リボンつきの翼
プロローグ「閉ざされる空」
作者 ファルクラムさん
1
全ては、天空より飛来した、たった一つの流星より始まった。
西暦1995年。巨大小惑星Xf−4の地球接近を知った人類は、あらゆる手段を講じてその迎撃、回避を試みた。その一つが、落下してくる隕石の破片を可能な限り打ち砕くことを目的に建造された、超巨大レールガン「ストーンヘイジ」だった。
その四年後、1999年7月、「ユリシーズ」という正式名称を与えられた小惑星は、地球の大気圏に突入、ロシュの限界に達して砕け散り、1000以上の破片と無数の塵となって、地上に降り注いだ。それでも、これあるを予期していた人類は、ストーンヘイジの活躍もあり、被害を局限する事に成功した。
このユリシーズ落下による災害は、人類史上最大の災害となった。降り注いだ破片もさることながら、この災害によって生じた食糧危機、さらには過去最大の難民問題等が、人類の肩に重くのしかかった。
その四年後、2003年2月、ユージア大陸の西に位置する大国「エルジア帝国」が、突如、大陸中央に位置する独立都市国家「サンサルバジオン」に武力侵攻を開始した。約三日にわたる激戦の末、サンサルバジオンは陥落、同国が管理していたストーンヘイジは、エルジア軍によって接収された。
世界各国はこのエルジアの暴挙に対し猛然と抗議、大陸東側諸国が結託し「ISAF(独立国家連合軍)」を組織して、エルジアに対抗した。
反撃を開始したISAFは、約300機の航空機を持って、エルジア軍の前線基地と化したサンサルバジオン空襲を試みた。そして、無残にも失敗した。
エルジア軍はストーンヘイジを軍事用に転用、接近してくるISAF空軍に向けて放った。
密集隊形を撮っていたISAFはひとたまりもなく、この攻撃により部隊の半数を喪失。さらに続いて現れたエルジア空軍の前に、一敗地にまみれた。
ISAFはこれ以後大規模な空戦ができなくなり、制空権を失った陸軍も徐々に東に追いやられていった。
2
東部主要都市ロスカナス。
大規模な商業で栄える、コフィンブルク共和国の首都である。
ここが、ISAF南方戦線の最前線だった。
エルジア軍の電撃作戦で瞬く間に追い詰められたISAFは、このロスカナスで軍を再編成し、反撃に打って出る作戦を打ち立てた。
しかし現実とは常に、冷たい刃を持って切りつけてくるものである。
撤退するISAFを追い、エルジア軍が北方のワイアポロ山脈へと迫っていた。
ISAF陸軍の主力は北方戦線に張り付いており、とてもロスカナスまで防衛する余裕はない。このままではロスカナス陥落は時間の問題であった。
事ここに至り、ISAFは乾坤一擲の作戦に打って出ることにした。
すなわち、ストーンヘイジ攻撃作戦である。
作戦は慎重にも慎重を重ねて計画された。
まず、全軍から最高のパイロットが選び出され、制空担当の、F−15Cイーグル12機と、攻撃担当のF−15Eストライクイーグル12機からなる特別攻撃隊が編成された。
出撃時は、エルジアの工作員に気づかれないように小隊規模で離陸。その後空中で合流し、いったんワイアポロ山脈を北に抜けた後、山陰に隠れながら飛行、ノーム幽谷南の砂漠にあるストーンヘイジに望むということになった。その際、攻撃隊は常に高度600メートル以下の低高度を飛ぶことになる。と言うのも、これまでの調査でストーンヘイジは高度600メートル以下の物体に対し、精密な照準ができないことが調査済みだからである。
そして、運命の]デイがやってきた。
3
「どうして僕が、特別攻撃隊に入っていないんですか!?」
一人の少年が、目の前の女性に抗議している。
少年のほうは、野生の若い狼を連想させるような鋭いまなざしをしている。
