Click here to visit our sponsor
▽BACK▽  ▽OTHER▽  ▽NEXT▽

リボンつきの翼
第十八話「真実と言う名の刃」

作者 ファルクラムさん


 上杉衛空軍少尉は、自分の部屋を前にして大きくため息をついた。
 事の起こりは、今朝、朝食を取ろうとしたときに遡る。
「衛、部屋の掃除は済んだか?」
 そう聞いたのは、兄であり頼るべき戦友である、上杉葵空軍大尉だった。
先日のロスカナス空襲の一件以来、葵の態度は以前より軟化されていた。朝食を一緒にとろうと言い出したのも、葵の方からだった。
 衛にとってもうれしい限りだった。以前と比べるとまだぎこちないが、日々の努力の後が見られ、葵にもかつてのような温かみが戻ってきている。
 二人は窓際のテーブルに向かい合って座り、朝食のメニューを口に運ぶ。
葵のメニューはパンに紅茶、それに野菜のスープという洋食系。対して衛は、ご飯に味噌汁、漬物という和食系の物だった。
 食事が半分ほど進んだ頃だった、葵が先程の質問を衛に投げかけた。
「へ?」
 味噌汁のお椀を持った手を止めて、衛は葵を見た。それに対して葵は、紅茶をすすりながら、衛を見ている。
「これから暫くこの基地で生活することになるんだ。部屋の掃除は早めにやっておいたほうが良い。」
この後ISAFは、ストーンヘンジ攻撃と言う重要な作戦が控えている訳だが、それがいつになるかは見当は付けられていない。また、攻撃が成功しても、ここから東にはこのラセツ基地ほど大掛かりな基地はそれ程なく、衛達に移動命令が出るとは思えない。また、仮に失敗すれば、余勢に駆って押し寄せてくるエルジア帝国軍に対し、この基地は防戦の要として重要な位置付けが成されてくる。いずれにしても、今しばらくは移動の予定は起きないだろう。
「そっか……そうだよね。」
葵の言葉にうなずくと、衛は一息で味噌汁を飲み干す。
「分かった!今日やるよ!!」
衛は勢い込んで答えた。
そう決意したのは良いものの…………

「はあ…………」
 衛は、もう一度溜め息をついた。その目の前には、散らかっている自分の部屋があった。もちろんこれは、衛自身のせいではない。ノースポイント本土やコモナ諸島から運んできた私物が入ったダンボールが、開封されないまま床の上に放置されているのだ。まあ、これを怠慢と言ってしまえばそう言えなくもないが、ここの所の連戦を思えば、それを言ってしまうと酷と言う物だろう。
「溜め息ついててもしょうがないや。やろう。」
そう言うと衛は、気合を込めて袖をまくり、一つ目のダンボールの口を開けた。
そのダンボールの中には、衛が非番のときなどに着る私服が入っている。
衛は上から順に服を取り出すと、丁寧にたたんでクローゼットに入れていく。
それが済むと、次のダンボールに手を伸ばした。このダンボールは、ノースポイントの実家を守っている姉、可憐から送ってもらった物だ。その中には、衛愛用のローラーブレードが丁寧に梱包して入っていた。
それを見て、衛は微笑を浮かべる。
「えへへ。」
衛の脳裏には、ノースポイントで葵と遊んだ日の事が思い出されていた。
衛は丁寧に梱包を解き、中からローラーブレードを取り出す。
「また、あにぃと一緒に遊べたら良いなあ。」
 そう言うと衛は、ローラーブレードを大事そうに抱え上げる。その顔は、遠目で見てもそれと分かるくらいはっきりと笑顔が刻まれている。
と、その時、
「何ニヤニヤしてんの、あんた?」
突然部屋の外から呼びかけられて、衛はあたふたとローラーブレードを隠そうとするが、慌てていた為、ローラーブレードでお手玉をしてしまう。そもそもローラーブレードを隠す必要は無いと思うのだが、慌てている衛にはその事が分かっていない。
「何やってんのよ、あんたは?」
部屋の入り口に立った上杉家長女、上杉咲耶空軍中尉はそんな衛を呆れた顔で見た。
「べっ、別に。それよりあねぇ、どうしたの?」
恥ずかしい所を見られてしまい、衛の声は上擦っている。そんな衛に不審な目を向けながらも、咲耶は質問に答えた。
「お兄様から聞いたわ。部屋の掃除をするんですって?あたしも手伝ってあげる。」
「そんな、別に良いよ。一人でできる量だし。」
部屋の中に入ってきて、ダンボールを開こうとする咲耶に対して、衛は断ろうとするが、咲耶は優しげな微笑を、衛に向ける。
「いいからいいから、二人でやった方が早く済むでしょ。それに、」
「それに?」
「あんた、今晩アラート待機でしょ。昼のうちに休んでおいた方が良いわ。」
「あ、」
咲耶に言われて、衛は今晩、自分が兄と共にスクランブル要員に指定されている事を思い出した。
「忘れてたの?」
「…………うん。」
衛は顔を赤くして頷いた。そんな衛を見て、咲耶は思わず吹き出す。
「もう!笑う事無いじゃないか!!」
「あら、ごめんなさい。」
咲耶はそう言って謝るが、その顔はいまだに笑顔に支配されている。それを見て、衛は少しむくれる。
「ほら、早くやっちゃおう!日が暮れちゃうよ!」
まだ午前中だと言うのに「日が暮れる」も無いものだが、
とにかく、咲耶の援軍を得た衛は、テキパキと作業を進めていった。

