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リボンつきの翼
第九話「夢への決意」

作者 ファルクラムさん


少女は走っていた。
まるで何かを追い求めるように。
その顔には、まるで太陽が映り込んだような笑顔がある。
やがて少女は目指す物を見つけ、より一層足を速める。
「あにき!」
少女はお気に入りの宝物を見つけたように、兄の腕へとしがみついた。
「どうしたんだ?」
兄も、少女に微笑む。
「あのね、りんね、大きくなったら、おっきい飛行機作って、あにきと一緒に乗るんだよ!!」
少女は、自分の夢を誇らしげに話す。
「じゃあ、僕はパイロットになって、鈴凛の飛行機を操縦してあげるよ。」
「ほんと!?約束だよ、あにき!」
そう、約束。
子供の日、兄と交わした約束。
少女にとっては、かけがえの無い、神聖な、夢への誓い。

「マスター、どうなさったのですか?」
「…………え?」
メカ鈴凛に声を掛けられて、鈴凛は我に返った。
「お顔が優れませんが、熱があるのでは?」
そう言ってメカ鈴凛は、自分の手を鈴凛の額に当てる。
「ううん、大丈夫!全然大丈夫だから!」
鈴凛は慌てて首を横に振り、手に持った電動ドライバーのスイッチを切った。
現在アレンフォート基地の格納庫では、徹夜の整備作業が続けられていた。
「よし、こんな物かな?」
鈴凛は一通りチェックを済ませて、イーグルの配電盤を閉じた。
そんな鈴凛を、メカ鈴凛がジーッと眺めている。
「ん、どうしたの?」
「マスター、何かお悩みの事がおありですね?」
「え?」
メカ鈴凛の思いがけない一言に、鈴凛は動きを止める。それを見て、メカ鈴凛は話を続けた。
「最近のマスターは変です。この間はご飯に牛乳を掛けて食べようとしましたし。その前は1000ポンド爆弾の信管を落としそうになりますし、夕べに至っては、整備不良で私の腕を吹き飛ばしてしまいました。おかげで私は今朝まで右腕が動作不良でしたよ。」
「だから、それは悪かったって言ってるでしょ。まったく、誰に似たらこんな小姑みたいな性格になるんだろ?」
「何か言いました?」
「別に。」
そう言って鈴凛は視線を逸らした。
しかし実際の話、鈴凛はある事で悩んでいた。
その理由は、数日前に来た一通の手紙にあった。
「は〜……」
鈴凛は溜め息を吐くと回りに誰もいないのを確認してから、問題の手紙を開いた。

「拝啓、ISAF技術准尉、上杉鈴凛殿
貴官の持つ知識、技術を、我々は大変欲しております。貴官こそが、この暗き時代
に終止符を打ち得る存在である事を確信しております。どうか、我々の研究に力をお貸しください。良い返事を待っております。」

手紙にはそう書かれていた。
「は〜……」
鈴凛は、もう一度大きく息をついた。
「そんな事言われてもなぁ……あたしにだってここの仕事があるし……それに、アニキ達置いて行ったら、誰が機体の面倒見るのよ。」
鈴凛がそう呟いた時だった。
「おい、鈴凛。」
「きゃあ!」
突然声を掛けられて、鈴凛は跳び上がるほど驚いた。
「何をそんなに驚いているんだ?」
振り返ると、そこにはパイロットスーツに身を包んだ兄、上杉葵空軍大尉が立っていた。
どうやら訓練が終わった後らしい。
葵を含むストームナイト10人は、先のポートエドワーズ奇襲作戦の功績により、全員が一階級昇進を果たしていた。
そんな中で葵は、目ざとく鈴凛を見つけて話し掛けたのだ。
「アニキ、どうしたの?」
突前現れた葵に驚きながらも、鈴凛は尋ねた。
「メカ鈴凛から聞いたぞ。お前、何か悩んでるそうだな。」
『あいつ……』
鈴凛は、心の中で呆れ返った。
『ほんっとに小姑っぽくなってきたなあ。今度一回AIばらしてオーバーホールした方が良いかも。』
「それで、どうなんだ?」
「え?」
葵に言われて、鈴凛は我に返る。
「何か悩みがあるのか?俺で良かったら相談に乗るが?」
「…………うん。」
鈴凛はややうつむいて頷く。
「ねえ、アニキ……」
「何だ?」
「……あたしの夢って……憶えてる?」
「…………」
兄の沈黙を見て、鈴凛は悟られないように力無く笑う。
『憶えてる訳、無いよね。だってさ、小さい頃の話だもん。』
しかし、葵の返事は鈴凛の予想を完全に裏切っていた。
「……憶えてるよ。」
「え?」
鈴凛は思いがけない返事に、顔を上げた。
「確か、飛行機を作る、だったよな?」
「…………」
余りにも予想しなかった展開に、鈴凛はまじまじと葵の顔を見る。
「アニキ、憶えててくれたんだ。」
「妹の夢を忘れるほど、薄情になったつもりはない。」
感激の余り、鈴凛はしばらく声が出なかった。
「それで、それがどうしたんだ?」
「……うん……実はさ……」
鈴凛が何か言いかけた時だった。
「あにぃ!」
着替えを終えた衛が、走ってくるのが見えた。
「ああ!あにぃ、まだ着替えてなかったの?ボクもう終わっちゃったよ!」
「ん?ああ、そうだな。」
「え?何かあるの?」
鈴凛はキョトンとして、衛を見る。
「うん、今日はさ、可憐あねぇが、雛子ちゃんと亞里亞ちゃんを連れて遊びにくるんだよ。」
「え?そうなんだ。」
先程まで曇っていた鈴凛の顔が、少しだけ明るくなった。
「お前も来い鈴凛、悩んでいる時は気分を変えるた方が良い時もある。」
「…………うん。」
鈴凛は、小さく頷くと後に続いた。

