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リボンつきの翼
第十話「猛襲!!ストーンヘンジ!!」

作者 ファルクラムさん


サンサルバジオン旧市街地にあるバー、スカイキッズは、今日も繁盛していた。
「オーダー、お待たせいたしました。」
上杉鞠絵は指定されたテーブルに、作った料理を運んだ。
「あら。」
そこに座っていた人物を見て、鞠絵は顔を綻ばせた。
「これは、村岡さん、立花さん、いらっしゃいませ。」
「やあ。」
「こんにちは、鞠絵ちゃん」
村岡虎太郎と立花操は、鞠絵に微笑んだ。
方や、エルジア空軍最強部隊、黄色中隊所属の2人、方や、それに対抗するISAFを支援するレジスタンスのメンバー。
相反する立場にある2人だが、このスカイキッズと言う空間の中では、店のウェイトレスと、客と言う立場を保っている。
「来てくださったのですか?」
そう言ってから、鞠絵は回りを見回した。
「あら、今日は他の皆さんは一緒じゃないのですね?」
「ああ、今日は2人だけだ。」
「そうですか。それではごゆっくり。」
そう言って鞠絵はお辞儀すると、気付かれないように奥へと引き上げた。
しかし鞠絵は厨房を素通りすると、さらにその奥の部屋へと入った。
そこには幾つかの気会が並んでいた。大型のラジオのような物もあれば、テレビのモニターのような物もある。
ここがスカイキッズにおける、オペレータールームだった。
「…………確か……村岡さん達の席は…………」
鞠絵はチャンネルを合わせると、頭にヘッドホンを付けた。

「そう言えば、ISAFもそろそろ、次の行動を起こす頃合いじゃないですか?」
操が口にした言葉に、虎太郎は酒を飲む手を止めた。
「そうだな。リグリー地方の空軍、エイギル艦隊、アルトーラ方面軍と立て続けに壊滅して、既にフェイスパーク東部から、アルトーラ南部にかけての一帯は事実上ISAFの勢力圏になっている。」
虎太郎はブランデーを煽って続けた。
「次に、連中が動くとすれば、お前はどこに来ると思う。」
「そうですね……」
操は少し考えてから答えた。
「考えられるのは、我が軍の影響が薄くなった、フェイスパーク連邦共和国か、アルトーラ国の奪回に掛かるのではないでしょうか?両国はノースポイント連邦本土からも近いですから、補給線も短くてすみます。」
「成る程、妥当な線だな。」
そう言ったが、虎太郎は口の端に笑みを浮かべている。
「では、隊長は違うとおっしゃりたいのですか?」
「ああ。」
虎太郎はそう言うと、自分の考えを披露する。
「フェイスパークの勢力圏は、確かにISAFに傾きつつある。それは正しい。だが、フェイスパークの地形は、海岸線から平坦な平地が広がっている。これは大軍にとって有利だと言う事を示している。」
「あ……」
操は、その事に気付いて口を開ける。
虎太郎は更に続けた。
「それに、この両国の後方にはサンサルバジオンがある、つまりこの町の事だが、ここには例の物があるだろう。」
「……ストーンヘンジ。」
「そうだ。」
ユージア大戦開戦初期に、ストーンヘンジはISAFに多大な損害を与え続けた。
当初の目的は制空権の確保だったが、何しろ大陸の大半が射程に収まっているのである。単純に考えれば地上の物を撃つ事もできる。
その顕著な例が、2005年のアルトーラ戦線、ポートエドワーズ市郊外に布陣したISAFとアルトーラの連合軍の頭上から、ストーンヘンジの巨弾が降り注いだ。
展開していた連合軍は、この天空から降り注いだ人工の小惑星の前に、成す術も無く壊滅。続いてやってきたエルジア軍の大軍の前に、一敗地にまみれた。
そのわずか半日後、ポートエドワーズは陥落した。
「地上戦におけるあれの恐ろしさは、ISAFも嫌と言うほどの味わったはずだ。それが分かっていて、平面から侵攻する愚かな真似はしないだろう。」
「確かに……となると……敵の狙いは南、コフィンブルク共和国の奪回?」
「だろうな。あの国の南部、特にスコーフィールド高地はそこそこ高い山脈が連なり、平面侵攻が不可能な反面、ストーンヘイジも精密な照準ができない。まあ、衛星を使うと言う手もあるにはあるが、弾道は山をかわせないからな。」
「成る程。」
操の返事を聞いて、虎太郎は残ったグラスを一気に煽った。
「なあ、立花。」
「はい?」
「そう言えば、今朝、『あいつ』が、慌ただしく出撃していったな。何かあったのか?」
「さあ、何も情報は入っていませんが。ひょっとしたらISAFが何か動き出したのかもしれません。」
「…………」
虎太郎は空になったグラスを眺めながら、自分達の出撃が近い事を感じていた。