一方、朝食を終えた葵は、空軍総隊長である河村高士少佐に呼び出されていた。
廊下を歩く葵の顔は、見た目には分からないほど簿妙ながら、見る者が見れば、僅かに歪められているのが分かる。
葵は、不機嫌だった。もし、高士からの呼び出しが無ければ、そのまま衛の掃除を手伝おうと思っていたのだ。そこに来て、急な呼び出しである。もしこれでろくな用事でないのなら、さっさと切り上げて衛の所へ行こうと思っていた。
高士の部屋の前に来た葵は、一度、深く溜め息をついてから、ドアをノックした。
「どうぞ。」
中から高士の声がするのを確認してから、ドアの部にてを掛け、右に回してドアを押し開いた。
「来たか。」
入って来た葵を見て、高士は呟いた。
葵にとって意外な事に、高士の部屋にはすでに先客が来ていた。
「遅いぞ葵。」
そう言ったのは、空軍副隊長の鎌田信悟少佐だ。信悟はソファーにくつろいだまま、紅茶を啜っている。そしてもう一人、信悟の向かいには、第三航空隊隊長の大谷二郎少佐が葵に笑いかけていた。言わば、今この部屋には、空軍実働部隊のナンバー1から4までが揃っている事になる。
「揃ったようだな。」
そう言うと、高士は立ち上がった。
「どうしたんだ高士、こんな朝っぱらから呼び出して?」
葵は不機嫌百パーセントの声で、高士に尋ねた。それは、信悟も同様だったらしく、続けて口を開く。
「そうだぞ高士、ただでさえ忙しいんだからよ。」
「分かっている。取りあえずこれを見ろ。」
高士はそう言うと、一枚の写真を取り出した。三人が同時に覗き込むと、そこには一機の戦闘機が映っていた。重厚だが、ほとんどが平面で形作られており、平べったい印象を与える戦闘機だ。
「F―22、通称『ラプター』。技研が開発した新型戦闘機第二陣だ。性能は、全長18・92メートル、全幅13・56メートル、全高5・02メートル、最高速度、マッハ2・2だ。」
「あまり、驚異的な性能と言う訳ではないんだね。」
そう言ったのは、大谷である。しかしそれを聞いて、高士は意味ありげにフッと笑う。
「まあ、そう先を急ぐな。こいつの性能はカタログでは語れない。」
そう言うと高士は、机から一枚の書類を取り出した。その顔には、どことなく面白げな表情がある。
「これは、実験中の話だが、この機体は、アフターバーナーを使わずにマッハ1.6を叩き出したそうだ。」
高士の説明を聞いて、一同の顔に緊張が走った。
「この意味、君達なら分かるだろう?」
「アフターバーナーを使えばスピードは上がり、超音速が出せるが、燃費効率が悪くなり、長時間飛行する事ができなくなる。しかし、アフターバーナーを使わずにそれができると言う事は、超音速のまま長時間飛行する事ができる。」
葵は、信じられないと言った声で言った。その言葉に頷いて、高士は先を続ける。
「『スーパークルーズ』、技研ではそう呼んでいたそうだ。その他にも、ステルス機能やSTOL(エストール:短い滑走路でも離着陸できる能力)などが可能となっている。」
「スーパー、クルーズ……」
誰ともなく、高士の言葉が反芻された。それを聞きながら、高士は次の説明に映った。
「すでに何機かが量産され、他の基地へ配備が始まっている。ラプターの実戦配備を待って、我々は行動を開始する。」
高士の言葉に、三人は一瞬呆けた後、すぐにその意味に気付いて顔を上げた。それを見て、高士は多きく頷いた。
「そう、第二次、ストーンヘンジ攻撃作戦だ。」
ゴクリ、
誰かが唾を飲み込む音が、聞こえた気がした。ついに、自分達はここまで来たのだ。
「しかし、」
信悟が口を開いた。
「まだ、時機尚早じゃないか?俺達の手元にはあまりにもストーンヘンジの情報が無さ過ぎるぞ。このまま作戦を強行すれば…………」
それから先を、信悟は続ける事ができなかった。「このまま作戦を強行すれば、必ず第一次作戦の二の舞いになる」と、
それに対して高士は、真剣な顔を三人に向けた。
「それについて、今エルジア国内では、ある作戦が実施されようとしている。その作戦とは、ストーンヘンジ開発に携わった技術者とその家族を、ISAFに政治亡命させると言う物だ。」
「……ほう。」
葵は、ピクリと眉を釣り上げた。それを見て、高士は先を続ける。
「作戦を担当するのは、非公式のレジスタンス組織、『自由エルジア軍』だ。軍と名がついているが、実質は陸兵ばかり、せいぜい一個連隊程度の兵力を有しているに過ぎない。敵中に潜む組織であるから、敵に存在を気取られない為に、今まで味方にも存在を秘匿されてきた。」
「信用できるのか?」
葵の質問はもっともだった。いかにエルジア軍に対する抵抗組織を名乗ろうと、元がエルジア軍である事は否定しようも無い。また、仮に大半の人間がISAF寄りであったとしても、一部の人間が逆スパイである可能性も否定できない。
「それに関しては、賭けるしかない。作戦が成功する可能性に。」
確かに、調べる術が無い以上、救出作戦の正否に賭けるしか葵達に道はない。それがあまりに分の悪い賭けであったとしても、このままストーンヘンジ攻撃作戦を強行するよりはマシと言う物である。
「とにかく、君達はそのつもりで、作戦準備を進めてくれ。」
そう言うと高士は、会議を打ち切った。