先日のロブナ会戦に関する一連の報告書に目を通してから、エルジア空軍少佐村岡虎太郎は大きく溜め息を吐いて口を開いた。
「やはり、失敗したか。」
「やはり?」
その場に居合わせた立花操中尉は、訝りながら虎太郎の顔を見る。
「と言うと、隊長は初めからこの作戦は失敗すると考えていたのですか?」
「ああ。」
頷くと、虎太郎は立ち上がった。
「まず第一に、制空権が敵に握られた状態での進撃が命取りになる事は、そこらの兵士でも知っている。」
「今回の作戦は、それを見越して吹雪の中の進撃だったはずですが?」
「そこだ。」
虎太郎は、操に向き直った。
「天候など、いつ何時変わるかも分からん。それに頼って作戦を立てている時点で、既に勝敗は見えている。」
「成る程。」
「次に、通信手段の確保。あれ程の猛吹雪だ。並みの通信車両では追い付かない事くらい、少し頭を捻れば馬鹿でも分かる。当然、強力な通信施設を設ける必要が出てくる。そんな物が短期間作れるのは、あの辺では前線基地のあるポートエドワーズでけだ。」
「それは……確かに。」
「最後に、指揮官から末端兵士まで浸透した油断。敵の空軍は来ないと思い込んでいたのだろう。そうでもなければ、ああも鮮やかに奇襲を許すとは思えん。それに、セントアークは半島の先端にある。当然、進撃路も限られたものとなるだろう。そこを横合いから突かれれば、大軍と言えど脆い物だ。」
「では、今回は負けるべくして負けたと?」
「そうだ。お陰でこちらは、数万の陸軍と貴重な時間を失った。」
「時間?」
操は、いぶかしげに虎太郎を見た。
「そうだ。エイギル艦隊を失った事で、俺達は当面の間ノースポイントへ侵攻する事が不可能になった。新たな侵攻艦隊を編成するにしても、暫く時間が掛かる。こうなると、当初、エルジアに味方していた時間は、ISAFに鞍替えするだろう。」
「と、いうことは、時間が経てば経つほど……」
「俺達は不利になる。」
虎太郎は、静かに目を閉じた。
「本国の連中が、早くこの事に気付いてくれれば良いが……」
虎太郎がそこまで言った時だった。
突然、部屋の外から明るい声が聞こえてきた。
「ん?」
虎太郎はそれに気付いて、窓の外に目を向けた。
「騒々しいな、何だ?」
「ああ。」
操は苦笑して答えた。
「四葉ちゃんが来てるんですよ?」
「ほう、四葉が。しかし、それでなぜ、こんな騒ぎになるんだ?」
「みんなで鬼ごっこをしてるんですよ。ちなみに私は、隠れる為に隊長の部屋にお邪魔したと言う訳です。」
「おいおい。」
今度は、虎太郎が苦笑する番だった。
と、その時、
「チェキィーーーーーーーー!!!!」
突然扉が開け放たれ、四葉が駆け込んできた。
「あ?」
一瞬固まる操。その操を前にして、四葉は仁王立ちする。
「操さん見つけたチェキ!!」
「しまった……」
四葉は得意顔になった。
「フッフッフッ、この名探偵、四葉から逃げようたってそうは行かないデス!」
そう言うと四葉は、自慢げに腕を組む。
そんな四葉の気分に水を差すように、虎太郎が話し掛けた。
「どうでも良いがな四葉。」
「何デスか、虎太郎さん?」
「立花、窓から逃げたぞ。」
「チェキ!?」
四葉は慌てて操がいた方向を見た。
そこには当然のように操はおらず、代わって開け放たれた窓から北風が吹き込んでいた。
「しまったデス!!」
慌てて後を追う四葉。
「待つチェキ!って言うか待ってくださ〜〜い!もう鬼は嫌デス〜〜〜〜!!」
後に残ったのは、立ち尽くす虎太郎のみ。
「窓くらい、締めてけよ。」
その声に答えてくれる人は、誰もいない。