旧フェイスパーク連邦共和国の山岳地帯は、平らな大地が続き、そこを縫うように大きな街道が何本も存在する。太古の時代、この街道を利用して多くの隊商が行き来し、また戦時には大軍の進撃路に使われたのだろう。
そこにエルジア軍は太陽光発電所を築いていた。
これほどの平らな高地なら、太陽発電だけで一個軍団を賄えるほどの電力を確保できる大きなの大きな施設を作る事ができる。
そこに今、ISAF第407飛行集団と、第408飛行集団の2個航空隊が襲い掛かった。
その総数は約100機にも達した。
今回の作戦の目的は、フェイスパーク方面におけるエルジア軍の行動力を低下させるのみならず、近い将来行われる予定の大陸上陸作戦の陽動も兼ねていた。
直ちに駐留していた空軍がスクランブルを掛けた。
今回は高地飛行と言う事もあり、ISAFも得意の低空侵攻ができなかった。無理に高度を下げれば地面に激突してしまう。
その為、エルジア軍のレーダーでも早期にISAFの攻撃隊を発見し迎撃隊を送る事ができた。

「メビウス1よりメビウス2。コンバットオープン、行くぞ。」
「了解あにぃ!!」
上杉葵大尉のF/A−18Eスーパーホーネットと上杉衛少尉のF−2バイパーゼロが、速度を上げて攻撃隊の前に進み出た。今回からこの2機を含むストームナイト機は、機体の色をノーマルカラーからそれぞれのエースカラーに変更している。
葵のスーパーホーネットは機首部分と主翼端を青く塗装し、遠目で見れば機体事体が小さく見えるような偽装アートを施してある。
一方の衛は、白く塗ったボディーの中央に赤いラインを入れている。
今回、2個飛行集団の出撃の為、充分な数の機体を確保できている。その為、葵と衛は、久しぶりに制空任務に専念できていた。
「メビウス1、フォックス1。」
「メビウス2、フォックス1!!」
2人は迎撃に上がって来たファルクラムに対し、スパローを放つ
2機の戦闘機から放たれたスパローは、白煙を上げながら突き進み、上昇を掛けていたファルクラムを叩き落とす。
しかし今回は迎撃が間に合った事もあって、多くのエルジア軍機が上がってきている。
葵と衛にすれ違うように、4機のファルクラムが対向する。
「来たな。」
葵は鋭い眼差しで一瞥すると、スティックを倒して旋回する。
ダイヤモンド編隊を組んで飛行するファルクラムの背後に回ると、葵と衛はFCSを短距離ミサイルモードにする。
2人の目の前に、4機のファルクラムが急旋回しようとしているのが見える。
「メビウス1、フォックス2。」
「2、フォックス2!」
続けて放ったサイドワインダーだったが、ファルクラムはフレア放出と同時にブレイクして回避する。
「フッ。」
葵は薄く笑うとエンジン出力を上げ、追撃に入る。
ヘッドアップディスプレイの中央に、照準レティクルが生じる。
葵はヨーイングして、機体の向きを微調整するとレティクルの中央にファルクラムを押し込んだ。
「メビウス1、、フォックス3。」
すかさずバルカンを発射する。
その一撃で主翼を粉砕されたファルクラムはそのままスパイラルダウンにかかり、地上へと落下していった。
「メビウス1、スプラッシュ1(1機撃墜)。」
葵がコールした直後、今度はミラージュが背後についてきた。
そしてそのままアーチャーを放ってっくる。
「フン。」
葵は薄く笑うと、フレアを放出してそのまま回避する。
葵に向けて放たれたアーチャーは、そのままフレアに突っ込んで自爆する。
「こっちの番だ。」
そう言うと、葵は急旋回してミラージュの背後に回った。
それに気付いたミラージュのパイロットはただちに回避に入るが、既に葵の気場はミラージュを捉えていた。
「メビウス1、フォックス3。」
バルカンの火線がエンジンに叩き付けられると、ミラージュはそのまま爆散した。

