2001/09/23
(12) 私だけの岡本太郎!(最終回) オンピと
岡本太郎が絵を描く現場のシーンをテレビかなにかで見たことがあるが、筆をもったまま、遠くから襲いかかって、まるで戦場に飛び込むような凄まじさがあった。理知と感性が火花を散らせているんだろう。高貴と野卑、無邪気さと狡知、叫びと静寂等、ときには民族の仮面や、縄文土器の火炎,水炎がぶっとびぶっかりあって、そこから立ちのぼる放電に、生きるエネルギーの源泉を求めていたのだろう。 だから、いきなり立ち上がって、私に銃剣の矛先を向けるような仕草をしたときには、私は呆然とした。 なんの前触れもなく、とつぜんこんなことを唐突に切り出したら、「いったい、なにが、どこで、なんの故あって???」と、びっくり仰天してしまうかもしれない。でも「私だけの岡本太郎!」はその状況下で出会えたのだった。後にも先にもFace & Faceで言葉を交しあったのは、言うまでもなくそれが初めてであり、最後だった。最高の幸運だったとしか言いようがない。
いつ、どこで・・・。私が28歳のころだから、1954年前後だった。当時アバンギャルドという言葉は聞きかじっていたが、岡本太郎の「夜の会」も「アバンギャルド研究会」(本郷・喜福寺)も、それこそ知る由もなかった。ただ、数年前、上野の美術館につながる石段のまえの通りで、聴衆にむかって、トラックの荷台を壇上にマイクで演説をしている光景は、一人田舎のおのぼりさんを、まるごと畏敬の念で虜(とりこ)にしてしまい,以来岡本太郎の絵と言動に強烈な刺激を受けていた。だから諏訪の教育会(あるいは美術部会だったかもしれない)主催で、岡本太郎の講演会がある、という知らせをうけて、心は踊り体は勇みたった。 でもこれが講演としては、意表をついた、奇妙としか言いようのない変ったものだった。演壇の前に立ったまま、相当な長い時間、身じろぎもせず会場いっぱいの聴衆を凝視している。言葉を発せず睨んでいるといったほうが、この場合適切だったかもしれない。 「問いたいことがあれば、それに答える」 ・・・・・・・・・・・・・ どんなやりとりがあったか、いまは全然想い出せない。 どこかの心の片隅で、どうしても満ち足りない気持があったことだけは確かである。「懇親の二次会がある」ということで、その会場である温泉旅館へ行った。酒肴を前にして、ややくつろいだ雰囲気であったが、ここでも「質問があれば」という岡本太郎の基本姿勢には変わらなかった。 ある会員が発言した。 「センセイ、この部屋は襖を外してあるのです。そのときの使い方次第でこじんまりなったり、広くなったりもします。センセイ、日本の部屋のつくり、取り外し自由の空間っていいでしょう」 「良いものは良い。悪いものは悪い。」 この応答のやりとりに聴衆から笑いが起こったようだった。
私は、この場当たりしきな安易な質問に憤懣やるせなかった。しかも なんで、ここで笑わなければならないのか。このままの雰囲気で、時間だけがざわざわと流れていきそうな予感がした。岡本太郎がここにいる存在理由がない。火花を散らすような、あの緊迫した対極主義の放電エネルギーの切り口をどこかで開放させてやらねば。私がここにきた意味もない。私は前後の見境もなく発言した。 「岡本太郎は日本という、とくにこの戦後の場当たりの、事なかれの、中途半端の、身勝手な近視眼的な安全志向のなかで、面白おかしくあつかわれている。岡本太郎の芸術は、そうしたいまの日本の風潮のうえにたって、その矛盾をうまく利用して生きている。または利用されている・・・」 岡本太郎が、すっと立ち上がったのはその時だった。さっと私の方に体を向き変えた。そして銃剣をかまえる仕草をした。その矛先はまともに私に向けられていた。 「わたしは中国の戦場に立った。最前線にこうして立ったのだ」 (岡本太郎はフランスから日本に帰ると、二等兵として召集され 中国の最前線に立たされたのだった) 私は戦慄した。そして感涙した。 一瞬あたりは緊迫した空気にシーンとした。いろいろな思惑が交錯して宴会の席は静まりかえった。その後どんな流れになったかはまったく覚えていない。ただ司会者がイヤな目つきをして、私の質問に苛立ちを隠しきれず見上げていた。「なんて迷惑なことしてくれたのか」と言いたげな表情だけは今でも鮮明に覚えている。かれは人格者と噂された美術教師であり後に校長になった。
これが「私だけの岡本太郎!」なのです。 いまとなっては、この1回こっきりの「私だけの岡本太郎!」は、私のなかで大切な、大切な宝ものなのです。 ______________________ ______________________
(1)から(12)まで、長いシリーズものになってしまいました。貴重なページのスペースを独り占めしてしまいました。管理責任者のたつあんに心よりお礼します。多謝々々です。 どうもありがとう。
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