その日は、春が近いのかうららかな陽気が、アレンフォート基地を包み込んでいた。
先のロブナ会戦において大打撃を被ったエルジア帝国軍も、その後サンサルバジオン方面からの増援を受けなおも頑強にポートエドワーズ市に立て篭もっているが、これ以上セントアークを攻める力は無いと見えて、以後は散発的に小競り合いを繰り返しているのみだった。
第一アルトーラ国における制空権は完全とは行かないまでも、ほぼISAF側が握っており、いかに数的に優勢なエルジア軍と言えど、迂闊には手出しできなかった。
そんな訳で、アレンフォート基地に常駐する第407飛行集団は目下、訓練とアラート(スクランブル)待機以外には暇を持て余していた。
しかし、時として不幸とは起こる物で、この日、ナイトメア小隊、つまり千影と春歌はアラート待機中であった。
そんな訳で当然の如くこの両名は、何とか他の者と変わってもらおうとあれこれ工作をしていた。千影に至っては得意の魔術を駆使しようとしたが、その企み(?)は、「弁当を残しておく」と言う兄の説得により取りあえず回避された。

そんな訳で昼をまわった頃、可憐、亞里亞、雛子の三人がアレンフォート基地に姿を現した。
非番だった咲耶も加えて、7人の兄妹は空き地と化している旧滑走路に行って可憐達が持ってきた弁当を広げた。
「ねえ、おにいたま。」
食事も大分進んだ頃、雛子が葵に話し掛けてきた。
「どうしたんだ、雛子?」
末の妹が、葵の膝に嬉しそうにすがりついてくる。
「あのね、ヒナね。今日、おにいたまの、ひこうきにのりたいの!」
それを聞いて、葵は少し呆気に取られた。
まさか、このような事を言ってくるとはまったく予想していなかったのだ。
「飛行機って……戦闘機の事か?」
「うん、そうだよ。おにいたまのひこうき。」
「そうか……」
雛子を膝の上に座らせたまま、葵は口に手をやって考え込む。
しかし、すぐに気を取り直した。
「いいぞ。」
「ちょっとアニキいいの?そんな勝手な事言って、」
鈴凛が心配そうに尋ねた。
「構わないだろ、あれは俺のだ。勝手に使ったからって、他人にとやかく言われる事も無い。」
「それもそうだね。」
そう言って、鈴凛も笑う。
その時、葵の袖がクイクイと引かれた。
「?」
見ると、亞里亞が葵の袖を引っ張っている。
「どうした、亞里亞?」
「亞里亞も〜、兄やの、飛行機、乗る〜」
どうやら、亞里亞も乗せて欲しいらしい。
「分かった。」
葵は、苦笑しながら答えた。

