追い付いてきた衛は、間髪入れずアムラームを放つ。
「チッ!!」
大垣はとっさにチャフをばら撒きながら回避する。その隙に衛は、大垣のファルクラムに追い付く。
「すごい、あの戦闘機、本当に二人だけで戦っている。」
衛の戦い振りを見た、旅客機の副機長は感嘆の声を上げる。その声をよそに、衛は大垣とのドッグファイトに入る。
衛はスティックを急激に引いて急旋回に入ると、大垣の背後に回り始める。バイパーゼロは旋回性能においてファルクラムのそれを大きく上回っている為、あっという間に背後に回り込んでくる。
「クッ!?」
その事に気付いた大垣は、自身も限界までスティックを倒して振り切ろうとするが、衛は余裕で大垣に追随する。そして、射程に入り次第サイドワインダーをロックする。
「メビウス2、フォックス2!!」
衛はすかさずサイドワインダーを放った。急旋回中の大垣は、すぐには回避行動を取れない。その大垣の背後から、サイドワインダーは容赦無く接近してくる。
「ぐおォォォォォォォォォォォ!!」
大垣は必死の思いでフレアを放出する。もはやサイドワインダーは間近まで迫っている。まさに、いちかばちかだった。
しかし、その賭けが功を奏し、大垣はサイドワインダーを回避する事に成功した。同時に距離を取り、衛のバイパーゼロを一旦引き離す。
大垣の息は荒い。
「なっ、何なのだ、奴は!?」
まさか、衛がここまでやるとは、大垣も考えてはいなかった。そんな大垣を気遣うように、部下のファルクラムが寄り添う。
「大佐、大丈夫ですか!?」
「馬鹿者!!私に構っている暇があるなら……」
怒声を上げかけて、大垣は声を止める。それから、おもむろに、口に笑みを浮かべた。
「よし、お前があのF−2の相手をしろ!!」
「……はっ?」
大垣の命令を聞いて、パイロットは呆気に取られる。その様子に苛立って、大垣はもう一度怒鳴った。
「馬鹿者!!一度で覚えんか!!奴の相手はお前がしろと言ったのだ!!私はその間に旅客機を落とす!!」
「しかし大佐!!」
「任せたぞ!!」
有無を言わさず、大垣は通信を切ると、自分は旅客機を追撃する。
その様子は、衛にも確認する事ができた。
「まずい!」
離脱する大垣機が旅客機を狙っている事を悟り、衛はアフターバーナーを吹かして追撃に入る。しかしその衛のバイパーゼロの前に、もう一機のファルクラムが立ちはだかった。それを見て衛は、相手の意図に気付き軽く舌打ちする。
「……このままじゃ、間に合わない。」
焦りと供に呟くと、衛はアフターバーナーを吹かして振り切りに掛かる。しかしファルクラムのパイロットは、背後から衛のバイパーゼロに忍び寄ってくる。
「クッ!!」
衛は思いっきりスティックを前に倒し、機首を下に向けて急降下する。重力を最大限に利用して、振り切るのだ。最大限まで加速されたバイパーゼロのコックピットの中、衛の視界には、急速に地面が接近してくる。
「クウッ!!」
衛は激突前にスティックを引き、水平飛行に入る。その間に稼いだ速度で、衛は大垣を追撃した。大垣はすでに、旅客機に取り付きかかっている。サイドワインダーでは間に合わない。
「アムラームは……後一発。」
衛はFCSを高機動ミサイルモードにすると、慎重に大垣のファルクラムをロックオンする。旅客機が近い為、細心の注意を払った。
しかしその間に、振り切ったはずのファルクラムが、背後から近付いてくるのが見えた。
衛は唇を噛んだ。このまま追撃を続行すれば、追い付かれて撃墜される恐れがある。しかし回避をすれば、確実に大垣は旅客機を撃墜する。
迷いは一瞬だった。衛は、進路を変えずに追撃を続行する。
『ボクが今逃げちゃったら、たくさんの人が死んじゃう。そんなのは、嫌だ!!』
衛は背後からファルクラムが接近してくるのを無視して、大垣を追撃する。そのコックピット内ではロックオン警報が鳴り響き、衛の恐怖感を一層煽る。
その恐怖感を撥ね退けながら、衛は大垣のファルクラムをロックする。
しかし次の瞬間、コックピット内を満たしていたロックオン警報がピタリと止んだ。
「え?」
衛はとっさにバックミラーに目をやる。そこには、爆炎を乗り越えるように現われた葵のスーパーホーネットがいた。庸介を振り切った葵が、間一髪の所で追い付いてきたのだ。
「あにぃ!!」
歓声を上げる衛。そうしながらも衛は、ロックオンゲージを睨み付けた。FCSは、まだ大垣のファルクラムをロックオンしている。その瞬間、衛の双眸は得物を狩る狼のそれになる。
「メビウス2、フォックス3!!」
コールすると同時に、衛はアムラームを放った。
アムラームの接近に気付いた大垣は一瞬迷った。既に彼は旅客機を射程に収めており、後は照準を合わせるだけだったのだ。しかし、それをやっていたら確実に撃墜される。しかし、後一歩で手柄が自分の下に転がり込む。いや、こうしている間にも、確実にアムラームが接近してくる。早く決断しなくては…………
そんな思考が駆け巡っている内にも、アムラームは超音速で接近してくる。
「ええい!!」
大垣はスティックを大きく倒すと、チャフをばら撒きながら回避行動を取った。彼は任務よりも自分の命を選んだのだ。それもまた、一つの賢い選択だろう。
チャフに撹乱されたアムラームは、空中で爆発する。大垣は何とか命を長らえたのだ。
しかし、回避した大垣を見て、葵と衛が急速に接近してくる。今の大垣では、この二人を相手にする事は不可能である。
「ええい!!忌々しい奴らめ!!」
捨てセリフを吐くと同時に、大垣はファルクラムの機首を巡らして待避行動に入った。
「見てろよリボン付き!!この次こそは必ず貴様等を血祭りに上げてくれる!!」
そう言うと大垣はアフターバーナーを吹かして、全速で離脱して行った。
それを確認して葵は、酸素マスクを外してバイザーを上げ、衛のバイパーゼロに並走した。見ると、衛も同じように顔を出している。二人は微笑み合うと、互いに親指を立てて見せた。
二人の翼持つ兄妹は、陽光を浴びながらゆっくりと天空を駆けて行った。
第十九話「俺の手を取れ」 おわり
あとがき
どうもこんにちは、ファルクラムです。
さて、ようやく、葵と衛の間を隔てていた壁が取り除かれました。今後この二人が、どのような道を辿って行くのか。見守っていただけるとありがたいです。
さて次回、ついに、中盤最大に山場を迎えます。旨く書けるかどうか不安ではありますが、全力で当たりたいと思っておりますので、どうかご期待ください。それでは、また。
ファルクラム
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