それに対してうんざりしながら少年の対応に当たっている女性は、優しげな瞳をしているが、猫科の猛獣を思わせるしなやかな体をしている。パイロットスーツを着ているところか察すると、これから出撃する特別攻撃隊のメンバーなのだろう。
「どうしてって言われても、あんたまだ16でしょ?この作戦はね、18歳未満お断りなの。」
そう答えた女性の名は彩村命(あやむらみこと)空軍大尉。これから出撃する制空隊「メビウス中隊」の隊長である。
それに対して火を吹かんが勢いで抗議しているのは、上杉葵(うえすぎあおい)空軍准尉。ISAF少年飛行隊に所属している少年である。
少年飛行隊とは、戦局の悪化に伴いISAFが後方支援を目的に設立した、14歳から17歳までの少年少女で編成された部隊である。
命は一年ほど前に少年飛行隊の教官を勤めていた時期があり、葵はその時の教え子である。
「アダルトビデオ借りに行くわけじゃないんですよ。連れてって下さいよ!僕の腕はもう、そこらの大人にだって負けません!」
確かに葵の空戦の腕は、他と比べて群を抜いている。教官である命ですら、時々不覚を取りそうになるくらいだ。しかし、それとこれとは話が別である。
「だめって言ったらだめ。あんたイーグル乗れないでしょ?」
「タイガーで着いていきますよ!」
葵が言ったタイガーとは、F−5EタイガーUの事である。輸出向けに作られた軽戦闘機だが、癖が少なく、少年飛行隊ではこれを使用していた。
しかしそれを聞いて、命は完全に呆れ顔になった。
「あれじゃ、スピードも航続力も足りないでしょ。」
「・・・・・・あ。」
間違いを指摘されて、葵の顔はほんのり赤くなる。
タイガーとイーグルではその性能に大きな開きがある。マックススピードがタイガーのマッハ1・6に対し、イーグルはマッハ2・5が出せる。航続力もタイガーの2500キロに対し、イーグルは4800キロ飛ぶことができる。その差は歴然だった。
「とにかくだ〜め。あんたはここで、基礎講義の復習をしなおしてなさい。」
「・・・・・・・・・・・・」
命の皮肉交じりの口調に、葵はふてくされてそっぽを向く。
そんな葵の顔を引き寄せ、命はその頬に軽く口付けした。
「・・・・・・あ・・・・・・」
葵の顔は耳まで真っ赤になる。
そんな葵に微笑みかけながら、命は諭すような口調で言った。
「あんたにもしものことがあったら、あの子達は誰が助けるって言うの?」
「・・・・・・・・・・・・」
命の言葉に、葵は返す言葉がなかった。
命が葵に言った「あの子達」とは、葵の妹たちを指す。
葵には12人もの妹がいる。彼らの実家は北方の島国「ノースポイント連邦」にあるのだが、外交官をしていた父親が女性関係にだらしない人間であったため、これほど多くの兄妹ができる結果となったのだ。
その父親も、数年前に仕事先の「アルトーラ国」で不慮の事故によって他界したことから、兄妹12人がそろって暮らすようになった。
しかし12人うち、五女鞠絵と八女四葉が戦争によって逃げ遅れ、サンサルバジオンに取り残される結果となった。以来葵は、鞠絵と四葉を助けに行くために、戦っていた。
「それに、ストーンヘイジが破壊できたとしても、戦争はここで終わるわけじゃない。ううん、破壊したからこそ、あんたの戦いはそこから始まるんだよ。その道は必ずあたし達が開いてあげるから。」
「・・・・・・はい。」
葵はもはや何も言わなかった。その代わり素直にうなずいた。
「よし、じゃあ行って来るよ。」
「はい。行ってらっしゃい!」
そう言うと葵は、命に対し元気よく敬礼した。
4
ロスカナスを離陸した特別攻撃隊は一度大きく進路を北に取り、大陸中央を走るワイアポロ山脈を抜け空中給油を行った後に、今度は進路を東南東にとって再びワイアポロ山脈上空に差し掛かった。