葵は格納庫に行って整備長の望月と交渉すると、少しの間だけならと言う条件付きでスーパーホーネットを格納庫から引っ張り出す事に成功した。
初め雛子と亞里亞は、スーパーホーネットの大きさに戸惑いを覚えていた。と、言っても、大きいからではない。その逆で、期待していたのより、余りにも小さかったからである。
どうやらこの2人、葵の飛行機を普通の旅客機と勘違いしていたらしい。しかも、本物の戦闘機を見るのは初めての事らしく、しばらくの間目を丸くしていた。
しかし、そこは最年少のチビッコ2人組、すぐに好奇心に身を委ねて、あちこち触ってまわりだした。
そんな2人の為に、葵はラダーを持ってきてコックピットにかけてやると、先に雛子からコックピットに座らせてやった。
「わーい!高い高〜い!!」
雛子は大はしゃぎで、目の前のスティックを捻る。もちろんエンジンは掛かっていないから、動き出すと言う心配はない。
雛子は更に、葵が持ってきたヘルメットを被ってみせた。
「えっへん!おにいたま、ヒナ、カッコイイ?」
「ああ、カッコイイぞ雛子。」
そう言って、葵は雛子に微笑んだ。
雛子がコックピットから降りると、今度は亞里亞がコックピットに乗った。
「…………」
亞里亞はお気に入りの日傘を差したまま、無言でコックピットに座っている。
もともと口数が少ない少女であるから、知らない人間には分かりづらいが、葵達から見れば、彼女が喜んでいるのが分かった。

そんな様子を、たまたま通りかかった信悟と高士が見かけた。
「……おい。」
「ん?」
不意に声を掛けられて、高士は信悟が顎で差した方を見た。
「あれは……葵の妹達か?」
「多分な……。ひい、ふう、み……3人来たのか今日は。」
「全部で、12人だったか?」
「ああ、葵も大変だよな。あれだけ妹がいれば。」
「お前ならどうする?」
「何がだ?」
高士の質問に、信悟は首を捻って聞き返す。
「12人も妹がいたら、だ。」
「あんまり想像したくないな。うるさいのは苦手だ。」
「そうか。」
高士はフッと笑って、もう一度葵達に視線を向けた。
「しかし見ろ。あの葵の表情を。」
言われて信悟は、葵に目を剥けた。
そこには、僅かながら口の端に微笑を浮かべた葵がいた。
「私の記憶にある限り、葵のあんな楽しそうな表情は見た事が無い。」
「そう言えば……アルトーラにいた頃なんか、あいつ、いっつも一人で仏頂面していたからな。」
「……何が、この短期間で葵をここまで変えたのか?」
この2人なりに、年下の親友を心配しているのであった。

「亞里亞、楽しい?」
ラダーの下から、鈴凛が話し掛けた。
それに対して亞里亞は、ニコニコと笑いながらコクンと頷いた。
その時、パイロットの一人が駆け寄ってくるのが見えた。
「上杉大尉!」
呼ばれて、葵は振り返った。
「どうした?」
「すいません、ちょっと良いですか?」
「ああ。」
妹達との時間を邪魔されて若干不機嫌になりながらも、葵はそのパイロットについていった。
兄がいなくなった事で暇を持て余すようになった妹達は、それぞれバラバラの事をし始めた。 咲耶は可憐と会話を始め、衛は雛子の遊び相手になっている。亞里亞はと言うと、足元の雪の輝きが気になるのか、しゃがみこんでジーッと何やら眺めている。
そんな中鈴凛は、1人座り込んで大きく溜め息を吐いた。
『結局、アニキに相談しそびれたな……』
先程の手紙の事を思い出し、気が重くなる。
『あたし……いったいどうしたら良いんだろう……そりゃあ、誘われたのは嬉しいけど……ここからあたしがいなくなったら、誰がアニキ達の機体を整備するのよ……』
そう思ってから、もう一度溜め息を吐いた。
その時、ふと顔を上げた鈴凛の視界に、信じられない物が映った。
格納庫のすぐ前に、現在アレンフォート基地で使用されている新滑走路がある。その新滑走路に今、1機のイーグルが離陸体勢に入っているのが見えた。
問題はその進路上、雪に目を奪われた亞里亞が、いつの間にか滑走路に進入しているのだ。
その瞬間、鈴凛の全身の血が引いた。
折り悪く、この場に葵はいない。脚力に自信がある衛も、事体に気付いていない。
次の瞬間、鈴凛は駆け出した。
「亞里亞!!」
イーグルとの距離はあまり無い。例え接触しなかったとしても、戦闘機のエアインテーク(空気取り入れ口)の吸引力はすさまじい物があり、大の大人でも楽に吸い込んでしまう程だ。
ようやく衛も気付いたらしく、全速力で追ってくるが、まだ、鈴凛の方が早い。
『お願い!間に合って!!』
亞里亞は足元に夢中で、自分に迫っている危機も、後方から追ってくる2人の姉の存在にも気付いていなかった。
しかし、次第に大きくなる轟音に顔を上げた時、自分に迫ってくる鋼鉄製の怪鳥の存在に気付いた。
瞬間、鈴凛は亞里亞の体を抱えて雪の上を転がる。
間一髪、イーグルは2人の脇をすり抜けて上空に舞いあがった。
「くすんくすんくすん」
鈴凛の腕の中で、遅れてやってきた恐怖に脅えて亞里亞がすすり泣いている。
「よしよし亞里亞、恐かったね。」
そう言うと鈴凛は、優しく妹の頭を撫でてやった。
「鈴凛!!亞里亞!!」
騒ぎを聞き付けて、葵が走って来るのが見えた。
「無事か!?怪我はないか!?」
そんな葵に、鈴凛は一瞬キョトンとしたが、すぐに笑顔になって答えた。
「大丈夫だよアニキ、あたしも亞里亞も無事だよ。」
「兄や〜」
亞里亞は葵に抱き着くと、また泣き始めた。
そんな光景を見て、鈴凛はクスリと笑った。
『アニキが慌ててる姿なんか、久しぶりに見ちゃった。』
どれだけクールに振る舞おうが、どれだけ無関心を装おうが、この人はやっぱり自分達の兄なんだな。
鈴凛はそんな事を考えながら、自分の中の葛藤に決断を下した。