「ようやく終わった……」
 整頓された室内を見て、衛と咲耶は額に滲んだ汗を拭った。二人掛かりでやったと言うのに、結局終わったのは昼の十二時過ぎだった。
「あんたさ、」
 咲耶は疲れた表情を、衛に向ける。
「よく、これだけの荷物を持ち込んだわね。」
「あは、」
「笑って誤魔化さない。」
 そう言うと咲耶は手に持った、いらない書類の束で衛の頭をはたいた。
「とにかく、ありがとうあねぇ。助かったよ。」
 はたかれた頭を抑えながら、衛は咲耶に礼を述べた。それに対して咲耶は、衛に対して微笑む。
「どういたしまして。」
 そう答えると、咲耶は腕の時計に目をやった。
「さっ、もうお昼ね。ご飯食べたら、あんたは少し休みなさい。」
「え、もうそんな時間!?」
 衛も慌てて時計に目をやると、既に針は十二時半近かった。それを見て、衛は深く溜め息をつく。
「どうしたの?」
「う〜、今日は結局ぜんぜん遊べなかった。」
 そんな妹の様子に、咲耶は苦笑する。
「まっ、仕方ないわね。だからって、午後から遊んじゃだめよ。夜起きていられなくなるから。」
「は〜い。」
 衛はちょっとがっくりした返事を返す。
「さ、ご飯食べに行きましょう。早く行かないと、食堂が一杯になっちゃうわ。」
「うっ、うん。そうだね。」
 衛はそう言って、咲耶に続こうとして、ふと、足を止めた。
「あっ、そうだ。」
「どうしたの?」
 一度部屋の外に出た咲耶も、衛の声を聞いて戻ってくる。
「ちょっと、先に行ってて。やり残した事があるから。」
「?いいけど、早くしなさいよ。」
 そう言うと咲耶は、衛を置いて出て行った。それを確認した衛は、再びダンボールを漁り始める。
「たっしか、この辺に入れたと思ったんだけどな。」
 衛はしばらくゴソゴソと漁ってから、中から一枚の写真立てを取り出した。
 そこには、三歳の頃、まだ引っ越してきたばかりの衛と、それを取り囲むように、まだ小学生の葵と今は亡き父が映っている。
 まだ、家に連れてこられたばかりの衛は、状況がよく分かってないらしく、どこかキョトンとした表情をしている。対照的に衛を囲む二人は、優しい笑顔を浮かべている。
 写真を見て、衛は少し微笑む。兄と父に囲まれて映っている自分の表情が、ちょっと間が抜けているような気がして可笑しかった。
「さて。」
衛は写真立ての足を出して、机の上に立てかける。
その時、コトッという音した。
「……あれ?」
衛は怪訝な顔で写真立てに目をやる。見ると写真立てのカバーが外れている。
「あれ〜、壊れちゃったのかな?」
衛は写真立てを手に取り、カバー部分を見てみる。しかし、どうやら壊れたわけではなく、留め具がずれただけのようだ。
衛はホッとしてカバーを元に戻そうとする。
その時、裏にもう一枚写真が入っている事に気付いた。
「?」
 衛は何気なくその写真を手に取る。そこには、父と、見知らぬ男女が映っている。そして女性の腕には、一人の赤ん坊が抱かれていた。
「これ、誰だろう?それにこの赤ちゃんは…………ん?」
 そう呟いた衛の視線に、もう一枚、今度は折りたたまれた紙が映りこんだ。
「?」
 衛はその紙を手に取って、中を開いてみる。
「…………」
 衛はその紙に書かれている内容を一読する。
 そして、
「こんな……こんなのって……」
 衛はそのまま、よろけるようにして数歩歩く。視界は暗転し、一寸先の物まで見分ける事ができなくなっている。それほど衝撃的なことが、その紙には書いてあったのだ。
 衛はそのまま、意識を保つ事ができなくなりベットに倒れこんだ。