ストーンヘイジはワイアポロ山脈の南側にあるため、この進路をとればレーダーに引っかからずに接近することができる。
「メビウス1よりメビウス中隊全機へ。機体の最終チェックをしておくように。あと少しで目標空域に入るわ。」
「「「「了解!」」」」
命の命令に従い、メビウス中隊に所属する11人のパイロット達は、自分たちの機体をチェックする。それらの機体の尾翼には横倒しにした8の文字、メビウスの輪が赤く染め上げられている。
「しかし隊長。良かったのですか?」
「何が?」
副官に突然そんな事を言われて、命はきょとんとする。
「上杉准尉のことですよ。知ってますよ、隊長が特別攻撃隊の名簿にあった彼の名前を、司令部に談判して削除させたこと。」
「・・・・・・・・・・・・いいのよ。」
ささやくように答える命。
「あたしはね、この作戦、どうにも上層部の勇み足に思えるのよ。」
「え?」
命の言葉に、全員が耳を傾ける。
「司令部がこの作戦を発動した本当の理由ってのがね、『これ以上東に後退すれば戦闘攻撃機の航続力が足りなくなる』かららしいのよね。だからさ、あの子にこんな危険な任務をやらせたくなかったのよ。これはあたしのわがままなのよ。」
そこまで言って、命は自嘲的に笑った。
「これじゃあ、中隊長として失格よね。」
「そんなことありません。」
副官は、命の言葉を遮るようにして言った。
「私が隊長と立場だったとしても、おそらく同じ判断をしたことでしょう。」
「・・・・・・ありがとう。」
命がそう言った時だった。それまで視界を遮るように横たわっていたワイアポロ山脈の山並みが開け、変わって、見渡す限りの砂漠が飛び込んできた。
その瞬間、命の表情が戦士のそれに変わる。
「メビウス1よりメビウス中隊全機へ、状況を報告せよ!」
「メビウス2、スタンバイ!」
「メビウス3、スタンバイ!」
「メビウス4からメビウス11スタンバイ!」
「メビウス12、スタンバイ!」
各機より、準備完了の報告が入る。
「ヴァイパー1よりメビウス1!」
それと同時に、攻撃隊を束ねるヴァイパー1から通信が入る。
「こちらの攻撃が終わるまで、敵を近づけないでくれ!」
「メビウス1、了解!全機、ヴァイパー中隊より先行し、目標上空の制空に当たる。続け!」
「「「「了解!」」」」
命に続いて、メビウス中隊は速度を上げて前に出た。
突然の空襲警報に、ストーンヘイジ基地は騒然とした。
「一体どうなっているんだ!なぜそこまで接近されるまで気づかなかった!?」
基地司令官が、レーダー要員に怒鳴り散らしている。
「申し訳ありません。敵は山陰を低空飛行しながら接近したらしく、レーダーでは捉えられませんでした!」
「言い訳はいい!すぐにストーンヘイジで迎撃しろ!」
「だめです。発見が遅れたため、まだ起動準備中です!しかも敵は低空飛行をしているため、精密な照準ができません!」
「ならば直ちにスクランブル機を上げて迎撃に向かわせろ。とにかく時間を稼ぐんだ!」
「了解!」
通信要員が、直ちに司令官の命令を実行する。
それを見ながら、司令官は思い出したように付け加えた。
「おい、サンサルバジオンに連絡を取って、救援を要請しろ。」
「はっ、ただちに・・・・・・」
ストーンヘイジ基地から、スクランブル機としてミグ29ファルクラム8機が離陸する。
ファルクラムはエルジア軍の主力戦闘機で、ミグ設計局で開発された邀撃戦闘機である。トライアルの際、スホーイ設計局が開発したスホーイ27フランカーと主力戦闘機の座を争い、コストとサバイバル性の面で勝っていたため、採用された機体である。
「隊長、敵のスクランブル機が離陸してきます!」
報告を受けて命は下方に眼をやる。
丁度8機のファルクラムが、こちらに向けて上昇してきているところだ。
「ヴァイパー中隊に近づけるな。全機攻撃開始!」
