リボンつきの翼
第十一話「南海のハルピュリア」
作者 ファルクラムさん
1
コモナ諸島。
常夏の気候で風光明媚なこの群島は、ノースポイント連邦の管轄地である。
大小数十の島々からなるこの群島は、人気の観光スポットとして、ユージア大陸のみならず、他の大陸国家からも観光客が訪れるほどだった。その為、このコモナ諸島は、資源の少ないノースポイント連邦にとっても、貴重な財源の一つとなっていた。
このコモナ諸島には、観光スポットとはまた違った意味で重要な施設が存在した。ここには戦前から宇宙開発基地が存在し、大戦初期においてもISAF側が偵察衛星の打ち上げに利用してきた。しかし、ロスカナス陥落と前後して、エルジア帝国軍に捕捉されたISAFの偵察衛星は撃墜され、以後は打ち上げる機会がないまま戦局が推移していた。
しかし今回ISAFは、このコモナ諸島から再び偵察衛星を打ち上げる準備を整えていた。と言うのも、現在ノースポイント本土では、ISAF陸軍が再編成を終えて、大陸反抗の時を今や遅しと待っていた。来たる大陸反抗の為にも、偵察衛星の支援は不可欠だった。
そのコモナ諸島上空を、200機を越える航空機の大群が轟音を上げて通過していった。
「スカイアイより各機へ、エルジア空軍の大編隊がベクター270より高速接近中!数、約500!高度、3000!!」
スカイアイこと上杉咲耶中尉の凛とした声が、ISAFパイロット達の耳に響き渡る。
コモナ宇宙基地において、ISAFが偵察衛星打ち上げを画策している事を掴んだエルジア帝国軍は、大陸中部から東部に掛けて展開している、全空軍機を持って襲撃する作戦を打ち立てた。
旧コフィンブルク共和国スコーフィールド高原に集結したエルジア空軍は、総勢530機。これはエルジア空軍全体の約6割に当たり、空軍のみによる作戦としては、過去最多の作戦参加機数である。
集結した航空機の中には、長距離渡洋に向かないミグ29ファルクラムも含まれており、エルジア軍の今作戦における決意の固さを伺わせた。
一方、エルジア空軍集結の報をいち早くキャッチしたISAF上層部も、空軍の主力220機をコモナ諸島に展開、エルジア空軍を迎撃する体制を整えた。本来なら、海軍も空母機動部隊を編成し、独立遊撃艦隊として、エルジア軍の側面から攻撃する案もあったが、いささか後手に回った事もあり、艦隊を派遣していたのでは、間に合わない可能性が高いと判断され、やむなく見送られる事となった。
ユージア暦2007年2月27日、この常夏のコモナ諸島を舞台に、一大航空決戦の幕が、静かに上がろうとしていた。
咲耶のコールを受けて、一同の間に緊張が走る。
エルジア軍はISAFの2倍以上の戦力を誇っている。まともにぶつかってはまず、勝ち目はない。ここは、先制のパンチを食らわし、相手の出鼻をくじく事が肝心である。とにかく、少しでも彼我の戦力差を縮め、接近戦における数の不利を補うのだ。
今回の作戦に当たり、特別に編成された部隊が、ISAF空軍の前に突出する。それは、F−14トムキャットのみで編成された部隊である。トムキャットは、射程150キロを誇る長距離ミサイル「フェニックス」の運用が可能な機体である。この部隊を指揮するのは、総飛行隊長の藤岡順二大佐である。この部隊を先鋒として、ISAF空軍は、徐々にエルジア軍との距離を詰めていく。
「敵編隊、フェニックスの射程内まで、あと20秒!」
咲耶の声に、緊張は更に高まる。
「10秒前、カウントダウン開始!…………9…………8…………7…………」
まるで、時さえも止まったかのように、咲耶の声と戦闘機のエンジン音以外何も聞こえない。
「6…………5…………4…………」
誰かがゴクリと、つばを飲む声が聞こえる。
「3…………2…………1…………」
咲耶の目が、カッと見開かれた。
「フェニックス、発射!!」
次の瞬間、先頭を飛ぶ12機のトムキャットから、一斉にフェニックスミサイルが放たれた。
白い尾を引いた槍が、一斉にエルジア空軍に飛んでいく。
先頭を行く機体は、一斉にチャフをばらまき回避行動に入るが、確実に何発かはチャフの壁を突破し、エルジア空軍機を貫いた。
それでも焼け石に水と言う言葉通り、9割以上の機体が真っ直ぐ向かってくるのが見えた。
「全機突撃、アタック・オン!!」
藤岡が、獣のように吼えた。
コモナ諸島航空戦の始まりである。
2
「ナイトメア1、エンゲージ。」
「2、エンゲージ!!」
いち早く編隊を飛び出したのは、千影と春歌のコンビであった。
彼女たちの機体は、これまで使っていたF/A−18Cホーネットから、F/A−18ENスーパーホーネットに変わっていた。
ノースポイント本土において、ようやく量産の第一段階が終了したスーパーホーネットとF−2Nバイパーゼロの2機種は、今回の戦いから本格的に実戦配備され始め、前線兵士達の機種転換が進められていた。今回エルジア軍迎撃の為に展開したISAF空軍220機のうち、120機がスーパーホーネットとバイパーゼロで占められていた。そのうち、スーパーホーネットは40機、バイパーゼロは80機である。これは、元々艦載機のスーパーホーネットは主に海軍が、バイパーゼロは空軍が主に採用する事になったからである。
しかし千影と春歌の2人は、大陸戦線以来ホーネットを愛用してきた実績から、機種転換に際しても、スーパーホーネットを希望した。上層部としても、2人とも名だたるストームナイトである点を考慮し、その意見を尊重し、要望を受け入れたのである。
「…………フッ」
千影は、自分に向かってくるファルクラム2機を認め、薄く笑う。
2機のファルクラムは、千影の背後から挟み込むように距離を詰めてくる。
しかし次の瞬間、千影は一瞬にして彼等の前から掻き消える。
「何!?」
「どこだ!?」
次の瞬間、上空から猛禽のように、千影のスーパーホーネットが急降下してきた。
「ナイトメア1、フォックス2。」
右翼のパイロンに装備されたサイドワインダーが、煙を上げて放たれる。
「うわあ!!」
悲鳴を上げた瞬間には、ファルクラムのパイロットは直撃を受けていた。
「何だと!?」
遼機の無残な最後を見て、もうひとりのパイロットは目を剥く。そして、そのまま背後を見せた千影のスーパーホーネットを追跡に入る。
しかしそれに対して、千影は急激に機首を上げる。
「しまった!?」
その急激な動作についていけず、ファルクラムのパイロットはオーバーシュートした。千影はその隙にループを行って、ファルクラムの背後に回った。
「ナイトメア1、フォックス2。」
ふたたびサイドワインダーを放つ千影。そのサイドワインダーは、狙い違わずファルクラムを粉砕した。
一方その頃春歌も、ファルクラム1機相手に攻防を続けていた。
「ナイトメア2、フォックス3!」
照準レティクルに捉えたファルクラムに対して、春歌は迷う事なくトリガーを絞る。
流星雨のようなバルカンの奔流をくらい、ファルクラムは爆砕した。
しかし1機撃墜した春歌の背後に、別のファルクラムが取り付いた。
「クッ!?」
春歌が振り向くと同時に、ファルクラムはアーチャーを発射する。
しかし春歌はフレアを放出すると同時に、全速力で垂直に降下し、アーチャーをやりすごす。そしてそのまま、高出力エンジンに物を言わせて逆に垂直上昇し、ファルクラムに迫った。
「行きますわ!ナイトメア2、フォックス2!!」