衛は急旋回しながら、自分を追ってくるファルクラムを振り切りに掛かる。
「くう!!」
軽戦闘機のバイパーゼロは、中型戦闘機のファルクラムよりも旋回性能が良い為、より小さい半径で旋回する事ができる。
ファルクラムのロックオンを振り切った衛は、そのまま背後に回る。
「メビウス2、フォックス2!!」
衛はそのままサイドワインダーを放ち、ファルクラムを撃墜する。
「メビウス1よりメビウス2。」
衛の下に、葵から通信が入る。
「どうしたのあにぃ?」
「できるだけ長時間敵を引き付けるようにしろ。攻撃隊の時間を稼ぐんだ。」
「了解だよ!!」
そう言うと、衛は1機のファルクラムの背後を取る。
「よし!」
照準レティクルの中央に、ファルクラムを捉える。
「メビウス2、フォックス3!!」
撃ち放たれたバルカンの、火線がファルクラムを粉砕する。
「やった!」
衛は落ちていくファルクラムを見て、笑みを浮かべる。
しかしその時、死角から接近した別のファルクラムが衛の背後につく。
「ああ!?」
ロックオン警報に気付いて、衛はとっさにブレイクしようとする。
しかしその前に、葵のスーパーホーネットがファルクラムの背後に付きこれを撃墜した。
衛を追うのに躍起になっていたファルクラムは、そのまま炎を吹いて落ちていった。
「無事か衛?」
「うん、大丈夫。あにぃ、ありがとう!」
「気にするな。だが、背中には気を付けろ。」
「うん、分かったあにぃ!!」
そう言うと衛は、葵のフランカーの後方に付き、警戒行動に入る。
「どうやら……攻撃隊が突入を始めたらしいな。」
葵は、彼方の煙を見ながら呟いた。
その煙は、ISAFの攻撃開始を表していた。
それを確認してから、葵は咲耶を呼び出した。
「スカイアイ、こちらメビウス1。次の目標は?」
「こちらスカイアイ、お兄様、ベクター060方向に新手よ!」
葵は指定された方向に、目を向けた。
そこには、こちらに向かってくる数機のエルジア軍機が映った。
「メビウス1、了解。衛、行くぞ。」
「了解、あにぃ!!」
2人は新たな目標に向けて機首を向けた。

葵の言う通り、ISAFの攻撃隊は次々と発電所の上空に突入し、持ってきた爆弾を投下し始めていた。
「ナイトメア1よりナイトメア2……行くよ春歌君。」
「2、了解ですわ!!」
中尉に昇進した千影と春歌はそれぞれのホーネットを低空に導く。
千影のホーネットは、まるで鴉のような黒で塗りたくられている。まるで、翼を広げた悪魔のようだ。
春歌のホーネットは、機首、主翼と尾翼の先端部分を桜色にしていた。
2人はFCSを爆弾投下モードにすると、ボールを糸でつったような爆弾ピパーがHUDに現れる。
「目標、右前方の発電機。」
「了解!」
2人は軽く機体を右に旋回させて、進路を変更する。
その視界には、ずらりと並んだソーラーパネルが現れる。
「私は、右をやる。春歌君は、左を、」
「了解!!」
2人は速度を上げて、目標のソーラーパネルに迫る。
「ナイトメア1、投下。」
「ナイトメア2、投下!!」
2人は同時に2発ずつ、合計4発のクラスター爆弾を投下した。
クラスター爆弾は暫く滑空すると、内部からシャワーのように小型爆弾を散布する。
散布された小型爆弾は、薄紙を破るようにソーラーパネルを破壊し尽くした。
さらにそこへ、後続としてA−10サンダーボルト隊が殺到する。
その機首部分に取り付けられた、30ミリガトリングキャノンの威力はすさまじく、普通に食らえば、戦車の装甲すらティッシュペーパー以下の存在でしかない。もちろん、ソーラーパネルが耐えられる代物ではない。
「ナイトメア1よりナイトメア2、次、行くよ。」
「2、了解!」
2人は破壊したソーラーパネル上空を旋回すると、次の目標に向けて速度を上げた。