「「「「了解!」」」」
命の命令を受けて、12機のイーグルは降下を始める。
命はFCS(武器管制装置)を中距離ミサイルモードにする。
その命のイーグルの正面に、1機のファルクラムが飛び込んできた。
次の瞬間、レーダーがファルクラムをロックオンする。
「メビウス1、フォックス1(中距離ミサイル発射)!」
命は叫ぶと同時に、引き金を引いた。
次の瞬間、胴体下のパイロンに取り付けられた、中距離レーダーホーミングミサイル「スパロー」がいったん下方に落下するように沈み込むと、白煙を上げて目標のファルクラムに向けて突進した。
ヘッドオン(向かい合っている状態)だった事もあり、ファルクラムはかわす暇もなく木っ端微塵に粉砕される。
「よし!」
会心の笑みを浮かべる命。
周りに目をやると、他のメビウス中隊機も敵機の排除に成功していた。
味方の損害はゼロ。さすがは選りすぐりのエースパイロットたちである。
「メビウス1よりヴァイパー1!門番は排除した、繰り返す門番は排除した。直ちに攻撃を開始されたし!」
「ヴァイパー1了解。全機続け!戦いを終わらせるぞ!」
「「「「了解!」」」」
ヴァイパー1の命令を受けて、12機のストライクイーグルはストーンヘイジに機首を向ける。
その間メビウス中隊は高度を上げて、周囲の制空に当たっている。
巨大な8門の砲身は、故障中の1門以外全てがこちらに向いているが砲撃してくる気配はない。奇襲は完全に成功したようだ。おそらく今頃起動作業に必死になっていることだろうが、どう考えても間に合うわけがない。
ヴァイパー1のストライクイーグルは、手前のストーンヘイジに狙いを定めた。
胴体下には8発の2000ポンド爆弾がつるされている。その一撃で、ストーンヘイジを破壊するのだ。
爆撃用の照準機は、完全にストーンヘイジを捉えている。
これで戦いは終わる。
誰もがそう思った。
「ヴァイパー1、投下!」
次の瞬間、ヴァイパー1のストライクイーグルは木っ端微塵に砕け散った。
「なっ!?」
思わず全員が息を呑んだ。
砕け散ったヴァイパー1のストライクイーグルの破片が、陽光に輝きながら落下していく。
さらに立て続けに4機のストライクイーグルが、爆炎を上げて砕け散る。
「一体何が起こったの!」
上空警戒に当たっていた命も、理解できずに声を上げる。
そこへ、通信が入ってきた。
「メビウス1こちらヴァイパー9!ただいまヴァイパー中隊の指揮を引き継ぎました!ベクター330より低空を高速接近してくる飛行物体があります!数は5機。速度はマッハ2・3!そして・・・・・・そして・・・・・・」
ヴァイパー9はその先を言う事をためらった。
命にも彼が何を言いたいのか理解できた。しかし、理解したうえで彼女はその事実を否定してしまいたかった。
しかし、彼女たちの不安は杞憂のままでは終わらなかった。
「そして・・・・・・機体底面、および翼端、尾部が黄色く塗装されています!」
一呼吸置いて誰かが叫んだ。
「黄色中隊だァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
黄色中隊
それはISAFにとって死神の代名詞、いや、死神そのものといってよかった。
初見参はサンサルバジオン攻防戦のときであった。
その際、迎撃に現れたサンサルバジオン防空隊を50機以上落とし、エルジア軍勝利に大きく貢献していた。
その後も、後退するISAFの上空にしばしば現れ、天空からの恐怖を振りまいていった。
彼らの最大の特徴は、常に5機だけで飛ぶという事である。
黄色中隊の先頭を行く「013」と塗装された機体のパイロットから、他の4機に命令が走る。
「黄色の13より全機へ、ISAFを攻撃しろ!」
「黄色の2、了〜解。」