気合と共に放たれたサイドワインダーは、退避に掛かったファルクラムの主翼を粉砕した。
そん春歌の視界の隅に、何かが霞め去った。
その「何か」は、春歌のスーパーホーネットに急速接近すると、衝撃波だけを残して飛び去った。
「今のは!?」
春歌は目を疑った。今、自分の脇を駆け抜けていったのは、流線形の優美な戦闘機、間違いなくスホーイ37スーパーフランカー。しかも驚くべきはそれだけではない。そのスーパーフランカーは、主翼が黄色く塗装されていたのだ。
「黄色中隊……か。」
いつの間にか春歌の横に並んだ千影が、低く呟いた。
「少々、まずい事になりそうですわね。」
「……ああ」
春歌の言葉に頷いてから、千影はマイクのスイッチを入れた。
「ナイトメア1よりISAF各機へ、黄色中隊の存在を確認、注意せよ。繰り返す、黄色中隊の存在を確認。」
千影の報告に、ISAF空軍は騒然となった。
「黄色中隊だと!?そんな馬鹿な!!」
「連中まで出撃してきたのか。こいつは厄介だな。」
「ターキー(未熟練者)は黄色に近付くな。食われるぞ!!」
口々に罵声や指示を飛ばしはじめた。
戦闘開始早々、黄色の13事村岡虎太郎少佐は、1機のF−15イーグルに狙いを定めた。
視界の中でイーグルは必死に逃げようとしているが、虎太郎は食らいついて離れない。
「黄色の13、フォックス2!」
白煙を上げて放たれたアーチャーが、イーグルに向かって伸びていく。イーグルも必死に逃れようとするが、もはや回避不能な段階に来ていた。
アーチャーを食らったイーグルは、そのまま炎に包まれる。
虎太郎はそれ以上イーグルには注意を向けず、次の得物を捜し求める。
そんな虎太郎のスーパーフランカーの背後に、トムキャットが張り付く。
「もらったぞ、黄色の13!!」
意気揚々とスーパーフランカーをロックオンする。
しかしサイドワインダーを放とうとした直前、虎太郎はバレルロールに入った。そのバレルロールは非常にコンパクトで、トムキャットのすぐ頭上を駆け抜けていった。
「黄色の13、フォックス2!!」
背後に回った虎太郎は、すかさずアーチャーを放った。回避運動に入るまもなく、トムキャットは撃墜された。
トムキャットを撃ち落とした虎太郎は、天空の王者よろしく悠然と旋回しながら、次の目標を捜し求めた。
そんな中、宇宙基地の北東空域を防衛するよう指示を受けた葵と衛の前にも、自軍に数倍するエルジア空軍機が出現していた。
「あにぃ……」
葵の傍らを飛行している衛が、目の前の大軍相手に少し震えた声を出している。これでも進歩した方だろう。以前なら涙混じりの声を上げていた所だ。
「…………来たか。」
対照的に葵は、一言呟いただけであった。
今回ISAF空軍は、部隊を大きく3つに分けていた。エルジア軍の攻勢正面になると思われる、コモナ諸島東方空域に、藤岡順二大佐、上杉千影中尉、上杉春歌中尉、を中心とした本隊を配し、南東空域には鎌田信悟少佐、大谷二郎少佐、富永紀人中尉を中心とした第二部隊を、そして、北東空域には河村高士少佐、上杉葵大尉、上杉衛少尉を中心とした第三部隊を配置していた。
「スカイアイより第三部隊各機へ、敵の攻撃隊接近中!!」
咲耶の緊迫した声が、葵達の耳に飛び込む。そんな中、高士の真紅のフランカーが、騎乗の騎士のごとく、速度を上げて編隊の前に出ると、接近してくるエルジア空軍を睨み付けた。そして、
「全機、コンバットオープン!!」
裂帛の気合と共に高士は、戦いの鐘を鳴らす。それと同時に、第三部隊の各機はスロットルを上げてエルジア空軍に挑みかかった。
「衛、行くぞ。」
葵は低い声で告げるとエンジン出力を上げて、エルジア空軍に襲い掛かる。
葵は狼のような鋭い眼差しでヘッドアップディスプレイを睨み、ミサイルシーカーをロックする。
「メビウス1、フォックス1。」
低い声でコールすると同時に葵はミサイル発射ボタンを押し、翼下に装備したスパローを放った。
一旦沈み込んだスパローはすぐにブースターを点火して、目標のファルクラムに向かう。
ファルクラムのパイロットは、ただちに回避行動に入ろうとするが、その前に葵が放ったスパローは目標のファルクラムを直撃し、パイロットを業火の中に叩き込んだ。
それを確認した葵のスーパーホーネットの横に、衛のバイパーゼロが並ぶ。
「メビウス2、フォックス1!!」
続けざまに衛もスパローを放った。更にその脇で、葵が2発目のスパローを放った。
衛のスパローは、進撃してくるファルクラムの機首部分に当たり、押し潰すようにして吹き飛ばした。一方葵スパローは、その横のファルクラムを狙って放たれたが、こちらは直前に放出されたチャフに引き寄せられ、自爆する結果となった。
葵は舌打ちするが、これ以上は距離が近すぎてスパローは使えない。葵はFCSを短距離ミサイルモードにして斬り込んだ。
「メビウス1、エンゲージ。」
低い声で交戦開始をコールする葵のスーパーホーネットに、1機のファルクラムが向かってくる。それに対して葵は、舞い踊るかのように機体を翻して突っ込みをかわし、つんのめった相手に対して、急旋回して背後を取った。
「メビウス1、フォックス2。」
目に見えないほど、微細な、それでいて鋭い気合と共に、葵はサイドワインダーを放った。
目標となったファルクラムは、とっさに急旋回して逃げようとするが、葵のサイドワインダーはその前にファルクラムの排気炎に引かれて直撃した。エンジンを失ったファルクラムは、逆落としに落下していく。その横を、葵は次の得物を求めて駆け抜けた。
そんな葵の頭上から、ダッソー・ミラージュ2000が襲い掛かってきた。
「フッ」
ミラージュからの銃撃を、横滑りを駆使してかわしながら葵は薄く笑うと、スティックを引いて上昇に入る。
葵のスーパーホーネットとミラージュは、空中で交差する。
しかし葵はさらにスティックを引き機首を下に向けると、そのままミラージュを追撃する体勢に入った。一方のミラージュのパイロットは、低高度まで舞い下りて水平飛行に入ると、急いで高度を上げに掛かる。デルタ翼のミラージュは、低高度での機動性が鈍く失速し易い為、ドッグファイトに持ち込まれると不利になる。そこで、機動力を確保できる中高度まで逃げ切る気なのだ。
しかし、そんなミラージュパイロットの努力を嘲笑うかのように、リボンのマークを付けた狼は、正確に目標を見定め、逆落としに急降下を仕掛けた。
視界の中でミラージュの鏃のような機体が大きく膨らむ。葵は微妙に機体を操作して、ミラージュを照準レティクルに捉えた。
「メビウス1、フォックス3。」
葵がトリガーを引くと、機首の脇に備えられた30ミリバルカンが奔流となってミラージュに向かった。一発の威力が高い30ミリバルカンをボディーの中央に食らったミラージュは、そのまま装甲を破られ、エンジンを直撃された。
パイロットが脱出する間もなく、ミラージュは機体の各所から炎を吹き上げ、コモナ諸島の海に落下していった。
その頃衛も、ファルクラム相手にドッグファイトを展開していた。
ファルクラムの鋭い突撃に対して、衛は軽戦闘機の利点を最大限に生かし、闘牛士のようにヒラリヒラリとかわしていく。それに業を煮やしたファルクラムのパイロットは、一旦急上昇を掛けて距離を取ると、高度差を利用して急降下に入った。
位置エネルギーを速度エネルギーに変えた事により、ファルクラムはスペック以上のマッハ2・4と言うスピードを叩き出している。