「ん?」
 会議を終えた葵は仕官食堂に行く途中に、衛の部屋の前を通りかかった。
 そこで葵は、衛の部屋が空いていることに気付いた。
「……無用心な奴だな。」
 葵は呆れてそう呟くと、葵は部屋の中を覗き込んだ。
「?」
 しかし葵がそこで見たものは、ベットの上で倒れ伏している衛の姿だった。
「……しょうがない奴だ。」
 葵は苦笑すると、部屋の中に踏み込んだ。そこでふと、机の上に古い手紙が乗っている事に気付いた。
「?」
 葵は引き寄せられるように、その手紙に手を伸ばした。なぜかは分からない。しかし、今読まねばならないような気がした。今読まねば、きっと自分の運命が変わってしまう。そういう思いが、葵の中で駆け抜けていく。
 葵は震える手で、ゆっくりと手紙を開いた。
「…………」
 葵は生唾を飲み込むと、ゆっくりと文面に目を走らせた。

【衛へ
今まで言えなくてすまない。この事はお前が大きくなるまで黙っていようと、母さんと決めていたのだが、私は今度の任務から帰ってこれる保証は無い。だから今、全ての真実を、この手紙に託そう。
実に言い難いことではあるが、お前は私の子供ではないのだ…………

「なっ!?」
葵はその衝撃的な文面に、思わず絶句した。
「そんな……そんな、馬鹿な……」
葵は気を取り直して、もう一度手紙に目をやって続きを読み始める。
しかし、その目は虚ろで、焦点が合っていなかった。