「4、了解!」
「6、了解。」
「7、了解ィ!」
彼らの乗る機体はスホーイ37スーパーフランカー。ファルクラムに破れたスホーイ設計局が、フランカーに改造を加えて完成した機体である。もともと機動性が抜群だったフランカーに改造を加え、さらに驚異的な機動性を確保するにいたったのである。
これまでの戦いでエルジア軍はストーンヘイジのおかげで、大規模な戦いでは常に勝利をものにしてきていた。しかし、局地的な空中戦では常にISAFに敗れてきていた。そのさいだいの敗因が、実はフランカーにあったのである。
一度はファルクラムに破れてフランカーだったが、その空戦性能を惜しんだユージア大陸の東側諸国が導入を表明した。もともと空戦性能はフランカーのほうが大きく勝っていたのである。その為に、エルジア軍は思わぬ苦戦を強いられる事になった。
そこでエルジア軍は、スホーイ設計局にフランカーの改造を命じたのである。そうして出来上がったのが、脅威の空戦性能を備えたスーパーフランカーと言うわけである。
隊長がやられた事によりヴァイパー中隊の残り7機は、散り散りになって逃げ惑う。
しかし重い爆弾を抱えていては、機動性も鈍ってしまう。
ヴァイパー中隊のストライクイーグルは次々と、黄色中隊の餌食になっていく。
ストライクイーグルは確かに高速性に優れ、かつ対地攻撃能力もある優れた機体だが、重い荷物を抱えたままでは、史上最高とまで言われる機動性を誇るスーパーフランカーにはかなわない。
あっという間に、ヴァイパー9を除く全機が撃墜されてしまった。
「くそっ、やられてたまるかよ!」
ヴァイパー9は叫ぶと同時に爆弾を捨て、身軽になった機体を引き起こしに掛かる。
しかし、それはあまりにも最悪なタイミングだった。
こうほうから接近してきていた黄色の13に対し、機体を起こしたヴァイパー9は、大きな的を提供する結果となった。
「・・・・・・おそい。」
つぶやくと同時に、黄色の13はトリガーを引いた。
毎秒100発を誇るバルカンの嵐が、ヴァイパー9の機体中央に吸い込まれ、エンジンを直撃した。
ヴァイパー9のストライクイーグルは、そのまま大爆発を起こし砂漠へと落下していった。
「隊長、ベクター150より新手が来ます。」
ヴァイパー9を葬った黄色の13に、黄色の4から通信が入った。声の調子から黄色の4は女だという事が分かる。
「制空に当たっていた連中だろう。かまわないから全機叩き落せ。」
「「「「了解!」」」」
「隊長、ヴァイパー中隊は全滅したみたいです!」
「・・・・・・・・・・・・」
間に合わなかった悔しさに、命は血がにじむほど唇をかみ締める。
しかし悔しがってもいられない。攻撃が失敗した以上、ここは撤退すべきだ。
「全機撤退!これ以上ここにいても仕方ないわ!」
そう言って翼を翻す命。
しかし、他の人間は必ずしも命と同じ考えではなかった。
「撤退?冗談じゃない。ヴァイパー中隊の仇もとれずに帰られるかよ!」
そう叫ぶと、何人かのパイロットは向かってくる黄色中隊に機首を向ける。
しかし、その編隊は大きく乱れ、まったく統率が取れていなかった。
「だめ!ちゃんと編隊を組まないと!」
しかし、命の叫びは彼らの耳に届いていなかった。
「こっちだってエースがそろってるんだ。条件が同じなら数の多い俺たちが勝つ!」
メビウス7はそう呟きながら、向かってくる黄色の13にロックオンする。
両者はヘッドオンの状態になりながら、バルカンの射程に入る。
「メビウス7、フォックス・・・・・・」
メビウス7は最後まで台詞を言う事ができなかった。
彼よりも先にトリガーを引いた黄色の13の攻撃がメビウス7のコックピットを直撃し、彼を絶命させたからである。
主を失ったメビウス7のイーグルは、きりもみになりながら地面へと落下していった。