しかし衛は冷静にその動きを追いギリギリまで引き付けると、スティックを引いて急旋回し、ファルクラムの攻撃をかわした。
「今度はこっちの番だよ!!」
衛は口の端に不敵な笑みを浮かべると、背中を向けて退避に入っているファルクラムを追撃する。それに気付いたのだろう。ファルクラムのパイロットもスロットルを上げて加速に入る。しかし、加速力はバイパーゼロの方が良い。衛はじりじりと距離を詰めていく。
たまらず、ファルクラムのパイロットは左旋回に入って、衛を振り切りに掛かる。しかし次の瞬間、衛の目は光った。
「今だ!!」
気合と共に、衛も旋回に入った。
軽戦闘機のバイパーゼロは、格段に旋回性能が良い。より小さい半径で旋回した衛は、ファルクラムの背後を取った。
「もらったよ、メビウス2、フォックス2!!」
衛が放ったサイドワインダーは、狙い違わずファルクラムの噴射口を吹き飛ばし、撃墜した。
「よし!!」
落ちていくファルクラムを見て、衛はガッツポーズをした。
3
双方合わせて700機以上の戦闘機が入り乱れて戦っている戦いは、徐々に収集がつかない物になりつつあった。
220機で今回の戦いに挑んだISAF空軍に対し、エルジア帝国空軍は2倍以上の530機を投入してきた。
数に勝るエルジア空軍は散開して、四方八方からコモナ諸島突入を図ってくる。それに対応する為にISAF空軍も、ただでさえ少ない部隊をさらに分散せざるを得ず、小隊規模での戦闘を余儀なくされていた。
そんな最中、今回の戦いを代表するような戦闘が、コモナ諸島南東空域で起ころうとしていた。
ミグ29ファルクラムは、エルジアの設計局が総力を上げて開発した機体だけに、その性能は群を抜いていた。空戦性能でこそ、スホーイ27フランカーに一歩譲るが、長らくISAF空軍の主力を担ってきたその他の機体、F−14、F−15、F−16、F/A−18の4機種を、空戦で圧倒する事を目的に作られて事もあり、その性能は、エルジア軍上層部を満足させるには充分だった。大戦初期のエルジア軍圧勝の背景には、ストーンヘンジの存在もさる事ながら、エルジア軍がファルクラムの大量投入に成功した事が大きかった。
乱戦の最中、ファルクラム16機で編成されたエルジア軍の藍色中隊が、いち早くISAFの防衛線を突破して、コモナ諸島に近付きつつあった。
「藍色の1より各機へ、島上空に着き次第、制空権の確保!第二次作戦の準備に入るぞ!!」
「「「「「了解!!」」」」」
隊長の命令を受けて、藍色中隊はスピードを上げて基地上空を目指す。
もはや遮る物はない。自分達が一番乗りを上げる。藍色中隊の誰もがそう思っていた。
しかし、そんな彼等の前に、照り付ける陽光に反射して、8つの機影が立ちはだかろうとしていた。
その機影を見て、藍色中隊の間に緊張が走る。立ちはだかったISAF空軍機はスーパーホーネット4機に、バイパーゼロ4機だった。その数は、丁度藍色中隊の半分に当たった。
それを見て、一度は緊張した藍色中隊のパイロット達も、次第に余裕を取り戻す。
「隊長、どうやら連中で最後みたいですよ。」
「しかもあの数、こちらの半分しかいないぜ。こいつは楽勝だな!」
「ISAFも底が見えたな。」
それを聞いて、藍色中隊のパイロット達は一斉に笑い出す。
それを見て藍色の1は、薄く笑う。
『良い傾向だ。我が隊の士気は高い。いや、我が隊のみならず、エルジア軍全体の士気が高いと言うべきか。この分で行くと今回の作戦、もらったな。』
ここは一つ目の前の敵を蹴散らして、さらに士気の昂揚を狙うべきと判断した藍色の1は、声高に命じた。
「藍色の1より各機へ!前方の敵を倒し、後続の味方に道を作るのだ!!」
「「「「「了解!!」」」」」
命令を受けて、藍色中隊は一斉に散開し、獲物を求めてスピードを上げた。
それに対してISAFも、迎撃するように散開する。
藍色の5は、1機のスーパーホーネットの背後に回った。
「この俺から逃げられると思ってんじゃねえぞ!!」
叫ぶと同時にスロットルを上げて、スーパーホーネットの背後を取る。
「もらったぜ!!」
照準機がスーパーホーネットを捉えた。そして、そのままバルカンのトリガーに指を掛ける。しかし次の瞬間、スーパーホーネットは信じられないような推力を発揮し、あっという間にファルクラムを引き離してしまった。
「何だと!?」
藍色の5は、目を見張った。凄まじいまでの加速力である。
その間にスーパーホーネットはズーム上昇し、ファルクラムに対して上方を占位した。
「クッ!?」
藍色の5は苦し紛れに機首を上に向けて、迎え撃つ体勢を取る。しかし、推力に勝るスーパーホーネットの降下攻撃に照準が着いていけず、認識した時には既に20ミリバルカンの射程内にとらわれていた。
「しまっ……」
藍色の5の意識はそこで途切れた。ヘッドオンからコックピットにバルカンを直撃され、一瞬で絶命したのだ。
主を失ったファルクラムは、原形を保ったまま海面へと落下していった。
一方、バイパーゼロを相手にした部隊は、その軽快なフットワークに完全に翻弄されていた。とにかく、なかなか背後を取る事ができない。ようやく背後を取ってロックオンできたかと思えば、次の瞬間には外されている。その繰り返しだった。
「ふざけるなよ!!」
逆上した藍色の11が、1機のバイパーゼロに接近する。ロックオンゲージが、バイパーゼロを捉えた。
「今だ、食らえ!!」
藍色の11はそう言うと、トリガーに指を掛けた。しかし次の瞬間、目の前のバイパーゼロは幻のように掻き消える。
「何だと!?」
目標を見失った藍色の11は、バイパーゼロを探して旋回に入る。その時、コックピット内にロックオン警報が鳴り響く。
「何だと!?」
うめき声を上げながらバックミラーに目をやると、そこには、たった今振り切られたバイパーゼロがいる。
「クソッ!」
ただちにエンジン出力を上げて、振り切りに掛かる。しかし背後のバイパーゼロは、余裕すら感じさせる動きで追随してくる。もともと旋回性能が上回っている上に、ダッシュ力にも優れているバイパーゼロを相手に、一度食いつかれたら、逃げられる通りはなかった。
そのまま一連射を浴びた藍色の11は、エンジンを爆砕され、炎に包まれた。
藍色の1は、目を疑いたくなった。たった数分前まで精悍を誇っていた指揮下の精鋭中隊が、まったくの一方的にやられていく。16機中、すでに7機が撃ち落とされていた。
「まだ……まだこちらの方が有利だ!」
焦りを感じた藍色の1が、スロットルを上げて降下を始めた。
その藍色の1に挑みかかるように、1機のバイパーゼロが上昇してくる。ノーマルカラーの青いバイパーゼロだが、尾翼には交差した剣の上にドクロと言う、変則的なジョリーロジャーを描いている。
「来るか!!」
藍色の1は、その脇を超音速で駆け抜けた。
バイパーゼロのパイロットは、一瞬たじろいたように、機体をふらつかせる。
「もらった!!」
急旋回して戻ってきた藍色の1は、相手が体勢を整えないうちに照準をロックする。
しかし、それまでふらふらと飛んでいたバイパーゼロのパイロットは次の瞬間、機種を微妙に上げたかと思うと、ハイGバレルロールに入った。
「しまった!!」
一瞬にしてオーバーシュートする藍色の1。その間に、バイパーゼロは藍色の1の背後を取った。
「クッ!?」