その頃、エルジアの防衛線を突破した鎌田信悟少佐、河村高士少佐、大谷二郎少佐、富永紀人中尉に率いられた第1部隊は、後方にあるコントロール施設を襲撃していた。
「アドラーより各機へ、制空隊は上空の確保!攻撃隊はただちに攻撃開始!!」
「「「「了解!!」」」」
高士の命令を受けて、第1部隊は二手に別れる。
「行けェ!」
信悟は気合と共に、翼下に吊るしたロケットランチャーを発射した。
今回から信悟は、機体をこれまで使っていたストライクイーグルからバイパーゼロに変えている。それに伴い、大谷もバイパーゼロに乗り換えている。
信悟は、元々のカラーである青い迷彩のままであったが、尾翼のているアートはこれまでの交差した剣の上にどくろを描いた、変則的なジョリーロジャーに変えていた。
大谷のバイパーゼロは水色の基本カラーに、ところどころ白い線を入れて筋雲の迷彩が入っている。
低空まで舞い下りた信悟のバイパーゼロから冷やが飛び出し、コントロール施設の回りに設置されたソーラーパネル2基を吹き飛ばした。
「よし!」
信悟は会心の笑みを浮かべた。
しかしその時、コックピット内がロックオン警報に満たされた。
「何、どっから!?」
信悟はそう叫びながらも、とっさに機体を捻ってロックを解除しようとする。
目を走らせると、右翼側から接近するファルクラムがいた。
「ちい!高士の奴、何やってやがる!!」
悪態を吐きながら信悟は急旋回を掛けて、ファルクラムを振り切りに掛かる。
その時、
「信悟、降下しろ!!」
「!?」
とっさに信悟は聞こえた声に従い機体をロールさせると、スプリットS機動に入る。
その信悟の視界に、真っ赤に塗装されたフランカーが舞い込んできた。
「高士か!」
赤いフランカーを操る高士は、そのまま信悟のバイパーゼロを狙っていたファルクラムの背後に回り込む。
それに対してファルクラムも高士の存在に気付き、急旋回して振り切りに掛かった。
しかし完全にロックをはずす前に、高士はバルカンの射程にファルクラムを捉えていた。
「アドラー、フォックス3!」
高士がトリガーを引くと、30ミリバルカンが吹き出し、そのままファルクラムを粉砕した。
「信悟、無事か?」
眼下を飛行するノーマルカラーのバイパーゼロを見ながら、高士が尋ねた。
「何とかな。サンキュー、助かったぜ。」
「いや、こちらこそ済まない。どうやら、何機か取りこぼしてしまったらしい。」
高士の済まなそうな声に、信悟は苦笑した。
「気にすんな。戦争やってんだ。何事も完璧とは行かないだろ。」
それを聞いて、高士は自嘲気味に笑った。
「そうだな。……さて、もうひと踏ん張りだ!」
「おう!!」

100機もの航空機を投入した作戦だけに、目標となった発電施設は完膚なきまでに粉砕されていた。
後に残ったものは、炎と煙に蒔かれたコンクリートの固まりのみだった。 誰の目から見ても、ここが何の昨日も保持し得ていない事は明らかだった。
上空を飛び回っていたエルジア空軍機も、すでにその数を大きく減じ、20機を割っている。
「ふう。」
咲耶はレーダーディスプレイから目を離すと、大きく溜め息を吐いた。
それから思い出したように、マイクのスイッチを入れた。
「スカイアイより各機へ、目標の破壊を確認。お疲れ様!!」
咲耶の明るくはきはきとした声が、パイロット達の疲れた耳に響き、萎えた気力をもう一度呼び起こす。
的確な指示と疲れた心を癒してくれる気持ちの良い声。ある意味咲耶は、天性のAWACSの才能を持ちあわせているのかもしれない。
「了解、ストーンウォールより全機へ、帰るぞみんな!」
「「「「了解!!」」」」
飛行隊長の藤岡順二大佐の命令を受けて、ISAF機は、一斉に機首を北に向けた。
その時だった。
「あら?」
咲耶が目線を戻した時、レーダーディスプレイの端に何かが映った。
「何かしらこれ?」
ほぼ真西から飛んでくる物体がある。数は8。
「敵の、新手……かしら?」
そう思ってマイクに手を伸ばそうとした。しかし、すぐにその手を戻す。
どう考えても様子がおかしいのだ。その8つの物体はまったく編隊を組まずに真っ直ぐ飛んでくる。しかも、その速度が異常だ。マッハ6以上は出ている。
『レーダーの故障?ううん。こんな故障有り得ない。じゃあ……これは一体?』
数は8、編隊を組まずマッハ6以上の速度で西から飛んでくる物体。
そこまで考えた時、咲耶全身に鳥肌が立った。
そして、今度こそ叩き付けるようにマイクのスイッチを入れた。
「スカイアイより各機へ!!逃げて!!ストーンヘンジからの砲撃を確認!!20秒後に弾着の予定!!みんな早く逃げて!!」
咲耶の恐怖は、ものの数秒でISAF空軍全体に伝染した。
「ストーンヘンジだと!?」
「そんな馬鹿な!!」
「ここは大陸の端だぞ、こんな所まで届くのか!?」
「どうすりゃあ良いんだよ!?」
「嫌だ、こんな所で死にたくない!!」
ISAFは大混乱に陥った。
整然と組まれていた編隊は、あっと言う間にばらけ、めいめいばらばらの方向に退避を始める。
「スカイアイより各機へ、高度を600メートル以下に下げて!!」
咲耶の凛とした声が、パイロット達の耳に響く。
「高度を600メートル以下まで下げれば、ストーンヘンジは精密な砲撃ができないわ!!」
「そうだったな!!」
「よっしゃ、みんな続け!!」
ストーンヘンジに関する戦訓は今も健在だ。
一斉に高度を下げ始めるISAF。しかし、
「待て!!」
藤岡の声が慌てて制止に入る。
「ここの標高は最低でも700メートルある!!下手に高度を下げれば地面に激突するぞ!!」
「何だって!?それじゃあ…………」
そこまで言った時だった。
すさまじい衝撃と共に、破局が訪れた。
耳をつんざくような轟音と共に、最後尾を飛んでいた戦闘機が4、5機、いっぺんに消滅する。
「スペード小隊全滅!!」
「ランサー1、3、応答ありません!!」
味方の死により、全員の顔から血の気が引いていく。
そこへ追い討ちを掛けるように、咲耶の声が響く。
「第二波接近!!」
その事が、さらに混乱を助長する。
「落ち着け!!」
パニックに陥ったISAFパイロット達の耳に、藤岡の一喝が響いた。
「全機街道に飛び込んで高度を下げろ!確実に助かるにはそれしかない!もしくは推力に余裕があり、なおかつ振り切る自信のある者は、全速力で東に向かえ!!」
選択肢は2つ。地上激突を覚悟の上で、狭い回廊に飛び込むか。それとも、推力全開でストーンヘンジの射程外に逃げるか。どちらも生存の可能性は五分と五分だ。
「急げ!!」
迷っている味方を叱咤すると、藤岡は自ら街道に飛び込んでみせた。
それに続いて、全体の半数が街道に飛び込む。
残る半数は、全速力で機首を北に向けた。