黄色の4は、メビウス3、5、6の3機に追撃されていた。
「よし、包囲したぞ!」
「このままやってしまえ!」
しかし追尾されているはずの、黄色の4のスーパーフランカーは、突如彼らの視界から消えうせた。
「何!どこに行った!?」
黄色の4を見失った3人は、慌てて辺りを見回す。
次の瞬間、中央を飛んでいたメビウス3のイーグルが、後方からの銃撃によって木っ端微塵に砕け散る。
「何!」
見るといつの間にか後方に回り込んだ黄色の4が、彼らの背後についていた。
黄色の4はそのまま機体を横滑りさせ、今度はメビウス6の背後につく。
「まっ、まずい!」
メビウス6が危機を察知したとき、既に黄色の4はバルカンを発射していた。その攻撃は、メビウス6のイーグルの排気口に吸い込まれ、内部のエンジンを直撃して粉砕した。
残ったメビウス5は何とか逃走に入ろうとしたが、退避が終わる前にきいろの4が放ったミサイルを喰らい、そのまま四散した。
メビウス12は黄色の2を追尾していた。
「逃がさないぞ。覚悟しろ!」
そう叫びながら、ロックオンする。
「もらった!」
しかしトリガーを引こうとした瞬間、黄色の2のスーパーフランカーは突然機首を90度以上引き上げた状態で水平飛行を始めた。フランカー系の機体にしかできない「プガチョフコブラ」と呼ばれる技である。
「わっ!わっ!わっ!」
まったく予期できなかった動きに、メビウス12は完全にオーバーシュート(追い越してしまうこと)してしまった。
そこに姿勢を戻した黄色の2に狙われ、メビウス12は葬られた。
メビウス10とメビウス11は、共同で黄色の6を追尾していた。
しかし前にばかり気を取られている隙に、背後から接近してきた黄色の7によって、まずメビウス11が撃墜された。
それを目にしたメビウス10は完全に頭に血が上った。
「野郎、なめるな!」
そのまま怒りに任せて機体を反転させる。
しかし今度は、コンパクトに反転した黄色の6がメビウス10の背後についた。
「なにぃ!」
計算されつくした連係プレイに、完全に翻弄された形になった。
そのまま黄色の6は、メビウス10を撃墜した。
命は天が落ちてくるような思いだった。
ISAFの中から選抜された自分の仲間たちが、あっという間に半数が撃墜されてしまった。
自分たちはこれほどまでに無力の存在だったのか、自分たちの敵はこれほど強大だったのか。そんな思いが駆け巡る。
しかし呆然としている場合ではない。生き残っている部下だけでもつれて帰らねばならない。
「全機撤退!」
生き残ったメビウス2、4、8、9を引き連れて反転する。
黄色中隊の5機は追撃体勢に入るが、初動が遅れたこともあり徐々に引き離す。
『いける。』
加速力もマックススピードもこちらが勝っている。このままなら逃げ切れるはずだ。
命は心の中で安堵のため息をついた。
その時だった。
突然背後から、聞いた事もないような轟音が鳴り響いた。
命はハッと我に返った。
慌てて計器に目をやる。
高度1000メートル。悪寒は現実を伴って牙をむいた。
「全機降下!急げ!」
次の瞬間、すさまじい衝撃波が襲ってきた。
ストーンヘイジの砲撃である。
衝撃によりメビウス2、4、8、9が吹き飛ばされる。
「くっ!」
生き残ったのは、とっさに機体をひねって高度を落とした命のみだった。
しかし、命の運命も旦夕に迫っていた。
追いついてきた黄色の4が、命のイーグルの背後につく。
「ちい!」
命は機体をロールさせて、そのまま降下機動に移る。スプリットSと呼ばれる機動だ。これなら相手に対し死角に入る事ができる。振り切れるはずだ。
しかし、予想に反して黄色の4はぴったりと着いてくる。
黄色の4が放ったバルカンの火線が、コックピットの脇を掠めていく。