藍色の1はとっさに機首を下に向けてそのままロールを行いながら反転する、スライスターンと言う技を使って退避に入る。これまでの戦闘を見ていて、この青いF−16は、相当旋回性能とダッシュ力に優れている。一度背後に回れれたらもはや勝ち目はないだろう。ここは速度を稼いで、逃げの一手である。距離を取れば、体勢を立て直す事もできるはずである。普通のパイロットであったならば、それでも良かっただろう。しかしあいにくと、この相手は普通のパイロットではなかった。
バイパーゼロは、藍色の1のスライスターンに余裕を持ってついてきた。そして藍色の1が水平飛行に入った所を見計らい、背後からバルカンを浴びせ、撃墜した。
「ふう……」
藍色の1を倒した鎌田信悟少佐は、大きく息をついた。第二部隊の指揮を執っていた信悟は、咲耶から防衛線を破った部隊がいる事を告げられ、指揮下の中隊を率いて、先回りしていたのだ。
信悟の視界の中で、隊長を失った藍色中隊が次々と駆逐されていく様が映っていた。
「シオンよりスカイアイ。目標の殲滅を確認!」
「スカイアイ了解。戦線に戻ってください!」
「了解!」
咲耶からの指示を受けると、信悟はふたたび機首を前線に向けた。
戦いは、ますます乱戦の様を呈してきた。
当初、数において勝るエルジア空軍は四方八方から突撃し、ISAFを撹乱しようとしたが、ISAFが本格投入した2種類の新型戦闘機、スーパーホーネットと、バイパーゼロの前に、次第に押し戻されつつあった。それでも2倍以上の戦力を誇っている事もあり、エルジア軍もどうにか戦線を支えている。
灰色の1こと、小野庸介少佐もこの戦いに参加していた。
庸介はエイギル艦隊が壊滅したコンベース港防衛戦において、指揮下の灰色中隊が半減する損害を受け、自機も千影の攻撃で損傷する大損害を受けた。その後、味方の勢力圏に後退して部隊の再編成を行い、今回の作戦への参加命令を受けたのだが、待っていたのはISAFの新型戦闘機だった。
「くそっ、なんてこった!」
庸介は悪態を吐きながら、眼下の光景を見やる。今だエルジア軍の方が有利ではあるが、ISAFの新型機により、味方が翻弄されている様が手に取るように分かった。
「灰色の1より各機へ!青いF−16には決して格闘戦を挑むな!!持ち込まれそうになったら、全速力で逃げろ!逆に、大型のF/A−18には、格闘戦で勝機を掴め!!」
完璧とは行かないが、とっさの判断としては上出来の部類だろう。一連の指示を飛ばしてから、庸介は自身も戦いの渦中に飛び込んでいった。
4
葵は機体を旋回させて、たった今葬った敵を見据えていた。
「…………6機目か。」
今日1日で落とした敵機の数である。仮に、昨日までの撃墜記録を抹消されたとしても、今日の戦績だけで、葵はエースの認定を受ける事ができる。
葵は素早くFCSに目を走らせて、武装の残りを確認する。
「ミサイルは残弾ゼロ、バルカンは60発か。」
敵の数が多すぎる為、武装の消耗も早いのだ。
そこへ、衛のバイパーゼロが追走してきた。
「あにぃ!!」
衛の機体を確認して、葵は取りあえずホッと息をついた。
「無事だったか、衛。」
「うん、大丈夫だよ。」
衛は元気に答えてから、尋ねた。
「あにぃは何機落とした?」
「6機だ、お前は?」
「やっぱあにぃはすごいね、ボクはまだ4機だよ。」
それを聞いて葵は、少しだけ微笑む。
「いや、それだけ倒したなら、お前も大した物だ。」
兄に誉められたのが嬉しかったのだろう。衛は、ほんのり頬を赤くした。
そんな2人の耳に、前線の状況が秒単位で入ってくる。
「さて、そろそろ前線に戻るぞ、いくら高士でも、あまり長時間は持たないだろうからな。」
「そうだね。」
そう言って、二人が機体を反転させた時だった。
上空から、高速で降下してくる物体を、咲耶が捉えた。
「お兄様、衛、上よ!!」
「!?」
「え!?」
咲耶の警告に、考えるよりも先に2人はスティックを倒して、回避行動に入る。約一秒の間を置いて、2人がいた空間をバルカンの嵐が駆け抜けた。
「何だいったい?」
葵は機体を旋回させて、相手の正体を確認する。その視界の先には、漆黒のデルタ翼を持った機体があった。
「あれは…………」
「R−M01!」
たった今2人を攻撃したR−M01ラファールが、こちらに向かってくる様が見えた。
「でも、あれって、確か海軍機のはずじゃあ……」
コンベース港で初見参したラファールとは、2人は交戦経験があった。しかし、衛の言う通り、ラファールは海軍機であり、空軍主導の今作戦に参加しているはずがない。エルジア軍には、ISAFのような海空軍機種統合計画のような物はないはずである。
「クックックッ、見つけたぞ、リボン付き!!」
ラファールのコックピットで、エルジア空軍大佐、大垣高広は低い声で笑った。
彼の父はエルジア軍統合作戦本部長をしており、その父親に頼めばたいていの無理は聞く身分だった。そのつてを使って、彼は新鋭機のラファールを手に入れたのだ。
「先の戦いでは、不慣れな機体を使って不覚を取ったが、今回はそうは行かんぞ!」
前回の作戦では、低空を低速で飛行する必要があった為、デルタ翼のラファールでは失速の危険性があったのだ。そこで大垣は、急遽ファルクラムで出撃したのである。
「さあ、行くぞリボン付き!この青き空を、貴様の血で赤く染めてくれる!!」
芝居がかった叫びと共に、大垣は葵のスーパーホーネットに突進を始めた。
「チイ!!」
葵は緩やかに旋回しつつ、大垣に突撃するタイミングを計っていたが、その前に大垣が突っ込んできた事により、虚を衝かれる結果となった。それを見越したように、大垣は舌なめずりするとミサイル発射ボタンに指を掛ける。
「銀色の1、フォックス2!!」
放たれたアーチャーが、スーパーホーネットの熱源に引かれて突進する。
「クッ!?」
葵はとっさにフレアを射出すると、続けて待避行動に入った。間一髪の所で、アーチャーはフレアに引かれて自爆する。
しかし間髪入れずに、大垣は二発目を放ってきた。
「!?」
葵はとっさに、アフターバーナーを吹かして退避に入る。しかしアーチャーは、葵にくらいついて離れない。
「ハーハッハッハッハ!!死ね、リボン付き!!」
アーチャーに追いまわされる葵を見て、大垣は高笑いする。
しかし葵は、冷静にアーチャーの機動を読み取っていた。
「今だ!!」
葵は急接近してきたアーチャーをギリギリまで引き付け、翼を翻して交わした。
それを見て、大垣は逆上する。
「おのれ、往生際の悪い真似を!!」
スロットルを全開にして、葵に突撃する。
「…………来るか。」
葵は大垣のラファールを鋭く睨みつけた。
そこへ、衛から通信が入る。
「あにぃ、ボクも手伝うよ!!」
「いや、味方が入り乱れればかえって戦いにくい。」
衛の申し出を、葵は断った。接近してのドッグファイトの場合、敵味方が入り乱れるわけだから、下手をすると同士討ちの危険性も出てくる。その為、余程編隊戦闘に慣れていない限り、数が少ないほうが有利なのである。
「お前は監視位置について、他の連中を近づけないでくれ。」
「うっ、うん。分かった。」
衛はそう言うと、視界の先に小さくなる兄の戦闘機を見送る。
「がんばって、あにぃ……」
葵は無造作とも言えるスティック操作で旋回すると、機首を大垣に向けた。それに合わせるように、大垣も突撃する。
2機の戦闘機は超音速ですれ違う。
「クッ!」
「ぐお!!」
長音速時の衝撃波が2人を襲う。