しかしその頃、そんなISAFの行動を、嘲りを持って見る目があった。
「フッ、またくもって計算通り。こうまで予想が当たると、逆に詰まらないくらいだな。」
その人物は、ゆっくりと機体を降下させ、自らも街道の中に入り込む。
「しかしまあ、これこそが私の作戦お優秀さを示している事に他ならないか。」
そう言うとフッと笑い、マイクのスイッチを入れた。
「行くぞ、狩りの時間だ。」

最初の犠牲者は、最後尾を飛んでいたサンダーボルト隊だった。
この地上攻撃機はその攻撃力の高さから今作戦の主力を任され、そして、見事にその期待を裏切らなかった。
サンダーボルトはその大振りな直翼の為、低空低速での安定性が良い。その為、この撤退戦においても迷わず街道内に飛び込む道を選んだのだった。
しかし今、その事が彼等を冥界へ飛び立たせる原因となった。
街道内を低空飛行するサンダーボルト隊の後方に、突然エルジア軍のファルクラムが姿を表した。
「ハッハッハッハッ!!銀色の1、フォックス2!!」
銀色の1こと、エルジア帝国空軍大佐大垣高広は、悪魔のような笑いと共にアーチャーを発射した。
鈍足な上に、さらに閉所飛行で機動力をそがれているサンダーボルトは、アーチャーを直撃されてそのまま火球へ変じる。
「ハッハッハッハッハッ!!落ちろ落ちろ!!」
大垣は別のサンダーボルトをロックオンすると、再びアーチャーを発射した。

「ブリット1よりスカイアイ!敵の新手だ!!」
「何ですって!?」
咲耶は慌ててディスプレイに目をやった。
そこには確かに、低空飛行するエルジア軍機が映っていた。
「スカイアイより各機へ!敵に追撃部隊を確認!低空飛行をしている人は気を付けて!」
そう叫ぶうちにも、ISAFのシンボルマークは1つ、また1つと失われて行く。
エルジア軍の作戦は巧妙だった。
ストーンヘンジの攻撃は高度600メートル以下になると、精密な照準が出来なくなることは既に気付いていた。それを見越した上で、このような高地にISAFをおびき寄せ、殲滅を図ったのだ。1つだけ難点があるとすれば、この地方にある街道だった。ここに逃げ込まれれば、正確の照準ができないばかりか、山陰に隠れられて弾道が届かない可能性すらある。そこで空軍の追撃部隊を派遣し、その問題を解決したのだ。
街道を飛んでいる部隊のうち、最後尾を飛んでいた者はあらかた撃ち落とされてしまった。
さらに、上空を飛んでいる者達にも容赦なくストーンヘンジが襲い掛かり、次々と粉砕していく。
「ボーカル1、応答無し!!」
「オペラ2、3、墜落!!」
「ウィザード小隊、消滅!!」
咲耶の耳に、次々と味方の負報が舞い込む。
「クッ、このままじゃまずいわね。」
咲耶は血が滲むほど唇をかみ締める。しかし、事がここまで推移した以上、AWACSの咲耶にするべき事はない。
もはや、1機でも多くの味方が逃げ帰ってくれる事を祈るしかなかった。