「アニキ、ちょっと良い?」
暫くしたある日、鈴凛は葵の部屋を訪ねた。
「どうした?資金援助か?」
必要書類から目を離して、葵は鈴凛を見た。
「うん、まあ、それも良いけど……」
鈴凛は、含みのある言い方で話す。
「今日はちょっと別の話。」
「別の?」
訝りながら、葵は鈴凛に向き直る。
「うん、実はさ、あたし、技研からヘッドハンティング受けてたんだ。」
「え?」
葵は鈴凛の顔をまじまじと見詰める。
「今、技研で進めている『次期主力戦闘機開発計画』X―Fプロジェクトの開発スタッフに加わってくれないかって、言われてるの。」
「…………」
「すごいでしょ、あたしがISAFの主力戦闘機を作れるんだよ…………」
「……そうか……良かったな……」
鈴凛の言葉を遮るように、葵が言った。
「良かったな……って、それだけ?」
兄のそっけない態度に、鈴凛は声の調子を上げる。
「それだけ、とは、どういう事だ?」
「あたしがいなくなるんだよ!アニキそれでも平気なの!?」
今まで溜まっていた物を全て吐き出すように、鈴凛は激情のままに叫んだ。
「あたしがいなくなったら、誰がアニキ達の機体を整備するって言うのよ!それに、アニキは寂しくないの!?あたしとも暫く会えなくなるんだよ!!」
そこまで言って、鈴凛は啜り泣きし始めた。
「あたしは……寂しいよ……アニキと……また、会えなくなっちゃうなんて……」
「…………」
葵は無言のまま立ち上がって鈴凛に近付くと、そっと頭に手を置いた。
「お前は今、ようやく翼を広げたんだ。」
「……え?」
鈴凛は、涙に濡れた顔を上げた。
「夢に向かってはばたき始めた妹を、止める権利は俺には無い。」
「…………アニキ……」
ようやく兄の想いに気付き、鈴凛は顔を赤くする。
葵もまた鈴凛にはそばにいて欲しいのだ。しかし、それを止める事は誰にも許されない。だからこそ、あえてその背中を押してやったのだ。
「アニキ!!」
鈴凛は、そのまま兄の胸の中に飛び込んだ。
葵も、優しく鈴凛を包み込む。
「アニキ……」
「ん?」
「あたしさ、必ず新型戦闘機作って帰ってくる……」
「ああ」
「それまで、死んじゃったら承知しないから。そんな事したらアニキの葬式代全部、あたしの研究資金に使っちゃうからね。」
「ああ。分かってる。」
葵は苦笑しながら、そっと鈴凛を抱きしめた。

その数日後、鈴凛はISAF技術開発研究所に出向していった。

第九話「夢への決意」 おわり

あとがき

どうもこんにちは、ファルクラムです。予告通り今回は、鈴凛を主人公にした話にしてみました。さて今回、鈴凛は自分の夢をかなえる為に船出した訳ですが、彼女がこれから作る戦闘機は……………………………………実はまだ決まってなかったりします。候補はいくつかあるのですがね。まあ、再登場まで暫くありますから、それまでに決めてしまいましょう。
それでは、今回はこれで。

ファルクラム

 


ファルクラムさんへの感想はこちら
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