それに構わず葵はすかさず反転し、大垣の背後に回りこもうとする。
それに対して大垣は緩やかに機首を下に向けて速度を稼ぐと、葵のスーパーホーネットを狙う。
2人は再び交錯するような機動を取る。しかし速度差のため、大垣のほうが一瞬早くロックオンする。
「銀色の1、フォックス3!!」
しかし葵はラファールのバルカンが命中する前に、蹴飛ばすようにエンジン出力を上げ、辛うじて大垣の攻撃をかわしきる。そして降下しつつ速度を稼ぐと、振り切りに掛かった。
「逃がさんぞ!!」
間髪いれずに大垣は葵のスーパーホーネットを追撃し、バルカンを放ってくる。それに対して葵は稼いだ速度のまま、スティックを倒して旋回に入る。その加速力の前に大垣はついてこれずに、徐々に引き離されていく。
葵はそのまま水平旋回し、大垣の背後を取ろうとする。
「させるか!!」
叫ぶと共に大垣も旋回に入り、葵に背後を取らせない。しかし葵はさらにスティックを手前に引くと、高Gの旋回を行い、無理やり大垣の背後を取った。
「メビウス1、フォックス3。」
葵はコールすると同時に、30ミリバルカンを放った。強烈な威力を秘めた弾丸が、ラファールに襲い掛かる。しかしその弾丸が届く前に大垣も加速し、葵の攻撃を避ける。先程の葵と同じ戦法を使ったのである。
「馬鹿め、貴様にできた事が、天才であるこの私にできないはずあるまい!!」
そう言うと大垣は旋回して、葵の背後に回りこむ。再び、地獄の鬼ごっこが再開される。大垣は、まるでばら撒くようにバルカンを放つ。弾幕を張って、葵を追い込むつもりのようだ。
「あにぃ!!」
それを見ていた衛が、悲鳴にも似た声を上げる。
「あにぃ、下!下に逃げて!!」
低空に誘い込めば、デルタ翼のラファールの追撃は鈍るはずである。その事を見越しての衛の判断だった。その言葉に従い、葵は海面すれすれの低空へと舞い降りる。それを見て、大垣も葵を追撃する。
「……来い!」
葵はバックミラーを見やりながら、大垣の様子を確認する。しかし、大垣は葵を追っては来ない。上空後方の有利な位置から追撃に入っている。
「ハ〜ハッハッハッハ!!低空に誘い込もうと言う貴様の姑息な考えが、私に見抜けないとでも思ったか!?」
そのまま照準レティクルに、葵のスーパーホーネットを捉える。
「あにぃ!!」
衛が悲鳴を上げて助けに入ろうとする。しかし、どう考えても間に合いそうもない。」
『だめ、あにぃ!!』
衛の表情が絶望に染まる。
しかし葵は、冷静な目で後方のラファールを見据える。
「よし!」
葵は唇を軽く湿らせるとスティックを倒し、左急旋回に入った。
その行動に、大垣は目をむいた。
「何だと、この低空で水平旋回をするなど……失速するぞ!!」
低空で水平旋回し、もし失速すればそのまま海面に突っ込む事になる。まさに自殺行為といえた。
「そんな野蛮な戦法に付き合いきれるか!」
投げ出すように叫ぶと、大垣は機首を翻して離脱に掛かった。それを見て、葵はニヤリと凄みのある笑みを浮かべる。まさにそれは、獲物を捕らえた狼の表情だ。
「今だ!!」
葵はスピードを上げて上昇すると、離脱しようとする大垣の背後を取った。そして、照準レティクルの中央に、ラファールを収める。
「喰らえ!」
「いっけえ!あにぃ!!」
衛の声援を受けて、葵はラファールをロックオンした。
「フォックス3!!」
葵は気合と共に、バルカンのトリガーを引いた。奔流のように、バルカンがラファールに向かう。
「ひっ、ひ〜〜〜〜〜!!」
しかしその攻撃は、一瞬早く機体を翻した大垣によって回避され、ラファールの主翼の先端を若干削り取っただけにとどまった。
「クソ!!」
悪態をつく大垣の目に、こちらに向かってくるスーパーホーネットとバイパーゼロが見えた。
「チッ、2対1とは卑怯な……仕方ない。今日のところは退いてやる!!」
大垣は捨て台詞を吐くと、そのままアフターバーナーを吹かして離脱して行った。それを確認した衛は、急いで葵に接近する。
「あにぃ、大丈夫?」
「……何とかな。」
葵はヘルメットのバイザーを上げて一息つく。
「たいした執念だったよ、あのR−M01は……」
「なんかもう、2度と会いたくないって感じだね。」
「まったくだ。」
衛の言葉に相槌を打ち、葵は咲耶を呼び出した。
「スカイアイ、こちらメビウス1、状況はどうなってる?」
しばらくして、咲耶から返信があった。
「こちらスカイアイ、お兄様、無事だったのね!?」
「まあな。」
勢い込んだ咲耶の口調に、思わず葵は口元をほころばせた。それほど、心配していたのだろう。
「俺も衛も無事だ。心配するな。それより、状況はどうなっている?」
「ちょっと待ってね。」
咲耶は素早く、手元の情報に目を走らせた。
「少しずつではあるけど、戦況は味方が有利になってきているわ。けど、島の東側に黄色中隊がいて苦戦しているみたい。さっき、藤岡隊長が向かったけど、念のためお兄様たちもそっちに向かって。」
「メビウス1、了解。」
咲耶との通信を切ると、葵は併走する衛のバイパーゼロに目を向けた。
「聞いたとおりだ衛。俺たちは東空域に向かうぞ。」
「うん、分かったよ、あにぃ!」
そう言うと2人は、機首を大きく巡らした。
5
咲耶が言った通り、戦況は僅かずつではあるがISAF側に傾きつつあった。
依然、数はエルジア軍が大きく勝ってはいるが、スーパーホーネットとバイパーゼロの性能差が物を言い始めていた。加えてここはISAFの勢力圏内である。仮に撃墜されたとしても、脱出できれば、味方に救助される可能性が高い。それに、弾薬や燃料が尽きても、すぐに降りて補給を受け、また戦場に引き返すという戦い方も可能だった。
しかしそんな中、黄色中隊だけは鬼神の如き奮闘を続けていた。今日1日で黄色中隊が撃墜したISAF機は、約30機。それだけで、エルジア軍全体の80パーセントの戦果に当たる。
バイパーゼロを1機撃墜した所で、虎太郎はミサイルを全て使い切った。
「ふう……」
溜め息を一つつくと、FCSをガンモードに切り替える。
そんな虎太郎の機体の横に、黄色の4事立花操中尉のスーパーフランカーが並んだ。彼女は常に虎太郎の護衛につき、黄色の13に群がる敵を例外無く叩き落としていた。
「隊長、この辺の敵はあらかた撤退したようです。」
「そうか。」
虎太郎は頷いてから、思い出したように尋ねた。
「そう言えばさっき、俺達に向かってきた部隊はどうした?」
先程戦闘中に、トムキャットのみで固めた部隊が、横合いから奇襲を掛けてきた。その為、一時的に黄色中隊の陣形が乱れてしまったのだ。
「現在、斎藤大尉達が交戦中です。」
「そうか。」
虎太郎は頷いてから、戦場の方に目を向ける。それから意を決したように口を開いた。
「立花。」
「はい?」
「例の物は、あとどれくらいで到着する?」
虎太郎に尋ねられて、操は素早く時間を計算する。」
「およそ、10分ほどと思われます。」
「よし、それまで持たせるぞ。」
「了解!!」
そう言って、二人が機首を前線に向けた時だった。
低空から、1機のトムキャットが高速で向かってくるのが見えた。更にそれを追って、機首に「006」と書いたスーパーフランカーも向かってくる。
「申し訳ありません隊長。」
黄色の6、藤原一矢中尉は、淡々とした口調で報告してくる。
「1機討ち漏らしました。」
それを聞いて、虎太郎は口の端を釣り上げた。
「面白い、そいつは俺が相手をする。」
「隊長。」