「こいつは……少々まずいか……」
ストーンヘンジの砲撃を受けて、葵と衛も街道内に退避していた。
しかし、スピーカーから次々と味方の断末魔の悲鳴が響いてくる。しかも、街道内に飛び込んだと思われる者達の悲鳴すら聞こえてきている。
断片的に集めた情報を統合すると、どうやらストーンヘンジの砲撃開始に合わせて、敵の追撃部隊が現れたらしい事が分かった。
「どうしよう、あにぃ?」
自分のすぐ後方を飛ぶ衛が、不安そうな声を上げる。
「…………」
それに対して葵は、暫く無言で機体を操っていたが、やがて何かを決断したようにスティックを引いて高度を上げた。
「あにぃ?」
そんな葵の行動に、衛は訝るような視線を向ける。
「衛、お前はできるだけ頭を低くして飛べ。」
「あにぃはどうするのさ?」
「俺はお前の後方上部の監視位置に付き、お前をバックアップする。」
「そんな!!」
衛は声を上げた。
「そんな事したら、あにぃがストーンヘンジに撃ち落とされちゃうよ!!」
「心配ない。谷の高度すれすれ、つまり高度600メートルギリギリを飛ぶ。これなら計算上、撃ち落とされる危険性は低いはずだ。」
「そんな!駄目だよあにぃ!!」
衛はなおも言い募る。
しかし葵は、衛の反論に一切耳を貸さなかった。
「敵の追撃部隊が後方から迫っている。このまま飛行していたら2人ともそれの餌食にされてしまう。それよりだったら生存の可能性が高い。」
「でも!!」
「時間が無い、早く行け!!」
葵はいつになく苛立った声で、衛を急かした。
仕方なく衛は、葵のスーパーホーネットの前に出る。
その時、第何射目かのストーンヘンジが弾着する音が聞こえた。
「どうやら、まだ遠いようだな。」
葵の言葉に、衛は胸を撫で下ろす。
しかし、スピーカーからは相変わらず味方の悲鳴が聞こえてくる。
「あにぃ、みんなが!」
「構うな。自分が生き残る事を優先しろ。」
「うっ、うん。分かった。」
そう言うと衛は再び前方に目をやり、操縦に専念する。
その時、風を斬る音がだんだん大きくなってくる事に気付いた。それと同時に、咲耶から通信が入る。
「お兄様!ストーンヘイジの砲弾がそっちに向かってるわ!!高度を下げて!!」
「チッ!!」
葵はとっさに機体を傾けた。
次の瞬間、すさまじいまでの衝撃が、葵と衛を襲う。
「ウワァァァァァァァァァァァァァァ!!」
頭上からの衝撃に、衛は思わず首を竦める。
その衝撃が収まった時、衛のバイパーゼロは何とか飛行を続けていた。
溜め息を吐くはずも無く、衛は通信機のスイッチを入れた。
「あにぃ、大丈夫!?」
しかし、返事はない。
衛は、声を振り絞ってもう一度叫んだ。
「返事してよ、あにぃ!!」
やはり、返事はない。
「あにぃ……まさか……嘘でだよね……」
衛の脳裏に、最悪の事態がよぎる。
その時、
「…………ここ、だ……」
荒い息混じりの葵の声が、衛の耳に聞こえてきた。」
「あにぃ、どこ!?」
「後ろだ。」
衛はとっさにバックミラーに目をやると、そこには高度を下げて飛行する葵のスーパーホーネットがいた。
「あにぃ、無事だったんだね!!」
「何とかな。」
着弾の瞬間、葵はとっさに高度を落として衝撃を回避したのだ。
体勢を立て直した葵は、再び高度を上げて監視位置につく。
「もうやめてよ、あにぃ!!」
衛の悲鳴にも似た声が、葵の耳を叩く。
しかし次の瞬間、ストーンヘンジが再び2人を襲った。
「グッ!?」
「ウワァァァァァ!?」
今度は少し離れた所に着弾したらしく、バランスの崩れる事はなかったが、それでも凄まじいまでの衝撃が2人の機体を叩く。
その衝撃の中を、葵はなおも高度を600メートル前後を保って飛行している。
「あにぃ、もう良いから!!高度を下げてよ!!」
「…………だめ、だ。」
「あにぃ!!」
衛は半分涙目になって、葵に訴える。
「駄目だ!!」
葵は強い調子で言った。
「……もう二度と……」
「え?」
葵の声の調子が変わった事を悟り、衛は顔を上げた。
「……もう二度と……俺の手の届かない所で、大事な人が死ぬのは嫌だ!!」
「あにぃ……」
葵の気迫は、スピーカーを通して衛にも伝わってきた。
次の瞬間、三度、衝撃が2人を襲った。
「グア!!」
「ワァァァァ!!」
衝撃により、スーパーホーネットとバイパーゼロは木の葉のように揺さぶる。
しかし三度目と言う事もあり、2人は何とかその衝撃に耐え抜いた。
「衛……無事か!?」
「なっ、何とか……」
衛の声を聞いて、葵は自分でも気付かずに息をついた。
「とにかく、急ぐぞ。これ以上食らったらさすがにまずい。」
「うっ、うん。」
2人は速度を上げて、一気に街道脱出を図る。
しかしそんな2人の背後から、1機のファルクラムがしたい寄ってくる。
「フフッ、それで逃げているつもりか?」
ファルクラムを操る大垣は、低空飛行をする2機の戦闘機を薄笑いを浮かべて見詰める。
「残る武装は、アーチャー1発にバルカンのみ。まあ、私なら充分か。」
そう言うと、大垣は自身も速度を上げて、手前を飛ぶスーパーホーネットに狙いを定める。
「ほう、見た所、2機ともISAFの新型みたいだな。これを落とせば、私の名も上がるという物だ。」
そう言うと、スーパーホーネットにロックオンする。