「なめるなよ!」
命は軽く唇を湿らせると、後ろに目をやり黄色の4のスーパーフランカーを睨みつけた。
黄色の4が放った火線が、再び脇を駆け抜ける。
「これで・・・・・・どうだ!」
命はエアブレーキを開くと、そのまま背面飛行に入る。
「!」
黄色の4は息を呑んだ。
エアブレーキを開いた命のイーグルは、急減速してくる。そのまま2機の戦闘機は背面ですれ違う。アクロバット飛行のバックトウバックフォーメーションである。
命はそのまま黄色の4の背後につく。
「もらった。メビウス1、フォックス3(ガン発射)!」
命はトリガーに掛かった指に力を込める。
しかし次の瞬間、頭上で日が翳った。
「・・・・・・え?」
次の瞬間、鋭い衝撃とともに命のイーグルはエンジンから火を噴いた。
「あう!」
コックピットのキャノピーも、衝撃で砕け散り、破片が命の体に突き刺さる。
「あっ・・・・・・あ・・・・・・」
血に染まった目を、自分に一撃加えた敵に向ける。
彼女の頭上を黄色の13のスーパーフランカーが、勝者よろしく旋回している。
「・・・・・・黄色の・・・・・・13・・・・・」
命の瞳から、一筋の涙が零れ落ちる。しかしその涙が何の涙なのか、命自身にも分からなかった。死への恐怖から来る涙なのか。負けた悔しさから来る涙なのか。それとも、あの元気な少年にもう会えなくなる寂しさから来ているのか。
「・・・・・・あっ、葵・・・・・・後、お願いね・・・・・・後、妹さんたちを、大切に・・・・・・ね・・・・・・」
次の瞬間、命のイーグルはコントロールを失い地表に激突した。
5
「ストーンヘイジベース、こちら黄色の13。敵は全滅した。繰り返す、敵は全滅した。」
「了解、救援感謝する。着陸して休んでくれ。」
「黄色の13、了解。」
エルジア帝国空軍第1飛行集団第2飛行中隊、通称「黄色中隊」隊長村岡虎太郎大尉は、地上からの通信に答えてから、ため息をついた。
「全員無事か?」
「無事です隊長。」
そう答えたのは黄色の4事、立花操少尉である。
「何とか、生きてるみたいっすね。」
疲れて気だるそうな声を出したのは斉藤賢中尉、黄色の2である。
「黄色の6、無事です。」
そっけない口調で言った黄色の6は、藤原一矢少尉。
「こちら黄色の7、当然無事っすよ!」
元気な声を上げた黄色の7は藤原瞬矢少尉、ちなみに一矢の双子の弟に当たる。
以上五名が、エルジア空軍最強を謳われる黄色中隊のベストメンバーである。
「しかし隊長。」
賢が話しかけた。
「最後に立花の相手をしたF−15、大した腕でしたね。」
「そうだな。あんなのが後5人もいたら、この戦いどうなっていたか分からなかったかもな。」
「勘弁してくださいよ隊長。」
虎太郎の言葉に、瞬矢は情けない声を上げた。
「あんなのにあと5人もいられたんじゃ、こっちに身が持ちませんよ。」
それを聞いて、一同は笑い出した。
「さて、着陸するぞ。」
「「「「了解!」」」」
この戦い以後ISAFは防戦すらままならず、ひたすら後退の道をたどる事になる。
誰もが、もはや戦いは終わったものと考えるようになった。
プロローグ「閉ざされる空」 終わり。
あとがき
初めまして、ファルクラムと申します。今回は初投稿で長編となりました。まだ、妹たちは出ていませんが、次回より随時出していく予定でありますので、しばしお待ちください。あと、この話はエースコンバット04をベースにしていますが、ゲームにない設定、シチュエーションを出す事があるかもしれない事を、あらかじめご了承ください。
それでは、またお会いしましょう。
ファルクラムさんへの感想はこちら
nymausht@cna.ne.jp
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