操が何か言いかけたが、すぐに高度を上げて監視位置につく。「手出しはしない」という意思表示である。それを確認してから、虎太郎はスロットルを全開にしてトムキャットに向かった。
一方、トムキャットのコックピットで、藤岡は唇をかんでいた。一緒に黄色中隊に挑んだ味方は6機、しかし、残ったのは彼1人であった。
「相変わらず、手強い連中だ。」
藤岡自身、大陸で黄色中隊との交戦経験があった。もちろん、その全てが惨敗である。その為、今度こそはと言う思いがある。そんな藤岡の目に、降下してくるスーパーフランカーが映った。その機首には「013」の文字がある。
「来たか、黄色の13!!」
ここは何としても奴を討ちとって、死んで行った部下達の供養にしたかった。
「来い、ISAF最強のストームナイトが相手だ!!」
藤岡はスロットルを上げて、上昇に入る。それに対して、虎太郎は降下しつつ照準を合わせる。
「黄色の13、フォックス3!」
しかし藤岡は可変翼を開いて旋回し、虎太郎の銃撃を躱し切る。そして、背後に回り込もうとする。
「…………」
それに対して虎太郎も急旋回しつつ、藤岡の背後に回り込もうとする。
しかし低空での機動性は、トムキャットの方が有利である。藤岡はその事を見越して、低空戦に引き込んだのだ。藤岡は主翼を目一杯開いた状態で、ジリジリとスーパーフランカーの背後に回り込んでいく。やがて、照準レティクルがスーパーフランカーを捉えた。
「ストーンウォール、フォックス3!!」
必殺の気合いを込めて、藤岡はバルカンを放った。しかしその一瞬前に、虎太郎は反対方向に急旋回して藤岡の攻撃をかわした。
「…………フッ」
なおも自分に向かってくるトムキャットを見て、虎太郎は笑みを浮かべた。
「これは……久しぶりに楽しめそうだな。」
葵と衛が現場に到着したのは、藤岡VS虎太郎の戦いが始まってからおよそ5分後の事だった。
「…………すごい。」
その戦いぶりを目にした衛が、思わずため息交じりに呟いた。それほどまでに、2人の戦いは洗練されたものと言えた。いや、それは既に戦闘とは言えないかも知れない。まるで、2人の舞踏家が舞い踊っているかのような光景だった。
2人が見ている前で、藤岡が再び虎太郎の背後に回りこんだ。
「やった!」
喝采を上げる衛。
しかし虎太郎はすぐにブレイクして、藤岡の攻撃をかわしきる。
見た限りでは、藤岡のほうが優勢と言えた。トムキャットとスーパーフランカーでは性能に相当な開きがあるのだが、その事を感じさせない戦いぶりだった。
しかし、葵と衛はいつまでも藤岡と虎太郎の戦いに目を向けてもいられない。2人の存在に気付いた黄色の4と黄色の6がこちらに向かってきているのだ。
「やるぞ、衛。」
そういう葵の額にも、冷や汗がにじむ。かつて、コンビナート上空で黄色の13と戦ったときは、まったく歯が立たなかったのだ。はたして、今の自分に勝てるのだろうか?
しかし迷う事は許されない。葵と衛は、スロットルを全開にして突っ込んだ。
衛は操の突っ込みをヒラリとかわし、そのまま旋回して背後に回り込んだ。
「今だ!!」
衛の目の前には、無防備に背中をさらすスーパーフランカーがいる。
「メビウス2、フォックス3!!」
しかし、衛がバルカンを放つことを見越して、操は機体を横滑りさせてかわす。
「クッ!!」
衛も機体を横滑りさせて、もう一度ロックオンする。しかし今度は、一瞬ロールしたかと思うと、衛の視界から消えうせた。
「え?どこ!?」
衛は周りを見回して、操の姿を探す。直後、操のスーパーフランカーは衛のバイパーゼロの背後に現れて、襲い掛かってくる。
「!?」
衛はとっさに急旋回して、射線から逃れる。軽戦闘機のバイパーゼロの方が、機動性に優れている事を見越しての行動だった。しかし操は、大型機のスーパーフランカーをまるで蝶のように舞わせ、衛を追撃してくる。
「クッ!!」
衛は機体をロールさせ、そのまま降下機動を取り、スプリットSで振り切りに掛かる。しかし、それでも操は余裕でついてきて、バルカンを放ってくる。
「これなら!!」
衛は右に軽くロールすると、スティックを思いっきり引いて高Gの右急旋回に入る。Gメーターは一気に5Gを差す。15歳の衛に、耐え難いほどのGが掛かっていく。
「クッ……うゥ……」
食いしばった歯の間から、衛のうめき声がもれる。しかしその甲斐あってか、衛は操を振り切る事に成功した。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
ようやく一息ついた衛は、肩で息をする。しかしのんびりしている暇はない。すぐに体勢を整えた操が、衛を追撃してくるのが見える。
「…………」
衛は軽く唇をかむ。悔しいが、今の自分では黄色の4には敵わない。しかも、いつも助けに来てくれる兄も、今は自分の敵に精一杯で、衛を助けに入る余裕はない。
「……ボクが……やるしかないんだ。」
衛の双眸が、兄のそれに良く似た、獲物を狙う狼のようにつりあがる。
「行くよ!!」
気合と共に、衛は操に挑みかかった。
一方、葵の方も深刻な問題に悩まされていた。
「残弾……13発か。1秒も持たないな。」
葵は焦燥に満ちた声で呟いた。大垣との一騎打ちやそれに先立つ空戦で、もともと装弾数の少ない30ミリバルカンの弾丸は底を突こうとしていた。通常なら基地に戻って補給を受ければ良い所だが、相手が名だたる黄色中隊の一員とあっては、背中を向けた瞬間やられる可能性もある為、うかつに撤退もできない。
「こうなったら……」
格闘戦で押さえつけて、一撃で仕留めるしかない。
意を決した葵は、一矢のスーパーフランカーに挑みかかった。
上方からロールしつつ接近して、軸線を合わせると、ゆっくり機首を起こして照準を付ける。しかしロックオン警報に気付いた一矢は、葵の攻撃を食らう前にダッシュで振りきる。
「クッ!?」
葵はそのまま一矢の背後に回り、もう一度ロックオンする。しかし次の瞬間、一矢のスーパーフランカーは機首を引き上げたかと思うと、急激に高度を落とした。
「クッ!?」
一矢は、機首を引き上げてエンジン出力を落とし、機体の高度を強制的に落として葵をオーバーシュートさせたのだ。
一矢の攻撃をロールする事でかわしきった葵だったが、体勢を立て直した一矢は、既に葵の背後に回り込んでいる。
「黄色の6、フォックス3。」
抑揚の低い声でコールするカズヤ。
「ッ!」
葵は機体を横滑りさせて攻撃をかわす。
一矢も間髪入れずに機体を横滑りさせ、照準を付け直す。
ふたたびバルカンの閃光が、葵のスーパーホーネットを襲う。しかし葵は、一瞬早くハイGバレルロールに入り、一矢の射線を外す。そして、捻り込みながら照準を合わせる。
「……」
しかし、トリガーは引かない。照準が甘い為、無駄弾になる可能性が高いからだ。
その代わり、体勢を立て直してふたたび一矢の背後についた。今度こそ、照準レティクルの中央にスーパーフランカーを捉える。
「今だ!!」
しかし、葵がトリガーを引こうとした瞬間、一矢はコブラ機動に入り、葵をオーバーシュートさせた。
「チィ!?」
葵はやむなくスピードを上げて、一矢から距離を取ろうとする。しかし一矢も、すぐに体勢を戻して葵を追撃してくる。
「だめか……」
またも背後に回ったスーパーフランカーを見ながら、葵は唇を噛む。
もはや打つ手はないのか?やはり自分は黄色中隊には勝てないのか?