葵はまだ、自分の背中から近付いてくる死神の存在に気付いていない。
とにかく必死なのだ。コクピットに鳴り響くロックオン警報にすら気付いていない。普段なら有り得ないミスである。
「クッ。」
葵は急カーブを辛うじて曲がり終えると、再び水平飛行に入る。
その後ろで、大垣のファルクラムもまた水平飛行に入る。
その時、大空の目が死神を白日の下に引きずり出した。
「お兄様、後方に敵機よ!気を付けて!!」
「何!?」
咲耶の言葉を聞いて、葵は考えるよりも先に体が反応した。
とっさにフレアを放出して降下する。
直後、大垣の放ったアーチャーが飛来した。
しかし間一髪、アーチャーはフレアに引き寄せられて自爆した。
「チィ!!」
葵は衛と大垣の間に入り込む。
「衛、お前は先に行け!」
「あにぃは!?」
「俺はこいつを片づけてから行く!!」
そう言うと葵は、ストーンヘンジの弾着直後に急上昇を掛け、そのままループする。
「あにぃ!!」
衛はとっさに叫ぶが、今の彼女にはどうする事もできない。
その間に葵は、上方から大垣のファルクラムに襲い掛かった。
「くらえ!!」
葵は照準レティクルの中央にファルクラムを収めると、そのままトリガーを引いた。
しかし、
「そうはいかんのだよ!!」
大垣は機体を傾けて葵の攻撃をかわす。
「クッ!」
葵はそのままオーバーシュートして、大垣の前に出てしまう。
「フッハッハッハッ!死ねい!!」
大垣は葵のスーパーホーネットにバルカンを浴びせる。
しかし葵は巧みに翼を振って、大垣に照準をつけさせない。
大垣は微妙な機体操作でロックをはずし続ける葵に対し、自身も横滑りなどを駆使して攻撃するが、葵は狭い空間で巧みに動き回り、大垣の攻撃をかわし続ける。
「おのれ、こそこそと卑怯な真似を!!」
大垣は更に速度を上げて、接近する。
その様子は、バックミラー越しに葵の目にも入って来た。
「…………成る程。」
葵は薄く笑った。
自分の相手は、どうやら頭に血が上り易いタイプであると考えたのである。
「それなら、」
葵は低く呟くと、スティックを思いっきり倒して機体をロールさせた。低空でロールをする事で、うまく相手を挑発しようというのだ。
その効果は抜群だった。
「舐めるなァ!!」
大垣は逆上すると、一気ににスピードを上げて葵をロックした。
次の瞬間、
「今だ!」
葵はエアブレーキを開くと、そのまま急減速した。
「何!?」
大垣はつんのめるようにオーバーシュートした。
その瞬間、葵の双眸は獲物を狙う狼のそれに変わる。
「落ちろ!!」
そのまま30ミリバルカンを放つ。
通常より太い火線は、そのまま大垣のファルクラムに向かう。
「ヒィィィィィ!!」
しかしその火線は、とっさに機体を翻して上昇した大垣によって外され、主翼の先端を削っただけに留まった。
「ええい!いまいましい奴め!!」
そのまま飛び去る葵のスーパーホーネットに向かって吐き捨てた。
「憶えていろ!今回は慣れない機体を使ったから遅れを取ったが、次は私の愛機で貴様を討ち取ってやる!!」
その叫びに気付かず、葵は街道を抜けて飛び去っていった。