…………かつて、私はコフィンブルク共和国で仕事をしていた事がある。しかし、そこでの任務失敗から、地下組織に追われていた時期があった。ノースポイント政府は政治上の理由から私を助ける事ができず、遠い南方の地で私の命運は尽きるのかと思われた。しかしそんな私を匿い、脱出の手助けをしてくれた奇特な夫婦がいた。彼らの恩により、私は今日の生を得る事ができた。その時の夫婦が生んだ子供、それが衛、お前だ。
それから数年後、コフィンブルク南部で大規模な紛争が起こったことを知り、私は全てを投げ打ってお前の両親を救出に赴いた。しかし時は既に遅く、コフィンブルク政府軍とゲリラの戦闘に巻き込まれたお前の両親は他界した後だった。それでも、奇跡的に近くの難民収容所でお前が生きている事を知り、私はお前を連れて帰り、自分の娘として育てる決心をした。
お前の両親を救えなかった私を、どうか許して欲しい。しかし、これだけは信じてくれ。私は、心の底からお前の事を愛していた。神明に誓って、この心に偽りはない。
後のことはお兄さんを、葵を頼りなさい。あれは心の優しい子だ。決してお前を悪いようにはしないだろう。
最後に、お前の両親の写真を同封しておく。
愛する我が娘、衛へ
父より】

そこには、見慣れた父の字でそう書かれていた。
葵は、頭をハンマーで殴られたような感覚に襲われた。
「馬鹿な……衛が……妹じゃ、ない?」
葵は目眩のような感覚に襲われ、そのまま二、三歩後ろによろける。
その時、
「…………あにぃ?」
葵は突然の呼びかけにビクッと体を震わせた。
そして、そのままゆっくりと、後ろを振り返る。
そこには、ベットから上体を起こした衛が、葵に向けて不安そうな瞳を向けていた。
「おっ、起きたのか、衛?」
ひどく声が上ずっている事が、葵自身にも分かった。しかしそれに構わず、努めて平静な振りをして、葵は言葉を続ける。そうしないと、自分自身が気持ちを保てない気がした。
「へっ、部屋のドアが開いていたからな。勝手に入らせてもらった……」
 そう言うと葵は、力なく衛に笑いかけようとする。しかし失敗し、結局引きつった顔を向けるだけに留まった。
しかし衛の目は、葵の顔でなく、その手元に集中されている。
「…………あにぃ…………その、手紙…………」
 そう言われて葵は、自分の手の中に問題の手紙がまだあることに、今更気付いた。
「っ!?……これは……その……」
 狼狽する葵。そんな葵を見て、衛は俯く。
「あにぃにも、分かっちゃったんだね…………ボクが、あにぃの本当の妹じゃないって……」
「…………なっ、何言ってんだよ衛。こんな手紙、でたらめに決まってるだろ。」
 そう言いながらも葵は、自分の迂闊さを呪った。しかも、こんな時に気の利いた言葉の一つも浮かんでこない自分が、ひどく情けなかった。
 事態は、明白とは行かないまでも、かなりの確率で最悪の状況を指し示していた。
 兄妹の中に、一人だけ血の繋がらない者がいる。
 この事実を兄妹の中で知っているのは、葵と衛だけ。しかしまさか衛がそうだとは、万に一つも考えていなかった。そして、その事実を知った時、妹がどんな顔をするか、までも気が回っていなかった。
 まさに、徹頭徹尾、葵自身の迂闊さが招いた悲劇と言えた。
 そんな葵に、衛は力なく笑いかける。
「ごめん、あにぃ。ボクは、全然気にしてないから。」
そうは言うが、衛の顔に血に気はなく、目も完全に虚ろだ。
「しかし、」
 なおも言い募ろうとする葵の目を、衛は真っ直ぐに見据えた。
「暫く。一人にしてくれない。」
「…………」
「大丈夫、アラート待機には、ちゃんと行くから。」
「…………分かった。」
 葵はそう言うと、不安定な足取りで部屋を出た。そして、後ろ手にドアを閉めると、その場に力なく寄りかかった。
 やがて中から聞こえ来た嗚咽を、葵はただ呆然と聞いていることしかできなかった。
 壁一枚。たったそれだけの空間が、葵と衛を永遠に引き裂いてしまったかのように思えた。

第十八話「真実と言う名の刃。」 おわり

あとがき

どうもこんにちは、ファルクラムです。
さて、ついに「リボンつきの翼」における最大のテーマの一つが開封されました。
と、言っても、何か今回は伏線の張りが弱かったかな?と反省しておる次第であります。この後、葵君は随分とまあ、大胆な行動に出てくれる事になりますが、まあ、それは次回のお楽しみと言う事で。じゃ、今回はこの辺で。

ファルクラム

 


ファルクラムさんへの感想はこちら
nymausht@cna.ne.jp
▽BACK▽  ▽OTHER▽  ▽NEXT▽