『いや……』
脳裏に浮かんだ考えを、葵は否定する。
「信悟……」
目の前にいない親友に向かって、低く呼びかけた。
「お前の技、借りるぞ!」
そう言うと、機首を大きく持ち上げた。その先には、葵に勝機をもたらしてくれる存在がいた。
一矢は、この戦いに既に勝ちを確信していた。
目の前の敵は何らかのトラブルに見舞われたらしい。そして、それが武装関係である事は、先程から1発も撃ってこない事からも、明白であった。FCSが故障したか、残弾が切れたか。いずれにしても一矢に有利な要素である事に変わりはない。
しかし同時に、そんな状態でここまで戦い抜いた相手に、敬意にも似た感情を抱いていた。
「…………こいつも、ストームナイトか。」
ISAF空軍の、最功労者に送られる勲章の事は一矢も知っていた。一矢自身、何度もストームナイトと対戦し、その全てに勝利してきた。
「こいつも、その列に加わるだけの話だ。」
そう呟く一矢の目の前で、リボンのエンブレムを付けたスーパーホーネットはズーム上昇を始めた。
「無駄なあがきを……」
そう言うと、自身も上昇を始める。上昇すれば速度が失われる。しかも、先に上昇した方が減速も早く訪れる。
「これで終わりだ。」
そう言うと、トリガーに指を掛けた。
しかし次の瞬間、一矢の視界は明るい闇に満たされた。
「なっ!?」
それは、太陽だった。葵のスーパーホーネットは南国特有の強い日差しを放つ太陽の中に隠れてしまった。
「クッ……しまった!?」
思わず、軸線をずらしてしまう。その瞬間、葵の目が光った。
「よし。」
葵はゆっくりとエンジン出力を絞り減速していく。そして地球の重力と釣り合って一瞬停止すると、次の瞬間、重力に引かれて反転した。そして離脱に掛かっている一矢のスーパーフランカーの背後に回る。
「もらった!!」
今度は、迷う事なくトリガーを引く。一瞬放たれた30ミリバルカンは、スーパーフランカーの右側の垂直尾翼を吹き飛ばして沈黙した。
「…………弾切れか。」
葵はうめくように呟くと、一矢のスーパーフランカーに目を向けた。スーパーフランカーはふらふらと飛んでいる。墜落はしないだろうが、この戦いでこれ以上の脅威になり得ない事は確かだ。
「…………勝った。」
開戦以来、常に無敵を誇ってきた黄色中隊に、葵はついに勝ったのだ。しかし、感慨に耽っている暇はない。黄色の4を相手にしている衛は、今も苦戦しているはずだ。
「待ってろ、衛。」
しかしそう言って反転した時、当の衛のバイパーゼロがこちらに向かってくるのが見えた。
「あにぃ!!」
衛は元気に葵を呼ぶ。
「無事だったか衛。」
葵は思わず、安堵の溜め息をついた。
「うん。あにぃも大丈夫?」
「ああ。だが、弾切れになってしまった。」
「そう、じゃあ、一回戻ろう。ボクも少し疲れちゃったよ。」
「そうだな。」
葵がそう言った時、操のスーパーフランカーが一矢の機体に並走するように飛んでいるのが見えた。
「大丈夫ですか、藤原中尉?」
尾翼を破壊された一矢のスーパーフランカーを、操は心配そうに眺める。
「墜落の心配はない。しかし、これ以上の戦闘は無理だ。」
「分かりました、では、交戦区域外まで護衛します。」
「頼む。」
敵味方、双方ともこれ以上の交戦は不可能となり、撤退を始めた頃、藤岡と虎太郎の戦いも終焉を迎えつつあった。
攻守を入れ替えながら戦う2機の戦闘機は現在、藤岡のトムキャットが虎太郎のスーパーフランカーを追撃していた。
「今度こそ、もらったぞ!!」
すでに両者とも、手詰まりになりつつあり、もはや気力と体力だけで戦っていると言えた。
藤岡は増速して、スーパーフランカーを射点に収めようとする。対して虎太郎は、巧みに軸線をずらして飛び、藤岡に照準を付けさせない。
「まさかこれほどとはな。」
虎太郎は舌を巻いていた。自分をここまで苦戦させた相手は、初めてである。
『聞いた事がある。ISAFには「石の壁」と言う異名を持つ、F−14乗りがいると言う事を。』
虎太郎は、背後のトムキャットが、そうに違いないと思った。
その時、バックミラーに、射点についたトムキャットが映った。
「仕方がない。」
虎太郎は、伝家の宝刀を抜き放つ決意をした。
その間にも、藤岡は虎太郎との間を詰め、ついに照準レティクルに捉えた。
「もらったぞ、黄色の13!!」
これまで、何人ものISAFパイロットを地獄に叩き落としてきた黄色の13、それも、もう終わる、今、自分がトリガーを引けば終わるのだ。
「死ね!!」
しかし次の瞬間、虎太郎は機首を引き上げてループに入った。いや、ループではない。それよりももっとコンパクトな円を描いている。
「クルビット」と呼ばれる技である。これは、スホーイ37にしかできない技で、高度をまったく変えずに宙返りを行うのだ。フランカーの機動性と、主翼の前に付けられたカナード、そしてノズル自体が自在に稼動するベクタードスラスターがあって、初めて可能になる技である。
目標を見失った藤岡は、むなしくオーバーシュートする。その間に、虎太郎は藤岡のトムキャットの背後についた。
「黄色の13、フォックス3!!」
虎太郎が30ミリバルカンを放つ。その閃光は、狙い違わず藤岡のトムキャットを直撃する。
高速で繰り出されているはずの弾丸は、まるでスローモーションのようにトムキャットに命中して行く。
「隊長!!」
それを見ていた衛が、思わず声を上げた。
「……」
葵も、声も出せずに、呆然としている。
やがて2人が見ている前で、藤岡のトムキャットは爆発、四散した。脱出できたとは思えない。そのまま炎に包まれたトムキャットは、コモナ諸島の海面へと落下していった。
それを見届けた虎太郎は、急いで一矢の下へ駆けつけた。
「無事か、一矢!?」
開口一番に、そう尋ねる。
それを聞いて一矢は、口の端に笑みを浮かべる。虎太郎は自分の勝利の嬉しさを置いて、一矢の身を心配してくれたのだ。
「大丈夫です、隊長。」
「そうか、良かった。」
虎太郎は、溜め息をついてから尋ねた。
「しかし、お前に手傷を負わせるとは、一体相手は誰だ?」
「リボンのマークを付けたF/A−18です。」