ニューフィールド島アレンフォート基地に、次々と航空機が降り立ってくる。
しかしその数は出撃前に比べて激減し、半数近くまで撃ち減らされていた。
葵のスーパーホーネットも無事に帰還し、ゆっくりと停止位置に就いた。
葵が機体から降りて来ると、砲弾のように突っ込んできた人影があった。
あまりの勢いに葵は衝撃を吸収しきれず、そのまま倒れ込んだ。
「あにぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
その砲弾の正体は、顔面を涙と鼻でぐしゃぐしゃに濡らした衛だった。
「どうしてあんな事したの!?」
「…………衛。」
「ボク……ボク……」
最早言葉にもならない。衛はそのまま顔を手で覆って、しゃくりあげる。
葵はそんな衛をそっと抱きしめる。
「……もう泣くな。こうしてちゃんと帰ってきたんだから。」
「ヒック……ヒック……うん……でも、ボク、あにぃが死んじゃったら……どうしようかって……」
「……衛。」
葵はもう一度優しく、衛を抱きしめた。

その夜、デブリーフィングを終えて自室に戻った葵は、妙に寝付く事ができずに、戸棚からワインを出して飲んでいた。
そんな時、風が動いたような感覚がありドアの方に目をやると、そこにはパジャマ姿の衛が立っていた。
「あにぃ……起きてる?」
「ああ…………どうしたんだ?」
突然の来訪者に若干の戸惑いを覚えながらも、葵は衛を向かえいれる。
「あの、さ、あにぃ……」
「どうした?」
「その……」
衛は下を向いたまま、もじもじとしている。
そんな衛の様子に怪訝になりながらも、葵は衛の次の言葉を待っている。
「一緒に、寝て良い?」
「……え?」
まったく予想していなかった言葉に、葵は戸惑った。
昔はよく一緒のベットで寝たりしていたが、少なくとも軍に入ってから衛がこんな事を言ってきた事はない。
「……どうしたんだ?」
少し考えてから、葵は尋ねた。
「うん……なんだかボク、ちょっと眠れないんだ。」
そう言ってから衛は、上目遣いになる。
「駄目?」
「…………今日だけだぞ。」
葵は溜め息交じりに答えてから、ワインを飲み干した。
それを聞いて、衛は笑顔になって葵のベットに入った。
「ちょっと待ってろ。」
葵はそう言って、グラスとワインを片付ける為、キッチンに行った。
しかし戻ってきた時そこにあった光景に、葵は思わず苦笑してしまった。
既にベットの上で、衛は静かな寝息を立てている。その顔は実に心地よさそうで、まるで母親の胸に抱かれた赤ん坊のようだ。
葵はベットの傍らに立って、そっと衛の前髪を撫でてやった。
すると衛は、くすぐったそうに笑う。
「うう〜ん…………あにぃ…………」
「ん?」
突然呼ばれて、葵は聞き返す。しかし、
「ボク…………あにぃの事大好きだよ。」
それが寝言だと知り、葵は再び苦笑する。
「ありがとう、衛。」
葵はそう言うと、衛の額にそっと口付けをしてやった。

その日の夜、葵と衛、翼を持つ2人の兄妹は、互いに手を握り合って眠った。

第十話「猛襲!!ストーンヘンジ!!」おわり

あとがき

どうもこんにちは、ファルクラムです。今回でこの「リボンつきの翼」も十話となりました。そしていよいよ、葵と衛、この2人の運命が回り始めました。そういう意味から言っても、今回は非常に意義の深い話に仕上がったと思っております。今後この2人にいかなる運命が待ち構えているのか、どうか、温かい目で見守ってやってください。それでは、また。

ファルクラム

 


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