「あいつか……」
かつて、コンビナート上空で戦った2機の戦闘機を思い出した。
「どうやら、リボン付きはISAFに2機いるようだな。」
『一矢に手傷を負わせたのは、恐らくあの時フランカーに乗っていた方だろう。』
新たな強敵の出現に、虎太郎は胸を躍らせずにはいられなかった。しかし目下は、一矢を味方の勢力圏に連れて変える事が先決である。
「戻るぞ、立花、一矢。」
「「了解。」」
そう言うと3人は、翼を翻した。
そしてその時既に、エルジア軍の第二次攻撃が始まろうとしていた。
6
戦いの趨勢は、ほぼISAFに傾いていた。
新型戦闘機の性能で、完全にエルジア空軍リードしたISAF空軍は、ついに2倍以上の敵を押し返したのだ。現在、なおも交戦しているエルジア機は、殿を任された部隊のみだった。しかし、予想外に長い戦闘はISAF機の燃料、弾薬を消耗させ、多くの機体が補給の為に基地に降りていた。
まさに、その間隙を衝かれた。
「スカイアイより各機へ!B−2接近、繰り返す、B−2接近!!」
咲耶の声が、戦場に残っていた全パイロットに伝わった。
「そんな、たしかB−2って、ISAFの機体じゃ……」
葵と衛は、その情報を帰還途中で受信した。
「聞いた事がある。ロスカナスが陥落した時、いくつかの機体の設計図がエルジア軍に押収されたと言う話だ。技研はデマだと主張したがな。」
「じゃあ、そのB−2も押収された設計図から作られたって言うの?」
「恐らくな。」
そう言ってから、葵は絶望感に包まれた。現在飛んでいる機体は100機に満たない。その他は補給に降りたか、撃墜されてしまっている。しかも残った機体も、戦闘力を保持している機体は少なかった。
「これまでか……」
葵は絞り出すように言った。自分達は確かに善戦した。2倍以上の敵を相手に、空戦で勝利した。しかし、善戦と勝利は違う。もはや、接近してくるB−2を止める手段が皆無に等しい以上、この戦いは負けだった。
それは、この場にいる全員が抱いた感情だった。
絶望感が、ISAF空軍を支配した。
「まだだよ。」
凛とした声が、葵達の耳を打った。
「衛……」
葵は、声の主を見た。
「あにぃ、まだ、ボクは戦えるよ。」
戦場の女神の如く、衛は毅然と言い放つ。その様は、萎えかけていた心に、勇気の灯を点してくれた。
「…………そうだな。」
葵も眦を上げた。まだ、絶望するには早すぎる。
葵は決断した。
「衛、俺はお前のバックアップに徹する、お前がB−2を落とせ!」
「わかったよ、あにぃ!!」
そう言うと、2人はレーダーに目を走らせる。B−2はステルスであるから、そう簡単にはレーダーに映らない。
「どこだ……どこにいる?」
焦りにも似た感情が、葵を支配する。しかし、焦れば焦るほど、B−2が手からすり抜けていくような気がした。
『……早く出てこい!』
心の中で叫びを上げる葵。
その時だった。
『大丈夫。』
「何?」
突然、誰かの声が聞こえてきた。
「空耳……か?」
葵は気にせず、レーダーに目を落とした。
しかし、
『大丈夫だよ、兄くん。』
「千影か!?」
葵は思わず顔を上げた。
『私が、兄くんの目になる。』
すると次の瞬間、レーダーの東の端で像が結んだ。
「こいつがB−2か!!」
そう言うと、葵は機首を巡らした。
「あにぃ?」
「衛、ついてこい!!」
突然の事態に、衛も慌てて葵に続く。
「ありがとう、千影。」
そう呟くと、葵はアフターバーナーを吹かした。
「フッ、お安い御用だよ……兄くん。」
千影は今、補給の為にコモナ基地に着陸していた。
「兄くんと衛君は……B−2を撃墜に向かったか……」
呟いてから、千影はもう一度笑みを浮かべる。
『この戦い……勝ったな。』
そんな千影の下に、整備兵が駆け寄ってきた。
「上杉中尉、補給、完了しました!」
「……ご苦労様。」
そう言って、千影は愛機へ向かう。
『しかし……私が行く頃には……戦いは、終わっているだろうな。』
そう心の中で呟いて、再び笑みを浮かべた。
千影の言う通りだった。捕捉された時点で、B−2の運命は決まっていた。
「メビウス2、フォックス3!!」
衛は、防御の弱いコックピット部分を狙ってバルカンを浴びせる。
パイロットを失ったB−2は、炎を上げて落ちていく。
「次!!」
それを確認する間もなく、衛は次の目標へ向かう。
B−2も何とか逃れようとするが、重爆撃機と戦闘機では飛ぶ鳥と這う亀ほどの差がある。
「フォックス3!」
衛は2機目も、コックピットに集中射撃を加えて叩き落とす
その頃になると、他のISAF機も追いついてきて、B−2を落とし始めた。
その時だった、突然轟音が起こり、コモナ基地から白煙が上がる。
「衛、見ろ。」
葵は、白煙を上げて上っていく、ロケットを差した。
その光景を、敵味方双方のパイロットが眺めている。
「やったね、あにぃ。」
「ああ。」
そう言うと2人は、互いに笑みを見せた。
コモナ諸島航空戦において、両軍の損害は以下の通りである。
エルジア帝国空軍、参加航空機530機中146機喪失、ISAF空軍、220機中49機喪失。また、偵察衛星の打ち上げにも成功したことから、戦略的にも、戦術的にもISAFの大勝利だった。
しかしこの戦いでISAFは、最強のストームナイトである藤岡順二大佐が戦死、総隊長を失う結果となった。これで、熾烈な大陸戦線を戦い抜いたストームナイトは、1人残らず死に絶えた事になる。
しかしついにISAFは、大陸反抗の準備が整ったのであった。
第十一話「南海のハルピュリア」 おわり
あとがき
どうもこんにちは、ファルクラムです。
……………………疲れた。
見せ場が多いと、ここまで疲れる物ですね。しかも一回馬鹿な事やって、ファイル消失しちゃうし。しかしまあ、せっかく読んでくださっている読者さんの為にも、気合いを入れて執筆を続けていこうと、心を新たにした、今日このごろでした。それでは、また。
ファルクラム
ファルクラムさんへの感想はこちら
nymausht@cna.ne.jp
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